酪農で一番大変なことは?最後に残る“本当につらいこと”
2026-04-27 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
おはようございます。
川上牧場の川上です。
今日はリスナーさんからいただいた質問に答えていきたいと思います。
質問はこちらです。
「このお仕事で一番大変なことは何ですか?」
これは、酪農をしていると本当によく聞かれる質問です。
酪農という仕事は、外から見ると、牛がいて、牧場があって、ミルクが出て、なんとなくのどかで、自然に囲まれた仕事に見えるかもしれません。
青空の下で牛が草を食べていて、朝に搾った牛乳が食卓に届く。
そう聞くと、ちょっと絵本みたいな世界を想像する方もおられると思います。
もちろん、そういう良さもあります。
牛はかわいいですし、朝の牛舎の空気も、季節によっては本当に気持ちがいいです。搾りたての牛乳の温かさを感じる瞬間もありますし、子牛が元気にミルクを飲んでくれるだけで、こちらまで元気になることもあります。
ただ、その一方で、酪農には大変なこともたくさんあります。
今日はその大変さを、きれいごとではなく、でも必要以上に暗くするわけでもなく、現場にいる酪農家の目線でお話ししていきます。
そして最後に、僕が思う「酪農で本当に一番つらいこと」についても書いていきます。
休みが取りにくい
まず、いちばん分かりやすい大変さは、休みが取りにくいことです。
牛は毎日ミルクを出します。
人間の都合で、
「今日は日曜日なので搾乳はお休みです」
「ゴールデンウィークなので牛舎も連休です」
とはいきません。
年末年始も、お盆も、台風の日も、大雪の日も、そしてゴールデンウィークも、牛は変わらず牛舎にいます。
朝になれば搾乳があります。
夕方になればまた搾乳があります。
餌も必要です。
水も必要です。
牛床の掃除も必要です。
人間のカレンダーとは関係なく、牛の体は毎日動いています。
もちろん、今は昔に比べれば、酪農ヘルパー制度があったり、大きな牧場ではシフト制で休みを取れるところも増えてきました。
雇用環境を整えて、ちゃんと休める牧場を作ろうとしている人もたくさんいます。
それでも、酪農という仕事の根っこには、やっぱり
「毎日、命がそこにある」という大前提があります。
これは、酪農未経験の方が最初に驚くところかもしれません。
生活の中心が牛になる
次に大変なのは、生活リズムが牛中心になることです。
朝早く起きて、搾乳をして、餌をやって、掃除をして、牛の様子を見て、また夕方に搾乳をする。
一日の流れが、牛を中心に組み立てられます。
友人との予定を入れるときも、家族の行事があるときも、まず考えるのは、
「その時間、牛の世話をどうするか」
です。
旅行に行くにしても、
子どもの学校行事に参加するにしても、
冠婚葬祭があるにしても、
まず牛舎の段取りを考えます。
これは慣れる部分もあります。
酪農家として長くやっていると、生活の中に牛がいるのが当たり前になっていきます。
でも、やっぱり大変です。
特に家族がいると、
「今日くらい一緒にゆっくりしたいな」
と思う日もあります。
子どもたちが休みの日でも、自分は朝から牛舎に行かないといけない。
世の中が連休で浮かれているときに、こちらはいつも通り作業している。
そんなときに、ちょっとだけ「いいなあ」と思うことはあります。
いや、ちょっとじゃないですね。
普通にめちゃくちゃ思います。笑
命を預かる責任がある
酪農は、命を預かる仕事です。
これは言葉にすると簡単ですが、実際にはかなり重いです。
牛が病気になることもあります。
子牛がうまく育たないこともあります。
分娩でトラブルが起きることもあります。
昨日まで元気だった牛が、急に調子を崩すこともあります。
そのたびに、判断をしなければいけません。
これは様子を見ていいのか。
すぐに獣医さんを呼ぶべきなのか。
餌を変えるべきなのか。
水は飲めているのか。
立ち上がれるのか。
熱はあるのか。
目の力はどうか。
酪農家は、毎日牛を見ています。
でも、牛は言葉で「お腹が痛いです」とは言ってくれません。
だから、ちょっとした変化を見逃さないようにします。
耳の動き。
目の感じ。
餌の食い方。
糞の状態。
立ち方。
寝方。
呼吸の早さ。
乳量の変化。
そういう小さなサインを見ながら、判断していきます。
そして、判断が遅れれば命に関わることもあります。
この責任の重さは、酪農の大変さの中でもかなり大きいと思います。
牛が元気なときは、牛舎は穏やかです。
でも、体調を崩した牛がいると、一気に空気が変わります。
夜中でも気になります。
寝ていても頭の片隅に残ります。
朝、牛舎に行くのが怖い日もあります。
命を預かるというのは、そういうことです。
体力的にもきつい
もちろん、体もきついです。
酪農は、きれいな仕事だけではありません。
餌を運ぶ。
堆肥を扱う。
機械を直す。
牛床を整える。
暑い牛舎で作業する。
寒い朝に水仕事をする。
重いものを持つ。
腰を曲げる。
泥や糞で汚れる。
そういう作業が毎日あります。
春や秋の気持ちいい時期はいいんです。
今日みたいに、晴れ時々曇りで、最高気温が22度くらい。こういう日は、外の作業もまだ気持ちいいです。
でも、真夏になると話は変わります。
牛舎の中は暑くなります。
牛も暑さでしんどそうになります。
餌の食いも落ちます。
人間も汗だくになります。
反対に、冬は冬で大変です。
朝の水仕事は冷たいですし、凍結の心配もあります。機械も思ったように動かないことがあります。
酪農は、自然の中で働く仕事です。
だから、体力はやっぱり必要です。
お金のプレッシャーがある
そして、経営としての大変さもあります。
酪農は、牛を飼って牛乳を出せば終わり、という仕事ではありません。
餌代がかかります。
燃料代がかかります。
電気代がかかります。
機械代がかかります。
建物の修理代がかかります。
獣医さんの費用もかかります。
人工授精や繁殖管理にもお金がかかります。
しかも最近は、いろいろなものが値上がりしています。
飼料代が上がる。
燃料代が上がる。
電気代が上がる。
資材代も上がる。
では、その分、牛乳の値段を自分で自由に上げられるかというと、そう簡単ではありません。
ここが酪農の難しいところです。
普通の商売なら、原材料費が上がったから販売価格を変えよう、という判断がしやすいものもあります。
でも牛乳は、生乳の流通や乳価の仕組みがあり、酪農家が自分で自由に価格を決められるわけではありません。
コストは上がる。
でも収入は思ったように上がらない。
このプレッシャーは、経営者として本当に重いです。
僕自身、子どもが3人います。
この子たちをちゃんと育てられるだろうか。
大学まで出せるだろうか。
牧場を続けながら、家族の生活を守れるだろうか。
そんなことを考えることもあります。
世界情勢や政治の動きひとつで、餌代や燃料代が変わることもあります。
自分がどれだけ牛舎で頑張っていても、遠く離れた国の出来事でコストが変わる。
そういう時代の中で牧場を続けるのは、なかなかしびれます。
本当に、しびれます。
たまに青ざめます。笑
天気と自然に振り回される
酪農は、牛舎の中だけで完結する仕事ではありません。
天気に大きく左右されます。
暑さ、寒さ、雨、台風、雪。
天気によって牛の体調も変わりますし、作業の進み方も変わります。
堆肥を運ぶにも天気が関係します。
飼料を管理するにも湿気や気温が関係します。
牛舎の環境管理にも風や気温が関係します。
自然相手なので、計画通りにいかないことが当たり前です。
今日はこれをやろうと思っていても、急に雨が降れば予定が変わります。
機械が壊れれば予定が変わります。
牛が体調を崩せば予定が変わります。
分娩が始まれば予定が変わります。
酪農家の一日は、予定表通りに進まないことの方が多いかもしれません。
人手不足も深刻になっている
人手不足も大きな問題です。
酪農は専門性が必要な仕事です。
搾乳。
牛の観察。
餌の管理。
機械操作。
衛生管理。
繁殖管理。
子牛の哺育。
堆肥処理。
覚えることがたくさんあります。
だから、人を雇えばすぐに全部できる、という仕事ではありません。
教えるにも時間がかかります。
育てるにも時間がかかります。
そして、現場に慣れるまでにも時間がかかります。
さらに今は、牧場の中だけではなく、酪農に関わる周辺の仕事も人手不足になっています。
生乳を運ぶタンクローリーの運転手さん。
餌を運ぶ業者さん。
人工授精師さん。
獣医さん。
酪農ヘルパーさん。
削蹄師さん。
酪農は、酪農家だけで成り立っているわけではありません。
いろいろな人たちが関わって、ようやく牛乳が皆さんの食卓に届きます。
その全体で人が足りなくなっている。
これは、業界全体の大きな課題です。
でも、一番つらいのはそこではない
ここまで、酪農の大変なところをいろいろ書いてきました。
休みが取りにくい。
生活が牛中心になる。
命を預かる責任がある。
体力的にきつい。
お金のプレッシャーがある。
天気と自然に振り回される。
人手不足がある。
どれも本当に大変です。
でも、僕が酪農をしていて一番つらいなと思うのは、実はそこではありません。
僕が一番つらいと思うのは、
一生懸命作った牛乳が飲まれないことです。
これは、コロナ禍のときに本当に強く感じました。
学校給食が止まる。
飲食店が止まる。
イベントが止まる。
人の動きが止まる。
すると、そこで使われていた牛乳も止まります。
ニュースでは、
「牛乳が余っている」
「廃棄になるかもしれない」
という話が出ました。
あのときは、本当に胸にきました。
自分たちは毎日、牛の体調を見ています。
餌を考えています。
暑さ寒さに対応しています。
搾乳をしています。
衛生管理をしています。
子牛を育てています。
分娩にも立ち会います。
病気の牛がいれば心配します。
機械が壊れれば直します。
朝も夕方も牛舎に入ります。
そういう毎日の積み重ねの先に、牛乳があります。
牛乳は、ただスーパーの棚に並んでいる白い飲み物ではありません。
そこには、牛の命があります。
牛の体があります。
酪農家の時間があります。
家族の生活があります。
関わってくれる人たちの仕事があります。
それなのに、
「いらない」
「余っている」
「飲まれない」
「捨てられるかもしれない」
となる。
これは、本当にしんどいです。
牛が悪いわけではありません。
酪農家が手を抜いたわけでもありません。
品質の悪いものを作ったわけでもありません。
ちゃんと作ったものが、届かない。
選ばれない。
飲まれない。
このつらさは、体の疲れとはまた違います。
腰が痛いとか、眠いとか、暑いとか、そういうしんどさは、休めば少し戻ります。
でも、
「自分たちが作っているものは、本当に必要とされているんだろうか」
と感じてしまうつらさは、心に残ります。
飲んでくれる人の声に救われる
だからこそ、今日も牛乳を手に取ってくれる人がいることは、本当にありがたいです。
毎日飲んでいます。
子どもが牛乳好きです。
給食の牛乳が楽しみでした。
この配信を聞いて牛乳を買いました。
いつも応援しています。
そういう声をもらうだけで、気持ちが変わります。
SNSのいいね一つでも、コメント一つでも、
「ああ、届いているんだな」
と思えます。
牛舎の中にずっといると、どうしても酪農業界の大変なニュースが目に入ります。
牛乳が余る。
牛の価格が高い。
餌代が上がる。
後継者がいない。
牧場が減っている。
そんな話ばかり見ていると、気持ちが沈むこともあります。
でもその一方で、画面の向こうに牛乳を飲んでくれる人がいる。
質問を送ってくれる人がいる。
配信を聞いてくれる人がいる。
記事を読んでくれる人がいる。
「おいしい」と言ってくれる人がいる。
それだけで、
「今日もおいしい牛乳を作ろう」
と思えます。
本当に、それくらい消費者の声は大きいです。
酪農家は、牛を見ています。
でも同時に、飲んでくれる人の存在にも支えられています。
牛乳を飲むことは、小さな応援になる
「酪農を応援したいけど、何をしたらいいですか?」
そう聞かれることがあります。
難しいことをしなくても大丈夫です。
まずは、牛乳を飲んでもらえたら嬉しいです。
いつもコップ1杯なら、たまにコップ2杯。
牛乳だけでなく、ヨーグルトやチーズ、バターなどの乳製品を選んでもらうのもありがたいです。
特に、学校給食が止まる長期休みの時期は、家庭で少し意識して牛乳や乳製品を使ってもらえると、本当に助かります。
もちろん、無理にたくさん飲んでくださいという話ではありません。
でも、冷蔵庫を開けたときに、
「そういえば牛乳買っておこうかな」
と思ってもらえるだけで、酪農家にとっては大きな応援になります。
牛乳を飲むことは、ただ栄養を取るだけではありません。
牛を育てる人を支えること。
地域の牧場を支えること。
未来の子どもたちが牛乳を飲み続けられる環境を残すこと。
そういうことにもつながっています。
最後に残る“本当につらいこと”
酪農で大変なことは、たくさんあります。
休みが取りにくいこと。
朝が早いこと。
生活が牛中心になること。
命を預かる責任。
体力仕事。
経営のプレッシャー。
自然との付き合い。
人手不足。
どれも本当に大変です。
でも、最後に残る“本当につらいこと”は、
一生懸命作った牛乳が飲まれないこと
だと僕は思っています。
だからこそ、今日も牛乳を飲んでくれる人に、心から感謝しています。
スーパーで牛乳を手に取ってくれる人。
朝ごはんにヨーグルトを食べてくれる人。
料理にバターを使ってくれる人。
子どもに牛乳を注いでくれる人。
牧場の発信を読んでくれる人。
音声配信を聞いてくれる人。
その一つひとつが、酪農家の力になります。
牛乳は、牛だけでは作れません。
飲んでくれる人がいて、初めて牛乳は牛乳になります。
今日も牛乳を飲んでいただいて、ありがとうございます。
これからも、牛舎の中から、酪農のリアルを届けていきます。
そして、未来の子どもたちが牛乳を飲み続けられる社会を作るために、できることを一つずつ続けていきたいと思います。
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