R7年研修生と配信 #48

2026-03-22 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

https://youtu.be/0uyOHtAMFkk?si=17swnQHUG7ckCQpD

おはようございます。川上牧場です。

今回は、令和7年度に川上牧場へ研修に来てくれていた研修生との、一区切りの配信を記事にしてみます。

7月から始まった研修も、気づけば約半年。

週に何回か牧場に来てもらいながら、牛の世話、搾乳、哺乳、掃除、そして酪農という仕事そのものを、実際に身体で感じてもらいました。

今回のテーマは、研修を終えた今、来る前と比べて酪農の見え方がどう変わったのか。

そして、次に川上牧場へ来る研修生には、どんな人が向いているのか。

研修生の言葉が、なかなか鋭かったんです。

「かわいい」だけでは見られなくなった牛たち

まず聞いてみたのは、酪農に対する考え方の変化です。

来る前と、今とで、牛の見方は変わったのか。

すると研修生は、少し考えてからこう言いました。

「牛を、愛護だけでは見ていないかもしれない」

これは、かなり大きな変化だと思いました。

もちろん、牛はかわいいです。

子牛なんて、もう反則級にかわいい。目が合っただけで

「うわ、かわいいな」と思ってしまうし、ミルクを飲む姿なんて見たら、だいたいの人は心を持っていかれます。

でも、酪農の現場にいる牛は、ただ「かわいい存在」だけではありません。

牛乳を出し、命をつなぎ、人の暮らしや経済と深く関わっている

「経済動物」でもあります。

ここが、外から見ると本当に伝わりにくいところです。

例えば、ずっと繋がれている、繋ぎ牛舎を見て「かわいそう」と言われることがあります。

その感覚は、よくわかります。

でも現場に入ると、そこには牛の管理、体調の把握、作業効率、牛同士の関係、土地や施設の制約など、いろんな背景があることが見えてきます。

研修生も、来る前は「繋ぎ牛舎はかわいそう」というイメージを持っていたそうです。

でも実際に入ってみると、

「それは一面だけを見た意見だったのかもしれない」と感じた。

これは、すごく大事な学びです。

酪農は、外から見た正義だけでは語れない。

現場に立つと、かわいさと、仕事と、命と、経済が全部つながっていることがわかる。

この感覚を持ってもらえただけでも、半年間来てもらった意味があったなと思いました。

一番しんどかったことは「朝起きること」

次に聞いたのは、一番しんどかったこと。

返ってきた答えは、めちゃくちゃ正直でした。

「朝起きること」

これはもう、酪農あるあるです。

酪農は朝が早い。

川上牧場の場合でも、通勤時間を考えると、研修生はかなり早く起きる必要がありました。

本人いわく、朝が本当に苦手。

8時間寝ないとしんどいタイプで、朝4時に起きるなら夜9時には寝ないといけない。でも、そんな生活はなかなか難しい。

これも実際にやってみないとわからないことです。

「酪農は朝が早い」と知識では知っていても、実際に自分の生活に入れてみると、身体への負担が見えてくる。

しかも酪農家は、朝だけでは終わりません。

朝の作業をして、昼の仕事をして、少し休んで、夕方や夜にもまた牛舎に入る。

それを365日続ける。

研修生は、はっきり言いました。

「私は無理だなと思った」

これ、めちゃくちゃ大事な感想です。

酪農を目指す人にとって、「自分には合わないかもしれない」と気づくことも、立派な研修の成果です。

酪農は根性だけでは続きません。

牛が好きでも、朝が苦手すぎる人にはしんどいかもしれない。

逆に、朝型の生活が合う人には、思ったより働きやすい仕事になるかもしれない。

現場を知るというのは、自分の向き不向きを知ることでもあります。

子牛はかわいい。でも、ミルクを飲まない子牛は大変

一番楽しかったことも聞きました。

答えはやっぱり、子牛。

「子牛がかわいい」

これはもう、わかります。

子牛はかわいい。これは酪農家でも毎回思います。

ただ、かわいいだけでは終わらないのが哺乳の仕事です。

ミルクを飲んでくれない子牛がいる。

飲みたそうにしているのに、いざ哺乳瓶を口に入れると弾き返してくる子もいる。

こっちは「飲めや!」と思う。

でも、子牛にも性格があります。

すぐ飲む子もいれば、慎重な子もいる。甘えん坊もいれば、頑固な子もいる。

この「牛にも一頭一頭性格がある」という感覚は、現場に入らないとわかりにくいものです。

さらに研修生は、哺乳作業で腰を痛めそうだとも話していました。

これも本当にその通り。

「子牛の哺乳は女性の仕事」という古い感覚が、酪農現場にはまだ残っているところがあります。

力があまりいらないから、女性でもできる。

そう考えられがちですが、実際は中腰姿勢が多く、頭数が多ければ腰への負担は大きい。

哺乳は「かわいい仕事」ではありますが、同時に身体を使う仕事でもあります。

だからこそ、道具を使うこと、姿勢を工夫すること、腰を曲げずにしゃがむこと。

こういう小さな改善が大事になります。

かわいいから頑張れる。

でも、かわいいだけで身体を壊してはいけない。

ここも、酪農のリアルです。

牛に蹴られるという現実

思っていたより大変だったこととして、研修生が挙げたのが

「牛に蹴られること」でした。

牛はおとなしいイメージがあるかもしれません。

草を食べて、のんびりしていて、やさしそう。

でも、実際の牛は大きくて、力が強い。

後ろに回れば蹴られることもあります。

研修生も、実際に蹴られてかなり驚いていました。

骨が折れなくて本当によかった。

酪農は、命と向き合う仕事であると同時に、危険もある仕事です。

牛が悪いわけではありません。

虫がいたり、足元が気になったり、触られたくなかったり、びっくりしたり。

牛には牛の理由があります。

だからこそ、人間側が知識を持ち、動きを読み、安全に作業する必要があります。

「牛はかわいい」

これは間違いない。

でも、「牛は大きくて危ないこともある」

これも同じくらい大切な事実です。

世間とのズレ。「酪農ってバイトあるの?」

研修生が周りに「酪農のバイトをしている」と話すと、かなり驚かれたそうです。

「酪農ってバイトあるの?」

「家族経営だけじゃないの?」

「北海道に住んでるの?」

こういう反応が返ってくる。

これを聞いて、まだまだ酪農は世間から遠い仕事なんだなと思いました。

酪農というと、北海道の広い牧場、家族だけでやっている仕事、特別な人だけが入る世界。

そんなイメージがまだ強いのかもしれません。

でも実際には、酪農の現場にもアルバイトはあります。

短時間で関われる仕事もあります。

未経験から入れる作業もあります。

動物関係の仕事に興味がある人は多いはずです。

でも「酪農で働く」という選択肢が、そもそも頭に浮かんでいない。

これは、業界側の発信不足でもあります。

働きたい人がいないのではなく、酪農という仕事が働き先として認識されていない。

ここは、もっと変えていきたいところです。

消費者に伝えたいこと。「牛乳を飲んでください」

研修生に、消費者に伝えたいことも聞きました。

返ってきた答えは、とてもシンプルでした。

「牛乳を飲んでください」

これですよね。

現場に入ると、牛乳の見え方が変わります。

今日搾った牛乳も、世の中では「余っている」と言われる。

一方で、売り場を見ると、牛乳の隣に豆の搾り汁(豆乳)がどんどん並んでいる。

健康志向、カロリー、体質、流行。

いろんな理由で、牛乳を選ばない人も増えています。

もちろん、何を飲むかは自由です。

でも、牛乳と豆の搾り汁(豆乳)は、まったく別のものです。

酪農の現場には、毎日牛と向き合い、朝早く起き、身体を使い、命を見ながら牛乳を届けている人たちがいます。

価格が上がることもあります。

でもその背景には、飼料代、燃料代、人件費、設備費、そして牛の命を守るためのコストがあります。

「高い」と言われるのは仕方ない。

でも、その一杯の向こう側にある現場も、少しだけ想像してもらえたらうれしいです。

これから酪農を目指す人へ。夢だけで来るとしんどい

これから酪農を目指す人に、覚悟しておいた方がいいことは何か。

研修生の答えは、かなり現実的でした。

「相当、縦社会だと思う」

これは、酪農に限らず農業全体にまだ残っている課題かもしれません。

新しい技術を学んできても、現場ではすぐに使えないことがある。

新しい風を吹かせたいと思っても、受け入れてもらえないことがある。

特に田舎で、閉鎖的な地域や組織では、理想と現実のギャップに苦しむこともある。

だから、酪農を目指すなら、牛だけでなく「人」も見る必要があります。

どんな牧場主なのか。

どんな考え方の現場なのか。

自分の意見を聞いてもらえる環境なのか。

酪農は牛と働く仕事ですが、同時に人間関係の仕事でもあります。

牧場選びは、本当に大事です。

発信する意味。ゼロを1にする力

研修生から見た川上牧場の特徴として、発信についても話してくれました。

「酪農を広めたい、知ってほしいという気持ちがあって、それを発信して収益にもつなげているのがすごい」

これはありがたい言葉でした。

僕は、酪農の発信を続けています。

正直、大変です。

毎日牛の仕事をして、その上で音声配信をして、記事を書いて、SNSで伝えていく。

でも、やらないと始まらない。

発信は、ゼロを1にする行為です。

誰にも知られていなかった現場が、誰かに届く。

「酪農ってこんな仕事なんだ」と知ってもらえる。

「川上牧場に行ってみたい」と思ってもらえる。

「牛乳を飲もうかな」と思ってもらえる。

その小さな変化の積み重ねが、業界を少しずつ動かしていくと信じています。

川上さんって実際どう?

最後に、研修生に聞いてみました。

「川上さんって実際どう?」

返ってきた答えは、

「まんまだと思う」

でした。

取り繕っていない。

裏表がない。

配信で話しているそのままの人。

これは、良い意味でも悪い意味でも、その通りだと思います。

なので、配信を聞いて「この人やばいな」と思った人は、来ない方がいいです。

逆に「ちょっと面白そう」と思った人は、合うかもしれません。

僕は、自分の考えは話します。

でも、それを他人に押し付けたいわけではありません。

牛乳を飲んでほしいとは思っています。

でも、豆の搾り汁(豆乳)を飲むなとは言いません。

酪農を知ってほしい。

でも、全員に酪農を好きになれとは言いません。

自分はこう思う。

あなたはどう思う?

その対話ができる場所でありたいと思っています。

次に来る研修生は、どんな人が向いているのか

最後に、次に川上牧場へ来る研修生はどんな人が向いているかを聞きました。

研修生の答えは、意外でした。

「気軽に来られる人がいい」

そして、こうも言いました。

「心が疲れている人にも、向いているかもしれない」

もちろん、酪農は医療ではありません。

動物と関わればすべてが解決する、なんて簡単な話ではありません。

でも、家にずっといて、社会との接点が少なくなっている人にとって、1日数時間だけ牛舎に来ることが、小さなリズムになることはあるかもしれません。

牛にミルクをあげる。

掃除をする。

人と少し話す。

身体を動かす。

そして、牛に癒やされる。

川上牧場の研修やアルバイトは、ガチガチに「この日は絶対来てください」と縛るものではありません。

そのゆるさが、逆に合う人もいるのかもしれない。

これは、僕にとっても新しい視点でした。

働くことが当たり前すぎる僕には、「働いていない人の感覚」がわからない部分があります。

だからこそ、研修生の言葉は面白かった。

酪農の現場は、牛を育てるだけでなく、人が少しずつ社会とつながり直す場所にもなれるのかもしれない。

そんな可能性を感じました。

研修生の言葉が、酪農の未来を教えてくれる

今回の配信で一番よかったのは、研修生がきれいごとを言わなかったことです。

朝は無理。

牛に蹴られてびっくりした。

腰が痛くなりそう。

縦社会はしんどい。

牛乳を飲んでほしい。

川上さんはまんま。

こういう率直な言葉こそ、現場を変えるヒントになります。

酪農を知らない人が、酪農の現場に入り、違和感を持ち、驚き、面白がり、時には「無理」と言う。

その全部が大事です。

酪農業界は、もっと外から来た人の声を聞いた方がいい。

「昔からこうだから」ではなく、「初めて見た人にはどう見えるのか」を知った方がいい。

そこに、これからの酪農の働き方や、伝え方のヒントがあります。

令和8年度も、川上牧場では長期・短期問わず、研修生を募集していきます。

https://kawakamibokuzyou.hp.peraichi.com/recruit

酪農を本気で目指す人も。

ちょっとだけ牛と関わってみたい人も。

今の生活から少し外に出てみたい人も。

まずは、気軽に酪農の現場をのぞいてみてください。

牛はかわいいです。

でも、かわいいだけではありません。

大変です。

でも、大変なだけでもありません。

その両方を知ったとき、酪農という仕事の奥行きが、少し見えてくると思います。

半年間、本当にお疲れさまでした。

そして、川上牧場に来てくれてありがとうございました。

また、ふらっと牛舎に来てくれるのを楽しみにしています。