川上牧場研修【新規就農希望のたかはしさんとのお話】
2022-03-06 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
5頭の山地酪農でチーズを作りたいという夢を、川上さんは経営・流通・時間・社会という現実の側面から一つずつ分解していきました。夢を否定するのではなく、実現するために考えるべきことを具体的に示した回です。
この回の要点
- 5頭で牛乳を加工販売するには設備投資に「億」がかかることもあり、まず毎日出る乳量を誰が買うかを考える必要がある
- 指定団体に所属するインサイダーか、自分で加工販売するアウトサイダーかで、補助や災害時の強さが大きく変わる
- 1日のうち搾乳などで確実に拘束される時間があるため、牛飼い以外にやりたいことは時間から逆算して考える
- 6次化では「血みどろ」より楽しそうな見られ方が売れ、家族や将来のお金まで含めた計画が夢の実現を支える
- 牛乳が余っているのに乳価が上がらない矛盾や、酪農家が減れば自分の乳価が上がるという残酷な現実にも、若い世代は向き合っている
配信の全文(podyの記事より)
たかはしさんが描く「福島で5頭の山地酪農」という夢
この回は、搾乳前の休憩時間にいつもやっている「研修生の質問に答える会」を録音したものです。今回はサブスクを購入して研修に来た、新規就農希望のたかはしさんが登場します。
まず川上さんは、たかはしさんにどんな牧場を作りたいのかを尋ねます。たかはしさんの夢は、生まれ故郷の福島県に帰って、ブラウンスイスを飼育することでした。
ブラウンスイス スイス原産の乳牛の品種です。ホルスタインに比べて乳量は多くありませんが、乳成分が濃く、チーズなどの加工に向いているとされています。
たかはし どうせやったら、そのブラウンスイスのお乳を使って6次化のチーズを作ったりしたいなって思ってて。
たかはしさんが大切にしているのは「自分の作るものは自分の手で作りたい」という考え方です。牛は本当に小さく、5頭ぐらいの規模で山地酪農をしたいと話します。
山地酪農 山の斜面や森林などに牛を放牧して育てる酪農のスタイルです。牛が自然の草を食べて暮らすため、一般的な牛舎飼いに比べて乳量は少なくなる傾向があります。
さらに、残りの時間は畑作業や森林の復興、そして子供たちが動物や自然に触れ合える教育の場づくりにも使いたいと語ります。川上さんはこれを「酪農教育ファーム的な感じだよね」と受け止めました。
5頭で牛乳を売るには「億」かかる?流通の壁を分解する
ここから川上さんは、たかはしさんの夢を一つずつ分解していきます。まず5頭で山地酪農をした場合の1日の出荷乳量です。乳量が少ないため1頭15キロほどとして、5頭で70キロ前後という計算になりました。
たかはしさんは、その70キロをすべて加工したいと考えていますが、需要があれば牛乳としても販売したいとも話します。ところが、ここに大きな壁がありました。
牛乳を一般に処理して販売するには、牛乳メーカーと同じ規模の生乳検査所が必要になる場合があります。これは都道府県によって扱いが違うため、まず調査が必要だと川上さんは説明します。
川上 島根県には牛乳を販売する牧場っていうのがないんだよね。
川上さんの島根県出雲市の場合、乳業メーカークラスの設備がないと牛乳を一般販売してはいけないと保健所に言われているそうです。自分のところで全部完結しようとすると、その時点で「億」がかかってくると話します。
川上 自分のところで全部完結しようと思ったら億だよね。まずその時点で(設備投資に)億かかってくることになりますね。
高付加価値で売るなら「70リットルを毎日誰が買うか」が問題
5頭で「億」を返すのは難しいため、川上さんは高付加価値で売る方向を考えます。1個何万円という牛乳やチーズにしていけば夢は広がりますが、その付加価値をどうつけるかが問題です。
加工するということは、毎日確実に出る70リットルを売り続けなければなりません。つまりその70リットルを毎日買ってくれるお客さんを捕まえることから始まる、という考え方になります。
さらに川上さんは、将来設計まで踏み込みます。何歳まで働けるのか、結婚して子供が何人いて、どういう家庭にするのか。病気や怪我をしたとき、遊びに行きたいとき、誰が牧場をやってくれるのか。
川上 何歳で結婚して、子供が何人いて、どういう家庭にして、みたいなのを考えないと。その仕事ってそういうことだからね。
一人ですべてを完結させるのは難しいため、人を雇う話にもなります。そうなると、その人に給料を払い、定年まで働ける環境を作らなければなりません。
川上さんは、一般的なサラリーマンのように年収1000万を払える規模にしないと人は来ないと指摘します。そのためには5頭では足りず、20頭、30頭と規模もお金も膨らんでいく、という現実を示しました。
川上さん流の近道は「普通の牧場で稼いでから夢を叶える」
川上さんは、自分だったらどうするかという視点で提案します。まず普通の牧場で経営をしっかり上げて、第二牧場、第三牧場でやりたいことを実現する方が、夢が近づくのではないかという考え方です。
ただ、たかはしさんは普通の牧場を最初に作ることにはあまり興味がないと答えます。いろいろな人に話を聞くなかで「初期投資をなるべく抑えて在庫を抱えない」という考え方を教わったそうです。
たかはし 初期投資が少ないってなると、最初から牧場を持つ気はなくて。最初にその牧場から牛乳を買って(加工したい)。
たかはしさんが考えているのは、自分で牛を持たず、牧場から牛乳を買ってチーズを作り、販売経路を作るというスタイルです。これに対して川上さんは、意外な提案を投げかけます。
「僕の牛乳でやればいいのに」10分で叶ってしまった夢
川上さんは、たかはしさんが牧場から牛乳を買って加工したいなら「僕のところでやればいいのに」と提案します。自分も6次化したいし、川上さんのチーズを食べたい人がたくさんいる、というのです。
川上 え?それでいいんでしょ?僕だって6次化したくて。僕のチーズ食べたいっていう人いっぱいいるからやってよ。
福島にいながらでも、クール便やふるさと納税の返礼品のように、乳製品をしっかり運ぶルートはすでにあると川上さんは言います。家庭のキッチンでお惣菜を作って売るビジネスの延長で、チーズも作って販売できるはずだと話します。
ただし、たかはしさんが調べたところ、自宅のキッチンではダメだと言われてしまったそうです。それなら間借りすればいいと川上さんは返しますが、たかはしさんは「今そこまでするかな」と少し戸惑います。
川上 なんで?俺だって(あなたの)夢叶うんだよもう。川上さんに会ったら夢叶っちゃいましたよ、今。
京都にいるのがあと1年というたかはしさんに、川上さんは「京都にいながらできるんだよ」と畳みかけます。半分冗談のようなやり取りですが、たかはしさんは「帰っていろいろ練ってみます」と持ち帰ることになりました。
牛乳を買うのは自由じゃない。指定団体とアウトサイダーの話
「牛乳を買えるなら」というたかはしさんに、川上さんは牛乳の流通ルールを説明します。牛乳は勝手に流通させてはいけず、指定団体という団体に、年間で何リットル出荷するかを決めているそうです。
指定団体 生産者から生乳を集めて乳業メーカーへ販売する組織です。生産者はここに所属することで、安定した出荷先や国の補助を受けやすくなります。この仕組みに入っている生産者をインサイダーと呼びます。
加工に回す分は「自家消費」として、出荷分に入れないことを申請しなければなりません。出荷先を分ける場合も、どこに何リットル出すかを事前に書く必要があります。たかはしさんが勤める牧場でも、この理由で牛乳を分けてもらうのを断られたそうです。
乳量の変動は10パーセントほどなら問題ないものの、大幅な変更があれば事前連絡や理由の説明が必要で、無断だと契約違反やペナルティになることもあります。川上さんは実際の「生乳受託販売契約書」を見せながら説明しました。
ここで出てくるのが、インサイダーとアウトサイダーという言葉です。指定団体に所属するのがインサイダー、それ以外がアウトサイダーで、自分の牧場で搾って殺菌・瓶詰めまでする6次産業化の人はアウトサイダーになります。
アウトサイダー 指定団体に所属せず、自分で牛乳や乳製品を製造・販売する生産者を指します。以前は国の補助金を受けられませんでした。2年ほど前から補助を受けられるようにはなったものの、団体に所属していない分、補助を受けにくい仕組みだと川上さんは話しています。
戦争や災害が起きたら「団体に所属していない」は弱い
川上さんは、なぜ団体に所属することが大事なのかを、社会全体の視点から説明します。日本の牛乳の生産は、海外からの輸入枠も含めて全体のバランスで考えられているというのです。
アウトサイダーの人が、自分の商品が売れる都合のいいときだけインサイダーとして出荷すると、全体のバランスが崩れてしまいます。それをなくそうというのが日本の流れだと話します。
もし戦争や災害が起きて、飼料原料が海外から入ってこなくなったらどうなるか。飼料も機械も種も燃料も海外に頼っているため、自家で牧草を作っている人でも影響を受けます。
川上 そうなった時にその団体に所属してないってめちゃくちゃ弱いんだよね。アウトサイダーにいるってめちゃくちゃ弱くて。
餌代が上がったときに国が補填してくれる仕組みも、アウトサイダーだと受けられません。牛乳が1リットル200円から300円で普通に売られているからこそ、高付加価値のものに効果があるのだと川上さんは指摘します。
もし食糧難になって、みんなが牛乳を買えなくなったら、高付加価値の商品には手が出なくなります。だからこそ川上さんは、まず一般的な生産で余裕を持って、そのうえで6次化する方が安定すると考えているのです。
せっかくだからもっと多くの人に牛乳飲んでもらった方がいいって思わない? ── 川上
ヴィーガンの人も食べられる乳製品は作れないか
たかはしさんは、いろいろな人の意見を聞いてきたと話します。成功事例も聞いたものの、それが全部自分に当てはまるわけではなく、最後は自分で考えて選ぶことが大事だと感じているそうです。
たかはし いろんな意見を聞いて、自分で何を選ぶか。
たかはしさんはヴィーガンの人にも話を聞いたと言います。動物がかわいそうという思いや、環境問題・貧困問題への意見はよくわかり、確かにおかしいと思うところもあると話します。川上さんも「動物かわいそうだと思うもん」と共感します。
ヴィーガン 肉や卵、乳製品など、動物に由来する食品を食べない生き方をする人のことです。動物福祉や環境への配慮、健康上の理由などから選択されることがあります。
そこで川上さんが持ち出したのが、ハラール認証の考え方です。特定の宗教では牛肉や牛乳を食べないとされますが、ハラール認証のものなら食べてもいいという考えがある、という例え話です。
ハラール認証 イスラム教の戒律にのっとって処理・製造された食品であることを示す認証です。飼育方法や処理の仕方などが基準を満たすと、信者も食べられるものとして認められます。
川上 あれ(ハラール認証)のヴィーガンバージョンできないかなと僕思ってて。
ヴィーガンの人でも「この目標なら牛も幸せだし、環境負荷もかけていない」と思える認証があれば、食べてもらえるのではないか。川上さんもたかはしさんも、そこに面白さを感じていました。
「今日は食べない」では商品にならない。10年続ける難しさ
一方で川上さんは、ヴィーガンの人の考え方だと「今日は食べるけど今日は食べない」となりがちで、それでは商品として作りにくいと指摘します。先が詰まっているのがわかってしまうからです。
6次化のいいところは、自分の商品を買ってくれる人にだけ届けられることだと川上さんは言います。少頭数を支持してくれる人が一定数いるなら、その人に向けた商品を作ればいい、というのが強みです。
たかはし 自分が食べたい、大切な人が食べてもらいたいって思えるようなものを作ったら、支持してくれる人が来るかなって思う。
ただ、それが何年続くかが問題です。牛は生まれて2年でやっと乳が搾れ、放牧なら10年ほど飼いたいところです。そうなると10年間、365日ずっと食べてもらわなければなりません。
川上 そしたら10年続けてずっと毎日、365日食べてもらわないといけなくなるわけだよ。
さらに、自分たちが食べる分を作って余ったのを売る、という考え方でも、夏と冬で消費量が変わって安定しません。牛は毎日搾らなければならず「今日は搾りません」ができない以上、安定して買い続けてもらう必要があるのです。
「自然に優しい」と言うと、他の酪農家を敵に回す?
たかはしさんは、福島でピンポイントに、場合によっては孤立してでもやりたいと話します。しかし川上さんは、その売り方が持つ危うさを指摘します。
「私のところはヴィーガンに優しい」「自然に優しい」と売り出すと、裏を返せば他の牧場を否定することになりかねません。川上さんは「僕がやってる酪農は自然に優しくないから」と、逆に嫌われてしまう可能性を挙げます。
川上 じゃあ私(川上)は自然には優しくないの?って言われない?
せっかく仲良くしたいと思っていても、商売やお金が絡むと、どっちが上か下かという話になってしまう。それなら同じ団体に所属している方が円滑ではないか、と川上さんは考えを述べました。
5頭でも「1日5時間は必ず拘束される」時間の逆算
たかはしさんは、牛飼い以外のこともやりたいと話していました。それが牛を飼いながら可能なのか、川上さんは1日の時間から逆算していきます。
1日24時間のうち8時間睡眠だとすると、動けるのは16時間です。そのなかで、搾乳・餌やり・糞かきといった作業で拘束される時間が決まってきます。
川上 24時間の中で大体5時間は確実に(牛に)拘束されるわけだよ。
たとえば夕方の3時から5時、朝の4時から7時は、確実に牛に合わせなければならない時間です。そうなると朝早い仕事はできず、家事や育児、外の仕事でもやれることが限られてきます。川上さんは朝ドラも録画しないと見られないと話します。
だからこそ、酪農以外にやりたい仕事が搾乳の時間とぶつからないかをまず考える必要があります。さらに、搾乳と餌やりの時間をどれだけ短縮できるかを考えると、やれることの幅が広がっていくのです。
山地酪農でも屋根が必要。膨らむ初期投資と償却の壁
5頭を新規で始めるのか、誰かの牛舎を借りるのかでも変わってきますが、ここにも法律の壁があります。家畜伝染病予防法の改正で、放牧の場合でも屋根をつけなければならなくなったそうです。
新しく構造物を建てるとなると耐震性が求められたり、補助事業を使うなら要件を満たす必要があったりして、金額が跳ね上がります。川上さんは、およそ7年で償却できる経営状況を提出しないとお金は借りられないと説明します。
たかはしさんは、最初は1頭から始めることも考えていると話します。会計や経営、お金の勉強も始めているそうですが、退避舎やローダーなど、必要なものが増えるほど資金が跳ね上がっていく現実に直面します。
退避舎 牛が暑さや悪天候から逃げ込むための、屋根のある避難場所です。アニマルウェルフェアの観点からも、放牧であっても牛が身を守れる場所が求められています。
血みどろより「楽しそう」が売れる。6次化と見られ方
6次化で大事なのは、誰が作っているかが見られることだと川上さんは言います。生産者の顔が見えるからこそ応援されるのですが、その見せ方には注意が必要です。
たとえば「血みどろになって働いています」と発信しても、正直引かれてしまう。それよりも、休みを取って牛たちと牧歌的に楽しそうにやっている方が、応援して買ってみたいと思われる、というのです。
そういう生活できるような商品にしなきゃいけないから。 ── 川上
川上さん自身も「働きすぎだ」と言われるそうで、人からどう見られるかが6次化では大事だと話します。自分では牛の幸せを願っていても、他の人から「それは牛の幸せじゃない」と思われれば、商品は売れなくなってしまいます。
もし発信力の強い人に「それは違う」と言われて注目されれば、一瞬で夢が壊れてしまうこともあります。だからこそ、見られ方まで含めて考える必要があるのです。
夢の実現に外せない、家族と将来のお金の話
たかはしさんは、理想の牧場の絵は描いているものの、細かい会計はまだわからないと話します。川上さんは、まず一番初期投資が少ないチーズから始めるのがいいのではないか、というたかはしさんの考えを受けて、運転資金の話に踏み込みます。
チーズを製造・販売して現金を回収するまでにかかる自分の生活費はどれくらいか。豪遊はしなくても、家計簿をつけて必要な額を把握しておくことが大事だと川上さんは言います。
さらに川上さんは、家族のことも計画に入っているかを尋ねます。両親が病気や介護になったらどうするか、家や車といった大きな投資はどうするか。これらが抜けていると、それだけで夢が潰れかねないと指摘します。
川上 (親が)何歳ぐらいになったら、こういうがんのリスクがありますみたいなのとか、そういうのを事前にお父さんお母さんに聞いておくんだよ。
自分がしたいことは決まっているのだから、両親が何歳のときにどう暮らすつもりかを聞いて逆算すれば、あらかじめ予測が立てられます。家族に応援してもらえないと悲しいからこそ、少しずつ発信して理解してもらうことも大切だと語りました。
SNSが苦手なたかはしさん。発信は外部委託でもいい
たかはしさんは、直接会った人には自分の考えを話せるものの、SNSが全然だと打ち明けます。うまく使えれば武器になるとわかっていても、怖さや、時間を取られることへの抵抗があるそうです。
たかはし なんかその漫画だとか、いろいろ流れてくるじゃないですか。ああいうのに時間を割かれるのが嫌で。
川上さんは、時間を取られないようにあえてTikTokをダウンロードしていなかった女子高生の例を挙げ、その姿勢を立派だと評価します。一方で、発信のために最新の流行を知っておくことも武器になる、とたかはしさんも感じています。
たかはしさんは「川上さんだけ追っていればなんとかなるのでは」と冗談めかしますが、川上さんは一つの意見に偏るのはダメだと戒めます。いろいろな意見を見ていった方がいい、というのです。
そのうえで川上さんは、SNSに強い人と出会えたら任せたいというたかはしさんの考えに共感します。牛を飼う以外のことを皆に協力してもらうために、川上さん自身もサブスクをやっているのだと明かします。
川上 僕は牛が飼いたいから、その牛を飼う以外のことを皆さんが協力してやってくれたらありがたいなと思ってやってるけど。
営農計画は誰かに頼ってもいい。頼れるところは頼る
川上さんは、利益になるなら、たかはしさんの営農計画や就農計画を書いてあげると申し出ます。自分で書こうとすると、普及所に相談しても書き方がわからず、提出してもダメと言われることが多いからです。
補助事業が通らなかったり、心が折れてしまったりして、「牛を飼っているのに牛を飼っていない」ような感覚になることもある、と川上さんは経験を語ります。そういうことは、経験のある人に頼んでしまった方がいいというのです。
たかはし 頼れるところは頼って。
その方が面白い、と川上さんは前向きです。もしたかはしさんがヴィーガンの人でも食べられる乳製品を作れたら、普通の牛乳を飲める人が増えるかもしれない。誰かの心変わりにつながるかもしれない、と夢を膨らませます。
牛乳は体に悪い?余っているのに乳価が上がらない矛盾
たかはしさんは、最近「牛乳は体に悪い」という話も出てきていると言います。川上さんも、飲み過ぎは体に悪いと認めます。知り合いに1日1.8リットル飲んでいた人がいて、それはさすがに体に悪いと感じたそうです。
大事なのは、1日200ミリリットルを続けて飲んでもらうこと。そのために、どうすれば続けて飲んでもらえるか、どうすれば自分たちが続けて搾れるかを考えなければならない、と川上さんは話します。
話題は、牛乳が余っているのに乳価が上がらないという矛盾に移ります。餌代は上がり、酪農家もやめているのに乳価が上がらない。たかはしさんは、欲しいのかいらないのかどっちなんだと感じると言います。
乳価 酪農家が出荷する生乳の取引価格のことです。飼料などのコストが上がっても、需要と供給のバランスなどの事情から、すぐには価格に反映されにくいことがあります。
川上さんは、コロナで学校給食がなくなり飲食店が減れば、牛乳を買わなくなるのは消費者として当然だと言います。だからこそ、そのシステム自体がおかしかったのではないか、永続的に飲んでもらうにはどうすればいいかを考えなければならない、と語ります。
「酪農家が減れば自分の乳価は上がる」という残酷な現実
川上さんは、世界に目を向ければ牛乳は全然足りていないと言います。日本では余っていても、世界では牛乳を飲みたい、牛肉を食べたい人がたくさんいる。牛乳の輸出も可能ですが、日本産は海外産に価格で勝てないという現実があります。
消費者は今の値段に慣れているため、簡単には値上げできません。牛乳が50円上がっても給料が同じなら、たかはしさんは「生産者の気持ちがわかるので買う」と答えますが、川上さんは正直に自分なら買わないだろうと言います。
川上 今まで10本買ってたやつをやっぱ8本にしようとか、半分にしようって思うのがやっぱ普通じゃん。
牛乳はコーヒーやチョコレート、バターなど多くの商品に使われているため、少し値上げするだけで食費全体に影響します。そのため、なかなか上げにくいのです。
そして、酪農家が減れば牛乳が足りなくなり、自分の乳価は上がるという残酷な現実があります。たかはしさんは「他の人と共食いみたい」と感じ、川上さんも「同じだもん、僕も一緒」と共感します。
ただ自分にもその生活もあるんで、難しいとこ。 ── 川上
コロナで牛乳を捨てなかった奇跡は、二度目があるのか
川上さんは、若い子がこうして悩むのが悲しいと言います。自分たち上の世代が、自分さえ良ければいいと続けてきた結果がこの状況だからこそ、みんなが真剣に考えてほしいと語ります。
そのうえで、コロナや災害があっても牛乳を捨てなかったことは本当に素晴らしかったと振り返ります。メーカーも酪農家も一丸となって成し遂げたことですが、それは一度しかできなかったことでもあります。
川上 (牛乳を捨てなかったのは)一回しかできなかったんだよ。二回目にできるかどうか。
戦争が起こると誰も思っていなかったのに実際に起きたように、次に大きなことが起きたとき、牛乳を捨てるのかという問題が待っています。だからこそ、どうすればみんなが考えてくれるかを考えなければならない、と川上さんは話します。
情報に溺れないために。自分の経験と歴史の視点を持つ
たかはしさんは、発信を続けていくしかないと感じ始めます。そのためにはSNSの勉強も必要になります。川上さんは、発信を誰かに頼む方法も含めて、いろいろな媒体があると助言します。
ただし、発信の外部委託にも落とし穴があります。任せると楽ですが、自分の思った通りには発信してくれず、その人の利益になるように内容が曲げられることもある、と川上さんは注意します。
この話はニュースや新聞、Google検索にも通じます。広告料やスポンサーの都合で内容や検索順位が左右されるため、自分の求める情報の探し方を工夫する必要があります。
情報が多すぎて、どれが本当かわからないというたかはしさんに、川上さんは自分の経験の大切さを説きます。今は本で牛の知識を入れ、実際にやってみる繰り返しで「自分的にはこれかな」を見つけているそうです。
言われてる言葉は全てが本物だと思って、それを真実として動くのがやっぱ怖いよね。 ── 川上
さらに川上さんは、時系列で見る視点も重要だと言います。牛はどんどん品種改良され、数年前まで1万キロがスーパーカウと言われていたのが、今では2万キロも普通にいるほど、もはや別の生き物になっているというのです。
スーパーカウ 乳量が特に多い優秀な乳牛を指す言葉です。品種改良や飼育技術の進歩により、その基準となる乳量の数字は年々大きくなっています。
だから、古いレポートに書かれた放牧で耐えられる乳量の牛と、今の乳量が多い牛は同じではありません。山地酪農でも牧草をしっかり作ったり、外から配合飼料を入れたりしないと賄えない、という計算になるのです。
夢を叶える人が先陣を切るから、次の人が続ける
たかはしさんは、山地酪農を志す人がよく調べる有名な牧場の名前を挙げつつ、そこを見学して結局普通の酪農家と同じ飼い方になった新規就農者の例にも触れます。品種改良された牛では、標準的な給餌が一番乳量が出るという現実があるからです。
そこでたかはしさんは、乳量以外の部分で食いつなげないかと、アニマルセラピーのような方向性を探っていると話します。ただ、それでお金を取るのは申し訳ないという気持ちもあると打ち明けます。
川上 いや、取って取って。それで付加価値がつくんだったら全然取るべきものだし。
川上さんは、あなたが取らなければ次の人が取れない、と背中を押します。先にやる人が価値をつけて売るから、後の人も商品を売ることができるというのです。だからこそ、先陣を切る人がしっかりお金を取っていく必要がある、と語りました。
いろんな人がいて、いろんな考えがある。夢を語って終わろう
1時間ほど語り合った最後に、川上さんは「夢を語って終わろう」と提案します。たかはしさんは「頑張るぞって感じ」と応え、この研修で得たことを噛みしめます。
たかはし 本当にいろんな意見があって、いろんな考えがあって、いろんな人がいて。
川上さんは、この対話をきっかけに、いつか美味しい牛乳を皆に飲んでもらえる日を楽しみにしていると語ります。たかはしさんも、消費者が「いい」と思えるものに出会えたら、それを買ってほしいと願いを込めました。
たかはし 自分が思う、いいって思えるものに出会えたら、それを買ってほしいですね。
最後に川上さんは、この配信を聴いているリスナーに、感想や意見を送ってほしいと呼びかけます。届いた声は、また研修に来た人へ伝えていきたいと話し、1時間の対話を締めくくりました。
まとめ
5頭の山地酪農でチーズを作りたいという夢を、川上さんは経営・流通・時間・社会という現実の側面から一つずつ分解していきました。夢を否定するのではなく、実現するために考えるべきことを具体的に示した回です。
- 5頭で牛乳を加工販売するには設備投資に「億」がかかることもあり、まず毎日出る乳量を誰が買うかを考える必要がある
- 指定団体に所属するインサイダーか、自分で加工販売するアウトサイダーかで、補助や災害時の強さが大きく変わる
- 1日のうち搾乳などで確実に拘束される時間があるため、牛飼い以外にやりたいことは時間から逆算して考える
- 6次化では「血みどろ」より楽しそうな見られ方が売れ、家族や将来のお金まで含めた計画が夢の実現を支える
- 牛乳が余っているのに乳価が上がらない矛盾や、酪農家が減れば自分の乳価が上がるという残酷な現実にも、若い世代は向き合っている