川上牧場研修【疾病管理(乳器障害・乳房炎)】
2021-09-01 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
この回は、牛群検定の除籍理由を入り口に、乳房炎と乳器障害を予防・治療・現場のリアルな悩みまで丁寧にたどった研修回でした。搾乳手技や飼料管理といった王道の予防と、自動離脱や搾乳主義をめぐる研修生との対話が、地に足のついた形で語られています。
この回の要点
- 除籍理由のデータは参考程度で、一番確実なのは農場主に直接聞くこと
- 乳房炎の感染はほぼ90%が搾乳時とされ、菌の特定にはバルクスクリーニングが有効
- 予防の柱は搾乳手技・ワクチン・清潔な牛床、そして免疫を支える乾物摂取量
- 乳器障害の大きな理由は乳頭の損傷と搾乳速度で、搾乳技術で廃用を減らせる余地がある
- 自動離脱は便利だが、残った乳が見えなくなる面もあり、まずは手動で感覚を身につけたい
配信の全文(podyの記事より)
病気の勉強を「除籍理由」から始める理由
9月のテーマは疾病管理です。ただ、病気の知識をツラツラ並べても、現場に合わないと意味がないと川上さんは考えています。病気になったらまず獣医さんに電話する、というのが現実だからです。
そこで川上さんが選んだのは、日々の管理がどんな病気につながっているかを知るというアプローチです。各農場の病気の傾向を調べる手段として、牛群検定成績表なら現場で見せてもらいやすいと考えました。
牛群検定成績表 各農家の牛について、乳量や乳成分、体細胞数、除籍理由などを定期的に検定してまとめた成績表です。牛の健康管理や飼料改善の判断材料に使われます。
具体的には、成績表の「除籍理由」の項目から、何の理由での除籍が一番多いのかを1つずつ勉強していけば、対策につながるのではないか、というのが今回の入り口です。
川上 日々の管理がどういう病気に繋がっているのかなというところを勉強したいので、各農場のこの病気が多い率みたいなのを調べるのはどうしたらいいかなと思って。
除籍理由は本当にあてになるのか
ただし、川上さんは除籍理由のデータをそのまま信じすぎるのは危ういと注意します。除籍理由をちゃんと振り分けている農家は、実はあまり多くないからです。
たとえば牛が死んだら理由はすべて「死亡」、足が悪くて立てなくなれば「起立不能」で「足」。乳房炎が原因で立てなくなったとしても、足が悪いからと「足」に分類されてしまうことがあるといいます。
川上 乳房炎から来たやつで起立不能になったとしても、足が悪いから足だみたいなことがあったりするので、参考程度にしかならないんだけど、これも。
だからこそ、一番手っ取り早いのはその農場主に直接聞くことだと川上さんは話します。データはあくまで参考、というのが現場感覚のようです。
乳房炎対策のチェック項目は「ちょっとずれてる」?
今回まず取り上げるのは、除籍理由の一番左にある「乳器障害(乳房炎)」です。除籍理由として一番多いのは乳房炎ではないか、と川上さんは見ています。
インターネットで「牛群検定 除籍理由」と検索すると出てくる成績表の資料には、乳房炎対策としての搾乳手順チェック項目が並んでいます。
ゴム手袋を使っているか、前絞りの乳を床に捨てていないか、搾乳前の乳頭清拭をきちんと行っているか、乾いたタオルで乳頭を乾燥させているか、前絞りから遅れなくミルカーを装着していたか、といった内容です。
ただ、川上さんはこの項目に少し違和感を持っています。搾乳手技はもちろん大事ですが、そもそも餌や免疫力の話が抜けている、というのがその理由です。
川上 そもそも免疫が餌がもらってなかったり、免疫力が下がったりすると乳房炎になったりするし。
一方で、書いてある通り、搾乳の時に乳房炎の菌が混入するケースはほぼ90%と言われているとも川上さんは補足します。だからこそ搾乳をなんとかするのが大事だ、という点は否定していません。
菌を特定する「バルクスクリーニング」のすすめ
川上さんが対策の入り口として勧めるのが、バルクスクリーニングです。うちではやっているので菌が特定できる、と話します。
バルクスクリーニング バルク(貯乳タンク)にたまった生乳を検査し、どんな乳房炎の原因菌がいるかを調べる検査です。菌が特定できると、どこを対策すべきかの見当がつけやすくなります。
牛群検定のときに送られてくる、何々菌・何々菌と書かれた手紙のような形で菌が特定できると、どこを対策していくかがわかるようになる、というのが川上さんの実感です。
予防の基本については、資料にも搾乳手技をしっかり行うことが並んでいます。マシンストリッピングを行う、搾乳時間は5分程度で終える、ティートカップの離脱は4本同時に行う、ポストディッピングを確実に実施する、といった内容です。
ポストディッピング 搾乳後に乳頭を消毒液に浸す作業のことです。搾乳直後は乳頭口が開いていて菌が入りやすいため、感染予防として重要とされています。
さらに、脱脂液で固く絞った清潔なタオルを1頭1枚使って清拭するほうが、ペーパータオルより汚れをよく除去できるという研究結果も報告されている、と資料には書かれています。
予防のカギは搾乳手技とワクチン、そして牛床
予防のポイントは、やはり搾乳手技をしっかり行うことです。ただし、適切な搾乳手技をするには牛のことをわかっていないと難しく、これだけやればいいと一概には言いにくい、と川上さんは話します。
川上牧場では乳房炎ワクチンも打っています。ワクチンを打つと、CNSやSA、大腸菌などが予防できると言われているそうです。
乳房炎の主な原因菌 CNSはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、SAは黄色ブドウ球菌の略です。大腸菌などとあわせて乳房炎の代表的な原因菌で、菌の種類によって症状や対策が変わります。
予防としては、牛床を清潔に保つことも欠かせません。石灰を撒いたり、糞をこまめに処理したりする、という日々の管理がここにつながってきます。
菌の種類で変わる症状と、日々の観察の大切さ
乳房炎には、大きく分けて伝染性乳房炎と環境性乳房炎があります。いずれもほとんどの場合、搾乳時に病原体が乳頭孔から侵入して起きるため、搾乳衛生が非常に重要だと資料は説明しています。
症状は菌の種類によって違い、超急性・急性・慢性・潜在性などさまざまです。だからこそ川上さんは、熱を測るという基本に加えて、搾乳時に乳房の張りや異物の有無を見ることを重視します。
さらに、餌を食べているか、水を飲んでいるか、糞はどうか、といった全身の様子を観察することも予防の一環だと話します。
川上 餌食ってないとか食ってるとか、水飲んでるから水飲んでないとか、糞がどうなのかとか、そういうのを見たりするのも、やっぱ予防の一環ではあると思いますね。
乳房炎の2つのタイプ
伝染性乳房炎
主に搾乳時に牛から牛へ菌がうつるタイプ。搾乳衛生の管理が特に重要。
VS
環境性乳房炎
牛床や水回りなど、飼育環境にいる菌が乳頭から侵入するタイプ。牛床や水の清潔さが対策になる。
治療の第一歩は「菌の特定」、大腸菌は一瞬でわかる
治療も、菌が特定できると、その菌に対してどう治療していくかが見えてきます。抗生物質の乳房内注入や全身投与、消炎剤の投与、輸液や冷却などが治療法として挙げられます。
なかでも川上さんが強調するのが、とにかく乳を出し切ることです。体に残るとダメなものは、何回も搾乳して出すことを目的とした治療法もある、と話します。
慢性や潜在性の乳房炎には、乾乳期の治療が有効なことがあります。SAのように普通の泌乳期では治りにくい菌は、乾乳のときに抗生剤をしっかり入れて倒していく方法があるそうです。
乾乳期 分娩前に搾乳を止めて乳腺を休ませる期間のことです。次の泌乳に備えるとともに、この期間に抗生剤を入れて慢性の乳房炎を治療することがあります。
菌の見え方について、川上さんは大腸菌の例を挙げます。昨日まで元気だったのに一瞬でパタッと倒れる、というわかりやすさが特徴だといいます。
川上 大腸菌のやつは本当によくわかる。本当に一瞬でパタって倒れちゃって、昨日までめちゃくちゃ元気だったのに、一瞬でも死にかけるみたいな症状が体の中に出るので、大腸菌は一瞬でわかるね。
逆に一番厄介なのが、潜在性のものです。SA(黄色ブドウ球菌)などは症状が見えにくく、季節の変わり目やストレスがかかったときに体細胞数がドーンと上がってしまうことが多い、と川上さんは話します。
水回りが招く「藻」の乳房炎という落とし穴
環境性乳房炎の予防として、資料では乳房まわりの毛刈りや、糞尿の上に牛が寝ないように牛床を改善することが挙げられています。
そのなかで川上さんが「マジで最悪」と語るのが、藻(モルギ)による乳房炎です。藻が乳房内に侵入して繁殖するもので、治りにくく全身症状も出るといいます。
川上 藻が体高い侵入して藻が繁殖してっていう乳房炎があるんだけど、これマジで厄介だから治りにくくて。全身症状が出るし。
原因は水回りです。水たまりに牛が寝たり、汚れたウォーターカップから飲水したりすることで、藻が体内をめぐって乳房に入り、抵抗力がないと発症する場合があります。
だから「ウォーターカップを綺麗にしましょう」という話にもつながってくる、と川上さんは説明します。特に夏場は藻が生えやすいので、注意が必要です。
免疫力を支えるのは「乾物摂取量」
乳房炎の予防を支えるもう1つの柱が、飼料管理です。資料には、ビタミン類や微量元素の給与、最近では漢方薬の使用なども挙げられています。
川上さんが重視するのは乾物摂取量です。トップドレスなどで後から足すには限界があり、微量ミネラルが免疫力に直結するからだ、と話します。
乾物摂取量 餌から水分を除いた「乾物」ベースで、牛がどれだけ食べたかを表す量です。栄養やミネラルの充足度を左右し、牛の健康や免疫力に大きく関わります。
大事なのは、量を食べたときにミネラルが充足するような飼料設計になっているかどうかです。健康にするは、やっぱり乾物摂取量というのが川上さんの結論です。
あわせて、カウコンフォートも重要です。牛が快適に休めないと免疫力が上がらないため、居住性を高めてストレスを減らすことが求められます。
簡易検査「PLテスター」の位置づけ
乳房炎が出たら、まずは菌を特定することが第一歩です。その場での簡易検査として登場するのが、PLテスターです。
PLテスター 搾乳現場で乳の状態を簡易的に調べる検査キットの一種です。乳房炎の疑いを手早く確認する目安として使われ、正式な菌の特定は獣医の検査によります。
ただし、PLテスターで治療法まで確立するわけではありません。あくまでブツ(異常な塊)がどれだけ出るかを、獣医さんに伝えるヒントとして使う位置づけだと川上さんは説明します。
川上 PLテスターで治療法が確立するかって、そんなことないんだけど、ブツがどれだけ出るかっていうのを先生に教えるヒントとして使うかなっていうところかな。
川上さんは、酪農家の役割をこう整理します。どういう状況でどうなったかを獣医さんに正確に伝えることが大事だ、というのです。
乳房炎だと思いますというのを伝えることが酪農家としては大事だから ── 川上
乳器障害の正体は「乳頭の損傷」と搾乳速度
続いて、除籍理由の一番左にある「乳器障害」の話に移ります。乳房炎での除籍が少なく、乳器障害での除籍が多い場合、その中心となるのは乳頭の損傷だと資料は指摘します。
乳頭の損傷対策として、資料には適切な削蹄、サブヒールの装着、足バンド、滑り防止対策、過搾乳になっていないか、といったチェック項目が並びます。
サブヒール 牛の蹄に装着する円盤状の器具で、多くの牛につけられているものです。装着すると牛が自分の乳頭を踏みにくくなる効果があるとされています。
そして、川上さん自身が考える乳器障害の最大の理由は搾乳速度です。あくまで自分の農場では、という前提つきですが、搾乳速度が悪いから除籍する、というケースがあると話します。
川上 僕的にあの乳器障害の最大理由って僕搾乳速度だと思う。僕の中ではね。
以前、初産で1頭に40分もミルカーをかけ続けるような牛がいて、その牛はやはり廃用にしたといいます。ただ、まだ絞ると考える人がいれば、その振り分けは変わってくる、というのが現場の難しさです。
垂れた乳房、そして搾乳技術で変わる廃用の判断
乳器障害には、乳頭の損傷だけでなく、乳房の形の問題も含まれます。乳房が垂れすぎて絞りにくい、開きすぎている、逆に近寄りすぎている、といったケースです。
搾乳ロボットが増えているぶん、こうした形の理由で乳器障害として廃用になる率も、以前より上がっているのではないか、と川上さんは見ています。
一方で、飼育者が「絞りにくい」と思えばそれも乳器障害になるため、搾乳技術を上げることが、この廃用項目を減らす理由にもなる、と川上さんは指摘します。
たとえばベテランのヘルパーさんは、かけにくい牛でも機械を上手に使って絞ります。右2本を絞ってから左2本、というやり方の牛でも、道具を工夫して4本同時に絞れれば、搾乳速度は半分になります。
川上 どうにかして道具かなんか使って4本同時に絞ることができたら、半分の搾乳速度になるわけですよ。
予防法としては、体型改良で乳器の数字が良い牛に改良していくことも挙げられますが、物理的に搾乳速度を上げるのはなかなか難しいというのが正直なところだと川上さんは話します。
「自動離脱を信じすぎる」問題をめぐる対話
ここから、研修生との対話が本題に入っていきます。研修生は、自動離脱の機械なら過搾乳にならないのではないか、と質問します。
Q
自動離脱で外れるものなら、過搾乳になることはないのでは?
A
回答
川上さんの答えは「ないわけない」です。渋い牛は、他の牛が100%出るところを50%しか出ず、置き処置が下がると50%が20%に落ちます。その状態で機械が「終わりました」と外れてしまうと、まだ乳が残っている、というのです。
川上 その20%のやつを機械が自動離脱の機械があ、終わりましたねって言ってガーって外れたら、まだ乳が残ってるのに。
研修生は、いろいろな現場を見てきた経験から、自動離脱が過度に信じられていることに疑問を投げかけます。オレンジのところが光ったら終わり、というふうに受け取られがちだといいます。
研修生 自動運転やから事故せえへんみたいな。なんかその話になったら事故するどうこうはテレビでしてるか言うけど、自動離脱のその過搾乳だったり。
研修生は、自動離脱を否定しているわけではないと前置きしつつ、それだけでは解決できない部分がある、と語ります。作り手は自動離脱だけで搾乳が完結するとは言っていないはずだ、とも指摘します。
自動離脱したら見れなくなるものというか、感じにくくなるものがあるのをわかって、教えてもらわないと ── 研修生
「前絞りしなくていい」ミルカーの落とし穴
過搾乳を予防する道具として、川上さんはラクトコーダーを挙げます。乳量の変化を測る機械で、乳の出方を細かく可視化できるものです。
ラクトコーダー 搾乳中の乳量の出方を時間ごとに記録・分析する機器です。前絞り不足や過搾乳、乳の出が悪い区画などを客観的に把握するのに使われます。
川上さんの父の代では、前絞りをしない業者だったといいます。ラクトコーダーで測ってみると、1頭あたり数分も乳が出ていない時間があることがわかり、大きなショックを受けたそうです。
川上 僕めっちゃ搾乳、昔も今も変わらずもう全力疾走だから。全力でミルカーかけてるのに絞れてないっていうのはすっげえショックで。
使っていたディオパックのミルカーは、拍動数がゆっくりから速くなることで、オキシトシンが増えて乳量が上がると自動で前絞り相当の状態になる、という「ドリームマシン」的なコンセプトの機械でした。
ところが、実際に牛で測ってみると、コンセプト通りにはなっていませんでした。コンセプトはわかるんだけど、牛のやつを測ってみるとなってなかったというのが川上さんの経験です。
研修生は、こうした「信じていたのに実際は違った」という落とし穴が、現場では見えなくなってしまう点を指摘します。車の燃費の触れ込みと同じで、実際どうかは測ってみないとわからない、というたとえです。
乳頭口スコアと「早めに見切る」搾乳
乳器障害の除籍理由が、乳頭口スコアの悪化や渋さから来ている場合は、一度確認してみたほうがいい、と川上さんは話します。
乳頭口スコアには、かさぶたが開いたりする状態のランクがあり、乾乳期に入るとスコアが1ランク下がる、つまり少し治ると言われているそうです。スコア3が、分娩に切り替わるときには2に戻る、といったイメージです。
乳頭口スコア 乳頭の先端(乳頭口)の荒れ具合を段階で評価する指標です。数字が大きいほど損傷が進んでいるとされ、搾乳の負担や乳房炎リスクの目安になります。
川上さん自身は、搾乳が嫌いすぎて悪い牛は早めに見切ってしまうため、スコアの悪い牛はあまり見ていないかもしれない、と語ります。
それでも、餌をよく食べ、体細胞も低く、乳脂肪も良い、けれど搾乳性だけが悪い、という牛もいます。そうした牛は三本乳にして、経済性を見ながら判断することが多いといいます。
搾乳主義は一気に上がらない、だからこそ準備で補う
研修生は、搾乳主義(搾乳の技量やこだわり)は一気に上げられない、と話します。毎日パワーアップしていても気づきにくいものだ、というのです。
新しい人がいきなりベテランと同じレベルにはなれない以上、環境の用意や準備の部分で補うしかない、というのが研修生の見立てです。
さらに研修生は、自動離脱のような便利な仕組みから入ってしまうと、搾乳主義が止まってしまうのではないか、と危惧します。他の現場でこうしていると聞いても、なかなか行動に移せない、とも語ります。
研修生 自動離脱がダメなわけじゃないんですけど、自動離脱したら見れなくなるものがあるのをわかって教えてもらわないと、その初めてですから。やっぱそこは手動から始めるほうがやっぱいいなとは思いますね。
川上さんも、素人の初心者と作業するときは、オレンジのジャバラが下りたら外していい、と教えるものの、それでも乳が残ってしまうことを繰り返すのは難しい、と同意します。
「どれだけ残っているか」を意識するという発想
研修生は、外した後に乳が残っていないかを意識することの大切さに話を進めます。餌を10キロ渡して2キロ残せば8キロ食べた、とわかるように、残量の感覚を持ちたい、というのです。
ただ、それは簡単ではありません。川上さん自身、毎日まったく同じタイミングで外せるかといえば無理だ、と正直に認めます。
川上 残ってるって言うじゃん。言うとしても、その毎日同じタイミングで外してるかって言ったら絶対無理ですから。
研修生は、絞りきって雑巾のように空にするのが良い状態とも思えない、と話します。多少残っているくらいがいいのではないか、という感覚です。ただ、その加減の伝え方が難しい、と悩みます。
研修生 乳房の加減のなんか伝わり方とか伝え方は、なんかもうもうちょっとなんかいいあれないかなとは思うんですよね。
自分が次の人に教える立場になったとき、伝えられないというのは、自分のやっていることを制御できていないに等しい、と研修生は語ります。だからこそ、残量や時間の感覚を意識しておきたい、というのです。
予防をサボる時間より、乳房炎の治療のほうが無駄
川上さんは、こうした手間を「手間だから」と省いた結果、乳房炎が出てしまえば、その治療にかかる時間のほうがはるかに無駄だ、と話します。
乳房炎が出たとして、乳房炎の治療にかかる時間の方がめちゃくちゃ無駄だからね。 ── 川上
川上さんは、乳房炎の治療が本当に嫌だったと振り返ります。獣医さんに電話して来るのを待つ時間、自分で治療する時間、そのすべてが無駄に感じられたといいます。
川上 その先生に治療を頼んで電話して、先生が来るのを待つ時間とか、何このマジ無駄な時間って本当に思うから。
研修生は、綺麗にするやり方は割とすぐできることではないかと思っていたが、実際は半々なのかもしれない、と語ります。個人経営か団体かによっても、乳房炎への向き合い方は変わる、という話にもつながっていきます。
手袋をしなくても事故がなければ?という現場の割り切り
研修生は、たとえば手袋をしないで搾乳する、といったやり方に純粋な疑問を投げかけます。嫌な質問ではなく、なんでそうなるのだろう、という素朴な問いです。
研修生 それは単純な嫌な質問じゃなくて、単純に普通に疑問なんですよね。普通になんでなんやろなみたいな。
これに対して、結果がすべてという見方もあります。危ないやり方でも、菌がなければそれで済んでしまう部分もある、というのが現場の一面です。
一方で川上さんは、別のシフトの仕方もあると補足します。すぐ治療できる体制が整っていて、お抱えの獣医さんが農場にいるような牧場なら、治療を主にした仕事の仕方もあり得る、というのです。
さらに、乳房炎が多いからこそ酪農家自身のスキルが上がり、治療をパッパとできるようになったケースもある、と川上さんは話します。予防重視か治療対応かは、一概には言えない、というのがこの回の落としどころです。
まとめ
この回は、牛群検定の除籍理由を入り口に、乳房炎と乳器障害を予防・治療・現場のリアルな悩みまで丁寧にたどった研修回でした。搾乳手技や飼料管理といった王道の予防と、自動離脱や搾乳主義をめぐる研修生との対話が、地に足のついた形で語られています。
- 除籍理由のデータは参考程度で、一番確実なのは農場主に直接聞くこと
- 乳房炎の感染はほぼ90%が搾乳時とされ、菌の特定にはバルクスクリーニングが有効
- 予防の柱は搾乳手技・ワクチン・清潔な牛床、そして免疫を支える乾物摂取量
- 乳器障害の大きな理由は乳頭の損傷と搾乳速度で、搾乳技術で廃用を減らせる余地がある
- 自動離脱は便利だが、残った乳が見えなくなる面もあり、まずは手動で感覚を身につけたい