牛乳1kgいくらが適正?酪農家のリアルな本音を話します
2026-04-21 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
こんにちは。
川上牧場の川上です。
今日は、リスナーさんからいただいた質問に、かなり踏み込んで答えてみようと思います。
質問はこちらです。
酪農は収入の8割から9割が経費だと聞きますが、牛乳の買取価格はいくらだったら適正だと思いますか?
いくらだったら嬉しいですか?
いやあ、来ましたね。
正直、酪農家としてはかなり答えにくい質問です。
なぜかというと、生乳の買取価格、つまり酪農家が牛乳を出荷したときに受け取る価格を話すと、ある程度その牧場の売上規模が見えてしまうからです。
一般の方でいうと、
「あなたの給料はいくらですか?」
と聞かれているような感覚に近いです。
でも、こういう話を避け続けていると、消費者の方には何も伝わりません。
スーパーで牛乳の値段が上がると、
「牛乳、高くなったな」
「酪農家さんも儲かっているのかな」
と思われるかもしれません。
でも現場の感覚としては、そこまで単純ではありません。
今日は、島根県出雲市にある小さな牧場、川上牧場の一例として、できるだけ正直に話してみます。
※価格は地域、用途、出荷先、乳成分、制度、時期によって変わります。全国一律の話ではなく、あくまで一酪農家の実感として読んでください。
まず、今の生乳価格はどれくらいなのか
川上牧場の場合、生乳の買取価格は、ざっくり言うと1kgあたり140円前後です。
牛乳はお店では「1リットル」で売られていますが、酪農の現場では「kg」で扱うことが多いです。細かく言えば1リットルと1kgはまったく同じではありませんが、一般の方には
「だいたい牛乳1本分の原料がこのくらいの価格で取引されているんだな」と思ってもらえたら十分です。
ここで大事なのは、140円がそのまま利益ではないということです。
この中から、牛の餌代、燃料代、電気代、水道代、敷料代、獣医さんへの診療費、人工授精の費用、機械の修理代、借入金の返済、人件費、設備投資、税金、保険、いろんなものが出ていきます。
酪農は、毎日牛が牛乳を出してくれる仕事です。
でも同時に、毎日お金も出ていく仕事です。
牛は365日ご飯を食べます。
365日水を飲みます。
365日寝る場所が必要です。
365日健康管理が必要です。
「今日は餌代が高いから、牛さん、ちょっと我慢してね」
とは言えません。
牛乳は毎日出ますが、コストも毎日出ます。
ここが、酪農という仕事のリアルなところです。
牛乳は値上がりしているのに、なぜ酪農家は苦しいのか
ここが、消費者の方に一番伝わりにくいところだと思います。
スーパーで見る牛乳の価格は、確かに以前より上がっています。
だから、
「牛乳が値上がりしたなら、酪農家さんの収入も増えているんじゃないの?」
と思うのは自然なことです。
でも、実際には牛乳の店頭価格には、酪農家の手取りだけでなく、乳業メーカーさんの加工費、パック代、物流費、冷蔵管理費、販売店のコストなど、たくさんの費用が乗っています。
牛乳は、ただ搾って終わりの商品ではありません。
牧場で搾った生乳は、集乳車で運ばれ、工場で検査され、殺菌され、パックに詰められ、冷蔵状態でスーパーまで運ばれます。
この全部にコストがかかります。
そして今は、そのすべてが上がっています。
燃料代が上がる。
電気代が上がる。
包材が上がる。
物流費が上がる。
人件費も上がる。
機械も高くなる。
牛舎の修理も高くなる。
だから、牛乳の価格が上がっても、その値上げ分がそのまま酪農家に届くわけではありません。
ここに、消費者の感覚と現場の感覚のズレがあります。
消費者からすると、
「牛乳、高くなった」
でも酪農家からすると、
「まだ足りない」
この両方が、同時に起きているんです。
では、適正価格はいくらなのか
ここからが本題です。
では、牛乳1kgあたり、いくらなら適正なのか。
川上牧場の今の感覚で言えば、最低でも180円から200円くらいのラインが見えてこないと、長く続けるにはかなり厳しいと思っています。
これは、
「それくらいあれば大儲けできます」
という話ではありません。
違います。
「ようやく普通に続けられる」
「牛にちゃんと投資できる」
「設備を更新できる」
「次の世代に、酪農って仕事も悪くないよと言える」
そのための価格です。
今の価格でも、もちろん経営努力はしています。
餌の設計を見直す。
水の環境を整える。
牛が寝やすい牛床を作る。
暑熱対策をする。
繁殖管理を改善する。
病気を減らす。
無駄なコストを削る。
酪農家は、毎日ずっと改善しています。
でも、努力だけでは埋められないコスト上昇があります。
たとえば、牛舎のスマート農業やDX化を整えようと思っても、工事費がかかります。
監視カメラを増やしたい。
分娩を見守りたい。
牛の異常を早く見つけたい。
スマート農業の機器も導入したい。
こういうものは、牛にとっても、人にとっても大事です。
でも、利益が残らなければ投資できません。
投資できなければ、現場は古くなります。
現場が古くなると、事故も増えます。
作業もきつくなります。
若い人も入りにくくなります。
そして最後は、
「もう続けられない」
になってしまいます。
だから、牛乳の適正価格というのは、単に「安いか高いか」ではなく、
「その産業が続けられる価格かどうか」
で考えるべきだと思っています。
本音を言えば、もっと欲しい
ここまでかなり現実的な話をしました。
180円から200円くらいが、今の川上牧場の感覚としては、持続可能性を考えたときの一つのラインです。
でも、本音を言えば、もっと欲しいです。
これは酪農家として、正直な気持ちです。
なぜなら、これまでずっと、現場の努力で吸収してきた部分があるからです。
餌が高くなっても、すぐに価格転嫁できない。
燃料が高くなっても、すぐに価格転嫁できない。
機械が壊れても、修理代は待ってくれない。
牛が病気になれば、治療費はすぐ必要になる。
酪農家は、牛乳を止められません。
牛は毎日搾乳しなければいけません。
「今日は赤字だから搾乳しない」
という選択肢はありません。
だから、苦しいときも現場で踏ん張るしかない。
その積み重ねで、今の日本の牛乳は守られてきたと思っています。
だから本音を言えば、
もっと牛に投資したい。
もっと働く人に還元したい。
もっと良い設備にしたい。
もっと若い人が夢を持てる産業にしたい。
もっと消費者に喜んでもらえる牛乳を作りたい。
そのためには、今よりもう少し、いや本音を言えばかなり、価格に余白がほしいです。
「牛乳300円」は高いのか
配信中に、こんなコメントもいただきました。
「持続可能な価格が300円だと、牛乳を買うのをためらいそうです。ジュースの方が安く感じますね」
これは本当に率直な感想だと思います。
ありがとうございます。
たしかに、牛乳が1本300円、400円になったら、毎日買うには負担が大きいと感じる方も多いと思います。
ここで大事なのは、消費者の方に無理を押しつけたいわけではないということです。
家計も苦しい。
物価も上がっている。
給料が思ったほど上がらない。
子育てにもお金がかかる。
その中で、
「酪農家が大変だから、もっと高く買ってください」
だけでは、やっぱり続きません。
消費者の生活も守られないといけない。
ここが難しいところです。
ただ、牛乳を「ジュース」と同じ棚で考えると、どうしても高く感じます。
でも、牛乳はただの飲み物ではありません。
たんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウム、ビタミン、ミネラルが入っている、かなり栄養密度の高い食品です。
栄養補助食品やプロテイン飲料と比べると、牛乳はかなりコストパフォーマンスが高いと思います。
もちろん、牛乳がすべての人に合うわけではありません。
体質的に飲めない方もいます。
選択肢はいろいろあっていいと思います。
でも、牛乳はあまりにも身近すぎて、その価値が安く見られすぎているところはあると思います。
「毎日あるのが当たり前」
「安くて当たり前」
「いつでも買えて当たり前」
この“当たり前”を支えている現場が、今かなり苦しくなっている。
そこだけは、ぜひ知ってもらえたら嬉しいです。
豆乳や植物性飲料に売り場を取られている現実
もう一つ、今の牛乳業界が向き合わないといけないのが、豆乳や植物性飲料の存在です。
正直、売り方がうまいです。
若い人が手に取りたくなるパッケージ。
健康的に見えるイメージ。
芸能人やインフルエンサーとのタイアップ。
カフェ文化との相性。
SNSで広がりやすい見せ方。
本当に上手だなと思います。
一方で、牛乳はどうしても昔からある定番商品なので、
「説明しなくても分かるでしょ」
になりがちです。
でも、それでは伝わりません。
牛乳と豆乳は、同じように見えて、栄養も原料も背景もまったく違います。
どちらが良い悪いではなく、別の食品です。
なのに、売り場では同じような飲み物として比較される。
ここに、牛乳業界のマーケティングの弱さもあると思っています。
酪農家も、もっと伝えないといけない。
牛乳がどう作られているのか。
牛がどう暮らしているのか。
1本の牛乳にどれだけの人と仕事が関わっているのか。
なぜ価格が必要なのか。
なぜ飲み続けてもらうことが未来につながるのか。
これを、ちゃんと消費者に届く言葉で伝えていかないといけません。
適正価格とは「未来が残る価格」
最後に、今日の話をまとめます。
川上牧場の生乳買取価格は、ざっくり1kgあたり140円前後です。
でも、餌代、燃料代、電気代、資材費、設備費、人件費など、あらゆるコストが上がっています。
このままでは、酪農家が続けるだけで精一杯になり、牛への投資、設備への投資、人への投資が難しくなります。
僕の感覚では、持続可能な酪農を考えるなら、1kgあたり180円から200円くらいのラインが必要だと思っています。
そして本音を言えば、もっと欲しい。
でも、それは酪農家が贅沢をしたいからではありません。
牛にもっと良い環境を作りたい。
働く人が無理なく続けられる現場にしたい。
若い人が「酪農っていい仕事だな」と思える産業にしたい。
子どもたちが将来も国産の牛乳を飲めるようにしたい。
そのために必要な価格です。
牛乳の適正価格は、安さだけで決まるものではありません。
未来が残る価格かどうか。
僕は、そこが一番大事だと思っています。
牛乳を買うときに、少しだけ思い出してもらえたら嬉しいです。
この1本の向こうには、牛がいて、牧場があって、毎朝毎晩搾乳している人がいます。
そして、その1本を選んでもらえることが、酪農の未来につながっています。
今日も牛乳を飲んでいただき、ありがとうございます。
川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也
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