牛の角はなぜ除角すると生えない?実は“爪を切る”のとは全然違う、角の仕組み

2026-08-12 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

子牛の除角で角が生えなくなるのは、角を短く切っているからではなく、将来の角を作る組織を破壊しているからです。爪の先端ではなく、爪を作る根元の組織を処置しているイメージだと考えると分かりやすいと川上さんは話します。普段何気なく行われる牛の管理も、掘り下げると皮膚や骨、神経、遺伝改良、アニマルウェルフェアまでつながっていきます。

この回の要点

  • 子牛の除角は、角を作る組織そのものを熱で破壊するため、角が生えてこなくなる
  • 角形成組織が一部残ると、スカーと呼ばれる不完全な角が再び生えることがある
  • 人間の爪で例えるなら、先端を切るのではなく、爪を作る根元の組織を処置するイメージに近い
  • 子牛の角芽の段階と、成牛の骨性の角では、除角の侵襲性や痛みが大きく異なる
  • 無角遺伝子を持つ牛を選抜すれば、そもそも除角を必要としない牛を増やせる

配信の全文(podyの記事より)

リスナーからの質問「除角で角が生えなくなるのはなぜ?」

今回の配信では、ポポポネームの観心さんから届いた質問を取り上げています。

質問(観心さん) 牛さんの角を除角すると、どういったメカニズムで生えなくなるのでしょうか?人間で言ったらどの部分に当たるものなのでしょうか?

川上さんは前回の配信でも牛の角について話しており、今回はその続きとして、なぜ一度除角すると生えてこないのかを調べてまとめてきたと話します。

川上 牛乳好きで牛の角を知ってるっていうのはなかなかないと思いますんで、今日はこれを知っていただいて、美味しい牛乳を飲んでいただきたいなと思います。

そもそも角は爪と同じで、切ってもまた生えてくるのではないか、という素朴な疑問が出発点になっています。

牛の角は単なる骨ではない

大前提として、牛の角は単なる骨ではないと川上さんは説明します。

成牛の角は中心部に前頭骨から続く骨性の芯があり、その外側をケラチンを主体とした硬い角鞘が覆っています。

さらに成長すると、角の内部は頭蓋骨の前頭洞という空洞とつながっていきます。

前頭洞 頭蓋骨の内部にある空洞のひとつ。牛の角が成長すると、この前頭洞と角の内部がつながっていきます。だから大きくなった角を切ると、頭蓋骨内部の空洞まで影響が及びます。

つまり、大きくなった牛の角を切るのと、小さい子牛の角芽を処置するのは、解剖学的にかなり違う行為だということです。

子牛の「角芽」という将来の角の元

ここで川上さんは、生まれたばかりの子牛を想像してほしいと語りかけます。

生まれてすぐの子牛には、大人の牛のような角は生えていません。頭の左右に角芽という、将来角になる小さな組織があるだけです。

そして若い時期には、この角芽はまだ頭蓋骨と完全にはつながっていません。

一般に生後2か月頃になると角芽が前頭骨と結びつき始め、その後さらに成長すると骨性の角芯が発達してくると説明されています。

だからこそ酪農現場では、大きな角になってから切るのではなく、角になる前に処置するという考え方があります。

角が生えなくなる本当の理由

ここが今回の本題です。角芽の周囲には、角を形成する細胞や組織があります。

獣医学ではコリウムや、角形成に関係する胚芽上皮などと説明される部分です。ここから角を構成する組織が作られていきます。

川上 つまり、ここがいわば角の製造工場なんですね。

子牛の除角では、焼きゴテを押し込む熱によって、この角を作る組織を破壊することになります。

すると、完成した角を切っただけではなく、角を新しく作り続ける仕組みそのものが失われます。だからその後に正常な角が伸びてこなくなるのです。

逆に、この角形成組織を完全に除去できず一部が残ると、スカーと呼ばれる不完全な角が再び生えてくることがあります。

角だけを取ればいいのではなく、角を作る組織を適切に処置する必要があるんです。 ── 川上

人間で例えるなら「爪の根元」

質問にあった「人間で言ったらどの部分か」という点にも答えていきます。

完全に同じ構造ではないものの、イメージとしては爪が近いと川上さんは言います。

人間の爪も、伸びている先端を切っているだけならまた伸びてきます。爪を作っている組織が残っているからです。

牛の蹄も同様に、角質を作る組織が存在し、そこから新しい角質が形成され続けています。

除角と爪切りの違い

爪や角の先端を切る

作る組織が残っているので、また伸びてくる

VS

子牛の除角

角を作る組織そのものを機能しなくするので、生えてこなくなる

つまり、伸びた爪を切るのではなく、爪を作る根元の組織そのものを機能しなくするという方が近いイメージです。

ただし、牛の角は成長すると骨性の芯を持ち前頭洞ともつながるため、人間の爪と同じ構造という意味ではありません。あくまで「作る組織が残っていれば伸び続ける」という部分の例えです。

子牛と成牛では除角の意味が違う

一般の方にも知ってほしい点として、川上さんは処置の段階による違いを強調します。

小さい子牛の角芽を処置する除角と、成長して頭蓋骨につながった角を切除する除角は、同じ「角をなくす処置」でも内容が違います。

成牛の角には血管や神経もあり、成長すると前頭洞とも交通していきます。ですので大きくなってからの除角は侵襲性が高く、痛みも大きくなります。

一方、角芽の段階なら、まだ骨性の角として完成する前に角形成組織を処置できます。

現在のアニマルウェルフェアの考え方でも、必要な場合はできるだけ若い段階で、適切な鎮痛管理を行って実施することが重要だとされています。

アニマルウェルフェア 動物の心身の状態に配慮し、できるだけ苦痛やストレスを減らそうとする考え方。除角のように痛みを伴う処置では、鎮痛や麻酔による負担軽減が重要な課題とされています。

そもそも角が生えない牛という選択肢

最後にもうひとつ面白い話として、生まれつき角が生えない牛の存在が紹介されます。

これは無角と呼ばれる遺伝的な形質です。角が生える牛を後から除角するのではなく、遺伝的に角を持たない牛を選抜するという方法です。

乳牛でも無角遺伝子を持つ種牛を利用することで、最初から除角を必要としない子牛を増やす育種ができると説明されています。

これは前回話した、病気に強い牛をゲノムや遺伝情報を使って増やすという話ともつながっていきます。

管理で問題を解決するのではなく、そもそもその処置を必要としない牛を作るという、面白い領域です。 ── 川上

川上さんは、便利な電気デホーナーなどの道具も増えていると話し、除角の負担を減らす技術や無角の牛が広がりつつあることに触れています。

川上 大きい時にする除角は本当に人間も牛もマイナスしかないので、やめた方がいいなと思います。

まとめ

子牛の除角で角が生えなくなるのは、角を短く切っているからではなく、将来の角を作る組織を破壊しているからです。爪の先端ではなく、爪を作る根元の組織を処置しているイメージだと考えると分かりやすいと川上さんは話します。普段何気なく行われる牛の管理も、掘り下げると皮膚や骨、神経、遺伝改良、アニマルウェルフェアまでつながっていきます。

  • 子牛の除角は、角を作る組織そのものを熱で破壊するため、角が生えてこなくなる
  • 角形成組織が一部残ると、スカーと呼ばれる不完全な角が再び生えることがある
  • 人間の爪で例えるなら、先端を切るのではなく、爪を作る根元の組織を処置するイメージに近い
  • 子牛の角芽の段階と、成牛の骨性の角では、除角の侵襲性や痛みが大きく異なる
  • 無角遺伝子を持つ牛を選抜すれば、そもそも除角を必要としない牛を増やせる