『牛だってミルクを飲むの?』 ─ 黄金の初乳のひみつ
2025-06-19 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
リスナーの素朴な疑問から、大人の牛は牛乳を飲むのか、そして「黄金の初乳」とは何かをひもといた回でした。身近な牛乳の裏側にある牛のしくみや、酪農家ならではの食文化と本音がぎゅっと詰まった内容です。
この回の要点
- 大人の牛は消化のしくみと好みの理由から、牛乳をほぼ飲まない
- 初乳は普通の牛乳の2倍の濃さで、子牛の免疫を支える大切なお乳
- 酪農家は初乳を「初乳豆腐」にして食べるが、そのまま飲むと生臭いという本音も
- 初乳は人間には吸収されにくく、出荷も乳等省令で禁じられている
- 川上さんは、粉末初乳が普及した今、初乳の出荷規制を見直す議論を望んでいる
配信の全文(podyの記事より)
梅雨空とバタバタの牧場、今日の一日
配信は6月19日、木曜日。天気は晴れのち曇りで、最高気温は29度。前日より少し涼しいものの、湿度が高くて牛たちもきつそうな様子です。
体調を崩している牛もいて、乳量が減り、餌を食べる量も落ちてきているとのこと。皆さんも体調に気をつけてと、川上さんはリスナーにも声をかけます。
川上 先日生まれた子牛も、皆さん申し訳なかったなと思いますけど、昨日ちょっと残念な結果になってしまいまして。
この日の予定は、もみ殻を2台分運んで、そのあと歯医者へ。ほかにも農協で話すことがあるそうで、なかなかのバタバタぶりです。
牧場を応援する2つのメンバーシップ
乾杯の前に、川上牧場のお知らせから。ノートというブログアプリで、牧場を応援できるメンバーシップをやっています。
このメンバーシップでは、オンラインでつないで牧場体験をしたり、実際に牧場に来て体験したりできます。さらに酪農業界向けの新しいプランも登場しました。
その名も「ファームエコ」。新規就農したい人、従業員、経営している酪農家、酪農家に営業に行く営業マンなど、業界のいろんな悩みを、AIと川上さんがタッグを組んで解決していくプランです。
Googleフォームのヒアリングシートに記入するだけでササッと答えてもらえる形で、現在は無料モニターを募集中とのことです。
熱中症対策にも牛乳、そして今日のお便り
乾杯のあとは、川上さんおすすめの熱中症対策の話。朝一番の牛乳が一番いいと話します。
そしてお便りコーナーへ。今回はStand.FMのレター機能で届いた質問です。FMネームせいさんからのお便りでした。
川上 急に暑くなり、この酷暑で飲む牛乳は普段より美味しいと感じます。キンキンに冷やした瓶牛乳が一番うまいですよ。
質問の中身は2つ。牛さんも牛乳を飲むのか、そして赤ちゃん牛が飲む「初乳(黄金の液体)」を川上さんは飲んだことがあるのか、というものです。
川上 初乳っていう言葉をサラッと言う消費者がいると、ちょっと驚きますけれども、素晴らしいリスナーさんです。ありがとうございます。
大人の牛は牛乳を飲むの?
まず1つ目の質問、大人の牛は牛乳を飲むのか。結論は、ほぼ飲みません。
理由は牛の消化のしくみにあります。牛の胃袋は4つあり、その第1胃は微生物が発酵するしくみで動いています。
ルーメン 牛など反芻動物の第1胃のこと。中にすむ微生物が草を発酵・分解し、その微生物ごと栄養にするしくみになっている。牛が草食動物として生きられるのはこの働きのおかげ。
草と発酵ガスで動くこの胃袋では、液体の牛乳はうまく消化できないのだそう。だから繊維質の草を食べたほうが効率的で、そもそも牛は牛乳を飲みたがらないそうです。
海外では使われなかった脱脂粉乳を餌にする場面もありますが、コストが高くてほとんどありません。日本では動物性タンパクを牛に与えてはいけない法律もあり、大人の牛にミルクをあげることはないと言っても過言ではないとのこと。
コロナ禍で脱脂粉乳が余って問題になったときも、牛の餌に混ぜる対策が検討されましたが、餌代の高さがネックでなかなか難しかったそうです。
黄金の液体「初乳」の正体
そして2つ目、黄金の液体と呼ばれる「初乳」の話です。
初乳とは、赤ちゃんを産んですぐのお乳のこと。初乳として使えるのは産後6時間ほどで、12時間から24時間あたりまでのものは「移行乳」と呼ばれたりします。
色は黄色っぽくてドロッとしていて、普通の牛乳の2倍ほどの濃さ。このドロッとした感じの正体が、免疫のもととなる成分です。
免疫グロブリン 体内で異物と戦う抗体のこと。牛の初乳にはこの成分が豊富に含まれ、生まれたばかりの子牛が病気に負けない体をつくるのに欠かせない。
人間の赤ちゃんはお母さんの胎盤を通して免疫を受け取れますが、牛は胎盤を通して抗体を渡せません。だから子牛は初乳を飲んで免疫を獲得するのです。
そのため初乳を飲まなかった子牛は、病気に弱く免疫力も低くなってしまうことがあるそうです。
普通の牛乳と初乳のちがい
普通の牛乳
さらっとした液体で、タンパク質などの濃さはおよそ3.5%。私たちが日常的に飲むおなじみの牛乳。
VS
初乳
黄色っぽくドロッとして濃さは2倍ほど。免疫グロブリンやタンパク質、脂質、ビタミンA、亜鉛などが豊富。
栄養はとにかく豊富で、タンパク質や脂質は6%ほど。ほかにビタミンAや亜鉛、抗酸化作用のある成分も入っているそうです。
酪農家しか味わえない「初乳豆腐」
これだけ栄養豊富な初乳ですが、じつは出荷はできません。乳等省令で、生後しばらくの牛乳は出荷してはいけないと決まっているためです。
乳等省令 牛乳や乳製品の成分・製造・表示などを定めた国の決まり。安全のため、出産直後の牛から搾った乳は出荷できないと定められている。
だから一般の消費者が初乳を飲むことは、まずできません。でも捨てるのはもったいないので、酪農家は自宅で「初乳豆腐」にして食べたりするそうです。
初乳は免疫グロブリンが多いので、熱を通すと固まります。そこにお酢を混ぜて熱を加えると、カッテージチーズのような食感の初乳豆腐ができあがります。
ただし、そのまま飲むのはおすすめしないとのこと。ここで川上さんの本音が出ます。
川上 僕は臭くて飲めないです。生臭くて飲めないですね、これは本当に。飲み慣れてないからですかね。
質問にあった「初乳を飲み続けたらスーパーマンになれそう」という点についても、川上さんはやんわり否定します。
人間はこれ消化できないんですよ。吸収されにくくて、抗体がいっぱい入っていると、人の腸内ではあんまり吸収されない。 ── 川上
つまり、栄養がたっぷりでも人の腸では吸収されにくいのだそう。臭くて吸収もできないので、あまり食べないほうがいいかも、と笑いながら話していました。
初乳の出荷規制、そろそろ議論しませんか
コメント欄には「初乳を食べてみたい」という声も。でも法律で禁じられているので、残念ながらそれは難しいとのことです。
ここで川上さんは、酪農家が聞いたら驚くかもしれない、と前置きしつつ一つの提案をします。それが初乳の出荷規制についてです。
川上 僕はこの初乳の出荷規制みたいなのを、もうちょっと緩めてもいいんじゃないかなっていう議論はしてほしいなと思うんですよ。
昔は粉末初乳がなく、子牛にしっかり飲ませることを前提に法律が作られました。でも今は粉末初乳や製剤がたくさんあります。
だから検査がOKなら出荷できるようにしてほしい、そういう議論もやりましょうよ、というのが川上さんの考えです。
最後は、6月の牛乳月間にちなんだ「牛乳で歌おう」企画の紹介や、酪農未経験者向けのKindle本のお知らせで締めくくられました。
まとめ
リスナーの素朴な疑問から、大人の牛は牛乳を飲むのか、そして「黄金の初乳」とは何かをひもといた回でした。身近な牛乳の裏側にある牛のしくみや、酪農家ならではの食文化と本音がぎゅっと詰まった内容です。
- 大人の牛は消化のしくみと好みの理由から、牛乳をほぼ飲まない
- 初乳は普通の牛乳の2倍の濃さで、子牛の免疫を支える大切なお乳
- 酪農家は初乳を「初乳豆腐」にして食べるが、そのまま飲むと生臭いという本音も
- 初乳は人間には吸収されにくく、出荷も乳等省令で禁じられている
- 川上さんは、粉末初乳が普及した今、初乳の出荷規制を見直す議論を望んでいる