日曜恒例コメント返し|「可哀想」という声にどう向き合うか

2026-01-24 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

https://youtu.be/U_V0e3HKo74

1月25日の日曜日。朝の気温は低く、寒波は抜けたとはいえ、牛舎の外に出ると風がまだしっかり冷たく感じました。空は曇り。最高気温は6度。雪は残っていませんが、「ああ、まだ冬の中だな」と体が先に理解するような朝でした。

その日は、私にとって2週間ぶりの酪農ヘルパーの日で、午前中の仕事を早めに終わらせたら休みをもらえる日でもありました。子どもとどこかに出かけるか、家でNetflixを見るか。そんなことを考えながら、朝の作業を進めていました。

日曜日は、私にとって少し特別です。毎週、SNSや音声配信、YouTube、TikTok、note、DMなどに届いたコメントや質問を読み返しながら、

「今、何が届いていて、何が届いていないのか」を考える時間になるからです。牛舎で起きていることと、画面の向こうで受け取られていること。その間には、近いようでいて、意外と大きな距離があります。

今回のコメント返しでも、いつものように温かい応援の言葉をたくさんいただきました。その一方で、産業動物の現場に対して「可哀想」という言葉が向けられる場面もありました。今日は、そのことを改めて整理しておきたいと思います。

コメント欄は、応援と違和感が同時に届く場所です

日々配信を続けていると、本当にいろいろな声が届きます。

「毎日コメントしています」

「若くして頑張っていてすごいです」

「研修生さんとのわちゃわちゃした会話が楽しかったです」

「ライブ配信を見て、もう少し酪農を頑張ってみようかなと思いました」

こうした言葉は、やはり素直に嬉しいです。特に、酪農や和牛の現場を知っている方、あるいは過去に家族が畜産に関わっていた方からのコメントには、独特の重みがあります。きれいごとではない苦労も知っている方が、それでも応援の言葉をくださる。そのことに励まされる場面は何度もあります。

一方で、動画の切り取り方や見え方によっては、まったく違う受け止められ方をすることもあります。

たとえば、子牛の逆子を助産している動画に対して、

「力づくで引っ張っていて可哀想」「不機嫌そうに見える」「メスとオスで扱いが違うのは気持ち悪い」といったコメントが寄せられました。

こういうコメントを見ると、まず感じるのは反発ではなく、

「そう見えるのか」という確認です。もちろん、全部をそのまま受け入れるわけではありません。ただ、現場の事情を知らない人にとっては、

その数十秒が“酪農の全部”に見えてしまうことがある。そこは、配信している側として意識しておかないといけないと思っています。

https://www.instagram.com/reel/DTQBQslElOv/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

「可哀想」という言葉は、現場では止まっていられない

ここで一つ、はっきりしていることがあります。

酪農の現場は、「可哀想だからやめる」が通用する仕事ではありません。

これは強がりではなく、事実としてそうです。

今回の動画は逆子の助産でした。しかも、ただの分娩ではなく、5産目の牛で、微弱陣痛気味で、しかも逆子。現場の感覚で言えば、かなり気を抜けないケースです。子牛の位置、母牛の体力、へその緒の圧迫、呼吸のタイミング。待つべきか、引くべきか、その判断を外すと、母牛も子牛も危険になります。

あとからAIに動画を解析してもらい、産業動物臨床の視点でまとめてもらったのですが、その内容はとても整理されていました。逆子では、子牛の腰が母牛の骨盤を通過した段階で、へその緒が圧迫されて酸素供給が止まりやすい。そこでもたつくと、子牛は子宮内で呼吸しようとして羊水を吸い込み、窒息するリスクが高まる。微弱陣痛ならなおさら、牛任せにして待つことが必ずしも優しさにはなりません。

つまり、あの場面では「引っ張ること」が乱暴なのではなく、「引っ張らないこと」が危険だった可能性があるということです。

ここは、現場にいる人と、映像だけを見る人で、受け取る意味が大きく変わるところだと思います。

それでも「可哀想」と感じる気持ちは否定したくありません

ただ、ここで大切なのは、「だから外から何も言うな」とは思わないことです。

あの映像を見て「苦しそう」「可哀想」と感じる気持ち自体は、自然な反応だと思います。むしろ、それだけ命に反応できる感覚があることは、大事にしていいとも思っています。

私も、現場に立ったことのない人に向かって、「分かってない」と切り捨てるつもりはありません。むしろ、その感覚があるからこそ、そこから一歩進んで、「では現場ではなぜそうするのか」を知ってもらえたらいいと思っています。

問題は、「可哀想」で思考が止まることです。

産業動物の現場には、かわいそうで片づけられない事情があります。命をつなぐための介入、経済と生活の現実、母牛と子牛の安全、家族経営の継続、地域の産業としての責任。その全部が重なって、一つひとつの判断があります。

そこを知らずに、感情だけで現場を評価すると、お互いに何も前に進まない。私はそう感じています。

メスとオスで気持ちが違うのは、感情ではなく経営の現実です

コメントの中には、「女の子なら歓迎して、男の子なら残念がるのはおかしい」という反応もありました。これも、言いたいこと自体は分かります。

でも、酪農の現場では、子牛の性別がそのまま経営の重さに直結することがあります。

少し乱暴なたとえですが、給料日に「今月はオスが生まれたから給料なしです」と言われるのと、「メスが生まれたから少し余裕ができます」と言われるのでは、生活の感覚が変わります。家賃、飼料代、電気代、燃料代、借入金、修理費。経営は待ってくれません。

もちろん、命の価値に上下があるわけではありません。オスだから雑に扱っていいなんて、私は思っていません。ただ、経営の現実として、メスの子牛が生まれることに安堵し、オスだと厳しさを感じる場面があるのは事実です。

ここも、外から見ると残酷に見えるかもしれません。でも中にいる側からすると、生活の計算と直結した、非常に現実的な感情です。

コメント返しをしていると、酪農の外側と内側がよく見えます

今回のコメント返しでは、ほかにもいろいろな声がありました。

学校給食の牛乳に対して、「牛乳を固定にしなくてもいいのでは」「チーズでいいのでは」というコメントもありました。これも、議論としてはあり得ると思います。ただ、給食の牛乳は酪農支援だけの話ではなく、子どもの栄養や家庭環境の問題ともつながっています。1日1食、給食でしか栄養をしっかり取れない子どももいる。そこまで含めて考えると、単純な置き換えの話では済まないと私は思っています。

また、TikTokのDMでは、「夫婦で同じ牧場に勤めているが、ライブ配信を見てもう少し酪農を頑張ってみようと思った」という言葉もいただきました。これは正直、かなり心に残りました。現場が苦しいのは、私だけではありません。従業員として働く方も、家族で支える方も、先が見えにくい中で踏ん張っている。その中で、配信が少しでも灯りになるのなら、続ける意味はあると思いました。

ネパールからの相談もありました。日本の技術や知識を生かして、何か助言できないかという内容でした。庭先で牛を飼い、残飯を食べさせ、搾乳して生活するようなスタイルの国とも、こうしてつながれる時代です。酪農は地域産業ですが、同時に、人の営みとしてはかなり普遍的な仕事でもあります。

こうしたコメントを毎週読んでいると、酪農という仕事が、ただ牛を飼うだけの仕事ではないことを改めて感じます。現場と社会、感情と経営、命と情報発信。その境目に立っている感覚があります。

私は、現場をきれいに見せたいわけではありません

私が配信を続けている理由は、酪農を美化したいからではありません。

厳しいことは厳しいと伝えたいですし、うまくいかないことも普通にあります。分娩でうまく助けられなかった経験もありますし、目の前で命が助からなかったこともあります。そういう経験があるから、次は同じことを繰り返したくないと思って助産の判断をします。

だから、動画の一場面だけを見て「乱暴だ」と言われると、正直、少し揺れることはあります。ここは感情を一度だけ少し掘るなら、やはりあります。自分が何度も悔しい思いをしてきた場所に対して、映像の切り抜きだけで評価されると、やりきれなさが残るのは事実です。

ただ、それでも配信をやめようとは思いません。むしろ、そこに誤解があるなら、現場から言葉を返していくしかないと思っています。

だから私は今、こう考えています

「可哀想」という言葉にどう向き合うか。

今の私は、こう考えています。

まず、その感情そのものは否定しない。

でも、その感情だけで現場を決めつけない。

そして、現場にいる側は「分からないなら黙っていて」と切り捨てるのではなく、なぜそうするのかをできるだけ言葉にしていく。

この往復がないと、産業動物の現場はますます遠いものになります。

日曜のコメント返しは、単なる雑談ではなく、そういう距離を少しでも縮めるための時間なのだと思っています。応援の言葉も、厳しい言葉も、どちらも受け取りながら、その中で自分の立ち位置を考え続ける。たぶんこれからも、その繰り返しです。

酪農の現場は、優しさだけでも、正しさだけでも回りません。命と生活の間で、毎日判断を積み重ねていく仕事です。そのことを、これからもできるだけ誤魔化さずに発信していきたいと思っています。

そしてもしこの記事を読んでくださった方が、次に牛や酪農の映像を見たとき、「可哀想」で止まる前に一度だけ、「なぜこの人はこうしているのだろう」と考えてくれたら。それだけでも、書いた意味はあるのかなと思います。

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