農薬に規制は必要?農家は本当に使いたいと思っているのか
2026-03-09 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://youtu.be/5NlgVxf9BnY?si=QsoLer13cGRp-mtO
おはようございます。
朝起きて外を見ると、雪だったり曇りだったり、雨が混じったり。春が来そうで来ない、あの時期特有の空気があります。昨日は日が出たと思ったら、今日はまた寒い。こういう日が続くと、人間もそうですが、現場の生き物も機械も、けっこう気を遣います。
今日は僕、このあと堆肥を配達して、切り返しをして、整体に行って、そこから出張の準備です。しかも出張前になると不思議と、牛舎の機械がちょっと不調だったり、子牛が生まれて「これはちゃんと飲ませないとな」と気が抜けなかったりする。出る前ほど不安材料が増えるんですよね。
そんな朝に、リスナーさんから届いた質問を見て、
「これはちゃんと整理して話したいな」と思いました。
質問はこうです。
「農薬に規制をかける必要はあると思いますか? 実際に農家は農薬を使いたいと思っているんですか?」
これはすごくいい質問です。
なぜいい質問かというと、農業に対する世の中のモヤモヤや誤解が、まさにここに詰まっているからです。
農薬と聞くと、たぶん多くの人がまず
「危ない」「できれば使わない方がいい」「体に悪そう」
といったイメージを持つと思います。それ自体は自然な感覚です。口に入るものに使うわけですから、不安になるのは当然です。
でも一方で、農家の立場から見ると、農薬は
「好きでたくさん使いたいもの」というより、必要な時に、決められた範囲で使う資材です。ここがまず、世間のイメージと現場の感覚がズレやすいところなんだと思います。
まず前提として、日本の農薬は“自由に使えるもの”ではない
ここは最初に、感情ではなく制度の話を押さえておきたいです。
日本では、農薬は農薬取締法にもとづいて管理されていて、登録されたものしか製造・販売・使用できません。しかも登録された農薬には、登録番号、適用作物、使用方法などの表示が義務づけられていて、その表示がないものは販売・使用できない仕組みです。農林水産省も、登録農薬の表示がないものは販売・使用できないこと、さらに販売禁止農薬は使用も禁止されることを明示しています。
さらに、農薬を使うときには、ラベルに書かれた内容を守る必要があります。たとえば、どの作物に使えるか、何倍に薄めるか、どれくらいの量か、何回まで使えるか、収穫の何日前まで使えるか。こういうことが細かく決まっています。農水省のGAP関連資料でも、農薬ラベルで適用作物、使用量、希釈倍率、収穫前日数、総使用回数などを確認するよう示されています。
つまり、農薬って「なんとなく撒くもの」ではないんです。
使っていい作物、使っていい量、使っていい回数、使っていい時期が決められていて、そこから外れてはいけない。
しかも食品として流通する段階でも、残留農薬には基準があります。食品中の残留基準は、人の健康に害を及ぼさない範囲で設定され、基準を超えた食品の販売や輸入は食品衛生法で禁止されています。いわゆるポジティブリスト制度ですね。農水省はその残留基準に沿って使用基準を設定しています。
だから、まず大前提として言えるのは、
日本の農薬は「無法地帯で好き勝手に使われている危険物」ではなく、法律と基準の中で管理されているものだということです。
じゃあ農家は、農薬を本当に使いたいのか
ここ、めちゃくちゃ誤解されやすいところです。
結論から言うと、多くの農家にとって農薬は
「使いたいもの」ではなく、「必要な時に使わざるを得ないもの」
です。
なぜか。シンプルです。
まず、お金がかかる。
農薬は無料じゃありません。当たり前ですが、買えばコストです。
次に、手間がかかる。
散布する準備もいるし、天候も見ないといけないし、作業時間も取られます。
さらに、管理が面倒。
保管、記録、取り扱い、ラベル確認。ものによっては取り扱いにかなり神経を使う。現場の人間からすると、
「別に好き好んで増やしたい仕事ではない」のが本音です。
要するに、農家側にとって農薬は、たくさん使うほど得する夢のアイテムではないんです。むしろ、使わずに済むならその方が楽なことも多い。
それでも使う理由はただ一つ。
使わないことで失うものが大きいからです。
農薬が必要になるのは、きれいごとだけでは作物が守れないから
農業は、相手が自然です。
病気が広がることもある。害虫が一気に増えることもある。雑草が作物の生育を邪魔することもある。条件が悪ければ、収量が大きく落ちたり、品質が下がったり、最悪の場合は全滅に近いことも起こります。
農薬が使えるようになるまでには、病害虫への効果だけでなく、濃度、使用回数、収穫前日数などの適切な使用方法も検討され、安全性評価を経て登録されます。農水省の資料でも、安定供給のために必要な防除に対応しつつ、適切な使用方法を決める必要があると整理されています。
ここで大事なのは、農家が守っているのは「見た目」だけではないということです。
もちろん市場では、虫食いのない野菜、病気の出ていない作物、ある程度そろった品質が求められます。でもそれだけじゃない。
収穫量が落ちれば経営に直結します。
病気が出れば地域全体に広がる可能性もある。
雑草管理が崩れれば、その畑だけの問題で済まないこともある。
だから農薬は、「楽をするため」というより、作物を守り、収量と品質を安定させ、経営を続けるための手段として使われています。
規制は必要か。僕の答えは「必要。ただし現場を無視してはいけない」
では本題です。農薬に規制は必要なのか。
僕の答えは、必要です。
これはもう当然です。人の口に入るものに関わる以上、安全のためのルールは絶対に必要です。登録制度、使用基準、残留基準、こうした仕組みがあるからこそ、消費者も一定の安心を持てるし、農業も社会の信頼の上で続けられます。
ただし、同時に言いたいのは、規制が必要だからといって、現場を知らずに「とにかく減らせ」「全部やめろ」と言うのも違うということです。
農業は工場ではありません。天候、病害虫の発生、土壌条件、地域差、作物ごとの事情。全部が違う。現場は毎年、毎季節、毎日、条件が変わる。
だから制度は必要だけど、制度は現場で回る形でなければ意味がない。
机の上ではきれいでも、現場で成り立たないルールは、結局だれも幸せにしません。
「農薬を使わないでほしい」と言うなら、消費者側も引き受けるものがある
ここはちょっと強めに言います。
もし本気で「農薬はできるだけ使わないでほしい」と思うなら、その社会はたぶん今よりも、
・虫食いが増える
・収量が減る
・値段が上がる
・見た目がそろわない
・雑草管理の負担が増える
・地域によっては景観や害虫の問題も出やすくなる
そういう方向に進みます。
それでもいい、そういう農産物をちゃんと買う、支える、見た目だけで選ばない、価格上昇も受け止める。そこまで含めて初めて、
「農薬を減らしてほしい」
という声は現実になります。
逆に言うと、
見た目はきれいで、価格は安くて、量もしっかりあって、でも農薬は使わないで
というのは、かなり無茶な注文です。
農家は魔法使いじゃない。
もちろん、農薬使用を減らす努力が無意味だと言いたいわけではありません。実際には、品種改良、防除技術の進歩、栽培管理の改善、機械化、情報技術の活用などで、農薬を減らす方向の工夫は進んでいます。大事なのは、感情だけで断罪することではなく、どうすれば安全と生産を両立できるかを考えることだと思います。
酪農家の立場から見ても、農薬の話は他人事じゃない
僕自身は、野菜農家さんのように多種類の農薬を日常的に使う立場ではありません。うちは自給飼料を大規模に作っているわけでもないので、農薬との距離感はまた少し違います。定期的に使うものとしては除草剤くらい、という感覚です。
でも、酪農でも牛の餌になる牧草やトウモロコシなどの飼料作物はありますし、そうした作物も病気や害虫、雑草の影響を受けます。だから農薬の問題は、酪農とも無関係ではありません。
農業の現場は全部つながっている。
畑と田んぼだけの話ではなく、食べること全体の話なんです。
まとめ。農薬の議論で本当に必要なのは、善悪ではなく理解
今日の話をまとめると、
日本の農薬は法律で管理されていて、登録・使用基準・残留基準の仕組みがある。
農家にとって農薬は、好きで使いたいものではなく、必要な時に使う資材である。
規制は必要。ただし現場の実態を踏まえた制度であることが大事。
安全と食料生産は、対立ではなくバランスで考えるべき。
農薬の話って、どうしても「危険か安全か」「使うか使わないか」の二択になりがちです。
でも現実は、そんなに単純じゃない。
本当に必要なのは、善悪で切ることじゃなくて、
どういう仕組みで管理されているのか
なぜ現場で使われるのか
その代わりに何を社会全体で引き受けるのか
を知ることなんだと思います。
こういう質問って、農業を理解する入口としてすごく大事です。
「なんとなく危ない」
で止まらず、一歩踏み込んで考えてもらえるのは本当にうれしい。
農業ってどうなってるの?
酪農って現場ではどう考えてるの?
そんな疑問があれば、またぜひコメントで送ってください。
誤解があるならほどきたいし、現場から見える景色を、できるだけちゃんと届けていきたいと思っています。
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