牛1頭から牛肉は何%とれる?「捨てるところがない」は本当なのか調べてみた
2026-08-10 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
配信アプリを通じて、 リスナーさんから質問をいただきました。
「牛さんが役目を終えて、 お肉になったりすると思いますが、
そのほかに、 どのような商品になったりするのでしょうか?」
「捨てるところがないのでしょうか?」
いい質問です。
「牛は捨てるところがない」
これはよく聞く言葉ですが、 本当なのかどうか。
調べてみました。
お盆前の月曜日の牧場から
今日は8月10日、月曜日。
曇りのち晴れの予報です。
昨日の夜に少し雨が降ったので、 今朝はそれほど暑くありません。
最高気温は33度。
週の始まりの月曜日ですが、 明日はまた祝日ですよね。
お盆休みで、 今日からお休みというところも多いと思います。
牧場は、休まずやっています。
今日の仕事は、 来月の職場体験で来てくれる中学生との打ち合わせ。
それと、事務作業です。
書類を作らないといけないものが、 いくつか溜まっています。
先に結論を言います
「牛は捨てるところがない」
この言葉は、 半分正しくて、半分違います。
ここから、 なぜそう言えるのかを説明していきます。
牛1頭が、全部お肉になるわけではありません
まず、基本から。
生きている牛の重さを、 「生体重」と呼びます。
この生体重の100%が、 お肉になるわけではありません。
牛がと畜・解体されると、
皮、頭、足、血液、内臓などが 取り除かれます。
残った部分を、 「枝肉」と呼びます。
そして、枝肉からさらに、 骨や余分な脂肪を取り除きます。
これが、 スーパーや飲食店で使われる「部分肉」になります。
つまり、
生体重 ↓ 枝肉 ↓ 部分肉
と、段階的に減っていくんです。
「どれだけお肉がとれたか」も評価されています
日本では、 枝肉に格付けがあります。
その中に、 A・B・Cという歩留まりの等級があります。
一頭の牛から、 どれだけの部分肉がとれたか。
それを評価しているんです。
同じ大きさの牛でも、 とれるお肉の量は違います。
だから、そこも 牛の価値を決める要素になっています。
同じ大きさの牛でも、とれるお肉は違います
歩留まりの話を、もう少しだけ。
同じ体重の牛が2頭いても、 とれる部分肉の量は同じになりません。
骨格の大きさ。 筋肉のつき方。 脂肪のつき方。
このあたりで、差が出ます。
外から見て同じくらいの牛でも、 枝肉にしてみると違う。
だから、枝肉の段階で どれだけ部分肉がとれるかを評価する仕組みがあるんです。
これは、 育てる側にとっても大事な情報です。
結果が数字で返ってくるから、 次の育て方を考えられる。
評価の仕組みがあるから、 改良が進んでいくんです。
枝肉にならなかった部分は、どこへ行くのか
ここからが本題です。
枝肉にならなかった部分。
これを、 「動物副産物」と呼びます。
英語では、 アニマル・バイプロダクト。
ここで大事なのは、
枝肉にならなかった =ゴミ、ではないということです。
ひとつずつ見ていきます。
皮は、身のまわりの革製品になります
まず、皮です。
牛の皮は、 適切な処理と、なめし加工を経て、
いろいろな製品の原料になります。
靴。 バッグ。 ベルト。 財布。 家具。
身のまわりの革製品の多くは、 実は、食肉の副産物から生まれています。
革製品のために 牛を育てているわけではありません。
お肉になった牛の皮が、 革になっている。
この順番は、 知っておいてほしいところです。
脂肪と骨は、資源に変わります
次に、脂肪と骨です。
これは、 「レンダリング」という処理をします。
加熱して、分離する処理です。
そうすることで、 油脂や、たんぱく質の資源に変わります。
骨や脂肪も、 そのまま捨てられているわけではないんです。
血液も、内臓も
血液も、 単なる廃棄物ではありません。
一定の条件を満たすものは、 別の製品の原料として使う工程があります。
そして内臓。
内臓は、二つに分かれます。
食べられるもの。
ハツ。 レバー。 ミノ。 センマイ。
焼肉屋さんでおなじみですよね。
そして、食用に適さないものは、 別の処理に回ります。
全国の「廃棄率」は、実は分かりません
では、日本全体で、
牛1頭の生体重のうち、 何パーセントが最終的に捨てられているのか。
調べてみたのですが、
全国で統一された公的な統計は、 見当たりませんでした。
理由は、さっき書いたとおりです。
肉にならない部分が、 全部廃棄物になるわけではないから。
皮になるもの。 油脂になるもの。 内臓として食べられるもの。 別の処理に回るもの。
行き先がばらばらなので、 一つの数字にまとめられていないんです。
必ず焼却しなければならない部位もあります
一方で、 「使えるのに使っていない」のではなく、
「使ってはいけない」部位もあります。
BSE対策です。
日本では今も、
異常プリオンたんぱく質が たまる可能性のある特定の部位を、
取り除いて焼却することが 義務づけられています。
全月齢の牛では、 扁桃と回腸の遠位部。
30か月齢を超える牛では、 さらに頭部の一部、脊髄、脊柱が対象になります。
これは、 もったいないから使おう、という部分ではありません。
食品の安全のために、 確実に排除しなければならない部分です。
統計がない、ということの意味
さっき、 全国の廃棄率の統計は見当たらなかった、と書きました。
これは、 調べ方が足りなかったというより、
測り方が難しい、 ということだと思っています。
皮は、なめし工場へ。 脂肪や骨は、レンダリングの工場へ。 食べられる内臓は、食肉の流通へ。 焼却が必要な部位は、焼却へ。
行き先がばらばらで、 それぞれ別の事業者が扱っています。
一頭の牛が、 いくつもの業界に分かれていくんです。
だから、 一頭分を最後まで追いかけた数字が 出てきにくい。
逆に言えば、
牛一頭のうしろには、 それだけ多くの仕事と人がいる、
ということでもあります。
ヨーロッパは、仕組みで振り分けています
海外の例も見てみました。
EUでは、 動物副産物が年間2000万トン以上発生しています。
そしてEUでは、 これを栄養価やエネルギー価値のある資源として、
いくつものルートに振り分ける仕組みが 整備されています。
食品。 皮。 ゼラチン。 油脂。 肥料。 堆肥。 バイオガス。
どこに何を回すかが、 仕組みとして決まっているんです。
だから「半分正しくて、半分違う」
ここで、最初の結論に戻ります。
「牛は捨てるところがない」
これは、半分正しいです。
牛のほぼ全身に、 何らかの使い道が考えられている。
その意味では、実態に近い。
でも、半分違います。
100%が商品になる、 という意味ではないからです。
食品安全のために、 焼却が必須の部分がある。
検査で廃棄になる部分もある。
そして、 地域や施設や需要や採算によって、
実際にどれだけ資源になるかは 変わってきます。
ここを、 三つの数字に分けて考えると分かりやすいと思います。
使える可能性がある割合。 実際に資源になっている割合。 最終的に捨てられている割合。
この三つは、 同じ数字ではありません。
中学生に、この話をするとしたら
今日の打ち合わせの相手は、 来月職場体験に来てくれる中学生です。
もし中学生に、 この「捨てるところがない」の話をするとしたら。
僕はたぶん、 こう伝えると思います。
「使えるところは、全部使おうとしている」
「でも、全部使えているわけじゃない」
「そして、使ってはいけないところもある」
この三つです。
大人でも、 一つめだけを覚えて帰ることが多いと思います。
「捨てるところがない」
きれいな言葉なので、 そこで止まってしまう。
でも、本当に大事なのは 二つめと三つめなんです。
使い切れていない部分があるから、 工夫の余地がある。
使ってはいけない部分があるから、 食べ物の安全が守られている。
そこまで知ってもらえたら、 職場体験に来てもらう意味があると思っています。
牛乳を出し終えた牛のこと
酪農家として、 やっぱり触れておきたいことがあります。
乳牛の最後です。
牛乳を出し終えた牛は、 お肉になります。
黒毛和牛のように 高級なお肉として並ぶことは少ないですが、
加工用のお肉などとして使われていきます。
そして、その牛の皮も、 脂肪も、骨も、内臓も、
今日書いたのと同じ道を通っていきます。
毎日、牛乳をもらってきた牛です。
最後まで、 何かの役に立ってほしい。
酪農家なら、 たぶん誰もがそう思っています。
だから今日の質問は、 僕にとっても、他人事ではありませんでした。
酪農家として、思っていること
最後に、少しだけ。
乳牛も、いつかは 役目を終える日が来ます。
牛乳を出し終えた牛も、 お肉になります。
僕らは毎日、 その牛たちから牛乳をもらっています。
だからこそ、
最後まで無駄なく使われてほしい、 という気持ちはあります。
でも、同時に、
「捨てるところがない」という きれいな言葉だけで終わらせたくない、
とも思っています。
焼却しなければならない部位がある。
使い道があっても、 採算が合わなくて使われない部分がある。
それも含めて、 知ってもらえたらと思います。
消費者の方にできること
では、消費者の方に何ができるのか。
たとえば、 ホルモン焼きを食べること。
内臓が食べられるものとして流通するのは、 食べる人がいるからです。
革製品を選ぶときに、 それが食肉の副産物だと知っておくこと。
小さなことですが、
「使い道がある」を 「実際に使われる」に近づけるのは、
最終的には、 使う人がいるかどうかなんです。
「もったいない」と「安全」は、ときどき対立します
最後に、 少しだけ難しい話をします。
「もったいない」という気持ちと、 「安全」という基準は、
ときどき、ぶつかります。
BSE対策で焼却する部位は、 まさにその例です。
食べられる部分があっても、 リスクがゼロにならないなら、使わない。
それが今の日本のルールです。
僕はこれを、 正しい判断だと思っています。
もったいないから使う、 ではなく、
安全が確かめられたものだけを使う。
その順番が、 食べ物への信頼を支えています。
お盆に、「いただきます」を
今週はお盆です。
帰省して、 家族でごはんを食べる方も多いと思います。
焼肉を囲む家もあるかもしれません。
そのとき、 ハツやミノが並んでいたら、
それは、 その牛の一部がちゃんと食卓に届いた、 ということです。
革の財布を持っていたら、
それも、どこかの牛の 一部かもしれません。
「いただきます」は、 お肉の部分にだけ向ける言葉ではないと思っています。
一頭の牛が、 いろいろな形に分かれて、
いろいろな人のところに届いている。
そのことを、 少しだけ思い出してもらえたら嬉しいです。
今回のポイント
・「牛は捨てるところがない」は、半分正しくて半分違う
・生体重 → 枝肉(皮・頭・足・血液・内臓を除く)→ 部分肉(骨や余分な脂肪を除く)と段階的に減っていく
・日本の枝肉格付けには、どれだけ部分肉がとれたかを評価する歩留まり等級(A・B・C)がある
・枝肉にならなかった部分は「動物副産物」。ゴミではない
・皮はなめして靴・バッグ・ベルト・財布・家具に。脂肪と骨はレンダリングで油脂やたんぱく質資源に
・内臓はハツ・レバー・ミノ・センマイなどが食卓へ。食用に適さないものは別処理 ・全国統一の「廃棄率」の公的統計は見当たらない
・BSE対策で、全月齢は扁桃・回腸遠位部、30か月齢超はさらに頭部の一部・脊髄・脊柱の除去・焼却が義務
・EUでは年間2000万トン以上の動物副産物を、食品・皮・ゼラチン・油脂・肥料・堆肥・バイオガスに振り分ける仕組みがある
・「使える割合」「実際に資源化される割合」「最終的に捨てられる割合」は別の数字
最後に、あなたに質問です。
今、身のまわりにある革製品。
それが、どこから来たものか 考えたことはありますか。
コメントで教えてください。
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