川上牧場研修【疾病管理(肢蹄障害)】
2021-09-11 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
今回は、見逃しやすい肢蹄障害について、酪農家が日々の観察でできることを川上さんが解説しました。爪を「裸足」と考え、立ち姿や歩き方、爪の表面や腫れを見ることで、栄養状態や牛舎の問題まで読み取れるという内容でした。
この回の要点
- 足が悪くなる主な原因は、粗飼料と濃厚飼料のバランスの崩れと、爪のもろさ
- ロコモーションスコアや蹄節スコア、蹄輪スコアで、日々の観察から蹄の状態を評価できる
- 滑る床・段差・石など、牛が裸足で歩きたくない牛舎構造が爪に悪い
- 爪は皮膚の一部なので、被毛のツヤやミネラル・ビオチンなどの栄養状態が爪の健康に直結する
- 治療は搾蹄師や獣医に任せつつ、良質粗飼料・餌のタイミング・パーラーでの洗浄やフットバスなど、酪農家にできる予防がある
配信の全文(podyの記事より)
なぜ牛の足は悪くなる?濃厚飼料と爪のもろさ
この配信は、川上牧場の川上さんが搾乳前の休憩でいつもやっている研修生との会話を、そのまま録音したものです。今回のテーマは肢蹄障害で、乳房炎・繁殖障害に続く疾病のお勉強の回です。
肢蹄障害 牛の脚や蹄(ひづめ)に起こるトラブルの総称。牛群検定では「肢蹄故障」とも書かれます。歩き方や姿勢に影響し、放置すると乳量や繁殖にも悪影響が出ます。
川上さんはまず「なんで足が悪くなると思う?」と研修生に問いかけます。研修生の答えは「濃厚飼料」でした。
川上 そうそうそう。脂質から来るのがやっぱり一番多い原因じゃないかなと思うけど。
川上さんによると、粗飼料と濃厚飼料のバランスが崩れると足が悪くなりやすいそうです。ただ、濃厚飼料が少ない場合でも、土耕などが原因でなることもあると話しています。
粗飼料と濃厚飼料 粗飼料は牧草やサイレージなど繊維の多い餌、濃厚飼料は穀物などエネルギーの高い餌のこと。両者のバランスが崩れると、消化や蹄の健康に悪影響が出やすくなります。
もう一つのポイントが、爪のもろさです。爪がもろくなると、何か事故があったときにすぐ痛んでしまうと説明しています。
また、爪が長いと痛いところをずっと庇う歩き方になり、庇うことで今度は別のところが痛くなる、という悪循環もあるそうです。
立ち姿と歩き方でわかる「ロコモーションスコア」
肢蹄障害を日々の観察で見つける手がかりが、ロコモーションスコアです。これは牛の立ち姿と歩き方から足の状態を評価する方法です。
ロコモーションスコア 牛の立ち止まっているときと歩いているときの背中の状態や脚の動きを観察して、蹄病の程度を評価する指標。日々の観察で酪農家ができるモニタリング方法として使われます。
正常な牛は、立っているときも歩いているときも背線(背中のライン)が平らで、ずっと同じような感じで歩くのが特徴です。
一方、足が痛くなってくると、立っているときは平らでも、歩くときに背中がアーチ状に丸まってきます。さらに痛みがひどくなると、立っているときも歩いているときも背中を丸めるようになるそうです。
川上さんは、蹄の治療そのものは搾蹄師さんや獣医さんにお任せするとしたうえで、酪農家が「そこに行くまで」に何ができるかを考えることが大事だと話しています。
川上 とりあえずロコモーションスコアを見つけるっていうのが、日々の観察でできることかなとは思いますね。
搾蹄師 牛の蹄を削ったり整えたりして、正しい形や健康を保つ専門職。「削蹄師」とも書かれます。伸びすぎた爪や痛みの原因になる部分を処置します。
蹄は健康のバロメーター。爪は「裸足」で歩いていると考える
ここから川上さんは、インターネットで見つけた北海道立総合研究機構・農業試験場の資料を紹介しながら話を進めます。まず、肢蹄疾病は乳房炎・繁殖病とともに乳牛の三大疾病と呼ばれるほど重要だと説明しています。
見逃しやすい肢蹄疾病
乳房炎・繁殖病
比較的発見しやすい疾病
VS
肢蹄疾病
見逃しやすく発見が遅れやすい。乳量だけでなく繁殖性にも悪影響
発見が遅れやすいのが肢蹄疾病のこわいところ。足が痛いとフリーストールの牛は餌場に来なかったり水を飲まなかったりして、悪循環のスタートになると川上さんは指摘します。
フリーストール 牛が牛舎の中を自由に歩き回れる飼養方式。餌場や水飲み場へ牛自身が移動するため、足が痛むと採食量や飲水量が落ちやすくなります。
川上さんが強調するのは、蹄は健康のバロメーターだという考え方です。爪は人の爪と同じく皮膚の一部で、角質からできているため、栄養状態が悪いと蹄の成長が不完全になります。
爪をイメージするとき、川上さんは「靴を履いている」のではなく「裸足で歩いている」と考えてほしいと言います。
川上 人間でいうと、靴履いてる状況じゃないですね。裸足でパカパカ歩くのと一緒なので。
だからこそ、砂利や石の上を歩くと足の裏に石が刺さって痛い、というわけです。川上さんは、靴の中に石が入っても違和感はあるけれど痛くはない、でも裸足に刺されば痛い、と人間の感覚に例えて説明しています。
足の裏の痛みは、庇う歩き方を通じて腰や背中の痛みにつながっていく。川上さんは、スポーツで足の裏の皮がむけたときの感覚に近いと話しています。
爪に悪い牛舎構造とは?滑る床・段差・石
資料には「牛舎構造が悪いと子牛への負担が大きくなる」とあります。そこで川上さんは、研修生に「爪に悪い牛舎構造とは何だと思う?」と問いかけます。ちなみにこの回の研修生は女子高生だそうです。
Q
爪に悪い牛舎構造とは何でしょう?
A
回答
研修生からは「滑りやすい」「硬いところ」という答えが出ました。川上さんも滑りやすさや濡れていることは爪に悪いと同意しています。
川上さんが勧める考え方は、自分が裸足でその牛舎を歩いてみて、歩きたくないと思う場所はどこかを想像することです。
滑り止めについては、石灰やエスカリオ(いづかライト)を撒くと滑り止めになり、乾燥もするので爪には良いとされていると話します。一方で、砂利や砂の場所はあまりよろしくないそうです。
放牧場でも、草の上は良いけれど、そこへ行くまでに石がたくさんあると問題になると言います。石が刺さった状態で歩き続けると、その石を囲い込むように爪が形成されてしまうこともあるそうです。
もう一つの要注意ポイントが段差です。牛の視界は横に広い分、縦は見にくいので、暗い場所や段差が多いと歩きにくく、爪に悪いとされています。
牛の視界 牛の目は顔の横についていて、水平方向に非常に広い視野を持ちます。一方で正面の足元など縦方向は見えにくく、段差や暗い場所を苦手とします。
スコアで見える乳量の低下と繁殖への影響
資料に沿って、ロコモーションスコアの具体的な見方も紹介されています。立ち止まっているときと歩行しているときの背中の状態、脚の動き、4本の足がリズミカルに動いているかを、硬く滑りにくいコンクリート床などで観察します。
川上さんは、この観察が「どこが滑りやすい床か」を知る手がかりにもなると言います。滑りやすい場所では健康な牛でも背中を丸めてそろりそろり歩くので、床の状態も見えてくるそうです。
スコアが上がるほど乳量の低下は大きくなります。資料では、スコア2以上の牛は蹄病に罹患しているとされています。
ロコモーションスコアと乳量低下
5%
スコア3の牛の乳量低下
17%
スコア4の牛の乳量低下
36%
スコア5の牛の乳量低下
さらに、乾乳期にスコア2以上が観察された牛は、分娩後のボディコンディションスコアの低下が大きく、繁殖性も低下すると言われています。
ボディコンディションスコア 牛の体の太り具合・痩せ具合を数値化して評価する指標。分娩後に大きく落ち込むと、繁殖性の低下などにつながります。
だからこそ削蹄は乾乳の前にしてあげるのが理想です。ただし削蹄の方法によっては牛にストレスがかかり、流産につながることもあるため、状態を見ながら判断する必要があると川上さんは注意を促します。
川上 ズタボロのところにもう1回、傷を与えるようなものなので、そこら辺は様子見ながらしなきゃダメなんだけど。
足の腫れを見る「蹄節スコア」
もう一つの観察指標が蹄節スコアです。これは牛群検定のときにも取ってもらう項目で、足が腫れているかどうかを見ます。
観察するのは後ろ足の蹄節部分。左右の足について、毛の有無、すり傷、腫れの有無をチェックします。毛が抜けていれば、それだけ擦れているということがわかるそうです。
蹄節スコアの目安
軽度
重度
軽度:毛がない部分があり、小さなすり傷やわずかな腫れが確認できる
中度:明らかに腫れているのがわかる(スコア2以上は関節周囲炎の可能性)
重度:腫れがボール状に膨らんでいる(スコア4)
資料では、蹄節スコアは跛行スコアと関連しており、スコア2以上の牛は蹄関節周囲炎の可能性があるとされています。牛群内でスコア2以上の牛の割合は30%未満にすることが目標です。
施設スコアが高い場合、牛床が硬い・狭い、フリーストールではネックレールが低すぎることなどが考えられます。川上さんは、牛が立ち上がるときにすんなり立てているかを観察するのも、日々できるチェックだと話します。
ネックレール フリーストール牛舎で、牛が立つ位置を調整するために首の上あたりに設置される横棒。位置が低すぎると立ち上がりに違和感が出やすくなります。
体重のかけ方と、被毛に表れる爪の健康
川上さんは、もともと足の置き方や立ち方、歩き方が悪い牛がいることにも触れます。施設が狭くて牛が寄りすぎるとガニ股になりやすく、内股になりすぎると足が弱ってお尻が下がり、背中まで曲がってしまう牛もいるそうです。
爪の厚さにも個体差があります。切っている・切っていないではなく、底面の面積の大きさそのものが牛によって違い、しっかりした足の牛は爪が大きかったりするといいます。
川上さんが自身の考えとして語るのが、被毛の質と爪の健康はつながっているという見方です。爪も皮膚や体の一部なので、被毛が滑らかでツヤツヤした牛は爪も健康だと感じているそうです。
理想的な体重のかけ方は、4本の足に25%ずつ均等に体重が乗ることです。これがずれると、体重が乗らない足の爪は変な伸び方をし、体重が乗る足は負担が大きくなって蹄病になりやすいと説明しています。
爪に刻まれる過去の栄養状態「蹄輪スコア」
爪の表面から過去の栄養状態を読み取るのが蹄輪スコアです。蹄の表面のツヤや溝の状態を観察します。後ろ足の外蹄に現れやすいですが、どの蹄でも観察できます。
健康な状態は、蹄の表面が滑らかで光沢があり、線がほとんどない状態です。逆に、栄養状態が悪いと爪が伸びるときにシワや線ができます。
蹄輪から読み取れる過去
現在
蹄冠(爪の付け根)に近い部分が新しく形成された部分
1ヶ月前
溝は1ヶ月あたり約5ミリ下方に成長する
約4ヶ月前
1ミリ程度の溝は約4ヶ月前に形成されたと予測できる
川上さんは、夏を越えた爪を見ると、ヒートストレスで餌を食べられなかった時期がはっきり溝として表れると話します。溝の太さが1ミリ以上ある場合は、分娩後の栄養不足が大きかったと疑われるそうです。
負のエネルギーバランス 分娩後に乳量が急に増える一方で、餌から得られるエネルギーが追いつかず、体のエネルギーが不足する状態。蹄の溝など、後から爪に痕跡として表れます。
川上さん自身は、搾乳のときに爪の長さや状態を日々観察しているそうです。ここで、学校ではパーラーに入ったとき爪を洗うか、という話題になります。
研修生 私は洗ってるです。
川上 大事よ、あれも。
フリーストールでは糞尿まみれで爪が見えにくいので、洗うことで赤く腫れているかどうかを確認できます。赤く腫れていれば「配合が多いのかな」と栄養面を疑う手がかりになると話しています。
爪をつくる栄養素と、感染を防ぐ牛舎の工夫
川上さんは、爪の健康にはミネラルが欠かせないと強調します。骨の形成にはマンガン、爪には最近ビオチンが良いと言われているそうです。
ビオチン ビタミンB群の一種。牛では蹄の角質の質を高め、蹄の健康を保つのに役立つとされ、飼料への添加が注目されています。
資料には具体的なミネラルの役割も書かれています。亜鉛は上皮組織の形成に必要で、亜鉛と銅は角質に強度と弾力性を与えます。銅は結合組織と白帯の健康、マンガンは関節や腱の弾力性、骨の密度に関わります。
川上 どんなに蹄病をやっても、栄養が入ってこないと爪が修復されないんで。
つまり、栄養が入ってくることが前提で、そのうえで爪の管理をすることで回復・改善していく、という考え方です。爪に良いこととして、乾燥させることと運動させることも挙げています。
病気の名前としては、指皮膚炎、蹄球ビラン、趾間皮膚炎、腐蹄病、趾間フレグモーネなどが紹介されました。傷からできるもの、足同士が擦れる炎症からできるもの、ウイルスや菌からできるものなどがあると説明しています。
腐蹄病 蹄の趾間(指の間)などから細菌が入り込んで起こる感染症。腫れや痛みを引き起こし、放置すると歩行障害につながります。フットバスなどで予防します。
理想の削蹄間隔と、蹄病を出さない飼養の考え方
資料では、効果的な削蹄間隔として、分娩予定日の1〜2ヶ月前に削蹄し、そこから4〜6ヶ月間隔で行い、また次の分娩の1〜2ヶ月前に削蹄する、という流れが理想とされています。
川上さんが理想と語るのは、乾乳のときにリフレッシュさせて、ベストコンディションで乾乳に入り、そのまま分娩を迎えることです。
削蹄の技術については、フリーストールとつなぎで削り方の考え方が違うと川上さんは言います。フリーストールは歩くことが前提、つなぎは立っている時間が長いので、良い姿勢が取れる削蹄が良いと考えているそうです。
つなぎ飼い 牛を1頭ずつ定位置につないで飼う方式。牛が歩き回るフリーストールに比べ、菌の感染が広がりにくい一方、立っている時間が長くなります。
最後に川上さんは、蹄病を出さないための本質的な考えを語ります。爪の悪い牛舎は、確実に粗飼料が悪いことが多いというのが持論です。
川上 足同士すれさせなかったら、蹄病って出ないなとは個人的には思うんで。ないからね、うち蹄病。
フリーストールは歩くベッドや濡れた床で菌が牛から牛へ感染してなりやすい一方、つなぎはそうした感染が少ないといいます。だからこそ、パーラーで爪を洗って菌を減らすことや、予防・治療のためのフットバスなど、酪農家にできる予防があると話しています。
フットバス 牛が通る場所に薬剤入りの浅い水槽を設け、蹄を消毒する仕組み。蹄病の予防用と治療用があり、菌の感染を抑えるために使われます。
まとめ
今回は、見逃しやすい肢蹄障害について、酪農家が日々の観察でできることを川上さんが解説しました。爪を「裸足」と考え、立ち姿や歩き方、爪の表面や腫れを見ることで、栄養状態や牛舎の問題まで読み取れるという内容でした。
- 足が悪くなる主な原因は、粗飼料と濃厚飼料のバランスの崩れと、爪のもろさ
- ロコモーションスコアや蹄節スコア、蹄輪スコアで、日々の観察から蹄の状態を評価できる
- 滑る床・段差・石など、牛が裸足で歩きたくない牛舎構造が爪に悪い
- 爪は皮膚の一部なので、被毛のツヤやミネラル・ビオチンなどの栄養状態が爪の健康に直結する
- 治療は搾蹄師や獣医に任せつつ、良質粗飼料・餌のタイミング・パーラーでの洗浄やフットバスなど、酪農家にできる予防がある