川上牧場研修【JK研修生と今後の酪農を考えてみた】
2022-01-04 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
新年の朝の何気ないライブ配信は、女子高生の研修生とリスナーを巻き込み、「牛乳の値段」と酪農の未来を真剣に考える場になりました。餌代や原油の高騰、牛乳ならではの調整の難しさを、川上さんは具体的な数字と経験で語っています。
この回の要点
- 餌代(配合3円の値上げ)だけで、川上さんの牧場では月に20万円ほど経費が上がるほど、コスト高が経営を圧迫している
- 牛乳の値段を上げると、それを使ったお菓子・ケーキ・アイスまで一斉に値上がりし、家計への影響が大きい
- 牛乳は生産をすぐ止められず、子牛が牛乳を出すまで約2年のタイムラグがあるため、価格調整が簡単ではない
- リスナーや研修生の声では、1リットル300円前後が「妥当」、400円は「買わない」という感覚が示された
- 川上さんの発信の原動力は、研修生や自分の子どもが酪農を選べる未来にしたいという思いにある
配信の全文(podyの記事より)
新年の朝、JK研修生と始まった同時配信
配信は「あけましておめでとうございます」という新年の挨拶から始まりました。この日、川上さんは女子高生の研修生と一緒に、親牛の牛舎から配信しています。
配信はTwitterのスペース、そしてふわっちなど複数のアプリで同時に行われました。リスナーの酪農に関する質問にも答えていくスタイルです。
川上 今日はJKの研修生と配信しておりまーす。
この日は仕事始めの1月4日。川上さんは「よそのお宅の種付けに行って、自分の家の種付けもして」という予定を話しつつ、翌日の検定に向けた糞のサンプル取りもこれからだと説明しています。
川上 今日から仕事始めだ。日本中動き始めた。
糞の検査でわかること、餌がなくなったらどうする?
リスナーから「糞取りをすることで牛の体調を見れるんですか?」という質問が届きます。川上さんは、糞から消化率がわかると答えました。
川上 糞取りすることで牛さんの体調を見れるんですか?そうです。消化率というのがね、わかります。
糞をザルでこして上段・中段・下段に分ける手法など、話は一気に専門的になっていきます。使う器具の名前を思い出しながら説明していました。
ダイジェスチョンアナライザー 牛の糞をふるいにかけ、未消化の飼料がどれくらい含まれるかを段階的に確認する道具。消化の状態から、餌の設計が牛に合っているかを判断する手がかりになります。
川上さんは研修生に「牛の餌がなかったらどうやって牛を飼う?」と問いかけます。「そこら辺の草を狩る」といったやり取りをしながら、餌のデータを集めることの意味へと話をつなげました。
川上 なるべく情報が多くなると、飼料設計、餌の設計の精度も上がるということですね。
1キロ80円の牧草と、中国が動かす世界の餌
話題は餌の価格に移ります。牧草の一種である乾草(ジモシ)は1キロ80円だと川上さんは驚いてみせます。
川上 ジモシとか80円だよ。ほんと。80円だよ。1キロね。すごいよね。
10年後の餌の値段はどうなるのか。川上さんは、少子高齢化が進む中国の動向がカギを握ると見ています。
さらに川上さんは、中国が牧草を大量に買い集める構図を説明します。一帯一路 ── 中国が進める広域経済圏の構想。かつてのシルクロードにあたる地域を含め、周辺国への投資やインフラ整備を通じて影響力を広げようとする政策です。という言葉を挙げながら、そのやり方を語りました。
川上 アメリカから牧草買って、東南アジアとかに投資しといて牧場作らせて、餌はどこから買えばいいですかって中国から買わせる。だからなんぼあっても足りないよ。
川上さんは、食料を国の政策として動かす国の強さを認めつつ、日本の立場を対比させました。
国の政策として食料政策としてやってるとこは強いよね、やっぱり。 ── 川上
海外で酪農という選択肢と、SNS時代の引き抜き
川上さんは研修生に「外国で酪農するのは?」と話を振ります。島根出身でオーストラリアでカウボーイをしている「ジェイクさん」を例に、海外の牧場での仕事の面白さを語りました。
川上 犬とか牧羊犬を使って牛を操作したり、馬を使ってやったりとかね。僕もきっかけがあったらやってたんじゃないかと思うぐらい面白そう。
リスナーからも「海外に飛ぶ方が多いですね」という声が。川上さんは、有望な人材が日本から出ていく流れに触れつつ、SNSがきっかけになる時代が来ていると話します。
川上 海外からDMが飛んできて、あなたうちに来ませんかって言われたら。
川上さん自身も、SNSで面白い人を見つけたら研修生として直接声をかけたいと話し、引き抜きが当たり前になってくる時代を見据えていました。
明日クビと言われたら?就職先の不安を先に考えておく
話は、研修生の就職先の話へと移ります。就職はOKが出ているものの、川上さんは「明日クビと言われたら」という不安を、あえて先に考えておく大切さを説きました。
川上 いや、でもあるんだよ。本当に。ちょっと頭の中によぎっておかないと。
川上さんは、自給飼料があるところは経営が安定しやすいと補足します。一方で、餌代の値上げがどれだけ経営に響くかを、具体的な数字で示しました。
川上 配合が3円上がって、うちのやつで先月と今月だけで20万経費が上がるわけだよ。
川上さんは、この上昇分を規模の大きな牧場に当てはめると、1か月で200万が飛ぶ計算になると話します。人員削減が手っ取り早いという声にも触れつつ、それだと現場が回らなくなるとも指摘しました。
川上 一人当たりの労働力を増やすか、効率を上げるかじゃないと回せないでしょ。
牛に音楽は効く?遺伝改良で勝手に増える乳量
リスナーから「牛に音楽を聴かせるといい」というアドバイスが届きます。川上さんは、牛に直接効果があるという科学的根拠はないと整理しました。
川上 牛さんに音楽を聴かせて効果がないっていう科学的根拠が出ましたよね。
ただし川上さんは、人間側の効果は否定していません。音楽でリラックスした人が牛を管理することで、間接的に牛にいい効果が生まれるという考え方を紹介しました。
川上 人間が音楽を聴いてリラックスするので、そのリラックスした人間が牛を管理することで牛にいい効果が生まれるそうです。
話は乳牛の遺伝改良にも及びます。改良に興味がない人でも、その恩恵は受けているというのが川上さんの見立てです。
川上 遺伝改良に興味がない人でも、年間プラス1000キロぐらい遺伝能力が上がってるわけだよ。乳牛だけの改良でね。
企業が酪農に参入するのはいいこと?悪いこと?
Twitterで流れてきた話題として、介護福祉施設の社長が空いた牧場を借りて酪農を始めた例が紹介されます。川上さんは、こうした異業種の参入をどう思うか研修生に問いかけました。
質問(リスナー・研修生への問い) 会社が酪農経営を始めるのは、いいことでしょうか、悪いことでしょうか。
川上さんは、既存の従業員がいる牧場の買収はありうるとしつつ、全くの無知な人による新規参入は難しいと考えています。
川上 新規参入はマジで難しいと思う。財布の感覚が全然違うから。
その理由として川上さんが挙げたのが、牛乳の「安定」の重みです。生産量と消費量を団体単位で調整し、メーカーと取引して乳価を決めている業界の仕組みを説明しました。
乳価と生産調整 牛乳は個々の農家がばらばらに値付けするのではなく、中央酪農会議やJミルクといった団体を通じて生産量・取引を調整しています。急な増減がしにくいのは、この仕組みと牛という生き物の性質によるものです。
外から入ってきた人が「なんだよこの決まりは」とルールを壊すことへの懸念を示しつつ、川上さんは自分が古い考えなのかもしれないとも付け加えます。そのうえで、参入より共同での商品開発のほうが望ましいという方向性を示しました。
1リットルいくらなら買う?消費者と決めたい牛乳の値段
この回の中心テーマが、ここから本格的に動き出します。まだ決まっていない今年の乳価交渉を背景に、川上さんは「牛乳はいくらがいいのか」をリスナーや研修生と一緒に考えたいと呼びかけました。
川上 酪農家としては上げてほしいな。でも牛乳飲む方としては下げてほしいな。
1リットル400円なら買うか、という問いに、研修生は「400円だと買わない」と答えます。川上さんも、消費者目線では今くらいの300円前後がちょうどいいだろうと受け止めました。
1リットルあたり牛乳の価格感(配信内での声)
現状(島根で115〜116円)
400円
現状(島根で115〜116円):今の売価。消費者としては「このくらいがいい」という声
300円:妥当ではないかという意見。政府の買い支えの可能性も話題に
400円:「高くて買わない」という反応。毎日の消費が離れてしまう水準
川上さんは、牛乳の値段が上がると、その牛乳を使ったお菓子やケーキ、アイスまで一斉に値上がりすると指摘します。プレミアムロールケーキやコンビニスイーツを例に、家計への影響を語りました。
川上 牛乳の乳価を上げた分だけ、その牛乳を使ってる商品が全部値上がりすることになるから、家計に大打撃だよね。
だからこそ、今のうちに牛乳を飲んでほしいというのが川上さんの呼びかけです。値上げ交渉が難しい状況だからこそ、消費者の理解が必要だと訴えました。
餌も原油も上がる、値段を上げられない酪農をどう続けるか
仮に牛乳の値段を上げられないとしたら、これからどうやって酪農を続けるのか。川上さんは、この問いを重ねていきます。
川上 値段が上げられなかったら、どうやって酪農していきますかっていう話だよ。
餌が上がり、原油価格も上がり、日本の経済が落ちれば商品が入ってこない。川上さんは、フォークリフトやトラクターの部品まで海外メーカーに頼っている現状を挙げ、「どうしよう」を繰り返しました。
自給飼料を自分で作っても、維持コストが高く、安いか高いかわからなくなるとも話します。ただ、価格の安定にはつながるかもしれないという見方も示しました。
川上 自給飼料を作ったとて、維持コストが高いから、安いか高いかよくわかんなくなっちゃうよね。
牛乳を「高級品」にする未来を、研修生とどう考えるか
配信の後半、川上さんは牛乳が高級品になる未来を研修生に投げかけます。一般の人は脱脂粉乳や粉を水で溶いて飲み、牛乳は限られた人しか飲めない、そんな世界です。
質問(研修生への問い) 牛乳が高級品になり、高級な人しか飲めないものになるのはどう思いますか。
研修生の答えは「普通に飲みたい」というものでした。川上さんは、その素直な感覚を受け止めつつ、未来の酪農の姿を一緒に考えていきます。
川上 昔は牛乳飲めてたんじゃよ、みたいな感じ。どう?
高級品になった世界では、1〜2頭の牛と自分で建てた牧草だけで経営が成り立つ形もありうる。川上さんはそんなイメージも語りました。研修生自身は「酪農家になりたい」と答えています。
牛乳はなぜすぐ調整できない?タイムラグと生産の壁
後半では、商社で働いていたリスナーのヤマさんとのやり取りを通じて、牛乳ならではの難しさが掘り下げられていきます。底値の商品がなくなれば、みんなその値段を無抵抗で買うようになる、という話が出発点でした。
ただ川上さんは、牛乳はそう簡単にはいかないと言います。生産量を抑えられる商品と違い、牛がいる以上は生産を止められないからです。
川上 牛乳はそうはいかないですよね。もう牛がいたら生産量を落とせないので。
頭数を減らすには、まだ元気な牛を廃用にするしかなく、それは可哀想だと川上さんは言います。値段の調整には、子牛が牛乳を出すまで2年かかるというタイムラグもありました。
川上 牛乳を出すのに2年ぐらいかかるので、すぐ止められない、すぐ調整できないっていうのが牛乳ですね。
川上さんは、10円ずつ値上げしても末端価格ではもう少し上がると説明します。いきなり50円上がったような話になると混乱を招く、その難しさを丁寧にたどりました。
和牛のロース芯と品種改良、効率の悪さへの疑問
話は和牛にも広がります。品種改良でロース芯(ロースの断面)が大きくなっている一方、流通時にはカットされてしまう。川上さんは、その効率の悪さに疑問を投げかけました。
川上 一頭当たりのロース芯は大きくなってるのに、流通する時にカットするんですよ。カットしなくてもいい形にして歩留まりした方が良くない?
川上さんは、ゲノム検査を使えるようになった今こそ、使えるお肉の量にちょうど合うサイズへの改良ができるはずだと話します。会社勤めで感じた「無駄の多さ」への実感も重なっていました。
ただし川上さんは、断定はしません。大きなロース芯を流通させるビジネスが発展すれば、そのサイズが認められる未来もありうると、含みを残しました。
SNSで発信し続ける理由と、自分の子どもが酪農できる未来
配信終盤、川上さんは複数のアプリで発信を続ける理由を語ります。イケメンが多い酪農業界の強みを生かし、みんなで配信すればいいという発想もそのひとつです。
川上さんが繰り返し口にしたのは、若い世代への思いでした。研修生や自分の子どもが酪農を選べる未来にしたい、という願いが発信の原動力になっています。
川上 JKとか、自分の子供が酪農できるようにしたいからね。ちょっとずつ自分のできる範囲のことはやっていこうかなと。
この日の配信は、年末年始の牛乳消費の呼びかけを受けたものでもありました。多くのリスナーの協力で、牛乳廃棄は避けられる目途が立ったと川上さんは報告しています。
川上 皆さんのおかげでちょっと牛乳廃棄にはならない目途がまったかなぐらいで、まだ続けて飲んでもらいたい。
約1時間の配信は、トータル40人・コメント254件という反応を集めました。川上さんは「叩かれるのは覚悟のうえ」としつつ、酪農家の本業に支障が出ない範囲で続けていくと締めくくっています。
まとめ
新年の朝の何気ないライブ配信は、女子高生の研修生とリスナーを巻き込み、「牛乳の値段」と酪農の未来を真剣に考える場になりました。餌代や原油の高騰、牛乳ならではの調整の難しさを、川上さんは具体的な数字と経験で語っています。
- 餌代(配合3円の値上げ)だけで、川上さんの牧場では月に20万円ほど経費が上がるほど、コスト高が経営を圧迫している
- 牛乳の値段を上げると、それを使ったお菓子・ケーキ・アイスまで一斉に値上がりし、家計への影響が大きい
- 牛乳は生産をすぐ止められず、子牛が牛乳を出すまで約2年のタイムラグがあるため、価格調整が簡単ではない
- リスナーや研修生の声では、1リットル300円前後が「妥当」、400円は「買わない」という感覚が示された
- 川上さんの発信の原動力は、研修生や自分の子どもが酪農を選べる未来にしたいという思いにある