川上牧場研修【R4年研修生まとめ】
2023-03-31 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
1年間の研修を終えた研修生と川上さんが、良かったことも心残りも率直に語り合った最終日回でした。ストレスフリーな学びと種付け技術の伸び、そして次の職場やその先へ続くつながりが印象的な振り返りになっています。
この回の要点
- 研修生に合わせて学びたいことを教えるスタイルが、ストレスフリーな1年につながった
- 受精卵移植の講習は受けられなかったが、その分技術を磨く期間として前向きに受け止めた
- 怪我をきっかけに右手左手どちらでも直検できるようになり、受胎率も上がった
- 苦手だったSNS発信を通じて、消費者や各方面の人とのつながりを実感した
- 牛の管理を教えきれなかった心残りを踏まえ、まず1頭を追いかけることをアドバイスした
配信の全文(podyの記事より)
最終日の朝、牛乳で乾杯してから振り返りスタート
この回が配信されたのは3月31日、令和4年度の最終日です。いつもの牛乳の記事を紹介する回ではなく、1年間の研修を終える研修生の「まとめ回」として収録されました。
川上さんは、これから研修に来てくれる人や、研修生のTwitterを見てくれていた消費者に向けて話したい、という狙いを説明します。朝から牛舎のウォーターカップが壊れてビチャビチャのまま、という現場感も込みでのスタートです。
明日から牛乳・乳製品の値段が上がるという話にふれつつ、まずは牛乳で乾杯。川上さんは「美味しい」と一言こぼしてから、研修生への質問に入っていきます。
川上 明日からね、牛乳乳製品の値段が全て上がっていきます。お菓子、スイーツなどにも影響があると思いますけど、しっかり食べてもらいたいと思ってます。
「ストレスフリーで働けた」1年をどう感じたか
最初の質問は、1年間の率直な感想です。研修生がまず挙げたのは、ストレスなく働けたことでした。
研修生 良かったところは、やはりそのストレスフリーで働けたのが、自分的には本当にありがたかったです。
研修生は、自分はストレスを感じやすい体質だと話します。それでも積極的に教えてもらえたことが、働きやすさにつながったようです。
ストレスフリーでできたのがすごくありがたかったです。牧場だなっていうのは。 ── 研修生
川上さんは、その理由を研修スタイルにあると説明します。1つのマニュアルで1から10まで同じことをやらせるのではなく、研修生がその1年でやりたいことに合わせて教える形を取っている、というわけです。
研修生 自分の学びたいこと、直検(直腸検査)とかの練習を、やりたいって時に頻繁にやらせてもらったので、技術の向上にもつながりました。
直検(直腸検査) 牛の直腸に手を入れて、子宮や卵巣の状態を触って確かめる検査のことです。発情の見きわめや妊娠の確認、繁殖管理の基本になる技術で、経験を積むほど分かるようになるとされています。
心残りだった受精卵移植の資格、それでも得たもの
良かったことの次に話題になったのは、頑張りたかったところです。研修生が挙げたのは、受精卵移植の講習を受けられなかったことでした。
川上さんは、これは自分の側の申し訳なさだったと振り返ります。県の職員が嘱託ばかりで業務も煩雑になり、今年は受精卵移植の講習を受講できなかった、という事情があったそうです。
研修生 残念でしたけど、それまでの間に技術をつけれる期間が延びたと考えれば。
川上 でも取れた方が絶対良かったから。上の方からもめちゃくちゃ平謝りで謝りに来られたので。
川上さんは、これから酪農業界を盛り上げてくれる若手に申し訳なかった、と話します。その上で、令和5年度には人工授精の講習会があるので、スキルアップに活用してほしいと呼びかけました。
これから川上牧場に来る人へ。「怖がらなくていい」
話題は、これから川上牧場に来る人へのアドバイスに移ります。研修生がまず伝えたのは、牛を怖がらなくていい、ということでした。
研修生 怖がらなくてもいいっていうのが、やっぱり牛に対してですね。うちは人に慣れてる牛が多いので。
研修生は、大学と同じくらい牛が人に慣れていて扱いやすかったと話します。最初のころは蹴られて怪我をしたこともありましたが、それでも扱いやすさは実感していたようです。
さらに研修生は、未経験の人こそ向いているのではないかと言います。世の中にはつなぎ飼いの牧場が多く、川上牧場ではその知識を「まっさらの状態」から学べるからです。
つなぎ飼いとフリーストール つなぎ飼いは牛を1頭ずつ牛舎につないで飼う方式、フリーストールは牛が牛舎内を自由に動ける方式です。作業の仕方や牛との距離感が変わるため、どちらに慣れているかで扱い方も変わってきます。
研修生 つなぎの知識が一からまっさらの状態から学べるので、そっちの方が安全なのかなっていうのを思うので。
だから怖がらず、少しでも興味があれば話を聞くだけでも来てほしい、というのが研修生からのメッセージです。
次の職場と、種付けの技術者として描く夢
研修生の次の職場は、島根県内にある県の施設「種牛センター」です。そこへ進むにあたり、これから業界でやってみたいことも語られました。
研修生 一番はその受精卵移植とか人工授精士の方で、いろんな牛に種付けとかしたいなという気持ちが強くて。
研修生は、乳牛だけでなく和牛でも活躍できる人材になりたいと話します。牛の大きさや経過の感じが違うため、両方できる技術者を目指したいというわけです。
川上さんは、話題のChatGPTなどで仕事が奪われるという話にもふれます。ただ、家畜人工授精士の仕事は当分そうならないだろう、という見方です。
川上 人工授精をするAI牛なんて、イメージがつかない。でも技術の革新はわからないけど、とりあえずここ10年ぐらいは安泰だとは思うので。
暴れる牛もいて、1頭1頭に合わせないといけないため、マニュアル通りに機械がこなすのは難しい、という理由です。だからこそ、即戦力として活躍できる人材になりたい、と研修生は続けます。
受胎率も上がった1年。技術の伸びを実感
1年間の技術の伸びは、数字にも表れています。研修生が種付けを担当し続けたことで、受胎率が上がっているそうです。
川上 今も本当に順調について、妊娠牛率、もう7割ぐらいは多分ついてると思うので。
研修生自身も、最初のころは卵巣も経過もまったく分からなかった状態から、大きく変わったと実感しています。
研修生 最初の頃に比べたら全然違う。卵巣なんて全然わからんし、経過も本当にわかんないよみたいな感じだったのに。
川上さんは、廃用牛の卵巣を触って発情期や卵胞を教えるなど、卵巣の初見から丁寧に教えたと振り返ります。研修生も、とにかく手を入れて経験を積むことが一番だと話します。
経験積むのが一番大事なのかなと。百聞は一見に如かずって言う通り。 ── 研修生
結果的に、右手でも左手でも直検できるようになったのも大きな収穫でした。実はこれ、怪我で片手が使えなかった時に「逆の手でもやってみよう」とチャレンジしたのがきっかけだったそうです。
研修生 怪我の功名っていうか。怪我したおかげで蹴ってくれたおかげで、きっかけを作ってくれたんで、ありがたかったですね。
川上さんは、怪我はないのが一番だと言いつつ、この偶然の広がりを面白がっていました。
島根の外へ。技術者としてのつながりを広げる
川上さんは、種牛センターがゴールではないと考えています。前日の配信には、北海道で500頭以上を飼うメガファームの人も来ていて、いま一番欲しいのはAIやエコーが使える技術者だと話していたそうです。
AI・エコー AIは家畜人工授精(Artificial Insemination)のことで、AIやエコーを使える技術者は牛の繁殖管理を担える人材として牧場から求められています。エコーは超音波で子宮や卵巣、妊娠の状態を確認する機器です。
川上 県外でも行ってみたいなっていう気持ちになった際は、いつでもどこでもお教えしますんで。
川上さんは、こういう人材が島根県にいることを多くの人に知ってもらえたら嬉しい、と話します。県内にとどまらず、技術者としてのつながりを外へ広げてほしい、という思いがにじみます。
SNSは苦手だった。それでも得られた人とのつながり
この1年、研修生は初めての配信やTwitterにも挑戦しました。やったことがなかったため、最初は面食らったといいます。
研修生 どういう記事を選んだらいいのかな、消費者さんが喜んでもらえるような記事って何だろうみたいな。
研修生は、消費につながる記事を選びつつ、だんだん悪くなってくる酪農の現状も知ってもらいたいと考えて発信していたそうです。
発信を続ける中で支えになったのは、Twitterで届くリプライでした。「頑張ってください」と応援されると、やる気につながったといいます。
研修生 社会人になったら頑張ってくださいとか言われる機会がなくなる。SNSの活用をすることで、各方面の人とのつながりができるなと実感しました。
川上さんは、苦手なことに抵抗感があるのではと心配していたそうですが、途中で嫌になることはなかったと聞いて安心した様子でした。
このアカウントは、次の研修生が来たら引き継いでいく形にする予定です。研修生からは、SNSでつながった先として、イベントへの参加も提案されました。
教えきれなかった「牛の管理」という心残り
川上さんは、自分自身の1年も振り返ります。今の研修生にとっては初めての一人暮らしで、働くこと自体も初めてだったため、これまでの研修生よりスローペースで教えたそうです。
一方で、酪農業界が大変で自分のことばかりになってしまった、という反省も口にします。その中で心残りだったのが、牛の管理をあまり教えられなかったことでした。
川上 川上さんとこでどんな牛の管理してたの、どんな牛飼ってたの、どんな餌やってたのって言われた時、なかなか答えられない。
川上さんは、種付けの技術は伸びたけれど、他の牧場で「何を習いましたか」と聞かれた時に種付け以外を答えにくいのが後悔だ、と語ります。
その上で、牛を管理するには何が必要かを具体的に説明します。牛の血統や個性、分娩からの日数といったライフステージを知らないと管理はできない、という話です。
川上 その牛が分娩して何日なのか、あと何日で完乳になるとか、そのライフステージを知らないと管理することができない。
血統・完乳・ライフステージ 血統は牛の親をたどる情報で、体質や乳の出方の目安になります。完乳は搾乳期間の終わりに搾乳をやめること、ライフステージは分娩からの日数などで表される牛の今の状態を指します。これらを把握して初めて、餌や管理の判断ができるとされています。
川上さんは、最初から全部覚えようとせず、まず1頭だけを1年間追いかけてみるといい、とアドバイスします。そこから理解が広がっていく、というわけです。
次の職場でもつながり続ける。海外へのチャレンジも
研修生は次の職場に移りますが、アパートは同じで、川上牧場にもアルバイトに来てもらう予定です。分からないことがあればいつでも聞ける関係が続きます。
川上さんは、この業界は給料だけでやっていくのが難しいこともあると話し、副業や新しいビジネスへの挑戦もすすめます。SNSの経験を活かしてほしい、というわけです。
さらに、島根県だけにいるのではなく、もっと広い世界を見てほしいとも。きっかけがあれば海外の牧場も見てみたい、と研修生も応じます。
川上 新生活も慣れて職場に慣れてきたら、もっといろんなことをやってみたいのが出てくると思うので、川上牧場の経験を活かしてガンガンやってもらいたい。
次のバトンへ。「未経験の方こそおすすめ」
最後に川上さんは、令和5年度の研修生を日々募集していると呼びかけます。研修生も、次のバトンを渡す準備はできていると応じました。
そして研修生は、川上牧場は個人に合わせてもらえるので、未経験の人ほどおすすめだと締めくくります。
未経験の方こそおすすめですね。合わせてもらえるので、未経験の方ほどお勧めします。 ── 研修生
川上さんは、1年間お世話になった研修生と、応援してくれた視聴者に感謝を伝えます。引き続き牛乳や酪農を応援してほしい、というメッセージで令和4年度の配信を締めくくりました。
まとめ
1年間の研修を終えた研修生と川上さんが、良かったことも心残りも率直に語り合った最終日回でした。ストレスフリーな学びと種付け技術の伸び、そして次の職場やその先へ続くつながりが印象的な振り返りになっています。
- 研修生に合わせて学びたいことを教えるスタイルが、ストレスフリーな1年につながった
- 受精卵移植の講習は受けられなかったが、その分技術を磨く期間として前向きに受け止めた
- 怪我をきっかけに右手左手どちらでも直検できるようになり、受胎率も上がった
- 苦手だったSNS発信を通じて、消費者や各方面の人とのつながりを実感した
- 牛の管理を教えきれなかった心残りを踏まえ、まず1頭を追いかけることをアドバイスした