川上牧場研修【疾病管理(消化器症・起立不能)】

2021-09-25 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

消化器病も起立不能も、多くは分娩前後の栄養バランスや乾乳期の管理に原因があり、日々の飼養管理と観察で予防できる、というのが川上さんの一貫したメッセージです。

この回の要点

  • 第四胃偏位は周産期病の行き着く先。移動のタイミングや過肥、餌の急変が引き金になる
  • ルーメンアシドーシスは反芻と唾液がカギ。粗飼料を先に与え、配合を小分けにすると防ぎやすい
  • 夏明けに蹄病の牛が出るかどうかは、夏場の暑熱対策がうまくいったかの指標になる
  • 乳熱は生理的に起こるもの。吸収時間を逆算し、分娩前からカルシウムを準備するのが有効
  • いい草も分娩前だけでは効果が薄い。ルーメン微生物を意識して餌は徐々に切り替える

配信の全文(podyの記事より)

牛群検定の淘汰理由「消化器病」と「起立不能」とは

今回のテーマは、牛群検定の淘汰理由にある「消化器病」と「起立不能」です。まずはそれぞれにどんな病気が含まれるのかを整理していきます。

川上さんによると、消化器病の具体的な適用例は第四胃偏位 ── 牛の第四胃(皺胃)が正常な位置からずれてしまう病気。左方または右方に変位し、ガスがたまって通過障害を起こす)、ルーメンアシドーシス、鼓脹症、ケトーシスなどだそうです。

一方の起立不能には、乳熱や低カルシウム血症、ダウナーなどが含まれます。分娩時以外の起立不能も対象になるとのことです。

川上 乳熱と低カルシウム血症、この違いがちょっとよくわかんないけど、僕、乳熱と低カルシウム血症が一緒だと思ってるんだけど。

さらに「低能力」や「死亡」も淘汰理由に挙げられています。川上さんは、いろいろ処置しても病気の分類に入らないものを「死亡」に入れてしまう、という実務上の扱いを紹介しています。

今回扱う2つの淘汰理由

用語

消化器病

第四胃偏位、ルーメンアシドーシス、鼓脹症、ケトーシスなどが含まれる

用語

起立不能

乳熱、低カルシウム血症、ダウナーなど。分娩時以外の起立不能も含む

第四胃偏位は「周産期病の行き着く先」

最初に取り上げるのは第四胃偏位です。川上さんは、手術すれば治るのになぜ淘汰になるのか、正直よくわからない部分もあると率直に話しています。

川上 第四胃偏位でトータ理由になるっていうのが、手術すれば治るので、なんで手術しないんだろうって思うんだけど。

参考にしているのは雪印種苗の技術情報です。そこでは、第四胃偏位の原因として分娩前後の採食量の低下が挙げられています。

多くの周産期病 ── 分娩の前後(周産期)に発生しやすい病気の総称。第四胃偏位、乳熱、ケトーシスなどが含まれる。分娩前後の栄養バランスの崩れが背景にあることが多い)に共通する原因であり、第四胃偏位は周産期病の行き着く先とも言える、という位置づけです。

資料では、原因を事例が多い順に整理しています。川上さんの実感とも重なる部分が多いようです。

第四胃偏位の原因(事例が多い順)

1

分娩前の移動のタイミングが悪い

2

品質が悪いサイレージの給与による肝機能の悪化

3

乾乳後期牛の飼養環境が悪い

4

過肥である

移動のストレスと過肥の牛への向き合い方

1つ目の「分娩前の移動のタイミング」について、川上さんも育成舎からおよそ2ヶ月前に牛を連れてくる中で、よく起きる問題だと話します。

移動のストレスと環境の変化で餌を食べなくなり、そこから病気につながるという流れです。資料では、分娩予定日の20日前に早めるか、分娩の直前・直後に移動する方法が示されています。

川上 その移動のストレスと場所の環境のストレスがかかってしまうことによって餌食べなくなっちゃって、それから病気になっちゃうという流れだと思うね。

品質の悪いサイレージについては、サイレージ ── 牧草やトウモロコシなどを密閉して乳酸発酵させた飼料。発酵がうまくいかず変敗すると、消化器の調子を崩す原因になる)が偏敗すると消化器の調子が悪くなり、ルーメンの状態が悪化して第四胃偏位につながると説明しています。

4つ目の「過肥」については、川上さんの考え方が資料と少し違います。資料はボディコンディションスコアが3.25になったら給与量を減らすとありますが、川上さんは古い資料かもしれないと補足します。

川上さんが問題視するのは、太っていること自体より、ボディコンディションスコアが大きく変動することです。太っているなら、痩せさせないように「太っているなりの飼い方」をすべきだといいます。

太った牛は乾物摂取量(食べる量)が減りやすいため、粗飼料をより良質なものに変えたり、ルーメンで分解されず腸で吸収されるバイパス率 ── 飼料の栄養がルーメンで分解されずに通過し、そのまま小腸で吸収される割合。バイパス率の高い飼料は代謝タンパクの供給に役立つ)の高い配合を与えたりと、飼い方の工夫が必要になります。

大陰炎胃はなぜ死につながるのか

続いて大陰炎胃 ── 川上さんが第四胃偏位を指して使っている呼称。第四胃にガスがたまって変位し、通過障害を起こす状態を説明している)について、川上さんは手元の「生産獣医療システム」という本を参照しながら解説します。

本によれば、泌乳牛の分娩後に多発し、粗飼料が少なく濃厚飼料やサイレージの過給によって発症するとのこと。約80%が分娩後1ヶ月以内に発症すると書かれています。

仕組みとしては、胃にガスがたまって風船のように膨らみ、上に上がることで通過障害が起きます。右側に上がる場合と左側に上がる場合があり、ねじれると全く通らなくなるため、手術が必要になります。

川上 風船ギュッてやったら、絞ったらそこにルーメンから来た消化物が流れるのはまあ無理だから、手術しないといけないので、手術するのが一番ですという。

川上さんの牧場でも最近、分娩から1ヶ月前後の牛がなった例があるそうです。夏場の温度変化がひどく、食べたり食べなかったりを繰り返してルーメンの状態が悪化したのが原因とのこと。

「第四胃偏位で死ぬ」という淘汰理由の意味も、ここでつながります。通過障害を放置していると、調子が悪いと思っているうちに突然死んでしまうことがあるのです。

川上 調子がおかしいわって思ってたら、いきなり死ぬみたいな。なんか(獣医の)先生(に)勝手に死んだんですけどって。いやいや、四便だなというパターンは見たことあるし、聞いたこともあるな。

だからこそ、食べなくなったら早めに獣医に伝えることが大事だと川上さんは念を押します。

第四胃偏位を防ぐ乾乳期の飼料設計

大陰炎胃の予防について、本には栄養指導が最も重要視されていると書かれています。乾乳期の牛は特別な栄養が要求されるため、泌乳中の牛とは別に飼うべきだという内容です。

具体的には、乾乳期の牛は疲れた消化管を元気づけるため、主に粗飼料で飼育すること。資料では粗飼料が総乾物量の70%必要で、濃厚飼料は30%を超えてはならないとされています。

ただし川上さんは、粗飼料や濃厚飼料の種類にもよるため、この30%・70%という数字はそのまま当てはめにくいと補足しています。

もう一つの重要な考え方が、産後の餌の切り替えです。乾乳期と搾乳牛の餌はガラッと変わるため、いきなり濃厚飼料が多いTMRにすると危険だといいます。

川上さんは、産んでから数週間のフレッシュ期は粗飼料が多めで配合が少ない餌で慣らしたり、粗飼料と濃いTMRを半々に混ぜたりする管理を紹介します。いきなりだとルーメンのバランスが崩れ、第四胃偏位につながるからです。

さらに本では、分娩時の低カルシウム血症、後産停滞、大腸菌乳房炎などの予防が、間接的に第四胃偏位の発生を下げるとされています。他の病気が複雑に絡まって、最終的に第四胃偏位になるという理解です。

牛群の一般的な健康状態が向上すれば、その四便の発生は低下する。 ── 川上

ルーメンアシドーシスは唾液で決まる

次のテーマはルーメンアシドーシスです。川上さんは十勝農協の技術情報を参照しながら説明します。

資料によれば、でんぷん質はルーメン内で微生物に発酵されVFA ── 揮発性脂肪酸のこと。ルーメン内で飼料が発酵して生じる酸で、牛のエネルギー源になる一方、過剰になるとルーメンのpHを下げてアシドーシスを招く)になります。この発酵酸の生産量が、牛の緩衝能力とルーメンからの吸収能力を超えたときにアシドーシスが起こります。

川上さんはこの仕組みを、唾液の働きで噛み砕いて説明します。配合飼料を食べるとルーメンのpHが下がりますが、反芻や粗飼料の採食で唾液がたくさん出ると、唾液のアルカリ性が酸を中和してくれるのです。

川上 反芻しっかりしてない、粗飼料がしっかり食べてないやつは、イコール唾液が減っちゃって、それでルーメンアシドーシスという流れですね。

資料には、牛が出すサインもまとめられています。いつも与えている餌なのに残していたら、まず何かおかしいと疑うべきだといいます。

・与えた牧草を残していないか

・飼料給与1時間後、おおむね70%以上の牛で反芻が見られるか

・採食が急に落ちた牛がいないか

・乳脂率の低い牛が多くいないか

・軟便や便の酸性が強くなっていないか

乳脂率については、牛群検定のPF比 ── 乳脂肪率(P)とタンパク質率のうち脂肪とタンパクの比。おおむね0.8〜0.9でバランスが良く、1を超えると乳脂肪が下がりタンパクが高い状態でアシドーシスが疑われる)が指標になると川上さんは言います。PF比が1を超えると要注意で、0.8〜0.9くらいがバランスが良いとされています。

ただし、PF比が悪くても牛がしっかり反芻し、ゆっくり休んで餌を食べているなら問題ないとのこと。もともと乳脂肪が低い、乳タンパクが高いといった遺伝的な個体差もあるからです。

蹄病から見える夏の暑熱対策の成否

アシドーシスのサインの一つが蹄の状態です。川上さんは、跛行(歩行が乱れる状態)の牛が増えていないかを挙げます。

夏場のストレスでルーメンアシドーシスになった牛は、少し遅れて足に症状が出てきます。ちょうど夏明けの今ごろが、その時期にあたるといいます。

重要なのは、今この時期に足の悪い牛を見つけて治療しても、それは手遅れだという指摘です。根本の問題である夏の管理は、すでに終わってしまっているからです。

だから夏場にちゃんとしっかり暑熱対策をしてやると、今の時期も全然そういう牛が出てこない。 ── 川上

つまり、今の時期に蹄病の牛が出てくるかどうかが、夏場の暑熱対策がうまくいったかの指標になるというわけです。

配合飼料は分けて与える理由

飼料の与え方も、アシドーシスに大きく関わります。川上さんは、TMRと分離給与での発酵パターンの違いを資料から紹介します。

資料では、TMRは発酵酸量が安定しているのに対し、分離給与は濃厚飼料を与えた後に急に発酵酸量が増え、安定するまで4〜5時間ほどかかるとされています。

ただし川上さんは、TMRだからといって完璧ではないと現場感覚を語ります。牛は鼻や舌で選び食いをして、トウモロコシだけ食べたり軸を残したりするため、設計通りに食べてくれるとは限らないからです。

川上 与えたもの全部綺麗に食べるからTMRちゃんと設計通り食べてるってことになるんだけど、そんなにうまいこといかねえよっていう話だから。

分離給与では4〜5時間おきに配合を与えられれば理想的とのこと。pHが下がって元に戻り、また与える、というサイクルを繰り返す考え方です。

川上さんの牧場では配合給与を6回に分け、1回の給与を3時間で行っているそうです。1回の給与量自体が少ないため、3時間でも回せる計算だと話します。

さらに、粗飼料を先に与えてから濃厚飼料を与える順番も効果的だといいます。ルーメンマットがしっかりして粗飼料が入っていると、その上に配合が乗ってゆっくり消化されるため、それだけでもアシドーシスを防げるのです。

ルーメンアシドーシスを防ぐ餌の与え方

1

粗飼料を先に与える

ルーメンマットを作り、配合が直接ドカンと入るのを防ぐ

2

配合を小分けにする

川上牧場では1日6回、1回あたり3時間で給与

3

pHの回復を待つ

下がったpHが戻ってからまた与えるサイクルを繰り返す

鼓脹症とケトーシスの見分け方

消化器病の続きとして、鼓脹症とケトーシスに触れます。鼓脹症は、お腹が下ぶくれのようにパンパンに膨らむ状態です。

川上さんによれば、ルーメンのガスは触ると波動感があってボワンと返ってくるのに対し、鼓脹症は破裂しそうな風船のようにパンパンになるそうです。

治療としては、お腹に太い針で穴を開けて空気を抜く方法のほか、酢と油を混ぜたものを飲ませるやり方もあると紹介します。

川上 なぜか知らないけど治るから。酢と油を混ぜたものをV飲みで飲ませるみたいな。まあ鼓脹症で死ぬってあんま聞いたことないな、これも。

ケトーシスについては、太って粗飼料が食べられなくなったり、産後のエネルギーバランスが悪かったりすると肝臓に負担がかかって発症するとのこと。これで淘汰する牛が多い場合は、そこの管理を見直す必要があると話します。

乳熱と低カルシウム血症はカルシウムの2択

起立不能の代表が乳熱、つまり低カルシウム血症です。分娩と泌乳開始に伴って起こる代謝性の疾患で、分娩後48時間以内の発症が最も多いとされています。

川上さんは、これはホルスタインという品種で生理的に起こることだと整理します。だからこそ対応は、外部からカルシウムを入れるか、自分のカルシウムを上手に使えるかの2択になると言います。

川上 一生懸命自分でハァーって頑張るより、外から手助けしてもらった方が絶対楽なので。

外部から入れる方法には、獣医の点滴、皮下注射、口からの経口投与などがあります。カルシウム剤ごとに吸収量や吸収時間が違うため、それを考えて使うのがポイントです。

川上さんが実践しているのは、タイミングを合わせた予防です。分娩後48時間で低カルシウムが起きるなら、その時点でカルシウムが最高値になるよう逆算して餌を与えます。

たとえば自動給餌機に入れているハイマグなどの添加剤は、吸収されて血中に回るまで1〜2日かかります。だから分娩の2日前ぐらいに一気に与えておけば、分娩時にカルシウムが補給される、という考え方です。

ただし血中カルシウムは、上げても通常値に戻そうとする力が働くため、入れすぎても効果は薄いといいます。ビタミンDを入れてカルシウムがうまく機能できるよう手助けすることも紹介されています。

さらにdCaコントロール ── 飼料中の陽イオンと陰イオンのバランス(DCAD)を調整すること。分娩前に陰イオンを多くすることで、骨からのカルシウム動員をスムーズにし、乳熱を予防する管理法)という、イオンバランスを整える方法にも触れます。非常事態に骨からカルシウムを持ってくる受け渡しを、ミネラルバランスで上手にするという考え方です。

乳熱への2つのアプローチ

外部から入れる

点滴・皮下注射・経口でカルシウム剤を補給。吸収時間を逆算して分娩前から準備する

VS

自分で上手に使う

ビタミンDやdCaコントロールで、骨からのカルシウム動員をスムーズにする

牢乳や死んだ目が知らせる低カルシウムのサイン

予防と観察のポイントも整理されています。分娩後48時間は、乳熱の症状を見逃さないようによく観察することが基本です。

川上さんは、低カルシウムのサインとして牢乳(乳が漏れ出る状態)を挙げます。乳房を締める閉合筋という筋肉がカルシウム不足で動けなくなると、搾乳後なのに乳が漏れてしまうのです。

起立不能で足に力が入らないのも、同じ理由です。筋肉にはカルシウムが必要なため、不足すると筋肉がうまく動きません。

川上 牢乳してる牛も搾乳した後なのに牢乳してるとか、そういう牛を見つけた場合は、ちょっとカルシウムが低いのかなって思ってもらっても構わない。

他にも、耳が冷たい、反芻していない、餌を食べていない、目が死んでいる、といったサインが挙げられます。3〜4産以上の牛や、前回分娩時に乳熱になった牛は特に注意が必要です。

搾乳を制限すべきかどうかは、獣医によって意見が分かれるところ。川上さんは絞ることで乳熱になるとは思わないため、自分は絞りきる派だといいます。ただしケースバイケースなので、獣医に聞くのがよいとまとめています。

餌の急変を避ける鍵はルーメン微生物

最後の予防ポイントは食欲の維持です。分娩直前は食欲が減退しやすいため、飼料の急変など食欲低下の原因を避けることが大切だとされています。

ここで川上さんは、よくある勘違いを指摘します。食欲が落ちるからと分娩前だけいい草を与えても、ルーメンの中にその草を消化する微生物がいないため効果は薄いのです。

川上 いい草あげたとしても、ルーメンの中にはその草を消化する微生物がいないので、分娩前だけやったとしてもあんまり効果ないんだよね。

だから重要なのは、分娩前に消化できる環境をあらかじめ作っておくこと。飼料を変えるときも戻すときも、3〜4日かけて徐々に行うのがよいとされています。ルーメン微生物を意識した管理が鍵になります。

分娩時以外の起立不能については、股裂けや骨折、乗駕による事故などが挙げられます。ただし大抵は事故のため、それほど多くはないだろうと川上さんは話します。

一にも二にも哺乳の管理。哺乳の管理して、泌乳期にしっかりビタミン、ミネラル、カルシウム与えると。 ── 川上

そして忘れてはいけないのが経営とのバランスです。いいものを食べさせても、ガンガン絞れないと意味がないと、酪農家としての現実的な視点で締めくくっています。

まとめ

消化器病も起立不能も、多くは分娩前後の栄養バランスや乾乳期の管理に原因があり、日々の飼養管理と観察で予防できる、というのが川上さんの一貫したメッセージです。

  • 第四胃偏位は周産期病の行き着く先。移動のタイミングや過肥、餌の急変が引き金になる
  • ルーメンアシドーシスは反芻と唾液がカギ。粗飼料を先に与え、配合を小分けにすると防ぎやすい
  • 夏明けに蹄病の牛が出るかどうかは、夏場の暑熱対策がうまくいったかの指標になる
  • 乳熱は生理的に起こるもの。吸収時間を逆算し、分娩前からカルシウムを準備するのが有効
  • いい草も分娩前だけでは効果が薄い。ルーメン微生物を意識して餌は徐々に切り替える