🐄「酪農やっててよかった」って思う瞬間|現場のリアルな話

2026-04-15 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

🐄「酪農やっててよかった」って思う瞬間|現場のリアルな話

こんにちは。島根県出雲市で酪農をしている、川上牧場の川上です。

今日は、リスナーさんからいただいた質問に答えていきます。

酪農って大変だと思うんですが、

やっててよかったなって思う瞬間はどんな時ですか?

……いやあ、これはなかなか答えにくい質問ですね。

酪農の話、牛乳の話、牛の体の話、業界の話ならいくらでも話せるんですけど、自分の気持ちの話になると急に苦手になります。

「やっててよかったです!毎日最高です!」

と、キラキラした感じで言えたらいいんですけど、正直、そんな日ばかりではありません。

朝は早いし、休みは少ないし、雨でも雪でも暑くても作業はあります。

牛は生き物なので、こちらの予定通りには動いてくれません。昨日も田んぼに除草剤を撒き終わって休もうと思ったら、急に「堆肥を運んでほしい」と言われて、一気に何台も運ぶことになりました。

今日も今日で、繁殖検診の結果に合わせた処置、餌屋さんとのミーティング、新しい営業さんへの対応、モミ殻の引き取り。

予定を並べただけで「もう一日終わったんじゃない?」というくらいです。

でも、そんな毎日の中で、ふとした瞬間に思うんです。

ああ、酪農やっててよかったな、と。

今日はその“ふとした瞬間”の話をしてみようと思います。

一番わかりやすいのは、子牛が生まれた時

まず、一番わかりやすいのは、やっぱり子牛が生まれた時です。

これは何回経験しても特別です。

分娩は、ただ「生まれた、よかった」で終わるものではありません。

お腹の中でちゃんと育っているか。母牛の状態はどうか。難産にならないか。生まれたあと、ちゃんと呼吸しているか。立ち上がれるか。初乳を飲めるか。

ひとつひとつ、気を抜けないことばかりです。

しかも僕は、家畜人工授精師の免許を持っていて、繁殖管理や品種改良のところにとても興味があります。

どの牛に、どの種雄牛を掛け合わせるのか。

この牛の体型なら、どんな改良が必要か。

乳量を伸ばしたいのか、乳房を良くしたいのか、足腰を強くしたいのか。

将来、川上牧場にとってどんな牛が必要なのか。

そういうことを考えながら、日々の繁殖管理をしています。

だから、自分が考えて、自分が選んで、自分が

「こういう牛が生まれてほしい」

と思った牛が、本当に目の前に生まれてくる。

これはもう、たまらない瞬間です。

命が生まれる喜びと、積み重ねてきた判断が形になる喜びが、同時に来る感じです。

ただ、これって消費者の方には少し伝わりにくいかもしれません。

スーパーで牛乳を買う時に、その牛乳の背景に

「どの牛とどの牛を掛け合わせて、この子が生まれて、そこから牛乳が搾られている」なんて、普通は考えないと思います。

でも酪農家にとっては、牛乳はただの白い飲み物ではありません。

血統があって、出産があって、育成があって、搾乳があって、毎日の管理があって、ようやく届くものです。

その入口にあるのが、子牛が生まれる瞬間なんです。

何も起きない日が、実は一番ありがたい

次に思うのは、牛たちが何もなく、普通に過ごしている日です。

これ、地味ですよね。

でも酪農の現場では「何もない日」が本当にありがたいんです。

牛がしっかり餌を食べている。

水を飲んでいる。

横になって休んでいる。

反芻している。

乳量が大きく落ちていない。

体調を崩している牛がいない。

これだけで、かなり幸せです。

たとえば僕が牛舎にいない時間があります。堆肥を運んだり、モミ殻を取りに行ったり、外の作業をしている時です。

そんな時に、遠くから牛舎を見ると、牛たちがみんな横になって、ゆっくり反芻していることがあります。

人がいない牛舎で、牛たちがリラックスしている。

あれを見ると、心の中で「よしよしよし」と思います。

牛は、とても正直な生き物です。暑い、寒い、餌が合わない、水が飲みにくい、床が悪い、人の動きが落ち着かない。そういう小さなストレスがあると、行動に出ます。

だから牛が落ち着いて寝ている姿は、現場がうまく回っているサインでもあります。

酪農は、特別なドラマばかりではありません。

むしろ、毎日同じことを繰り返して、異常が起きないように整えていく仕事です。

派手な成功よりも、何も起きない一日。

これが本当にありがたい。

「今日も牛たちは大丈夫だった」

そう思えるだけで、酪農家はちょっと救われるんです。

牛乳がちゃんと届いていると感じた時

もうひとつ大きいのは、牛乳が誰かに届いていると感じた時です。

これは、発信を始めてから特に強く感じるようになりました。

リスナーさんから、

「今日も牛乳飲みました」

「川上さんの配信を聞いて、牛乳を買いました」

「子どもと一緒に飲んでいます」

「牛乳の見方が変わりました」

そんな言葉をいただくことがあります。

これが本当に嬉しいんです。

牛乳は毎日出荷しています。もちろん、どこかで誰かが飲んでくれているのは頭ではわかっています。

でも、普段はその顔が見えません。

牧場で搾った牛乳は集乳車に積まれて、工場に運ばれて、商品になって、スーパーや学校や家庭に届きます。その流れの中で、酪農家と飲む人が直接つながる機会は多くありません。

だからこそ、SNSや音声配信で「飲みました」と言ってもらえると、急に距離が近くなるんです。

ああ、本当に届いているんだな。

自分たちが毎日やっていることは、誰かの朝ごはんや、子どもの一杯や、

仕事終わりの楽しみになっているんだな。

そう思えます。

先日、バルク乳の細菌検査の結果が出ました。

牛乳の衛生状態を見る検査で、いろいろな菌の数を確認するものです。もちろん酪農家としては、できるだけ衛生的で、安心して飲んでもらえる牛乳を出したい。

その検査で、総菌数がとても良い数字でした。

こういう結果を見ると、日々の搾乳作業や衛生管理がちゃんと積み重なっているんだなと励みになります。

牛乳は、牛が出してくれるものです。

でも、それを安全に、きれいに、安定して届けるためには、人の管理が必要です。

「おいしい」と言ってもらえる裏側には、地味な掃除や確認や作業が山ほどあります。

その地味な努力が、誰かの一杯につながっている。

そう感じられた時、やっててよかったと思います。

コロナ禍で、正直かなりきつかった

ここから少し、真面目な話になります。

酪農をやっていて、いつも前向きだったわけではありません。

特にコロナ禍の時期は、本当にきつかったです。

それまで行っていた食育活動や、消費者の方と直接つながる活動が、ほとんどできなくなりました。

学校に行くことも、イベントをすることも、牧場に来てもらうことも難しくなった。

それと同時に、酪農業界では飼料価格の高騰や、牛乳の需給の問題、廃業のニュースが続きました。

ニュースを見るたびに、しんどかったです。

「なんで酪農をやっているんだろう」

そう思った瞬間も、正直ありました。

牛たちは毎日牛乳を出します。こちらの都合で「今日は休みます」とは言えません。

でも社会の動きは大きく変わっていく。

消費者との距離は遠くなる。

コストは上がる。

先が見えない。

あの時は本当に、気持ち的にも重かったです。

でも、そこで何とか消費者の方とつながれないかと思って、SNSや音声配信を始めました。

最初からうまくいったわけではありません。

何を話せばいいのかもわからない。

自分の話をするのも得意ではない。

そもそも酪農の話なんて、どれくらいの人が聞いてくれるのかもわからない。

でも、続けているうちに、少しずつ反応をもらえるようになりました。

「牛乳を飲みます」

「応援しています」

「知らなかったです」

「子どもと話してみます」

そんな言葉に、本当に助けられました。

大げさに聞こえるかもしれませんが、あの時の反応に救われた部分はかなりあります。

酪農家は牛の命を預かっています。

でも同時に、酪農家自身も、誰かの言葉に支えられているんです。

“いいね”ひとつでも、現場には届いている

よく「応援しています」と言っていただくことがあります。

その気持ちだけで、本当にありがたいです。

そして実は、ものすごく大きなことをしなくても、応援は届きます。

牛乳を一本買う。

配信にいいねを押す。

コメントを残す。

家族に話す。

学校給食の牛乳を少し意識してみる。

近くの酪農家さんの投稿を見る。

「今日も飲んだよ」と言う。

それだけでも、酪農家にとっては励みになります。

僕だけではありません。

今は、全国にSNSやYouTube、TikTok、音声配信で発信している酪農家さんがたくさんいます。

みんなそれぞれの現場で、牛と向き合いながら、消費者の方に少しでも伝えようとしています。

もし気になる酪農家さんがいたら、ぜひ反応してあげてください。

たぶん想像以上に、その一言は届いています。

酪農家って、毎日牛と話しているようで、実は孤独な時間も多い仕事です。

だから、画面の向こうからの小さな反応が、思っている以上に大きな力になります。

酪農は、作業ではなく“時間を重ねる仕事”

酪農は、作業だけ見れば大変な仕事です。

朝晩の搾乳。

餌やり。

掃除。

分娩。

治療。

繁殖管理。

堆肥処理。

機械の故障。

天気への対応。

暑熱対策。

資材や飼料の価格上昇。

やることを並べると、なかなかハードです。

でも、酪農はただの作業ではありません。

牛と時間を重ねる仕事です。

今日生まれた子牛が、数年後に母牛になる。

その牛が牛乳を出す。

その牛乳を誰かが飲む。

その誰かが「おいしい」と言ってくれる。

その声がまた、現場に返ってくる。

そういう長い時間の循環の中にいる仕事です。

だから「やっててよかった」と思う瞬間は、花火みたいにドーンと来るものだけではありません。

子牛が立ち上がった時。

牛が安心して寝ている時。

牛乳の検査結果が良かった時。

リスナーさんが牛乳を飲んだと言ってくれた時。

子どもたちに牛乳の話ができた時。

誰かが酪農に少し興味を持ってくれた時。

そういう小さな瞬間が、少しずつ積み重なっていきます。

そしてある日、ふと思うんです。

大変だけど、やっててよかったな、と。

牛乳の向こう側に、現場があります

牛乳は、スーパーに行けば当たり前のように並んでいます。

白くて、冷たくて、いつも同じように見えるかもしれません。

でもその一杯の向こう側には、牛がいて、酪農家がいて、毎日の管理があって、いろんな悩みや工夫があります。

今日もどこかの牧場で、子牛が生まれています。

今日もどこかの牛舎で、牛がゆっくり反芻しています。

今日もどこかの酪農家が、牛乳を届けるために搾乳しています。

そのことを、少しだけ思い出してもらえたら嬉しいです。

そして、牛乳を飲む時に、

「これ、誰かが毎日がんばって届けてくれているんだな」

と、ほんの少しでも感じてもらえたら。

それだけで、酪農家としてはかなり嬉しいです。

今日も牛乳を飲んでくださってありがとうございます。

お仕事の方、学校の方、いってらっしゃい。

みんな牛乳飲んでね。

川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也

■どんなメンバーシップか 川上牧場を応援していただける方向けのメンバーシップです。参加費はすべて活動費に当てさせていただき

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でも、

その牛乳がどこで、

どう生まれているかを知る機会はほとんどありません。

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