牛は暑さに弱い?酪農家が本気でやっている夏の暑さ対策を公開します

2026-06-23 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

おはようございます。

川上牧場の川上です。

6月23日、火曜日。

今日の最高気温は28度です。

昨日は22度だったので、また一気に気温が上がりました。

この時期は「暑い日」と「少し肌寒い日」が交互に来るような感じで、人間でも体がついていきにくい季節です。

牛も同じです。

いや、正確に言うと、牛は人間以上にこの気温差や湿度の影響を受けやすい動物です。

今日から川上牧場には、地元の中学生4人が職場体験に来てくれます。

モミガラを取りに行ったり、牛に餌をやったり、ワクチンの作業を見てもらったり、牧場の仕事を一緒に体験してもらう予定です。

こういう職場体験の時期になると、毎年感じます。

「酪農の仕事って、牛乳を搾るだけじゃないんだよな」と。

牛を見て、気温を見て、餌を見て、水を見て、風を見て、体調を見て、先回りして手を打つ。

その積み重ねで、毎日の牛乳はできています。

今回、音声配信にこんな質問をいただきました。

「夏場は暑さでミルクが出にくくなると聞きますが、川上牧場さんでは牛さんにどんな暑さ対策を講じてあげていますか?」

これは、まさに今の時期の酪農家にとって一番大きなテーマです。

今日は、川上牧場で実際にやっている夏の暑さ対策を、できるだけ現場目線でお話ししていきます。

牛は、なぜ暑さに弱いのか

まず知っておいてほしいのは、乳牛、とくにホルスタインは暑さが得意な動物ではないということです。

ホルスタインは、もともと比較的涼しい地域で改良されてきた牛です。寒さにはある程度強いのですが、日本のような「気温が高くて、湿度も高い夏」はかなり苦手です。

人間が「今日はちょっと暑いな」と感じる頃には、牛はすでに暑さのストレスを受け始めていることがあります。

なぜかというと、牛の体の仕組みに理由があります。

牛は草を食べて、お腹の中にいる微生物の力を借りながら消化します。

この発酵の仕組みがあるから、人間がそのままでは栄養にしにくい草を、牛乳や肉に変えることができます。

でも、この発酵は同時に熱も生みます。

つまり牛は、体の中に常に発酵タンクを持っているようなものです。

そこに、毛皮のような体表があり、さらに毎日30kg、40kgという牛乳を作っている牛もいます。

これを人間に置き換えると、かなりすごい状態です。

暑い日に厚めのジャケットを着て、お腹に発熱するタンクを抱えながら、毎日大量の仕事をしているようなものです。

そう考えると、牛が夏にバテるのは当然です。

暑くなると牛に何が起きるのか

暑さが強くなると、牛の体にはいくつかの変化が出てきます。

まず、餌を食べる量が減ります。

人間も暑い日に、こってりしたものを食べたくなくなることがありますよね。牛も同じで、暑くなると食欲が落ちます。

ただし牛の場合、餌を食べる量が減ることは、そのまま乳量の低下や体調不良につながります。

牛乳は、牛が食べた餌と飲んだ水から作られます。

食べる量が減れば、当然、牛乳を作る材料が足りなくなります。

次に、呼吸が荒くなります。

牛舎で見ていると、暑い日は「ハーハー」と口を開けて呼吸する牛が出てきます。これは、体の熱を逃がそうとしているサインです。

そして、寝る時間も減ります。

牛は横になって休む時間がとても大事です。

ゆっくり寝て、反すうして、体を回復させることで、健康や乳量が支えられています。

暑さで立っている時間が増えると、蹄にも負担がかかりますし、繁殖成績にも影響が出てきます。

つまり暑熱対策は、単に「牛を涼しくしてあげる」という話ではありません。

牛の健康、乳量、繁殖、寿命、そして皆さんの食卓に届く牛乳の安定供給まで関わる、とても大事な仕事です。

川上牧場の暑さ対策① まずは風を作る

川上牧場で一番基本にしている暑さ対策は、換気です。

現在、牛舎にはおよそ30台ほどの換気扇を設置しています。

頭数に対して考えると、だいたい2〜3頭に1台くらいの感覚です。

他の牧場と比べても、かなり多めに設置している方だと思います。

なぜそこまで風にこだわるのか。

それは、牛の体表面から熱を逃がすためです。

人間でも、暑い日に扇風機の風が当たると楽になりますよね。

気温そのものが劇的に下がらなくても、風があるだけで体感はかなり変わります。

牛も同じです。

特に島根の夏は、気温だけでなく湿度が高い。

湿度が高いと、体から熱が逃げにくくなります。

だから、牛舎の中に空気の流れを作ることが大事になります。

風が止まっている牛舎は、人間でいうと、蒸し暑い部屋に閉じ込められているようなものです。

牛は「暑いです」と言葉では言えません。

だからこそ、呼吸、立ち方、餌の食べ方、寝る時間を見ながら、こちらが先に環境を整えていく必要があります。

川上牧場の暑さ対策② 冷たいミストを使う

次に使っているのが、細霧装置です。

細霧装置というのは、牛舎内に細かい霧を出す設備です。

人間でいうと、イベント会場やお店の前にあるミストシャワーに近いものです。

水が牛の体や周囲の空気に触れて、それが蒸発するときに熱を奪ってくれます。

これによって、牛の体感温度を下げることができます。

川上牧場では、この細霧にちょっと工夫をしています。

牛乳を冷やすために使う「バルククーラー」という大きなタンクがあります。

朝、牛乳が回収されたあとは、昼間そのタンクが空いている時間があります。

そこで、その空いているバルククーラーを活用して水を冷やし、その冷たい水を細霧装置につなげています。

バルククーラーは牛乳を冷やす設備なので、かなり低い温度まで冷やせます。

その冷えた水を、昼間の暑い時間帯に霧として牛舎内に噴霧します。

去年からこの方法を取り入れていますが、昼間の牛の様子を見ると、かなり楽そうにしている印象があります。

もちろん、ミストはただ出せばいいわけではありません。

湿度が高すぎる時に使い方を間違えると、逆にムッとした環境になることもあります。

風とセットで使うことが大事です。

冷たい霧を出す。

同時に風で空気を動かす。

牛の体についた水分が蒸発するときに熱を奪う。

この組み合わせが、夏場の牛舎ではとても重要になります。

川上牧場の暑さ対策③ 夏用の餌に切り替える

暑さ対策というと、扇風機やミストのような設備が注目されやすいです。

でも、現場では餌の設計もかなり大事です。

暑くなると、牛は餌を食べる量が減ります。

だから、少ない食べる量の中で、必要な栄養をどう確保するかを考えなければいけません。

川上牧場では、夏用の餌に切り替えています。

具体的には、ビタミンやミネラルを意識して補います。

暑さで体に負担がかかる時期は、細かい栄養管理が効いてきます。

また、夏は餌が傷みやすくなります。

気温と湿度が高いと、飼料の状態も変わりやすいです。

そのため、カビ毒対策としてカビ毒吸着剤も使っています。

さらに、バイパスグリセリンのようなエネルギー補給を意識した資材も活用しています。

これは、暑さで餌を食べる量が落ちる時期に、牛が必要なエネルギーを確保しやすくするためです。

そして基本ですが、重曹も大事です。

牛は暑くなると、草を食べる量が落ちやすくなります。

すると、お腹の中、つまりルーメンの環境が乱れやすくなります。

重曹は、そのルーメン環境を安定させるために使います。

夏の餌づくりで大事なのは、単に「栄養を濃くすればいい」ということではありません。

食べやすいか。

傷みにくいか。

お腹の環境を乱さないか。

少ない採食量でも必要な栄養が取れるか。

牛が無理なく食べ続けられるか。

このあたりを見ながら、毎日調整していきます。

川上牧場の暑さ対策④ 水をしっかり飲めるようにする

そして、夏場に絶対に外せないのが水です。

牛乳の約87%は水分です。

つまり、水を飲まなければ牛乳は作れません。

これは当たり前のようで、ものすごく大事なことです。

暑い時期、牛はたくさん水を飲みます。

でも、飲みたい時に水が十分に出なかったらどうなるでしょうか。

人間でも、暑い日に水を飲もうとして、水道からチョロチョロしか出なかったら嫌ですよね。

牛も同じです。

川上牧場では、飲水量を確保するために水圧ポンプを設置しています。

牛が水を飲むウォーターカップから、しっかり水が出るようにするためです。

水量が足りない時には、ポンプで一時的に水圧を上げて、牛が飲みたい時にしっかり飲めるようにしています。

実は以前、飲水設備を改善しただけで平均乳量が上がった経験があります。

それくらい、水は大事です。

暑熱対策というと、つい特別な機械や新しい技術を考えたくなります。

でも、牛にとっては「飲みたい時に、たっぷり水が飲める」ことが何より大切です。

風。

水。

餌。

結局、夏の管理はこの基本をどれだけ徹底できるかにかかっています。

まだまだやりたい暑さ対策はある

今やっている暑さ対策だけで十分かというと、正直まだまだです。

できることは、まだたくさんあります。

たとえば、屋根の暑さ対策。

牛舎は屋根から熱を受けます。

屋根に遮熱塗料を塗ったり、屋根裏に断熱材を入れたりできれば、牛舎内の熱のこもり方は変わると思います。

最近はドローンを使って屋根に塗料を施工するような方法もあります。

こういう技術も、今後は牧場の暑さ対策に活用できるかもしれません。

それから、地下水の活用も考えられます。

地下水は年間を通して温度が安定しています。

その冷たい水を飲水や冷却に使えれば、かなり効果があるのではないかと思っています。

さらに、水冷式の装置のように、冷たい水と風を組み合わせて牛舎全体を冷やす仕組みもあります。

ただ、こうした設備はどうしても投資が大きくなります。

酪農家としては、牛のためにやりたいことはたくさんあります。

でも、現実には費用とのバランスも考えなければいけません。

ここが、夏場の酪農の難しいところです。

生産性だけを見れば、夏はかなり厳しい季節です。

正直、夏場は「利益を伸ばす」というより、「牛を守る」「乳量の落ち込みをできるだけ抑える」「健康を崩させない」ことに必死になります。

夏の牛乳の裏側を、少しだけ想像してほしい

夏になると、冷たい牛乳がおいしい季節になります。

お風呂上がりに飲む牛乳。

朝ごはんの牛乳。

アイスコーヒーに入れる牛乳。

子どもたちが飲む牛乳。

消費者の皆さんにとって、夏の牛乳は身近で、当たり前にあるものかもしれません。

でも、その牛乳の裏側では、牛たちが暑さの中で頑張っています。

そして酪農家も、牛が少しでも楽に過ごせるように、風を作り、水を整え、餌を調整し、牛の様子を見ながら毎日管理しています。

牛乳は、ただ搾られているわけではありません。

牛が健康でいてくれること。

餌を食べてくれること。

水を飲んでくれること。

ゆっくり休んでくれること。

暑さを乗り越えてくれること。

その全部がつながって、ようやく牛乳になります。

夏場の暑熱対策は、牛のための仕事です。

同時に、皆さんの食卓に安定して牛乳を届けるための仕事でもあります。

まとめ|酪農家の暑さ対策は「特別な魔法」ではなく、基本の積み重ね

今回の話をまとめると、川上牧場で行っている主な暑さ対策は次のようなものです。

・換気扇を多めに設置し、牛舎内に風を作る

・細霧装置を使い、冷たいミストで体感温度を下げる

・空いているバルククーラーで水を冷やし、暑さ対策に活用する

・夏用の餌に切り替え、ビタミン・ミネラル・カビ毒対策・エネルギー補給を意識する

・重曹を使ってルーメン環境を支える

・水圧ポンプを使い、牛が飲みたい時にしっかり水を飲めるようにする

・屋根の遮熱や地下水利用など、次の対策も検討している

こうして並べると、何かすごい秘密の技術があるように見えるかもしれません。

でも、現場の感覚としては、暑熱対策は「基本の徹底」です。

風を送る。

水を飲ませる。

餌を食べやすくする。

牛の様子を見る。

異変に早く気づく。

できることを一つずつ積み重ねる。

その先に、牛の健康と牛乳の安定があります。

もし夏に牛乳を飲む機会があったら、少しだけ想像してみてください。

この一杯の牛乳の向こう側に、暑い牛舎の中で頑張っている牛がいます。

その牛を少しでも楽にしようと、風や水や餌を調整している酪農家がいます。

牛乳は、牛と人間の共同作業でできています。

今日も牛乳を飲んでいただいて、ありがとうございます。

暑い日が続きますが、人間も牛も、しっかり水分をとって、無理せず夏を乗り越えていきましょう。

情報|川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也

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