川上牧場酪農教育ファーム(地元小学生の受け入れ)
2021-05-14 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
特色のない牧場でもできる、という思いから始まった川上牧場の酪農教育ファーム。子牛とのふれあいや餌やり体験、数字で見る牛の暮らし、そして最後の「牛の一生」まで、命と食のつながりを子どもたちに手渡す1日になりました。
この回の要点
- 川上牧場は3代目、約40年続く乳牛の牧場で、親牛40頭・子牛40頭のあわせて80頭ほどを飼っている
- 牛は700キロ、1日に餌30キロ・水200リットルをとり、1頭から1日30リットルの牛乳が出る
- 牛は4つの胃袋と微生物の力で、人間が食べられない草を牛乳やお肉に変えてくれる
- 牛乳を搾るのはメスだけで、オスや役目を終えた牛はお肉になる
- 川上さんは、牛にも「いただきます」の気持ちを持ってほしいと子どもたちに伝えた
配信の全文(podyの記事より)
「特色のない牧場でもできる」という思い
この日、川上さんは地元の小学校3年生を川上牧場に迎え入れ、その様子を音声配信することにしました。職場体験のような見学です。
川上さんが最初に伝えたのは、酪農教育ファームへのハードルの感じ方についてです。難しそうに思われがちだけれど、そうではないという思いがありました。
川上 こんな何も特色のない牧場でも酪農教育ファームができるよっていうのが伝わればいいなと思ってます。
酪農教育ファーム 牧場を、子どもたちが牛や乳製品、命の大切さを学ぶ「学びの場」として活用する取り組みです。餌やりや見学などを通じて、食や農業への理解を深めることを目的としています。
先生からは事前にたくさんの質問が届いていました。ただ時間内にすべては答えきれないため、まずは餌やりや牛の説明をひととおり見てもらい、最後に質問を受ける流れで進めることになりました。
牧場での4つの約束
子どもたちが牧場に入る前に、川上さんはいくつかの「約束」を読み上げました。ここが遊園地や動物園ではなく、仕事の現場だという前提を最初に共有します。
川上 ここは動物園とか遊園地じゃなくて、牛を飼って牛の牛乳を搾ってっていうやる牧場ですね。
1つ目は、危ないものがたくさんあるので勝手に触らないこと。2つ目は「牛に優しく」で、大きな声や急な動きは牛をびっくりさせてしまうという理由もあわせて説明されました。
川上 牛のお家に今知らない人がいっぱい来て、大きい声出したり、キャーとか言ったりしたら、みんなの家だったらどうですか?
3つ目は「手を洗おう」です。牛に触った手には細菌がついていることがあるため、牛舎を出るときと、学校で給食を食べる前にしっかり手を洗うよう伝えました。
さらにコロナウイルス対策として、入るときと出るときにマットを踏み、川上さんがアルコールを手にかける流れも案内されました。
牧場に入る前の4つの約束
1
危ないものに触らない
いろんな機械があり、勝手に触ったり触れたりしない
2
牛に優しく
大きな声や急な動きは牛をびっくりさせてしまう
3
手を洗おう
牛に触った手には細菌がつくので、出たあとと給食前に洗う
4
マット&消毒
入る時・出る時にマットを踏み、手にアルコールをすり込む
生まれて1週間の子牛「さちえちゃん」
牛舎に入ると、まず子どもたちを迎えたのは生まれて1週間の赤ちゃん牛でした。名前は「さちえちゃん」です。
体重はだいたい30キロほど。8歳の子どもたちの体重を聞くと「21キロ」という声もあり、生まれたばかりの子牛のほうが大きいことがわかりました。
怖がる子もいましたが、川上さんがしっかり支えているので大丈夫と伝え、触れる子から順番に子牛にさわっていきます。
小学生 すごいすごい。あったかい。
モフモフでふさふさの毛の感触に、子どもたちからは「かわいい」「あったかい」という声が上がりました。多くの子にとって、牛を実際に見るのはこの日が初めてでした。
40年、3代目。川上牧場という場所
子牛にふれあったあと、川上さんは牧場そのものの話を始めました。川上牧場は川上さんで3代目、おじいちゃんの代からおよそ40年、牛を飼ってきた牧場です。
川上さん自身は、もともと牛のいない家で育ちました。奥さんの実家が川上牧場で、そこに入って酪農をしているという背景も、子どもたちと同じ目線で語られます。
川上 ずっとちっちゃい時から牛がいたわけじゃないんですよ。
牛舎には自動の餌やり機や、溝の中を動く自動のふん掃除の機械、牛乳を搾るパイプラインなど、いろいろな機械があることも紹介されました。
700キロの牛が飲む水は1日200リットル
ここから川上さんは、牛の体の大きさや食べる量を数字で見せていきます。生まれたばかりの子牛が約30キロなのに対し、大人になった牛は700キロにもなります。
1日に食べる餌はおよそ30キロ、飲む水はなんと200リットル。牛は水飲みカップの鼻で押して、自分で水を出して飲みます。
小学生 水の量。うわー。
そして1頭から出る牛乳は1日およそ30リットル。給食の200ミリリットルの牛乳に置き換えると、150本分にあたります。
川上牧場全体では、1日に1200リットルの牛乳が出ます。親牛が40頭、子牛が40頭、あわせて80頭ほどを飼っている牧場です。
1頭の牛の1日(数字で見る)
700kg
大人の牛の体重(子牛は約30kg)
200L
1日に飲む水の量
30L
1日に出る牛乳の量(給食牛乳150本分)
なぜメスしかいないのか
子どもたちが「茶色の牛がいる」「オス?メス?」と反応する中で、川上さんはクイズを投げかけます。お父さんとお母さん、どちらからおっぱいが出るか、という問いです。
Q
(川上さん)お父さんとお母さん、どっちからおっぱい出ましたかね?
A
回答
答えはお母さん。牛乳を搾る牧場なので、川上牧場にいるのはメスの牛だけです。おっぱいがあるのがその証拠として示されました。
では、生まれたオスの牛はどうなるのか。川上さんは、オスが生まれたらお肉にするための牧場に譲り、そこで大きく育ってお肉になると説明しました。
川上 なのでうちにはオスが一頭もいません。今んとこ。
胃袋は4つ。微生物が支える牛の体
続いて話は牛のお腹の中へ。川上さんは、牛の胃袋が4つに分かれていることを子どもたちに問いかけながら伝えていきます。
一番大きい胃袋には草が入り、その中には微生物がたくさんいます。人間はご飯を胃で消化しますが、牛の仕組みは少し違います。
川上 牛さんは草を食べて、その草を微生物が消化して、その微生物が増えて微生物が死んだ死骸を食べて牛さんは大きく体がなってます。
つまり、この微生物がいないと牛は生きていけません。牛は微生物と一緒に、人間が食べられない草を消化しているのです。
そして川上さんは、この仕組みの意味を子どもたちに投げかけます。人間が食べられない草を、牛乳やお肉に変えてくれているのが牛の役割だと伝えました。
川上 みんなそこら辺の草食べて大きくなれる?だけど牛さんが食べてくれて、牛乳やお肉食べたらみんな大きくなれるでしょ。
牛の4つの胃袋 牛は第一胃から第四胃までの4つの胃を持つ反芻動物です。特に大きな第一胃には無数の微生物がすみ、人間が消化できない草の繊維を分解します。この働きが牛の体づくりを支えています。
餌やり体験。緑の草と茶色の草
牛の体の話のあとは、いよいよ餌やり体験です。川上さんは、下に落ちている緑色の草を投げずに手からあげるよう、繰り返し伝えました。
川上 投げちゃダメだよ。暴れちゃうから。みんながびっくりして。
餌には食いつきの違いがあり、緑の草のほうがおいしく、茶色い草はあまり食べないことも実演を通じて子どもたちに伝わっていきます。
さらに川上さんは、中身の見えない餌を配り「何が入っているでしょう」とクイズ形式で子どもたちの興味を引きました。トウモロコシやピーナッツなどが入っていたことが、あとで明かされます。
小学生 舐められる。え、無理。
牛に手を舐められて驚く子もいましたが、川上さんは「あとで手を洗うから大丈夫」と声をかけ、体験を後押しします。
牛に前歯がない理由と、黒毛和牛探し
餌やりの途中、子どもが牛に手を噛まれそうだと不安がる場面がありました。川上さんは「手を入れても大丈夫」と伝え、牛の口の中を見せます。
小学生 牛の歯がない、一つも。
牛には前歯がないため、手を舐められても、餌をあげても大丈夫だという理由が、実物を見せながら説明されました。
また、頭にある角は牛にとって武器で危険なため、川上牧場では子牛のうちに取っていることも伝えられました。
餌やりの合間には、群れの中に1頭だけいる黒毛和牛を探すクイズも。足の先が白いかどうかなどを手がかりに、子どもたちが観察しながら正解を探しました。
川上 この子黒毛和牛ですね。この子だけ黒毛和牛。ちょっとちっちゃいでしょ。
4種類の牛と、餌に入っていたもの
質問コーナーの前に、川上さんはあらためて餌の中身と牛の種類を整理しました。餌にはトウモロコシのほか、綿の実やふすまが入っていました。
綿の実は服の糸などになる綿の実で、ふすまは小麦粉のカスのようなもの。人間が食べにくいものを、牛が牛乳に変えてくれているという話につながります。
牛の種類は4つ。牛乳を搾るホルスタイン、ジャージー牛、ホルスタインレッド、そしてお肉になる黒毛和牛です。
川上牧場にいる牛の種類
品種
色・特徴
役割
ホルスタイン
白黒、いわゆる「牛」の姿
牛乳を搾る
ジャージー牛
茶色
牛乳を搾る
ホルスタインレッド
茶色と白
牛乳を搾る
黒毛和牛
黒
お肉になる
休みは?何時間働く?子どもたちの質問
質問コーナーでは、子どもたちが仕事や暮らしについて次々と手を挙げました。まず出たのは「休みはありますか」という質問です。
牛がいるので基本的に休みはないと言いつつ、川上さんはヘルパーさんに頼んで休みを取れることを説明しました。
川上 家族で旅行にも行くし、2週間に1回は休みを取ろうと思ってるので、そういうことができますね。
酪農ヘルパー 酪農家に代わって搾乳や餌やりなどの作業を行う人のことです。牛の世話は毎日休みなく必要なため、ヘルパーを頼むことで酪農家も休みを取れる仕組みになっています。
「何人で仕事しているか」という質問には、餌やりなどはほとんど1人でしていると回答。昔はできなかったけれど、機械が便利になったことで1人でも回せるようになったといいます。
「何時間働いているか」という質問は難しいと前置きしつつ、川上さんは1日の流れを具体的に語りました。
川上 川上さんは朝の4時に起きて、朝乳搾りして、糞かきして、餌やりやってってやって、また夕方3時ぐらいに餌やりやって乳搾りしてっていうのを毎日繰り返すんだけど、
子牛が生まれたり、病気の牛がいたりすればそのつど対応が必要になります。決まった時間としては、だいたい8時間ほどという答えでした。
最初は2頭から。川上牧場の始まり
質問はさらに続きます。「牛の種類は何種類か」には、ホルスタイン、ジャージー、ホルスタインレッド、黒毛和牛の4種類と答えました。
「牛はどこからやってきたのか」という質問には、川上牧場の始まりが語られます。おじいさんが知り合いから子牛を譲り受けたのがきっかけでした。
川上 うちのおじいさんがホルスタインの子牛2頭を知り合いのとこから譲ってもらって、そこからうちで増やしていって、今の頭数になってる感じですね。
最初はたった2頭。そこから増やして、今の80頭ほどの牧場になったという歩みが伝えられました。「一番重い牛は何キロか」には、1頭1100キロという答えも出ています。
牛の一生。粉ミルクで育つ子牛
最後に川上さんは、子牛も大きな牛も触った子どもたちに向けて、「牛の一生」の話をしました。
赤ちゃんが生まれると、1時間もかからず立ち上がり、そのタイミングで親牛と子牛は離れ離れになります。子牛は川上さんが育てます。
ここで川上さんはクイズを出します。親牛のおっぱいの牛乳は誰のものか。答えは、みんな=人間です。では子牛は何を飲むのか、という問いが続きます。
川上 子牛のミルクは粉ミルクをあげてます。
子牛には、脱脂粉乳の粉ミルクをあげているといいます。夏によく飲まれ冬に余りがちな牛乳を長期保存するために脱脂粉乳にし、それを子牛に飲ませているのです。
脱脂粉乳 牛乳から脂肪分を取り除いて乾燥させ、粉状にしたものです。長期保存がきくため、余った時期の牛乳を無駄にせず活用できます。ここでは子牛のミルクとして使われています。
牛が牛乳を出すまでの成長
生まれてすぐ
1時間ほどで立ち上がり、親と離れて川上さんが育てる
生後2か月ごろ
粉ミルクを卒業し、トウモロコシなどの餌を食べ始める
1歳ごろ
赤ちゃんを産む準備を始める
2歳ごろ
初めて赤ちゃんを産み、牛乳が出るようになる
最後はお肉になる。「いただきます」の話
牛乳を搾りながら、また赤ちゃんを妊娠させることを繰り返していく牛。では、赤ちゃんが生まれなくなったり牛乳が出なくなったりしたら、最後はどうなるのか。
川上 最後はお肉になりますね。みんな食べてるんだよ。
白黒のホルスタインのお肉も、ハンバーグの合い挽き肉や、スーパーの「国産牛」として食べられていることが説明されました。耳の番号を調べれば、どこの牧場で生まれたかもわかるようになっています。
川上さんは、牛が生きている間は牛乳を、死ぬときはお肉を人間にくれていると伝えます。そのうえで「いただきます」を誰に言っているのかを問いかけました。
作った人だけでなく、野菜や魚、お肉の材料を作った人、そして牛にも「いただきます」の気持ちを持ってほしい。牛さんにもいただきますっていう気持ちを、大きな声で言ってほしいと締めくくりました。
牛さんは牛乳を生きてる間にみんなにあげて、死ぬ時もお肉をみんなにくれてます。 ── 川上
見学の最後には先生と子どもたちからお礼が伝えられ、川上さんは「いっぱい牛乳もお肉も食べてください」と送り出しました。
まとめ
特色のない牧場でもできる、という思いから始まった川上牧場の酪農教育ファーム。子牛とのふれあいや餌やり体験、数字で見る牛の暮らし、そして最後の「牛の一生」まで、命と食のつながりを子どもたちに手渡す1日になりました。
- 川上牧場は3代目、約40年続く乳牛の牧場で、親牛40頭・子牛40頭のあわせて80頭ほどを飼っている
- 牛は700キロ、1日に餌30キロ・水200リットルをとり、1頭から1日30リットルの牛乳が出る
- 牛は4つの胃袋と微生物の力で、人間が食べられない草を牛乳やお肉に変えてくれる
- 牛乳を搾るのはメスだけで、オスや役目を終えた牛はお肉になる
- 川上さんは、牛にも「いただきます」の気持ちを持ってほしいと子どもたちに伝えた