中学生職場体験受入中🐮③
2023-09-22 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
身近な牛乳を入り口に、流通のしくみから日本の食料自給率、物価や給料、時間の価値まで、川上さんと中学生が一緒に考えた職場体験最終日でした。答えは簡単に出ないけれど、考え続けることの大切さが伝わる回です。
この回の要点
- 牛乳が余るのは需要と供給のバランスの問題で、アレンジだけでは毎日搾る牛乳を消費しきれない
- 市販バターの安さは、北海道の低コスト生産と税金による補給金、そして海外からの輸入に支えられている
- 戦争やコロナで輸入・国内生産のバランスが崩れ、一転して牛乳が余り、酪農家も牛も減っている
- 中学生からは「消費者の給料を上げる」「減税」などの案が出たが、いずれも公務員の給料や国の予算とのトレードオフがある
- 好きな仕事にすれば学ぶ・遊ぶ時間と仕事が重なり、価値の高い14歳の時間を活かしてチャレンジしてほしいと川上さんは伝えた
配信の全文(podyの記事より)
職場体験3日目、宿題は「牛乳を飲んでもらう方法」
この回は、牛乳のむ?牧場配信の川上さんが中学生の職場体験を受け入れている3日目、最終日の様子です。まずは体調確認から始まります。
川上 疲れてとか出てない?
中学生 6割くらいです。
学校の勉強と牧場の仕事、どっちがいいかと聞かれた中学生の答えは意外にはっきりしていました。
川上 学校の勉強とどっちがいい?
中学生 こっちです。
前日、川上さんは「今世の中で牛乳があまり飲まれていない中で、みんなに牛乳を飲んでもらうにはどうしたらいいか」を宿題として出していました。まずはなぜ牛乳が余るのか、その理由から確認していきます。
中学生 需要と供給の差が。
牛乳が余るのは、需要と供給のバランスが崩れているから。中学生はそこまで調べてきていました。
アレンジすれば飲んでもらえる?その落とし穴
1人目の中学生が考えてきたのは、牛乳をそのまま飲むのではなく、料理などにアレンジする案でした。シチューやカルボナーラ、ケーキなどが挙がります。
中学生 牛乳だけじゃなくていろんなものをアレンジして飲む感じで。
ここで川上さんは、大事な前提を投げかけます。牧場では毎日牛乳を搾っているという事実です。
川上 365日牛乳絞ってるから、365日飲んでもらう取り組みをしていかないといけないんだけど。ケーキ毎日食わないじゃん。
ケーキやカルボナーラは毎日は食べません。だから「アレンジ」だけでは、毎日搾られる牛乳を毎日消費してもらう解決にはならない、という視点が示されます。
中学生 気合で飲む。
「気合で飲む」という答えに対して、川上さんは無理して飲む方向ではなく、日常的に自然と飲む形にしていく必要があると話します。
無理して飲むと美味しくないじゃん。だから日常的に飲むような感じにしていかなきゃいけない。 ── 川上
乳飲料という現実的なアイデア
もう1人の中学生も、基本の発想はアレンジと同じでした。ただ、身近な例から具体的な提案につなげます。
中学生 牛乳が苦手な人がいて。でもいちごミルクとかフルーツ牛乳とかだったら全然飲めるって言ってたので。
牛乳そのものが苦手でも、いちごミルクやフルーツ牛乳なら飲める人がいる。だから乳飲料にしていけば飲んでもらえるのでは、という提案です。 乳飲料 ── 生乳に果汁やコーヒー、砂糖などを加えて味をつけた飲み物。牛乳とは分類が分かれ、いちごミルクやコーヒー牛乳などが含まれます。
川上 今日牛乳だけど、明日はコーヒー牛乳、いちご牛乳みたいな感じで1週間変えていけばいけるんじゃねえかと。
川上さんは、ミルメークのように牛乳に混ぜて味を変える商品が世の中にたくさんあることも紹介します。抹茶やココア、紅茶で割るものなどです。
「牛乳は太る」は本当?給食に牛乳が出る理由
話題は「牛乳は太るから飲まない人がいる」という声に移ります。川上さんは、牛乳に含まれる栄養素を中学生に確認していきます。
中学生 タンパク質。カルシウム。
牛乳にはタンパク質、カルシウム、ミネラルなどが含まれています。川上さんは、同じ栄養素を他の食品で満たそうとすると、牛乳が一番コスパがいいと説明します。
学校給食に牛乳が出る理由も、この栄養とコストの話につながります。小中学生の1日の栄養摂取量の一部を給食で満たそうとすると、牛乳が欠かせないというわけです。
川上 牛乳を外してしまうと、その栄養素を満たすために給食費が上がってしまいます。
太る理由は人によって違い、不規則な生活や体質など様々です。川上さんは「食べて飲んで動かなければ普通に太る」と、栄養の話とは切り分けて説明します。
牛乳1Lからバターは100g?加工が価格に効いてくる
ここから話は、牛乳の流通と価格の仕組みへと深まります。川上さんは、牛乳をそのまま飲んでもらうのが酪農家にとって一番だと説明します。
川上 牛乳そのものをみんなに飲んでもらうと、農家さんのそのまま100パーセント収入になるんだけど、加工を一回挟むと加工の費用がかかります。
では牛乳を加工するとどうなるのか。川上さんは、牛乳1Lから作れるバターの量を例に出します。
牛乳に含まれる脂肪や無脂固形分、タンパク質などの固形分は全体でだいたい10パーセントほど。そのため、牛乳1Lからはバターが100gも取れないと説明します。
牛乳1Lから作れるバター
100g未満
牛乳1L(仮に300円)から作れるバターの量
約3000円分
バター1kgを作るのに必要な牛乳の量
この計算でいくと、バター1kgを作るには約3000円分の牛乳が必要になります。それを料理に使えば、ケーキもカルボナーラもとても高くなってしまうはずです。
では、なぜ市販のバターは安いのか。ここで川上さんは、北海道の存在を持ち出します。
北海道のバターと税金が支える「安さ」
日本で作られる牛乳のうち、北海道以外の都府県のものはほとんどが飲用向け、つまり飲む牛乳になっています。一方、北海道で作られる牛乳の多くはバターなどの加工向けです。
川上 北海道で作ると原材料費が安いです。放牧地があったりとか、土地が広かったりとかして、生産量が高いので、それだけ農家さんに支払う料金がちょっと安くなってます。
さらに、国からの補給金という仕組みもあります。これは税金でまかなわれていて、加工向けと飲用向けの価格差を補っている部分があります。 補給金 ── 加工向けの生乳などに国が支払うお金。飲用向けより安くなりがちな加工原料乳の価格を補い、酪農家の収入を支える仕組みです。
つまり、バターや生クリームなどの加工品を作るほど、税金が使われていくという流れになっている、と川上さんは整理します。市販のバターの安さの裏には、この仕組みがあるわけです。
輸入バターと自動車輸出、日本の食料自給率
日本で牛乳を100パーセント加工向けにまわすことはできません。そこで、海外からバターや脱脂粉乳をある程度買っています。 脱脂粉乳 ── 牛乳から脂肪分を取り除いて乾燥させた粉。長期保存がきき、パンやお菓子、加工食品などに広く使われます。
輸入の背景には、貿易のバランスもあります。日本は自動車などを海外に輸出しているので、その代わりに農産物をある程度買う必要がある、という決まりがあると川上さんは説明します。
川上 外食産業とか、コンビニとかで作って置いてあるパンとかお菓子とか、ああいうのにはほとんど海外のバターとか脱脂粉乳が使われてます。
ところが、海外のバターも入ってきにくくなっています。戦争や、ガソリン代・資材価格の高騰などが重なり、国内で作るにも値段が上がってしまう状況です。半々のバランスが崩れてきているのです。
もし輸入に全部頼ったらどうなるか。川上さんは、海外が値段を倍や3倍につり上げても、日本にはバターがないから買うしかない、という状況を突きつけます。
川上 食料自給率とかって言われてるでしょ。日本は30パーセントぐらいしかない。
日本の食料自給率は3割ほど。円安で日本の価値が下がる中、隣に大きな中国のような国があれば、そちらに高く売られてしまうかもしれない、という現実も語られます。
戦争とコロナで一転、今度は牛乳が余った
ここまでの流れを、川上さんは今の日本の状況として整理します。牛乳を加工品にするほど農家の収入は減り、税金の負担は増えていく構図です。
バターが足りないからと国内生産を増やそうとした矢先に、ロシアとウクライナの戦争やコロナ禍が重なりました。市場は一気に不安定になります。
川上 みんながバター足りないよって言ってたら、今度バター余っちゃってる牛乳余ってるよってなっちゃってるっていう状況。
その結果、酪農家がどんどん辞め、牛も減っているのが今の現状です。=需要と供給のバランスが難しい牛乳=という商品の性質が、こうした振れ幅を生んでいます。
もし総理大臣になったら?中学生の農業政策
川上さんは、中学生に「自分が内閣総理大臣や大統領になったら、農業政策をどうするか」を語らせます。
中学生 自給率上げて、ちょっとでも多くの税金を使って農家さんをサポートとか。
これに対して川上さんは、農家はすでにかなりの支援を受けていると返します。農水省の補正予算や補助金、補給金などです。
川上 農家さんってめちゃめちゃ税金もらってんだよ。トラクター買いますとかで半額補助みたいなのがあって、他の企業じゃありえない。
「牛乳はふるさと納税できないのか」という声も紹介されます。ただ、ふるさと納税は買う人の需要が安定せず、牛乳はすぐ腐るため相性が良くないと川上さんは説明します。
つまり、日本はすでに農業をかなり支援している。それでも農業をやりたい人が増えていないのが現実だ、と話が続きます。同級生に農業をしたい人がいるか聞くと、答えは「聞いたことない」でした。
輸出?豊かに?中学生と探る自給率アップの道
農家が減る中で「誰がやってくれるのか」という問いに、中学生は世界の人口が80億人に近づいていることも踏まえて答えを探ります。
中学生 農産品でまた国を豊かにする。農業を豊かにしてから輸出していく。
農業を豊かにしてから輸出する、という案です。ただ川上さんは、他の農業大国がもっと安くて美味しいものを作れたら、消費者は安い方を買ってしまうと指摘します。
川上 ニュージーランドでは牛乳が3分の1で作れます。日本の作るものの3分の1で。
日本の牛乳がニュージーランドの3倍のコストなら、価格競争では勝ちにくい。輸出だけでは簡単に解決しないことが見えてきます。
農家・メーカー・消費者、三者の板挟み構造
川上さんは、問題の構造を三者の関係として整理します。酪農家は牛乳を高く売りたい、消費者は安くたくさん欲しい、その間で乳業メーカーが板挟みになっている、という図です。
牛乳をめぐる三者の板挟み
酪農家
牛乳の価格を高く上げてほしい
↓
乳業メーカー
明治・雪印メグミルクなど、両者の間で板挟みになる
↓
消費者
安くて、たくさん、いろんな種類が欲しい
この板挟みをどう解くか。中学生から、思いがけない切り口の答えが出ます。
中学生 消費者の給料を上げたら高くて買える。
消費者の給料が上がれば、牛乳が多少高くても買える。だから酪農家も高く売れる、という発想です。川上さんはこれを高く評価します。
なので物価を上げるっていうのを今やってるわけですよ。 ── 川上
増税メガネ?減税で困るのは誰か
では、日本の価値を上げて国民が豊かになるにはどうするか。中学生は「輸出を高く」と答えますが、川上さんは安い外国産に流れてしまうと返します。一方で、給料を上げるというアイデアは一番いいと繰り返します。
話は税金にも及びます。中学生からは、税金を下げて給料を上げるという減税案が出ます。
中学生 税金を下げて給料上げたら、みんなもっと働き出す。
川上さんは「減税まで言い始めたぞ」と面白がりつつ、では減税して困るのは誰かと問い返します。中学生は「内閣」、そして税金で給料が払われる公務員だと答えます。
減税で国の税収が減れば、道路の補修や災害対策、自衛隊などの予算が削られてしまう。ここにも簡単に解けないトレードオフがある、と示されます。
物価を下げれば解決?江戸時代との違い
リスナーからは逆の発想も届きます。給料を上げるのが難しいなら、すべての物価を下げれば今の給料でもやりくりできるのでは、という意見です。
これに対し中学生は、下げることの難しさを指摘します。
中学生 下げるのは簡単でも、下げるのもちょっと難しい。繋がったらなんかまたデモとか起こりそう。
今も厳しい人がさらに下げられれば、もっと厳しくなる。だからデモが起こる可能性もある、という読みです。川上さんも「難しいんだよ」と応じます。
江戸時代はもっと数値が低くてもやりくりできた、という声も紹介されます。ただ江戸時代は9割が農家で、日本の内政だけで動いていた時代でした。今は海外との交流が当たり前で、グローバル化のせいで価値が円だけでは決まらなくなっているのが違いだと川上さんは整理します。
農家の平均年齢76歳、10年後は誰が作るのか
今の農業政策として、川上さんは農業農村基本法の議論に触れます。農産物を適正価格で販売していこうという方向です。 農業農村基本法 ── 食料や農業、農村のあり方の基本方針を定めた法律。近年は食料安全保障や適正価格での取引などをめぐって見直しが議論されています。
牛乳は搾っても搾ってもなかなか儲からず、設備投資をしようとすると採算が合わない。それを適正価格にしていこうという話ですが、価格が上がれば毎日買ってもらえるのかという別の問題が出てきます。
中学生 今の給料じゃ難しいですね。上げてほしいな。
結局ここでも「給料を上げてほしい」に戻ってきます。中学生の実感としても、今の給料では牛乳が値上がりすると毎日は買いにくいのです。
農家の高齢化も深刻です。島根県の農家の平均年齢は76歳、全国でも64〜68歳ほど。10年後にこの人たちが続けているかを考えると、担い手不足は待ったなしの問題です。
10年後にこの人たちがやってるかなっていう感じ。 ── 川上
家庭菜園の義務化やロボット農業は答えになるか
解決策として、家庭菜園の設置を義務化する案がリスナーから出ます。ただ中学生は、都会の現実を指摘します。
中学生 マンションとか住んでると難しいですね。都会とかだったら高いビルがいっぱい建ってるから、日当たりが良くってのはそうはない。
川上さんは、AIやロボット、IoTを活用して冷蔵庫のような機械で野菜を自動で育てる仕組みや、都市の屋上で農業をする取り組みも紹介します。ただ、リスナーからは家庭菜園の失敗談も次々と届き、素人が作る難しさも共有されます。
もう一つの方向がロボット農業です。搾乳ロボットや、いちご・トマト・ピーマンなどの自動収穫ロボット、自動運転のトラクターなどが実際に登場していると川上さんは話します。
中学生 ロボットの管理とか高つきそう。
ただ中学生は、ロボットの導入や管理コストの高さを見抜きます。人口減少で消費も生産も減っていく中で、担い手不足をどう埋めるかは、まだ答えの見えない問いのまま残ります。
時間の価値、好きな仕事にすると使える時間が増える
最終盤、川上さんは話題を「時間の価値」に切り替えます。若い時間と年を取ってからの時間では価値が違う、という話です。
1日24時間を、睡眠7時間、仕事8時間、食事2時間などで割っていくと、自由な時間は7時間ほど。中学生は「結構あります」と反応します。この時間を増やすにはどうするか、という問いが投げかけられます。
中学生 削るとこがないっていうか。
睡眠も仕事も食事も削れない。そこで川上さんが示すのは、時間そのものを増やすのではなく、仕事の時間を余暇の時間に変えてしまうという発想です。
川上 嫌いな仕事をすると絶対時間取られちゃうけど、楽しい仕事で学べる仕事してたら、使える時間が増えるんだよ。
川上さん自身、酪農は厳しい時もあるものの、牛のカタログを見たり研修生と話す今の時間は楽しく、しかもお金も稼いでいる、と例を挙げます。好きな仕事なら、学ぶ・遊ぶ・休むが仕事と重なり、24時間を上手に使えるようになるという考え方です。
だから、給料の高さだけでなく、自分が楽しみながら時間を有効に使えるかどうかで仕事の価値が変わる。何でもできる14歳の時間は価値が高いから、チャレンジした方がいい、というメッセージが伝えられます。
何でもできるこの14歳の時間は全然価値が違う。 ── 川上
「確実に来る」大人からのメッセージで締めくくり
最後に川上さんは、この話が耳がうるさいと感じられても、いつか確実に自分たちの問題になると念を押します。
川上 今こうやってできている世の中は、大人が作ってきた世界だから、君たちがその大人にあと3年後になっていきます。
3年後、中学生自身が「何やってんだよ大人」と言われる立場になる。大人に「考えてる?」と聞いて「考えてない」と返されたらどう思うか、それがもうすぐ来る、という問いかけです。
重い話が続いた一方で、リスナーからは笑いを誘うコメントも多く飛び交い、川上さんはそれを受け流しながら進めます。牛乳を飲んでいるか確認したり、大人からの人生アドバイスを紹介したりと、和やかに3日間の職場体験が締めくくられました。
これ中学生がもっと夢持てるような感じで、大人が頑張ってほしいと思います。 ── 川上
まとめ
身近な牛乳を入り口に、流通のしくみから日本の食料自給率、物価や給料、時間の価値まで、川上さんと中学生が一緒に考えた職場体験最終日でした。答えは簡単に出ないけれど、考え続けることの大切さが伝わる回です。
- 牛乳が余るのは需要と供給のバランスの問題で、アレンジだけでは毎日搾る牛乳を消費しきれない
- 市販バターの安さは、北海道の低コスト生産と税金による補給金、そして海外からの輸入に支えられている
- 戦争やコロナで輸入・国内生産のバランスが崩れ、一転して牛乳が余り、酪農家も牛も減っている
- 中学生からは「消費者の給料を上げる」「減税」などの案が出たが、いずれも公務員の給料や国の予算とのトレードオフがある
- 好きな仕事にすれば学ぶ・遊ぶ時間と仕事が重なり、価値の高い14歳の時間を活かしてチャレンジしてほしいと川上さんは伝えた