日曜コメント返し!日本人は昔から牛乳を飲んでいた?日本の酪農史を考える

2026-08-02 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

「日本人は、昔から牛乳を飲んでいたんですか?」

この問い、簡単そうに見えて、調べてみるとかなり面白いです。

僕も音声配信の中では、

「昔の日本では牛は農作業や運搬のために飼われることが多くて、牛乳を飲む文化はほとんどなかった」

という話をしました。

ところが、配信後に改めて調べてみると、これが半分正しくて、半分違っていました。

なんと日本で牛乳を利用した記録は、飛鳥時代までさかのぼります。

しかも江戸時代には、今の青森県や岩手県あたりで搾った牛乳を、竹筒に入れて何日もかけて盛岡まで運んだ記録まで残っています。

牛乳って、思っていた以上に長いこと日本人のそばにいたんです。

ただし。

ここが大事なのですが、

「昔から牛乳を飲んでいた人がいた」ことと、「日本に牛乳を飲む文化が定着していた」ことは同じではありません。

今週の日曜コメント返しは、いただいたコメントを振り返りながら、最後にこの「日本人と牛乳の歴史」を少し深掘りしてみます。

36℃の日曜日。山口から帰ってきました

この日の出雲は最高気温36℃。

8月に入った途端、

「はい、本気出します」

と言わんばかりの暑さです。

前日は子どもと一緒に、お隣の山口県までジブリの美術展を見に行っていました。

島根県と山口県は隣同士なんですが、まあ遠い(笑)。

それでも行ってよかったです。

子どもの頃に見ていたジブリ作品と、親になってから見るジブリ作品って、同じ作品なのに見えるものが違うんですよね。

昔はサツキやメイの目線だったのに、今はお父さんやお母さんの気持ちが気になる。

もう少し歳を重ねたら、おばあちゃんの目線で見るようになるんでしょうか。

作品は同じなのに、自分が変わることで見え方が変わる。

これって、牛乳も同じだと思います。

スーパーでいつも見ている牛乳も、

「飲み物」

として見るのか、

「農家が地域で作っている栄養」

として見るのか、

「何百年、何千年と人間が利用してきた食文化」

として見るのかで、まったく違って見えてきます。

僕が毎日の配信でやりたいのは、たぶんこういうことなんですよね。

牛乳をたくさん飲んでください、と言うだけじゃない。

いつもの牛乳を、ちょっと違う角度から見てもらう。

そんな入口を作りたいと思っています。

「牛乳か、オーツミルクか」で考えなくてもいい

まずはYouTubeにいただいたコメントから。

以前、「酪農家がオーツミルクを作る意味はある?」という配信をしました。

そこで僕が話したのが、

「農家は、地域の栄養を作る仕事と考えてもいいのではないか」

という話です。

コメントでは、

「牛乳とオーツミルクは対立するものだと思っていたけれど、どちらも必要なのかもしれませんね」

という反応をいただきました。

僕は、この考え方が好きです。

牛乳 VS オーツミルク。

畜産 VS 植物性食品。

どちらが正しいのか。

そうやって勝ち負けにしてしまうと、食文化ってどんどん狭くなってしまいます。

でも地域に牛がいて、米があって、麦があって、大豆があって、それぞれを組み合わせながら「この地域の人たちが何を食べて生きていくのか」を考えたら、見え方が変わります。

例えば、

牛乳とオーツを組み合わせた商品があってもいい。

乳製品と地域の農産物を組み合わせてもいい。

農家の仕事を「一つの商品を作る人」ではなく、

地域の食と栄養を作る人

と捉えると、農業の可能性はもっと広がるんじゃないかなと思っています。

1年前の配信を、今になって見つけてもらえる

続いて、

「うなぎ×牛乳ってあり?」

という、かなり昔の配信へのコメント。

土用の丑の日に、

「“う”が付くなら牛乳でもいいじゃないか」

というところから話した回です。

うなぎと牛乳。

文字だけ見ると、

「いや、そのままうなぎ食わせてくれ」

と思いますよね(笑)。

でもAIに、

「この食材と乳製品を組み合わせるなら?」

と聞いてみると、グラタンやドリア、ソースなど、自分では思いつかなかった料理が結構出てきます。

こういうAIの使い方は面白いと思っています。

正解を全部AIに決めてもらうんじゃなくて、

自分では思いつかない組み合わせを出してもらう。

そこから人間が、

「これはおいしそう」

「これはさすがにないだろう」

と選ぶ。

料理も農業も、AIはこういう“発想を広げる道具”として使うと楽しいです。

そして何より嬉しかったのが、1年前の配信をわざわざ探して聴いてもらえたこと。

毎日音声を配信していると、その日の放送は流れていってしまいます。

でも文字起こしやNote、Podyのようなサービスに残しておけば、半年後、

1年後に誰かの疑問とつながる。

発信って、出した瞬間だけが価値じゃないんですよね。

「牛乳が好きだけど、お腹がゴロゴロする」

Instagramには、こんなコメントもいただきました。

以前は牛乳を1日2リットルくらい飲んでいたけれど、ある時からお腹がゴロゴロするようになった。

ヨーグルトやチーズなら大丈夫。

冷たい牛乳を一気に飲まず、温めたり少しずつ飲んだりしながら付き合っているそうです。

こういうコメントもありがたいです。

「牛乳は体にいいから飲みましょう」

だけでは現実は語れません。

人によって体質も違えば、年齢や食生活も違います。

牛乳が合わない人もいます。

牛乳そのものは難しくても、ヨーグルトやチーズなら食べられる人もいます。

大事なのは、

牛乳を飲めるか飲めないかで人を二分しないこと。

食べ物との付き合い方には、それぞれの人なりの選択肢があっていいと思っています。

これはオーツミルクの話ともつながります。

選択肢が増えることは、牛乳の敵ではありません。

いろんな人が、それぞれ自分に合った形で食を楽しめる。

そのほうが豊かな食文化だと思います。

そして来た「日本人は昔から牛乳を飲んでいた」というコメント

さて、ここからが今回いちばん面白かったコメントです。

TikTokの

「牛乳は本当に危険なのか?」

という動画に、

「日本では昔から農業で牛を飼ってきたから、一部では牛乳を飲んでいた歴史がありますよ」

というコメントをいただきました。

配信では僕が、

「日本の牛は農耕や運搬に使われる役牛として飼われることが中心で、牛乳を飲む文化は一部を除いてほとんどありませんでした」

という説明をしました。

さらに、

「徳川の将軍が牛を導入して千葉で酪農を始めた」

という話をしたんですが、ここで将軍の名前があやふやになっていました。

調べ直しました。

8代将軍・徳川吉宗です。

1728年、徳川吉宗がインド産とされる白牛3頭を現在の千葉県南房総地域にあった嶺岡牧で飼育し、その乳から「白牛酪」という乳製品を作らせたことが、現在「日本酪農発祥」の一つの大きな節目とされています。

……と、ここまでは配信で話した内容に近い。

ところが調べてみると、そのずっと前から乳の記録が出てきます。

日本の牛乳史は、飛鳥時代までさかのぼる

農林水産省の資料では、孝徳天皇の時代、645~654年ごろに渡来人によって牛乳が献上され、日本での飲用が始まったとされています。

その後、牛乳を搾る人たちがいて、牛乳を煮詰めて作る「蘇(そ)」という乳製品も作られました。

蘇は、今のチーズそのものとは違いますが、牛乳を長時間煮詰めて水分を飛ばして作った食品です。

つまり約1300年以上前の日本人が、

牛を飼い、

乳を搾り、

加工して食べていた。

これは結構驚きませんか?

僕自身、酪農家として牛乳の歴史を知っているつもりでしたが、改めて調べると面白いです。

ただし、ここで注意したいのが、

当時の日本人みんなが牛乳を飲んでいたわけではない

ということ。

牛乳や蘇は、主に天皇や貴族など上流階級を中心に、栄養や薬のような位置づけで利用されていました。

現在のように、

「冷蔵庫を開けたら1リットルパックがある」

という世界とはまったく違います。

だから、

「日本人は昔から牛乳を飲んでいた」

も間違いではない。

一方で、

「日本には昔から牛乳を日常的に飲む文化があった」

と言うと、少し意味が変わってきます。

ここを分けて考える必要があります。

さらに驚いた。江戸初期、牛乳を竹筒で運んでいた

そして今回、僕が一番面白いと思ったのがこれです。

江戸時代初期。

1649年から1651年ごろ、現在の青森県下北半島や岩手県北部で牛を搾乳し、その乳を竹筒に入れて盛岡まで運んだ記録が残っています。

一次史料の「南部藩雑書」にも記録されているそうです。

徳川吉宗が嶺岡牧で白牛を飼育する70年以上前です。

これを知ると、TikTokでいただいた

「一部では昔から牛乳を飲んでいた歴史がありますよ」

というコメント。

その通りなんですよね。

コメントをもらわなければ、僕もここまで調べなかったと思います。

これがコメント返しの面白いところです。

僕が一方的に教えているんじゃない。

発信して、

「それって本当?」

「こんな話もありますよ」

と返ってきて、

また調べる。

すると僕自身の知識も更新されていく。

毎日の配信を続ける意味の一つは、ここにあると思っています。

では、なぜ日本に「牛乳文化」が定着しなかったのか

ここが次の疑問です。

飛鳥時代から乳利用があった。

江戸時代にも一部地域で搾乳していた。

それなのに、なぜ昔の日本の食卓に牛乳が定着しなかったのでしょうか。

ポイントを整理すると、

・古代の乳利用は主に上流階級や薬用だった

・牛は農耕や荷物の運搬にも重要だった

・乳利用が全国の庶民の日常食として連続して広がったわけではない

・保存や輸送が難しかった

・近代になって流通、衛生、乳牛、加工技術が大きく変化した

という違いがあります。

つまり、

「牛がいる」だけでは酪農にならない。

乳を搾る技術がある。

毎日搾れる牛がいる。

腐らせずに運べる。

衛生的に処理できる。

買ってくれる人がいる。

加工できる。

こうした仕組み全部がそろって、初めて「産業としての酪農」になります。

この視点で見ると、1728年の徳川吉宗と嶺岡牧が「日本酪農発祥」とされている意味も見えてきます。

そして幕末から明治になると、牛乳を売る商売が本格化します。

Jミルクの資料では、1863年に横浜で前田留吉が牧場を開き、牛乳販売を始めた記録があります。当初は大きな缶に牛乳を入れ、柄杓ですくって量り売りしていました。

そこから文明開化とともに牛乳が注目され、栄養や育児との関係が語られ、少しずつ一般家庭に近づいていきます。

さらに学校給食などを通じて、戦後に牛乳が日常の食文化として大きく定着していきました。

保存用|日本の牛乳史をざっくり並べると

今回調べた内容を、ものすごく簡単に整理します。

飛鳥時代

牛乳が天皇に献上された記録。乳を煮詰めた「蘇」も作られる。

↓

奈良・平安時代

皇族や貴族などを中心に、牛乳・乳製品が薬餌のように利用される。

↓

その後

乳利用は一般庶民の日常文化として定着せず、存在感が薄くなる。

↓

江戸時代初期

南部藩など、一部地域には搾乳・乳利用の記録が残る。

↓

1728年

8代将軍・徳川吉宗が嶺岡牧に白牛を導入。「白牛酪」が作られ、日本酪農発祥の重要な節目となる。

↓

幕末〜明治

都市を中心に牛乳販売が始まり、近代的な酪農・乳業が広がる。

↓

戦後

学校給食や食生活の変化とともに、牛乳が一般家庭の日常へ。

こうして見ると、

「日本人は昔から牛乳を飲んでいた?」

への答えは、

「はい。ただし、今のような牛乳文化がずっと続いていたわけではありません」

になると思います。

世界では、もっと長い

ちなみに世界に目を向けると、乳利用の歴史はさらに古いです。

考古学的には、現在の近東や南東ヨーロッパで約9000年前には家畜の乳を利用していた証拠が確認されています。

9000年前ですよ。

冷蔵庫もない。

殺菌機もない。

ステンレスのバルククーラーもない。

当然、搾乳機もない。

それでも人間は、

「この動物、殺さなくても毎日栄養を分けてもらえるぞ」

と気づいた。

これはものすごい発見だったと思います。

肉は食べればなくなります。

でも乳は、動物を生かしたまま何度も得ることができる。

だから牧畜と乳利用は、人類が厳しい環境で生きていくための一つの方法になっていったのでしょう。

そう考えると、毎朝僕が当たり前のように搾っている牛乳も、人間と家畜が何千年もかけて作ってきた関係の延長線上にあります。

コメント一つで、牛乳の見え方が変わる

今回、

「日本では昔から一部で牛乳を飲んでいた歴史があります」

という短いコメントから、ここまで話が広がりました。

これだからコメント返しは面白いです。

僕は酪農家ですが、酪農のことを全部知っているわけではありません。

むしろ毎日牛を飼っているからこそ、

「知らなかった」

「思い込んでいた」

「調べ直したら違っていた」

ということがたくさんあります。

そういう時は、発信した内容をこっそりなかったことにするんじゃなくて、

「調べたらこうでした」

と更新していけばいいと思っています。

農業も、牛乳も、歴史も、正解を覚えて終わりではありません。

新しい資料が出たり、違う地域の話を聞いたりすると、見え方が変わります。

ジブリを子どもの頃と大人になってから見たら、同じ作品でも違って見えるように。

いつも飲んでいる牛乳も、背景を知ると少し違って見える。

それが、川上牧場の発信で届けたいことなのかもしれません。

皆さんの地域にも、

「昔、牛を飼っていた」

「おじいちゃんからこんな話を聞いた」

「昔はこうやって乳を使っていた」

という話が残っていたら、ぜひ教えてください。

特に知りたいのは、

教科書には載っていない“地域の牛と人の記憶”です。

もしかすると、まだ知られていない日本の牛乳史が残っているかもしれません。

また日曜日のコメント返しで、一緒に掘っていきましょう。

今日も牛乳を飲んでいただいて、ありがとうございます。

牛乳飲んでね。

バイバイ。

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