川上牧場研修【疾病管理(繁殖障害)】

2021-09-04 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

今回は牛群検定の除籍理由から繁殖障害を取り上げ、原因と日々の管理でできることを整理しました。治療は獣医さんに任せつつ、酪農家としては栄養と衛生、環境の管理を回すことがカギになります。

この回の要点

  • 繁殖障害は見た目ではわかりにくく、種付けしても受胎しない状態を指す
  • 乳タンパク率やMUN、ボディコンディションから栄養状態を読み取れる
  • 後産停滞はカルシウム管理、子宮内膜炎は衛生管理が重要な手がかりになる
  • 繁殖はホルモンに支配され、エネルギーは体の維持・乳量の後にようやく回る
  • 今は治療法や資材が充実し、繁殖障害での淘汰は減らせると川上さんは考えている

配信の全文(podyの記事より)

疾病管理カリキュラムで「繁殖障害」を扱う理由

この回のテーマは、9月の疾病管理カリキュラムの一環です。病気が出たとき、治療そのものは獣医さんの仕事なので、酪農家として日々の管理で何ができるかを考えていきます。

川上 病気治そうっていうのは酪農家ではまあ限界があるよね。獣医さんに頼むので。

前回までに牛群検定の除籍理由を順番に勉強してきていて、乳器障害(乳房炎)に続き、今回は繁殖障害から入ります。

牛群検定 牛の乳量や乳成分、繁殖成績などを定期的に検査・記録する仕組みです。各牧場でどんな病気が多いか、どんな理由で牛が牛舎からいなくなった(除籍された)かも記録から把握できます。

繁殖障害とは何か?見た目ではわからない病気

繁殖障害は、牛を見ただけではわかりにくいのが特徴です。健康そうに餌を食べて搾乳もできているのに、種付けしても受胎しない、という状態を指します。

川上 普通に健康そうでパカパカ餌食べて、普通に搾乳をしてて。じゃあこいつは繁殖障害で廃用ですって言ったらなかなかわかんないよね。

除籍理由としては、獣医師が繁殖障害と診断した場合はもちろん、診断がなくても結果として受胎しないことが淘汰の理由であれば、繁殖障害が除籍理由になります。

牛群検定での繁殖障害の適用例には、卵巣嚢腫、胎盤停滞(後産停滞)、子宮内膜炎、双子分娩などによって結果的に受胎しない牛の淘汰が含まれます。

後産停滞(胎盤停滞) 分娩後に胎盤が排出されず子宮内に残ってしまう状態です。分娩後もまだ胎盤がぶら下がっている牛として観察されます。

子宮内膜炎 子宮の内膜に炎症が起きた状態です。汚れた膿のような粘液がずっと出ている牛として見られることがあります。

双子分娩は、これ自体が引き金になることもあります。通常の分娩なら子宮からスルッと出てきますが、双子だと傷がつきやすく、そこから子宮内膜炎や胎盤停滞につながることがあるんです。

栄養バランスは適正か?乳成分から読み取る繁殖のサイン

繁殖障害の原因は極めて多岐にわたります。まずチェックしたいのが栄養バランスです。ルーメンや糞の状態、毛艶などの観察に加えて、乳成分も手がかりになります。

目安のひとつがMUNや、乳脂肪と乳タンパクのバランス(PF比)です。MUNは餌のメニューによって幅がありますが、種付け時期としては10前後がいいとされます。

MUN 乳中尿素窒素のことです。血中のアンモニア濃度と関連し、高すぎるとタンパクや窒素の利用がうまくいっていないサインになり、繁殖にも影響することがあります。

乳タンパク率も重要です。3%を切っていると、子宮や卵巣までエネルギーが十分に行っていない指標になります。

川上 初回種付けが六十日だとしよう。六十日ぐらいに乳タンパクが三パーセントに行ってない牛は、ちょっとエネルギー増やしてやるとか、餌の回数増やしてやるとか、そういうことをしなきゃいけない。

さらに、ボディコンディションの太りすぎ・痩せすぎの観察も欠かせません。痩せていると、なかなか種が付きにくくなります。発情発見をして種付けしないことには何も始まりませんが、繁殖障害の牛に無理に種付けしても付かないので、状態の見極めが大切です。

なぜ後産停滞になる?カルシウムと乾乳期の管理

後産(胎盤)が停滞する仕組みには、分娩時のホルモンの流れが関わっています。赤ちゃん側からホルモンが出て卵巣が反応し、そこから子宮収縮につながる、という順番があるんです。

この順番が崩れると後産停滞につながります。分娩誘起を飛ばしたり、破水前に無理やり引っ張ったりすると、ホルモンや子宮収縮のタイミングがうまくいかず、停滞の原因になります。

そして川上さんが一番多いと話すのが、カルシウムのコントロールがうまくいかなかったケースです。後産停滞が多いなら、乾乳期(間牛期)の管理を見直すべきサインだと考えられます。

川上 一番多いのはカルシウムのコントロールがうまくいかなかった場合、だから、間牛期の管理があんまり良くなかったんだろうなっていうのが後産停滞するのでわかる。

乾乳期(間牛期) 分娩前に一定期間搾乳を止めて牛を休ませ、次の泌乳と分娩に備える期間です。この時期のカルシウムやビタミン・ミネラルの管理が、分娩後のトラブルに影響します。

子宮内膜炎が起こる原因と、衛生的な授精の大切さ

分娩がしっかりして後産も出たのに子宮内膜炎になる場合、汚れが入ってしまったことが原因になります。分娩後に乳量が一気に出て、エネルギーが乳ばかりに使われると、子宮の回復が追いつかず炎症が起きることもあります。

もうひとつが、種付け時の衛生管理です。注入器が汚れていると、その汚れを子宮の中に入れてしまい、子宮内膜炎につながります。

さらに、お尻が高く突き出た「尿膣」の牛も子宮内膜炎が起こりやすいとされています。排出物が中に溜まりやすく、発情期に陰部が開いたときに外から汚れが入りやすくなるためです。

特に注意したいのが、移植を行う黄体期です。発情から7日目の黄体期は陰部がぴったり締まっている状態なので、そこに汚れを入れると無防備なところに炎症を起こしてしまいます。

川上 黄体期は締まってるので、その時に入れるとほんと無防備なところに汚れを入れるようなことになってしまう。だからより一層その内膜炎になりやすいとは言われてる。

だからこそ、移植器はしっかり滅菌されたもの、今では使い捨てで滅菌済みのものが一般的になっています。

学術的に見た繁殖障害の分類と卵管閉塞

ここからは、繁殖障害を学術的に整理していきます。繁殖障害とは、雌雄の牛が一時的または持続的に繁殖を停止・障害されている状態を指し、大きく3つに分けて考えられます。

繁殖障害の3つの段階

種付け前の異常

卵巣に異常があり、卵胞発育障害・卵巣嚢腫・鈍性発情などで無発情になり、人工授精ができない

↓

受胎しない

発情・授精はできるが、卵巣・卵管・子宮の異常で妊娠しない(排卵障害・卵管炎・子宮内膜炎など)

↓

妊娠が維持できない

受胎しても分娩まで至らない。胚の早期死滅・着床障害・流産・胎児のミイラ変性など

受胎しないケースで見落とせないのが卵管閉塞です。卵管は分娩時でも非常に細く、汚れなどで詰まると卵が着床部位まで落ちられません。

川上 右側の卵管が詰まってた場合は、右側に卵胞がどんなにできてても、右側から排卵して、その着床部位まで卵が落ちることができない。だから右側は諦めて左側はみたいなことやったりします。

川上さんは自分で種付けするので、発情のたびに右か左かを見て狙いを変えるそうです。一般には6対4か7対3ほどで右側の卵胞が多いとされますが、右で付かなければ左を狙い、それでもだめなら受精卵移植に回すこともあります。

川上 人工授精じゃつかないっていうので、受精卵移植をしてやる。自分の卵巣から出てくる卵が詰まっちゃうから、だったら外から入れてやろうっていう発想で。

胚の早期死滅と遺伝的な要因

妊娠しても胚が早期に死滅するケースも多く、原因の多くはエネルギー不足です。夏場のヒートストレスなどで、受精卵にはなってもそこから発育しない状況が起こります。

ヒートストレス 暑さによって牛にかかるストレスです。体温を下げようとするホルモンが優先されると、繁殖に関わるホルモンの働きが落ち、繁殖成績の低下につながります。

遺伝的な要因もあります。ハプロタイプの同じ組み合わせでは受胎しないケースがあり、近交係数が高すぎることでも胚死滅が起こることがあります。

ハプロタイプ 親から子へ受け継がれる遺伝子の組み合わせのタイプです。特定の同じタイプ同士(HH1やHH2など)の交配では受胎しないことが知られています。

だから川上さんは、種付けのたびに種を変えるようにしているそうです。1回目と2回目で種を変え、相性を見る狙いがあります。

川上 だから僕は種付けする時に毎回毎回種変えるから。同じ種ずっとあんまりしないね。1回目は変えて2回目はやってみたいな、その相性があったりする。

子宮脱・フリーマーチンなど産後・先天の異常

産後の異常としては、子宮が裏返しに出てしまう子宮脱があります。本来は空気に触れない陰圧の場所なので、出てしまうとひどく汚れてしまいます。

ただ、子宮の回復力はとても高いとも話されています。子牛が出るほど大きくなった子宮が、1〜2週間ほどで握りこぶしサイズに戻るほどです。

川上 まともにちゃんとエネルギーやって回復するんだったら全然子宮脱でも妊娠させることは可能である。

先天的な異常としては、異性の双子の雌に見られるフリーマーチンがあります。オスと一緒に生まれることで雄ホルモンの影響を受け、卵巣がなかったり、子宮角の片方がなかったりと、症状はさまざまです。

フリーマーチン 雌雄の双子として生まれた雌牛に見られる生殖器の異常です。胎内で雄ホルモンの影響を受けることで生殖器が正常に発達せず、多くの場合繁殖できません。

ホルモンと栄養、そして全身のつながり

繁殖はホルモンに強く支配されています。卵巣や精巣のホルモン分泌は、脳の視床下部や脳下垂体からの支配を受けていて、互いに影響し合っています。

だから暑さがストレスになると、体温を下げるためのホルモンが優先され、同じ部位から出る繁殖のホルモンが後回しになります。これが夏場に繁殖成績が落ちる理由のひとつです。

栄養も同じで、飼料の量的・質的な不足が続くと性機能が低下します。エネルギーは、まず体の維持に使われ、次に乳量、それらが満たされてからようやく繁殖に回るからです。

まずは体の維持のエネルギーが使われて、それから乳量、それから全部が回ってるとやっと繁殖に入る。 ── 川上

だからこそ、酪農家としてやれることは栄養管理がちゃんと回っているかどうかの確認だと川上さんは強調します。糞が汚い、ベッドで休めない、食べたいときに食べられない、足が痛い、暑さ・寒さのストレスといった状態は、繁殖障害に直結すると考えられます。

繁殖障害での淘汰は今は少ない?打てる手の多さ

川上さんは、今はホルモン剤や治療法がたくさん確立されているので、繁殖障害で淘汰するのは滅多にないと考えていると話します。

川上 今はもうホルモン剤がいっぱい出て治療法もいっぱい確立されてるから、本当に繁殖障害でその淘汰するってそう滅多なことじゃないんじゃないか。

もちろん例外もあります。17回種付けしても付かなかった牛は、種が付いていないのに乳が出るなど、明らかなホルモン異常だったそうです。それでも、卵巣がソフトボールほど大きい繁殖障害の牛でも分娩までこぎつけた例があると話されています。

使える手段も増えています。倍量入った濃厚精液や受胎率が高いとされる精液、二卵移植専用のストローや移植専用セットなど、今は必要なものが手に入ります。

川上さん自身も、付かない場合には安い種を1回の発情で6本注入するなど、手数をかける工夫をしてきました。ただし、それがうまく回るのも大前提の管理あってこそです。

繁殖障害の牛に川上さんが手を打つ順番

1

1. 全身状態を見る

ボディコンディション、毛艶、元気があるかをまず確実に確認する

2

2. 乳成分を見る

乳成分が回復しているかを確認する

3

3. 子宮の状態を見る

触診や超音波診断で汚れがないことを確認する

4

4. 種付け・移植を重ねる

その上で6回ほど種付けや移植をすれば、なんとか付けられると考えている

種付けの現場で暴れる牛と、気持ちの問題

最後は研修生からの質問です。よく暴れる牛は種が付きにくいのか、という問いが出ました。

Q

よく暴れるような牛は、種付かないことが多いんですか?

研修生 さんからの質問

A

回答

川上さんは、暴れる牛が付かないという傾向はあまり聞いたことがないと答えます。ただ、種付けの時に暴れると子宮内を傷つける確率が上がったり、狙った場所に入れられなかったりするので、そこは最低限守ってやる必要があるとのことです。

川上 どんなにベテランの受精師さんや獣医さんでも暴れる牛に完璧に種付けてくださいっていうのはちょっと無茶な問題だから、そこは最低限やらなきゃいけないところ。

その上で川上さんは、暴れる牛が付きにくいとすれば気持ちの問題が大きいのでは、と正直に話します。悪さをする牛には、餌をケチったり飼い方が適当になったりと、人間側の姿勢が出てしまうこともあるからです。

川上 どうでもいいやって思ったら、やっぱそれが出てきちゃうっていうのもあったりすると思う。

もし本当に繁殖障害で悩んでいるなら、受精師さんを変えてみる、獣医さんの治療法を変えてみる、管理や種付けの仕方を変えてみる、といった選択肢もありだと川上さんは締めくくります。

まとめ

今回は牛群検定の除籍理由から繁殖障害を取り上げ、原因と日々の管理でできることを整理しました。治療は獣医さんに任せつつ、酪農家としては栄養と衛生、環境の管理を回すことがカギになります。

  • 繁殖障害は見た目ではわかりにくく、種付けしても受胎しない状態を指す
  • 乳タンパク率やMUN、ボディコンディションから栄養状態を読み取れる
  • 後産停滞はカルシウム管理、子宮内膜炎は衛生管理が重要な手がかりになる
  • 繁殖はホルモンに支配され、エネルギーは体の維持・乳量の後にようやく回る
  • 今は治療法や資材が充実し、繁殖障害での淘汰は減らせると川上さんは考えている