牛乳のむ?牧場配信*͛🐮⋆͛R5/8/19
2023-08-19 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
島根県の生乳への洗浄水混入というニュースを、地元の酪農家が自分の言葉で丁寧に解説した回でした。事故の背景にある担い手不足と、それでも忘れてはいけない「食品を作る意識」が、この放送の芯になっています。
この回の要点
- 島根県の生乳に洗浄水が混入し、牛乳40トンが回収廃棄されたが、健康被害は確認されていない
- 川上さんは事故の背景に、担い手不足と「食品を作る意識」の薄れがあると指摘した
- 酪農家なら混入にすぐ気づき、自主的に全量廃棄するのが通常だという
- 研修生には「自分が飲みたくないものは出荷するな」「舐めれるぐらい綺麗に」と伝えている
- グッズやWeb3の活用で牛乳の魅力を広げ、収益を消費拡大や次世代の農業に還元する構想も語られた
配信の全文(podyの記事より)
台風明けの牧場と、今日のお仕事
配信は8月19日の土曜日。台風が過ぎ去ったあとの島根県出雲市の牧場は、この日も快晴でした。
川上さんによると、数日涼しかったところへ急に夏の暑さが戻ってきて、牛が急な暑さでフラフラしている姿も出てきているそうです。
川上 台風が過ぎ去って、また夏日にどっと戻って。急な暑さで(牛が)フラフラしている牛さんも出てきてまして。厳しいなと思いながら、暑くなって欲しくないな。
この日の仕事は、餌の追加、子牛へのミルクやり、そして毎週土曜日に行う種付け。お昼にはミーティングも入っているとのことで、いつも通り20〜30分ほどの配信を予定していると話しています。
クラファンやAIまで、盛りだくさんのお知らせ
乾杯の前に、川上牧場まわりのお知らせがいくつか紹介されました。まず、ベーシックインカムシネマズという映画制作会社からオファーを受け、川上牧場のドキュメンタリー映画を制作することになったそうです。
この映画制作のクラウドファンディングが実施中で、支援の呼びかけがありました。あわせて、映画の進捗や裏話、川上さんの過去の取り組みを話すLINEのオープンチャットも用意しているとのことです。
さらに、飲んでみたい牛乳や「あったらいいな」という乳製品のアイデアを、画像生成AIとChatGPTで形にする「未来の牛乳」という試みも紹介されました。InstagramとThreadsで公開しているそうです。
画像生成AI テキストで指示を出すと、それに合わせた画像を自動で作ってくれるAIのこと。ChatGPTは文章生成が得意なAIで、アイデア出しや文案づくりに使われます。
このほか、生成AIで作った作品をNFTとして公開していることや、数日前から新しいJK研修生が牧場に来ていて、X(旧Twitter)のアカウントで日々の学びを発信していることも案内されました。
NFT デジタルデータに「これは本物」という証明をつけて、唯一のものとして売買できる仕組みのこと。画像やアートの新しい販売方法として使われています。
一通りお知らせを終えて、この日も牛乳で乾杯。「うわぁ、美味しい」という一言から、本題のニュースコーナーへと入っていきます。
島根の牛乳に洗浄水が混入、40トンを回収廃棄
この回のメインは、NHKニュースからの引用で紹介された、島根県の生乳への洗浄水混入のニュースです。
川上 速報、出荷した生乳に洗浄水約100キロが混入、牛乳40トンを回収廃棄島根県、という記事になります。
島根県畜産技術センターが18日午後に発表した内容によると、JAしまねを通じて出荷した生乳に、通常は混入しない洗浄水が混ざっていたとのこと。回収廃棄の対象は40トンに上るということです。
混入したのは、次亜塩素酸ナトリウムを主原料とする洗浄剤を水で薄めた洗浄水で、生乳486キロに対して洗浄水100キロが混入。生乳の集荷や牛乳の製造過程で濃度が低下・分解するため、人が飲んでも健康には影響がないとされています。
次亜塩素酸ナトリウム 漂白や殺菌に使われる成分で、キッチンハイターなどの主成分としても知られます。食品を扱う設備の洗浄にも使われますが、そのまま口に入るものではありません。
8月3日に出荷した乳成分が薄いとJAしまねから指摘があり、畜産技術センター、JAしまね、島根中酪で協議した結果、洗浄水混入の可能性が高いと判断されました。
出荷された生乳は島根中酪や広島共同乳業で他の生乳と混ぜ合わされたため、回収廃棄の対象は40トンに膨らみました。26人が飲用済みでしたが、飲用者を特定してお詫びし、健康被害は確認されていないということです。
「島根県って川上くんだよね」と言われた立場から
島根県の牛乳が全国ニュースになったことで、川上さんのもとにも多くの反応が寄せられたそうです。
川上 皆さんからDMをいただいたり、ご心配の、Twitterとかでも「島根県って川上くんだよね」って言われてしまってですね。
問題が起きた島根県畜産技術センターは、川上牧場から車で10分ほどのごく近所。川上さん自身もJAしまねに所属し、島根県の生乳販売に携わる関係者の一人として、改めてお詫びの言葉を述べています。
川上 本当にお騒がせして申し訳ございませんでした。
川上さんは、そこで働く職員や、かつて自分の牧場で研修していた子が今その畜産技術センターで働いていることから、内容を詳しく聞いているといいます。その上で、やっぱりヒューマンエラーだったという見方を示しました。
「何もしなくても給料がもらえる」環境が招いたもの
なぜこのミスが起きたのか。川上さんは、畜産技術センターの働き方の背景に踏み込んで話します。
現場では嘱託職員を募集しており、牛の管理や餌やり、搾乳などを担当してもらうものの、未経験の人が多いとのこと。定年退職後の余生を、安定した県の職場で過ごそうと選ぶ人が多い傾向があると説明します。
川上 働いていなくても、働いていても、ある程度一定の(金額の)お給料をもらえるんですよ。
そうした環境では、食品を作っているという意識が薄れがちだったのではないか、と川上さんは指摘します。知り合いの職員も「何回も何回もチェックしないといけない」と話していたそうで、そのチェックが甘くなったことが事故につながったのではと見ています。
さらに川上さんは、これは島根県だけの問題ではなく、農業の担い手不足という全国的な構造の問題だと話します。特に島根県は平均年齢が70歳と高く、若い担い手はほとんどいないのが実情だといいます。
県の機関では、採用枠が空いていれば来る者拒まずの体制になりがちで、「ヒューマンエラーを起こしそうだからやめてください」とは立場上言いにくい。だからこそ、起こるべくして起きた事故ではないか、というのが川上さんの見立てです。
酪農家なら「気づく」はず、というプロの感覚
一方で、洗浄水の混入そのものは、酪農の現場でまったくない話ではないと川上さんは言います。毎日仕事をしていれば、多かれ少なかれ起こりうることだと。
ただし、酪農家なら気づいたらすぐ気づくもの、というのがプロとしての感覚です。混入をチェックするためのポジティブリストへの記入が毎日義務づけられていることも紹介されました。
ポジティブリスト ここでは、洗浄水の混入がないかなどを毎日確認して記録するチェックリストを指しています。日々の点検を記録に残すことで、事故を防ぐ仕組みです。
ただ、そのチェックも慣れると散漫になり、確認したつもりで丸をつけてしまったり、担当者が変わったタイミングでミスが起きたりするのではないか、と川上さんは話します。
川上 (酪農家は混入に)気づいた時に、もう自主的に全量廃棄してます。
だからこそ、混入した生乳がタンクローリーで工場に運ばれ、他の生乳とすべて混ぜ合わされてしまうような事態は、酪農家ではほぼまれではないか、というのが川上さんの見方です。今回はシステム上の問題や、昔ながらのやり方が変わらず続いていたことが背景にあるのではと推測しています。
「舐めれるぐらい綺麗に」研修生に伝えていること
担い手不足が深刻化する中で、未経験の人に入ってもらわないと現場が回らない状況が全国で起きていく、と川上さんは言います。だからこそ強調したいのが、農産物を作っているという意識です。
川上さんは、来たばかりの研修生にも、搾乳する牛乳がほぼ加工されずに殺菌工程だけを経てパック詰めされ、人の口に入ることを最初に伝えているそうです。
自分がこう生産現場で飲みたくないと思うものは出荷しちゃダメだよ。 ── 川上
搾乳前に牛のおっぱいを拭くときも、その伝え方は具体的です。小学生や中学生、高校生の体験学習で来た子にも、同じ言葉をかけているといいます。
川上 その拭く時も、そのおっぱいを舐めれるぐらい綺麗にしなさいと、僕は一言目に言うようにしてます。
牛乳が誰かの口に入り、その人の血となり肉となって体の一部になる。それを知ってほしい、という思いが川上さんの言葉の根っこにあります。
そして、配信を聞いている畜産農家に向けても、牛乳の価格がなかなか上がらず、儲からずに嫌になることもあると認めた上で、こう呼びかけました。
川上 生産物、農産物を作っているという意識を忘れちゃダメだと思うので、ぜひ改めてこのニュースを見て、我が身を引き締めていただけたら。
川上さん自身も、今月21日に生乳販売委員会という会議に出席する予定で、そこでの報告も含め、生産現場の状況を消費者に伝えていきたいと話しています。
東京都が始める、野菜データの地産地消プロジェクト
続いて紹介されたのは、日本農業新聞からの引用で、東京都が進める地産地消のデータ活用プロジェクトの記事です。
食と農業分野のビッグデータやAIを活用したコンサルティングを手がけるアールイー株式会社が、東京都のTDPF(東京データプラットフォーム)ケーススタディ事業で、「東京都産野菜の地産地消推進プロジェクト」の代表企業として採択されたとのこと。
TDPF(東京データプラットフォーム) 官民の様々な分野のデータを流通させ、掛け合わせて活用するための東京都の仕組み。防災やまちづくり、観光などの課題解決に役立てることを目指しています。
このプロジェクトでは、東京都産野菜の出荷情報や生産者情報を整備し、消費者・流通事業者・物流事業者それぞれに向けて情報を提供します。目的別の取り組みは次のように整理されています。
・消費者向けに、都産品の購入場所や観光・レシピ情報をウェブで提供する
・流通事業者向けに、生産時期や生産者情報を確認できるダッシュボードを用意する
・物流事業者向けに、統一コードで出荷情報を共有し、効率的な輸送や共同配送を確立する
川上さんは、これまでJAなどでまとまっていた農業のデータを、官民一体で一つのビッグデータにまとめ、誰でも見られるようにする点に注目しています。非効率なところを効率化し、無駄を省く新しい試みとして期待を寄せていました。
農場を支えるアパレルブランド、スカイハイファームの挑戦
最後の記事は、エレミミストからの引用で、アメリカの「スカイハイファームユニバース」を取り上げたものです。川上さんも「面白い記事」と紹介しています。
スカイハイファームは、ニューヨークを拠点に活動する世界的に著名なアーティスト、ダンコーレンが始めた農場です。もともとは住居兼彫刻スタジオとしてハドソンバレーに移り住んだものの、やがて自ら土地を耕し始めたそうです。
この農場で育てた再生可能な農法の食料は、当初すべてフードバンクに寄付され、現在は生産した肉や野菜のすべてを地元の低所得者層を支援するパートナーや慈善団体に寄付しています。
フードバンク まだ食べられるのに余ってしまった食品を集め、食べ物に困っている人や施設に届ける活動や団体のこと。食品ロスの削減と支援の両方につながる仕組みです。
特徴的なのは、農場の運営資金をアパレルブランドの収益でまかなっている点です。2022年に誕生したワークウェアブランドは、独自の販売方法を採用しています。
川上 (小売業者は)商品が店頭に並ぶ前に、同ファームへ基本的な寄付を約束することになる。
この仕組みでは、消費者が商品を買うことがそのまま農場の支援につながります。さらに、コンバースやバレンシアガといったメガブランドと協力し、商品を寄付してもらう形でコラボレーションも行っているとのことです。
農場とアパレルブランドは一見異なる方向に見えても、「食料を守る」というミッションは同じ。非営利の農場を、ブランドやコラボ商品の販売で支える構造になっています。
これ川上牧場のこと? グッズで牛乳の消費を広げる
この記事を読んで、川上さんは配信の常連リスナーに問いかけます。
川上 配信をよく聞いている方、あれ、川上牧場じゃって思った方、おられませんか?
実は川上牧場も、SUZURIというグッズ販売サイトを使って、いろんなクリエイターとコラボしているのだといいます。牛乳に興味がなかった人が、デザインをきっかけに興味を持ち、牛乳を飲むようになってもらう狙いです。
SUZURI(すずり) 自分でデザインしたTシャツやグッズを、在庫を持たずに作って販売できるサービス。イラストレーターやクリエイターがオリジナル商品を出すのによく使われています。
グッズの収益は農場の利益にはせず、ほぼ100%を牛乳の消費拡大の活動に充てているとのこと。次のコラボの原資として使うことで、スカイハイファームと同じような循環を、川上牧場でも回していると話します。
そして、トップクリエイターや企業に向けて、コラボの呼びかけもありました。ホームページからの問い合わせを待っているそうです。
クラファンで目指す、Web3とメタバースの酪農体験
川上さんが今回クラウドファンディングで挑戦したいのは、Web3やメタバースを活用した酪農の体験です。
Web3・メタバース Web3はブロックチェーン技術を使った新しいインターネットの考え方。メタバースはインターネット上の3次元の仮想空間のこと。どちらもオンラインでの体験や経済活動を広げる技術として注目されています。
牛乳やお肉に好き嫌いがある人、アレルギーで牛に触れない人、牧場まで足を運ぶのが遠い人。そうした人たちが、インターネット上で酪農や牛乳の魅力、制作現場の裏側を体験できるようにしたい、という構想です。
そこで得たお金を、今来ているJK研修生や、これから農業をやってみたい人たちに再分配できるようなシステムを作りたい、というのが川上さんの狙いです。
この取り組みを、オファーをくれたベーシックインカムシネマズが映画にしてくれるとのこと。クラウドファンディングのリターン品には映画のチケットが用意され、期間中の購入がお得になっていると案内されました。
ニュースを投稿すべきか、正直に迷う酪農家
配信の締めくくりで、川上さんは今回の混入ニュースについて、正直な迷いを打ち明けました。
川上 ちょっとこれを、そのツイートしようか悩んでるんですよ。Xに投稿しようか悩んでおりまして。
無駄に不安を煽るのも業界として難しい。けれど正確な情報も届けなければいけない。そのはざまで、まずは配信の中だけで話すことを選んだといいます。
「島根県の酪農家」で検索すると川上牧場が上位に出てくるため、真意を知りたい人がそこにたどり着けばいい、という思いで話したそうです。疑問や質問があればコメントやDMで何でも答えると呼びかけ、この日の配信を終えました。
川上 お仕事の方、学校の方、いってらっしゃい。みんな牛乳飲んでね。バイバーイ。
まとめ
島根県の生乳への洗浄水混入というニュースを、地元の酪農家が自分の言葉で丁寧に解説した回でした。事故の背景にある担い手不足と、それでも忘れてはいけない「食品を作る意識」が、この放送の芯になっています。
- 島根県の生乳に洗浄水が混入し、牛乳40トンが回収廃棄されたが、健康被害は確認されていない
- 川上さんは事故の背景に、担い手不足と「食品を作る意識」の薄れがあると指摘した
- 酪農家なら混入にすぐ気づき、自主的に全量廃棄するのが通常だという
- 研修生には「自分が飲みたくないものは出荷するな」「舐めれるぐらい綺麗に」と伝えている
- グッズやWeb3の活用で牛乳の魅力を広げ、収益を消費拡大や次世代の農業に還元する構想も語られた