R7年研修生と配信 #41
2026-01-25 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://youtu.be/9K6UZEFPnHk
牛舎の中で搾乳がひと段落して、少し手を止めたタイミングでした。
外は冷たい空気で、1月らしい張り詰めた感じがあります。バルクの温度を確認して、牛の様子を一通り見てから、研修生と一緒に今日の配信の準備をしていました。
そのとき、研修生が一冊のカタログを見ながら、ぽつりと聞いてきたんです。
「お肉って、A5が一番美味しいんですよね?」
この質問は、正直なところよく聞かれます。そして同時に、説明が難しい話でもあります。今日はそのやり取りを通して、
「牛肉の格付け」と「消費者と生産者のズレ」について、現場の感覚から整理してみたいと思います。
「A5が一番美味しい」というイメージ
まず前提として、多くの人が持っているイメージがあります。
「A5ランク=高級で美味しいお肉」
これは間違いではないのですが、少しだけズレています。
牛肉の格付けは、「A・B・C」と「1〜5」の組み合わせで表されます。
・A・B・C:どれだけ歩留まりが良いか(どれだけ多く肉が取れたか)
・1〜5:肉質(主に脂の入り具合)
つまり、A5というのは「たくさん肉が取れて、脂の入りも良い」という意味になります。
ここで一つ、現場の感覚として伝えておきたいのは、
A・B・Cは味の評価ではないということです。
味は「A・B・C」で決まらない
研修生にも話したのですが、例えば「A5」と「C5」を比べたとき、味そのものに大きな差があるかというと、そうとは限りません。
違うのはあくまで「どれだけ効率よく肉が取れたか」です。
生産者目線で言えば、Aの方が評価が高く、収益にもつながりやすい。これは事実です。
ただ、消費者がスーパーで購入する段階になると、すでにカットされ、パッキングされているため、「AかCか」を意識することはほとんどありません。
ここに一つのズレがあります。
赤身肉は評価されにくい構造
もう一つ、現場で感じていることがあります。
それは、赤身肉の評価が難しいということです。
例えば、褐毛和種や短角種といった品種は、脂の多さではなく「赤身の美味しさ」を特徴にしています。しかし格付けの基準は脂の入り方が中心なので、どうしてもA5のような評価にはなりにくい。
つまり、
・赤身で美味しい肉でも評価が低く見える
・消費者にはその違いが伝わりにくい
という構造になっています。
最近は赤身肉の価値を見直そうという動きもあり、別の指標が出てきていますが、まだ一般には広がっていません。
消費者の好みは変わり続ける
ここで少し視点を広げてみると、面白いことが見えてきます。
昔は「霜降りが美味しい」と言われていた時代がありました。だから生産者は努力して、霜降りの多い牛を作ってきました。
ところが最近は、
「脂が多すぎるのはちょっと…」
「赤身の方がいい」
という声も増えてきています。
これ、よく考えると不思議な話です。
求められていた方向に全力で進んだ結果、今度は別の方向が求められる。
これは牛肉だけの話ではありません。
イチゴもそうです。昔は酸っぱいと言われていたものが、品種改良でどんどん甘くなりました。すると今度は「甘すぎる」という声が出てくる。
スイカも大きい方がいいと言われていたのに、
「食べきれないから小さい方がいい」と言われるようになる。
振り子のように、価値は行ったり来たりしています。
品種改良と倫理の話
研修生との会話の中で、「品種改良って怖いですね」という言葉が出てきました。
この感覚も、すごくよく分かります。
ただ、現場にいると少し見え方が変わります。
例えばトマトやジャガイモの原種は、苦味や毒を持っているものもあります。それを改良して、今のように食べやすくなっている。
牛も同じで、もともとの野生種から改良されてきた歴史があります。
だから「品種改良=怖い」というよりは、
どこまでやるかという倫理の問題
だと感じています。
特に人間に応用されたときの話になると、一気に話の重さが変わります。このあたりは、技術の問題というより、社会全体で考えるべきテーマなのかもしれません。
国産牛と流通のリアル
もう一つ、現場として伝えておきたいのは「国産牛」の話です。
スーパーで「国産牛」と書かれているものの多くは、ホルスタインの可能性が高いです。いわゆる和牛とは違います。
ただ、ここもシンプルではありません。
価格の問題があります。
・国産を選んでほしい
・でも価格が上がりすぎると消費者は困る
さらに、海外との関係もあります。
例えば豚熱や鳥インフルエンザなどが発生すると、輸入が止まり、一気に価格が上がります。
つまり、
普段は安定しているグローバル流通も、リスクがあると一気に崩れる
ということです。
そのときに、国内の生産基盤が弱っていると、対応が難しくなります。
ここまでの整理
ここまでの話をまとめると、
・格付けは味だけで決まるものではない
・赤身肉の価値はまだ十分に伝わっていない
・消費者の好みは変わり続ける
・品種改良は技術と倫理の両面がある
・食料はグローバルとローカルのバランスで成り立っている
ということになります。
私が今考えていること
ここまで話してきて、正直なところ、シンプルな結論は出ません。
ただ一つ感じているのは、
「分かりやすさ」と「本当の価値」は一致しないことが多い
ということです。
A5という分かりやすい指標は便利です。でも、それだけでは測れない価値が確実にあります。
そして、その価値をどう伝えるかは、まだ途中の段階だと思っています。
生産者としても、消費者としても、まだ答えを探している途中です。
だから私は、こういうやり取りを大事にしたいと思っています。研修生との会話のような、小さな疑問から考えること。
それを積み重ねていくしかないのかなと、今は考えています。
もしこの記事を読んで、
「じゃあ自分は何を基準に肉を選べばいいんだろう」
と思った方がいれば、それはすごく自然なことだと思います。
その問い自体が、今の食の状況を表しているのかもしれません。
私もまだ考えています。
牛舎に戻りながら、また少し続きを考えてみようと思います。
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