R7年研修生と配信②

2025-07-30 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

牛の群れの強弱から遺伝子検査、記憶力まで、研修生さんの素朴な疑問が次々と酪農の奥深さを引き出した後編でした。「牛の幸せ」に正解はなく、だからこそ一頭ずつをよく見ることが仕事の核になっている、そんな話がじんわり伝わってきます。

この回の要点

  • 放牧にもつなぎ飼いにも良し悪しがあり、「牛の幸せ」は人間が一方的に決められるものではない
  • 川上牧場は全頭にゲノム検査を行い、乳量や病気のなりやすさを踏まえて交配計画を立てている
  • 牛は人の顔や匂い、習慣を覚え、音や道順に合わせて自分から行動するほど賢い
  • 牛の小さな違いに気づける観察力は、酪農にとって大きな才能になる

配信の全文(podyの記事より)

動物好きの研修生が惹かれた「群れの観察」

今回は、前半に続いて研修生さんを迎えた後編です。川上さんはまず、牛が可愛いと感じるようになったきっかけを研修生さんに尋ねます。

研修生さんは子供の頃、近所にあった4〜5頭ほどの小さな牛の牧場によく通っていたそうです。もともと動物が好きだったのだろうと振り返ります。

研修生 動物園とか行ったら、みんなライオンとか行くじゃないですか。私はチンパンジーの山を見るのが好きで。

研修生 みんながこう動いてるのを観察するのが結構面白くて。

この「群れを観察するのが好き」という感覚が、そのまま牛の世界にもつながっていきます。川上さんは、牛の群れにも強弱があると話します。

放牧は本当に幸せ?群れに生まれる「弱い牛」

草原で自由に伸び伸びと過ごす放牧のイメージは、いかにも牛にとって快適そうです。でも実際はそう単純ではありません。

群れには強弱があり、弱い牛は餌の取り合いで負けてしまいます。川上さんによると、放牧では常に1割ほどの牛がお腹を空かせてしまうそうです。

だから追加で餌をあげたり、スタンチョン ── 牛の首を一頭ずつ固定できる、牛舎の首入れ部分の設備。餌やりや作業のときに使うで首を止めて、喧嘩しないように餌を与える工夫が必要になります。

では、牛の強弱は何で決まるのでしょうか。研修生さんの問いに、川上さんは「最強の牛はいない」と答えます。

川上 牛も最強の牛みたいなのは絶対いないんですよ。じゃんけんのシステムで群れが構成されていて、どいつかは誰かに弱いみたいな感じになってます。

そこに体の大きさや性格、そして子牛の頃の育ち方が加わります。虚弱体質で栄養失調気味に育つと、大人になってもビクビクした牛になりやすいと言います。

つなぎ牛舎は虐待?「牛の幸せ」という難問

牛をつなぎっぱなしにする飼い方は、動物虐待だと言われることがあります。でも川上さんは、そう単純には割り切れないと話します。

川上 こたつに入って冬眠だよ。ぬくぬくして、好きなものを食べて、Netflixが目の前でリモコンがあって、動かずに一日中おれるって最高じゃない?

研修生 確かに、それが好きな人は最高ですよね。でも、なんか考え方の違いなんだろうなとは思いますね。

ここで出てくるのがアニマルウェルフェア ── 動物が感じる苦痛やストレスを減らし、その動物らしく生きられる環境を目指す考え方。世界共通の概念として広がっているという考え方です。ヨーロッパのルールが日本にも入ってきています。

ただ、日本の飼養スタイルとはずれがあり、アニマルウェルフェア基準の国際ランキングで日本は下から数えたほうが早い順位だと川上さんは話します。

研修生さんは、それは土地がないことも関係しているのではと指摘します。そのうえで二人がたどり着くのは、そもそも牛の気持ちは聞けない、という当たり前の事実です。

人間が勝手に判断してるだけなので。かわいそうか、かわいそうじゃないか。 ── 研修生

つなぎ飼いのメリットは?弱い牛でも食べられる

放牧に良さがあるように、つなぎ飼いにも利点があります。研修生さんが両方のメリット・デメリットを尋ねると、川上さんが答えます。

放牧とつなぎ飼いの違い

放牧

自由に動けて筋肉がつく一方、群れの強弱で弱い牛は餌にありつけないことがある

VS

つなぎ飼い

立って座るだけで牛が痛みにくく、弱い牛でも食べたい分だけ食べて出せる

川上さんは、子牛の頃からずっと見ているので一頭ずつの性格を全部知っている、と話します。さらに川上牧場では、全頭にゲノム検査を行っているそうです。

遺伝子でここまでわかる。ゲノム検査という武器

ゲノム検査 ── 牛の細胞から遺伝子を調べ、乳量や体格、病気のなりやすさなどの生産性をあらかじめ把握する検査では、生まれてすぐ耳の細胞を取り、アメリカに提出して調べます。日本より検査項目が多く精度が高いためだそうです。

わかることは驚くほど多く、乳量や体の大きさ、足の角度、乳房炎のなりやすさ、繁殖性まで、ほぼ全部わかると言います。

研修生 乳量がどれだけ出るとか、体の大きさがどれだけになるのか、そんなので分かるんですか。

結果に合わせて、この牛は次の子牛を産ませる後継牛に、能力が低い牛はお肉の牛を産ませる、といった交配計画を立てていきます。

そして川上さんが一番好きな仕事は、この繁殖だと打ち明けます。意外にも、搾乳は大嫌いなのだそうです。

川上 搾乳って100%完璧にしても病気が出るんですよ。限りなくゼロにはできるんだけど、100%は無理だから。それが嫌。

自分は牛のためにやっているのに、牛が足で蹴るなどして邪魔してくる。それが嫌だと、半ば冗談まじりに語ります。搾乳のときに出るオキシトシン ── 幸福感に関わるホルモン。牛では乳を出すために不可欠で、これが出ないと牛乳は出ないで牛は幸せを感じているはずなのに、と続けます。

人の顔も覚える。習慣で動く牛の賢さ

牛は頭がいいのか。研修生さんの問いに、川上さんは「習慣のものは覚える」と答えます。人の顔も匂いも覚えるそうです。

毎日同じ人が同じ作業をするから牛は立つのであって、強い印象の記憶ほどよく残ると言います。痛かった、不快だった、という記憶は特に覚えているそうです。

習慣で覚える力の強さは、いくつもの場面に表れます。

・ベルの音や配合飼料のタンクの音がすると放牧場から帰ってくる

・毎日同じ道・同じ時間なら、自分で放牧場から帰ってくる

・昼間放牧でも、帰るときは自分の牛舎の場所に戻ってくる

10月に北海道で開かれるホルスタイン共進会 ── ホルスタイン牛の体型などを競う品評会。牛の「美人コンテスト」とも呼ばれるに向けても、毎日調教して歩かせる練習をするそうです。慣れると自分からスタスタ歩くようになると言います。

川上 いつもと違う持ち方とかしてくると、いや、そうじゃねえって、自分でこうやってやるんだって教えてくれたりとか。

場所を別のところに動かすと「ここは私のとこじゃない」と鳴いて抗議することもあるそうで、犬が鳴き方で気持ちを伝えるのと同じだと川上さんは説明します。

動かない牛と動く牛。研修生が見つけた「観察の才能」

研修生さんは、噴霧器を使うときに避けてくれる牛と、まったく動かない牛がいることに気づいていました。

研修生 噴霧器してる時も避けてくれる子と、断じて動かない子がいるから。

川上さんは、それは新しい人への警戒心の差だったり、ベテランで慣れている牛だったりすると説明します。そして、その差に気づけること自体が才能だと評価します。

一方で、大きな牧場では個体の特性がない方が作業しやすいとも言います。川上牧場では品種改良で、親が違っても同じサイズの牛に揃えることを目指しているそうです。

目つぶっても搾乳できるぐらいの、同じ形にできるとめっちゃ楽なんで。 ── 川上

最後に川上さんは、研修生さんが自然に牛を観察できていることを、ナチュラルに観察できてるのはすごい才能だと繰り返しほめて、後編を締めくくりました。

まとめ

牛の群れの強弱から遺伝子検査、記憶力まで、研修生さんの素朴な疑問が次々と酪農の奥深さを引き出した後編でした。「牛の幸せ」に正解はなく、だからこそ一頭ずつをよく見ることが仕事の核になっている、そんな話がじんわり伝わってきます。

  • 放牧にもつなぎ飼いにも良し悪しがあり、「牛の幸せ」は人間が一方的に決められるものではない
  • 川上牧場は全頭にゲノム検査を行い、乳量や病気のなりやすさを踏まえて交配計画を立てている
  • 牛は人の顔や匂い、習慣を覚え、音や道順に合わせて自分から行動するほど賢い
  • 牛の小さな違いに気づける観察力は、酪農にとって大きな才能になる