R7年研修生と配信 #35
2025-12-28 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://youtu.be/9kxYm5jP0ZA
12月27日の朝、搾乳を終えてバルククーラーの温度表示を確認しました。4.4℃。冷えは問題ありません。牛舎の外は冬らしい澄んだ空気で、吐く息が白くなります。今日は研修生が来ている日です。作業の合間に、ふだん表に出ない“裏方”の仕事について一緒に話しながら配信をしました。
「冷蔵庫に紙がいっぱい貼ってありますよね。あれ、何を書いているんですか?」
その一言から、酪農の“事務仕事”の話になりました。現場の搾乳や給餌は目に見えますが、牛乳が出荷されるまでには、目に見えない管理と記録が積み重なっています。今日は、その具体を残しておきたいと思います。
ポジティブリストとバルク温度──牛乳を守る記録
冷蔵庫に貼っているのは、いわゆるポジティブリストです。牛乳を出荷するにあたり、抗生物質の残留がないか、バルク内の温度は適正か、ミルカーの洗浄はアルカリ・酸性・殺菌剤のどれで回したか、といった項目を記録します。
これは乳業メーカーや製乳団体との取り決めであり、同時に農家を守るためのルールでもあります。たとえば抗生物質反応が出た場合、どの牛にどの薬をいつ使ったのか、出荷前の検査はどうだったのかを遡れるようにする。バルクの温度も、搾乳後何分で何℃だったのかを残します。トラブルが起きたとき、「ルールを守っていた」という証明になります。
抗生物質を投与した牛の乳は、別の容器に取り、検査で陰性が出るまで出荷しません。排水の確認も含めて、水が混入しないようにチェックします。こうした一つひとつの確認が、日々の出荷の前提です。
台帳、受精証明書、出生届──Web管理と義務
裏方仕事はそれだけではありません。種付け、分娩、乾乳、妊娠鑑定の結果は、Web上の牛群管理台帳に入力します。どの牛にどの種雄牛を交配したかは受精証明書として残し、子牛が生まれたら出生届を提出します。これがないと血統登録ができず、無登録牛扱いになることもあります。
私はGoogleスプレッドシートでの管理も併用し、獣医師からの治療リストをデータで受け取り、デジタルに寄せています。スマートフォンでも入力できるようにしていますが、業界全体を見ると、いまも手書きやファックス中心の現場はあります。若い世代が大学でデジタル前提のレポートに慣れてから現場に入ったとき、このギャップがどう見えるのか。研修生との会話の中で、そこは考えさせられました。
補助事業と生産抑制──冬の不需要期という現実
年末にかけては書類が増えます。たとえば「長命連産事業」。高能力で長く産める牛づくりに資する種雄牛や精液の利用に対する補助の報告などです。制度の趣旨は理解していますが、報告の実務は農家が担います。
そして12月20日から1月8日頃までは、いわゆる不需要期。学校給食が止まり、年末年始で消費が落ちるため、生産抑制の協力依頼が来ます。乾乳を前倒しする、淘汰予定牛を早めに出す、子牛用に一部を回すなど、任意の取り組みに対して手当が出ます。
「冬は本来、乳量が上がるのに、なぜ抑えるのか」という疑問はもっともです。四季がある日本では需要の波が大きい。牛は生き物で、スイッチ一つで出荷量を調整できません。バターに回せばいい、という声も聞きますが、加工コストや手取りの問題があり、単純ではありません。ここは誤解されやすい部分なので、事実として残しておきます。
デジタル化の現在地──U-motionと二極化
研修生(以前来てた)は試験場でU-motionのような牛のウェアラブルデバイスを扱っています。首輪型のセンサーで発情や疾病のアラート、活動量などを把握する仕組みです。価格は1頭あたり月数百円〜千円程度。人を一人雇うコストと比較すれば、合理的という見方もできます。
一方で、業界のデジタル化は二極化していると感じます。やるところは進める。やらないところは従来のやり方を続ける。どちらが正しいという話ではなく、前提が異なる中で、どう橋をかけるかが難しい。
研修生は新しいツールに抵抗が少なく、効率を重視します。私の世代は、便利さを理解しつつも、慣れや制度との摩擦に直面します。世代間の“じれったさ”は、教育現場でも同じだと聞きます。タブレット授業やオンライン申請に戸惑う声。どこに足場を置くかで見え方は変わります。
事実と受け止め、そして仮説
事実として、酪農の裏方業務は多岐にわたり、記録と報告は牛乳の安全と信頼を支えています。不需要期の生産抑制や補助事業は制度として存在し、デジタルツールは導入が進む一方でばらつきがあります。
私の受け止めとしては、記録の重さを軽くするためのデジタル化は進める価値がある。ただし、道具だけを入れても、運用と理解が伴わなければ負担は減らない。
仮説としては、これからの酪農は、現場の手触りとデータの往復が当たり前になる。そのとき、若い世代の感覚は大きな力になるはずです。同時に、制度や取引の現実を知る経験も欠かせません。
これは酪農だけの話ではない
紙からWebへ、ファックスからクラウドへ。変化はどの業界にもあります。大事なのは、変化を急かすことでも、拒むことでもなく、現場に合う形に整えることだと感じています。
記録は安全のため。デジタルは効率のため。どちらも目的は同じです。牛乳を、きちんと届けること。そのために、どのやり方が最適かを、研修生と一緒に考え続けたいと思います。
まとめにかえて
今日の配信は、搾乳後のバルク温度から始まり、ポジティブリスト、受精証明書、不需要期の生産抑制、U-motionの話まで広がりました。裏方の仕事は目立ちませんが、牛乳の信頼を支える土台です。
私はいま、デジタル化を“目的”ではなく“手段”として、現場に馴染ませていくことが大切だと考えています。若い世代のスピードと、これまでの積み重ねをどう重ねるか。そこに可能性があると感じています。
このテーマは、酪農だけの話ではないかもしれません。皆さんの現場では、どんな“裏方”が支えていますか。考えるきっかけになれば幸いです。
https://note.com/kawakamifarm/membership/join?preview=true
https://note.com/kawakamifarm/n/ndf5ea5a0bd27
https://note.com/kawakamifarm/n/n2c2f4763349b
https://note.com/kawakamifarm/n/nbf0a8d7a7a3e
🐄📚『川上牧場研修〜牛群検定の見方編〜』Kindleで絶賛発売中!📘
全ての酪農に興味がある方へ🐮数字で牛の声を聞こう!👇
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FBQWGSK6
https://lit.link/kawakamifarm