川上牧場研修【育成の飼料設計】

2021-06-06 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

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はじめに

こんにちは。島根県出雲市にある川上牧場の川上です。

普段は現場で牛と向き合いながら、「未来の酪農」を日々模索しています。

これまで研修生の育成にも取り組んできましたが、最近では「研修生以外の方」にも、自分が学んできたこと、試してきたことを共有したいという思いが強くなりました。

このNoteは、そんな現場からの“生の声”を文字として残すシリーズです。

今回は「育成の飼料設計」について。

牛の未来を育てるこの重要な時期を、どのように考え、どう設計すべきか。

マニュアルや経験則、そして僕自身の試行錯誤を交えてお届けします。

1. 「育成期の飼料設計」は未来への投資

結論から言うと、育成期の飼料設計は“育成そのもの”ではなく、将来の理想的な搾乳牛をどう作るかという設計図です。

・哺乳期(〜2ヶ月)までは「どれだけ飲ませて、どれだけ食べさせられるか」

・育成前期(3〜12ヶ月)は「体格とルーメンをどう作るか」

・育成後期(13〜24ヶ月)は「出産・乳量に備えて体脂肪と筋肉のバランスを整える」

それぞれの期間ごとに栄養の与え方・目標・考え方が全く異なります。

牛の設計=飼料設計。

目的を明確にしなければ、どんなに良い餌を与えても期待通りの牛には育ちません。

2. マニュアルの裏側にある“本当の設計思想”

マニュアルには「CP14%が望ましい」「TDN67以上」など数値が並びます。

これらは確かに基準になりますが、盲信するものではなく、現場の状況や牛の個体差、目指すゴールによって調整すべき「出発点」に過ぎません。

たとえば:

・初産分娩を21ヶ月で早期に迎えさせたいのか、24ヶ月でゆったり育てるのか

・初回乳量を重視する「強化保育型」か、生涯乳量を重視する「ロングスパン型」か

・自給飼料の質が高いか、濃厚飼料に頼る必要があるか

マニュアルに書かれていない「なぜこの設計にしているか」が、飼料設計の本質です。

その“なぜ”を言語化しておくことが、マニュアル化の第一歩です。

3. 育成を「飯食いコスト」から「未来の主役」へと捉える

正直、育成牛は“今すぐ利益を生まない”存在です。

そのため「とりあえず餌を与えておこう」「成長したら考えよう」という感覚で扱われることも少なくありません。

しかし、今の育成は2年後の牧場の主力です。

その投資対効果は、目の前の乳量や売上には表れませんが、牛群全体の健全性、病気発生率、労働負荷、そして経済性に影響します。

・どのCP値で設計するか?

・成長にあわせて区分けできているか?

・ルーメンは完成しているか?

・体格と種付け月齢は合っているか?

これらの見極めと資料設計が一致しているかが、牧場の継続性に直結するのです。

4. 自家育成 vs 購入育成:どちらを選ぶか?

北海道から育成牛を「購入する」選択肢も存在します。

それでも私が自家育成にこだわる理由は、以下の通りです:

・成牛で与える予定の餌を、育成期から慣れさせることができる

・飼料切り替えによるルーメンショックを減らせる

・自分の牧場に最適な「牛の癖」「食欲」に合わせた育成が可能になる

つまり、飼料設計を貫くことができるのは、自家育成の大きな強みです。

逆に言えば、それができない自家育成なら「買った方が安くて確実」となってしまう。

だからこそ、育成に責任を持つ必要があるんです。

5. だからこそ“言語化”しよう

育成の設計は、一人で抱え込んでいたら継承できません。

スタッフが増える、後継者が育つ、外部から人が入ってくる…。

そんな時にこそ、考え方や狙い、判断基準がマニュアル化されていることが重要になります。

それは、「誰がやっても最低限の品質を保てるため」だけでなく、

「なぜ今の飼料設計なのか?」を他人に説明できる状態にしておくためでもあります。

6. 設計のポイントを“学び”にする

この記事では細かい飼料数値よりも、思考と設計思想の共有に焦点を置いてきました。

ここで改めて、飼料設計において重要な学びを5つに整理します。

・ゴールを明確にする: 初回乳量か生涯乳量か。

・ルーメン育成は早期に: ルーメンの成熟は“育成の起点”。

・マニュアルを活かす: 数字を鵜呑みにせず、目的に照らす。

・飼養環境と飼料はセット: 分けられないなら“平均点”を取れる設計に。

・他人に教えられる設計に: 「うちはこうだから」と明確に理由が言えるようにする。

おわりに

育成期の飼料設計は、「未来の主力牛づくり」そのものです。

飼料数値や成長指標にとどまらず、「なぜこの方法を選ぶのか?」という思考の骨格を伝えることで、技術は継承され、組織は強くなります。

この記事が、これから育成を見直そうとしている方、マニュアル化に挑戦しようとしている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。

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