R7年研修生と配信 #47
2026-03-12 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://youtu.be/5ZmfQIO-Mg0?si=RMYcKS6slPF3DaMq
「川上さんの考え方にリスペクトできる貴重な研修生さんもいなくなってしまうのか。見捨てないであげてください」
そんなコメントをいただいた配信回がありました。
たしかに、外から見れば、研修生が来て、学んで、やがて牧場を離れていく姿は、少し寂しく見えるかもしれません。
でも、僕はそれを「失うこと」だとはあまり思っていません。
むしろ逆です。
研修に来た人が、自分で考え、自分で選び、自分の道を歩き始めること。
それこそが、研修のひとつの成功だと思っています。
今回は、研修生との対話を通して見えてきた、
・研修の現場で何が起きているのか
・新規就農はなぜそんなに難しいのか
・それでも酪農の世界に入るなら、どんな考え方が必要なのか
このあたりを、いつもより少し整理して書いてみます。
研修で起きているのは、「知識の上書き」ではなく「前提の揺さぶり」
研修生が来ると、僕は「こうしなさい」と一方的に教えるというより、
「本当にそれでいいの?」と問いを投げることが多いです。
農業大学校や学校教育の中で学んできた人ほど、ある種の“正解ルート”を持っています。
もちろん、それは悪いことじゃない。むしろ基礎として必要です。
でも、現場に出ると、その正解がそのまま通用しないことがある。
教科書では正しくても、地域が違えば成立しない。
牛舎が違えば、飼料設計も、労働力の考え方も、経営判断も変わる。
だから僕は、研修生に対して「別の見方」を投げかけるんです。
すると、その人の中で
「今まで学んできたことは何だったんだろう」
みたいな揺れが起きることがある。
これは否定ではありません。
むしろ、本当に自分で考え始める入口です。
誰かの正解をなぞるだけでは、経営者にはなれない。
現場で必要なのは、マニュアルを暗記した人ではなく、状況に応じて判断できる人です。
研修の価値は、知識を増やすことだけじゃない。
ものの見方を増やすことにあるんじゃないかなと思っています。
「リスペクトされる」より、「自立して去っていく」方がいい
コメントの中には、
「川上さんの考えを理解してくれる貴重な研修生がいなくなるのは惜しい」というニュアンスもありました。
でも、僕としては、研修生がずっと“僕の考えの中”に留まり続ける方が、むしろ危ないと思っています。
理想は、ここで学んだことを土台にしつつ、
最後は自分の頭で考えて、自分のやり方をつくることです。
実際、これまで来てくれた研修生たちも、いろんな道に進んでいきました。
https://kawakamibokuzyou.hp.peraichi.com/recruit
酪農の道をそのまま進む人もいる。
でもそれだけじゃなくて、牧場での経験をもとに、SNS運用や情報発信の分野で仕事を始めた人もいます。
うちの現場で研修しながら、裏側でSNS運用を学び、実践し、成果を見て、
それを自分の武器に変えていった子もいました。
これって、すごく面白いことだと思うんです。
酪農の研修というと、「搾乳」「給餌」「繁殖」「衛生管理」みたいな技術だけを想像しがちです。
でも今の時代、牧場経営には発信力も必要です。
ブランドをつくる力、関係人口を増やす力、共感を生む力も、立派な経営資源です。
つまり、研修の価値は「酪農家を育てること」だけじゃない。
酪農を起点に、自分の仕事をつくれる人を育てることでもあるんです。
新規就農は、夢がある。でも、夢のまま始めると危ない
配信では、新規就農を希望する方からの相談についても話しました。
その中で出てきたのが「放牧酪農をやりたい」という話です。
https://note.com/kawakamifarm/n/n831ef0a9bb73
この気持ちはすごくわかります。
牛が広い場所でのびのびしていて、自然と共にある酪農。
見た目にも美しいし、理想の姿として思い描く人は多い。
でも、ここに大きな落とし穴があります。
理想の風景と、経営として成り立つかどうかは別問題なんです。
たとえば北海道のように広大な草地があり、地域として放牧や粗飼料生産の条件が整っている場所なら、まだ現実味があります。
けれど、都府県の中山間地で放牧酪農を成立させるのは、相当ハードです。
草地面積、土地条件、労働効率、乳量、流通、資金繰り。
どれを取ってもハードルが高い。
だから僕は、放牧酪農そのものを否定したいわけじゃないけれど、
いきなりそこをゴール兼スタートにしなくていいと思っています。
最初は空いた牛舎を借りて、小さく始める。
まずは経営として回す。
牛舎を埋める。
利益を出す。
そのうえで、自分の理想の牧場に近づけていく。
この順番の方が、夢に近づく可能性は高い。
夢を捨てろ、ではありません。
夢を実現する順番を間違えない方がいいという話です。
新規就農の本当の現実は、「ゼロから始める」だけではない
「新規就農」と聞くと、何もない土地に、自分で牛舎を建てて、数頭から始める。
そんなイメージを持つ人も多いかもしれません。
でも現実には、それだけが新規就農ではありません。
むしろ今後重要になるのは、第三者継承です。
高齢で離農を考えている酪農家から、牧場や設備を引き継ぐ。
行政やJAが間に入り、価格や条件を調整しながら承継していく。
地域によっては、いったん公的な機関が買い取り、リース方式で新規就農者に渡していく仕組みもあります。
この仕組みがしっかりしている地域は、かなりやりやすい。
北海道などでは、第三者継承がある程度システム化されていて、先行事例も多いです。
一方で、仕組みが弱い地域では、個人の交渉力と偶然に大きく左右される。
ここに地域差があります。
だから、「地元で絶対やりたい」という思いがある人ほど、いったん立ち止まって考えた方がいいです。
本当に最短距離は地元なのか。
いったん別の地域で経験を積んで、利益を出せる状態になってから戻る方が早くないか。
人生は長いようで短い。
10年、15年を準備だけで使うのか。
先に経営者として立ち上がってから帰るのか。
この視点は、かなり大事だと思います。
“インサイダーのルール”で戦うなら、そのルールを理解しないといけない
酪農には、見えにくいけれど強力な「標準モデル」があります。
農協や指定団体に出荷し、輸入粗飼料や配合飼料も活用しながら、
一定以上の乳量を出し、その前提の中で経営を組み立てる。
これはいわば、酪農界の“インサイダーのルール”です。
この枠組みの中であれば、流通も制度も数字も設計されている。
でも逆に言えば、その枠から大きく外れるやり方は、途端に厳しくなる。
放牧中心、低投入、自給飼料重視、少頭数、高付加価値型。
こうしたスタイルは魅力的ですが、既存システムの多数派とは違う。
だから、「なんでうちのルールに乗ってくれないんだ」と言われやすい。
それは悪意だけではなく、システムが多数派に合わせてできているからです。
ここを理解しないまま、理想だけで突っ込むと苦しくなる。
どの地域で、どの流通に乗り、どの経営モデルで戦うのか。
新規就農を考えるなら、牛の飼い方以前に、
自分がどのルールの上で勝負するのかを見極める必要があります。
新規就農者が増えれば、農業は豊かになるのか?
ここも、感情論では語れないところです。
もちろん、新しく入ってくる人が増えるのは嬉しい。
業界に活気も出るし、可能性も広がる。
でも、だからといって単純に
「新規就農者が増えれば農業は豊かになる」
とは言い切れません。
地域によっては、1軒を支えるために周囲が過剰なコストを負担しているケースもあります。
集乳、飼料供給、人員配置、インフラ維持。
その1軒がなくなった方が、全体として効率が良くなる場合すらある。
さらに、牛乳は需要と供給のバランスにも左右されます。
人口が減る中で、生産者だけ増えても、必ずしも幸せにはならない。
つまり、
“人数が増えること”と“産業が豊かになること”はイコールじゃない。
ここを見誤ると、支援の話も、政策の話も、全部ズレていきます。
行政支援に期待しすぎると苦しい時代になった
行政支援が足りているか。
この問いに対して、僕はかなりシビアに見ています。
正直に言えば、行政はすでにかなり厳しい。
人も足りない。制度も複雑。担当者は数年で異動する。
長期の成果より、短期の無難さが優先されやすい。
しかも地方では、高齢者対応や既存制度の維持で手一杯になりやすく、
若手の新規就農者を本気で後押しするインセンティブが弱い。
もちろん、制度そのものはあります。
補助金もあります。支援メニューもあります。
でも、そこに過剰な期待を置くと、かなりしんどい。
だからこそ大事なのは、
「誰かが助けてくれる前提」で組まないことです。
支援が入ったらラッキー。
でも、支援がなくても成立する設計を考える。
これが経営の出発点になると思います。
新規就農に固執しなくても、酪農の未来には入れる
最後に伝えたいのはここです。
牛が好き。
酪農がしたい。
牧場を持ちたい。
その気持ちはすごく尊いです。
でも、その入口は必ずしも「いきなり独立」でなくていい。
大きな牧場で経験を積む。
一つの部門を任される。
第一牧場、第二牧場のように責任者として経営感覚を持つ。
将来的に継承やオーナー制度の形で任される。
こういう道だって十分にある。
むしろ、今の時代はその方が現実的なことも多いです。
新規就農は、かっこよく聞こえる。
でも、目的は“新規就農すること”じゃない。
自分らしく、持続可能に、牛と生きていくことのはずです。
だったら、入口の形にこだわりすぎなくていい。
遠回りに見えても、実はその方が最短距離。
そんなことは、酪農の世界ではよくあります。
おわりに
研修生との配信は、毎回けっこう本音が出ます。
教える側と学ぶ側、というより、
一緒に考えながら、現場の解像度を上げていく時間に近いです。
今回のテーマだった新規就農も、
夢だけでは語れないし、絶望だけでも語れない。
厳しいけれど、道はある。
ただし、その道は一つじゃない。
だからこそ、質問してもらえるのはありがたいです。
問いがあるから、こちらも言葉にできる。
言葉にするから、考えも深まる。
新規就農を考えている人も、
今まさに酪農の現場にいる人も、
あるいは外からこの業界に興味を持っている人も、
こういう対話を通して、少しずつ輪郭が見えてくるんじゃないかなと思います。
また、どしどし質問してください。
いい質問は、現場の知識を深めるきっかけになります。
そしてそれは、きっと誰か一人の悩みだけじゃなく、
これからの酪農を考えるヒントにもなっていくはずです。
https://note.com/kawakamifarm/membership/join?preview=true
https://note.com/kawakamifarm/n/ndf5ea5a0bd27
https://note.com/kawakamifarm/n/n2c2f4763349b
https://note.com/kawakamifarm/n/nbf0a8d7a7a3e
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