都市近郊型酪農と自給飼料のリアル

2025-11-19 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

https://youtu.be/ELgr587ojJI?si=CFZJ20xdxkd8rRc3

11月20日、木曜日。

最低気温は5度、最高気温は16度。朝晩はすっかり冷え込み、牧場にも冬の気配が色濃くなってきました。喉の痛みや軽い寒気はあるものの、仕事は待ってくれません。今日も牛舎に立ち、牛たちと向き合いながら一日が始まります。

この日の音声配信では、リスナーさんからいただいたこんな質問にお答えしました。

「都市近郊型酪農は、自給飼料を作るのが難しいのでしょうか?北海道の酪農は自給のイメージがあります」

酪農に少しでも関心を持ってくださっている方なら、一度は耳にしたことがあるテーマかもしれません。今回はこの質問を軸に、都市近郊型酪農と自給飼料の“現実”について、できるだけ噛み砕いてお話ししていきます。

自給飼料とは何か

まず「自給飼料」とは何か。

簡単に言えば、自分の牧場、もしくは自分たちの地域で作った餌を牛に与えることです。牧草やデントコーン、飼料用稲(WCS)などが代表例ですね。

一方で、配合飼料や乾草、サイレージを外部から購入して与える場合は

「購入飼料」と呼ばれます。多くの酪農経営は、この自給飼料と購入飼料を組み合わせながら成り立っています。

では、川上牧場はどうかというと、ほぼ購入飼料主体です。

自分たちで作っている飼料はごくわずかで、あったとしても一か月分程度。飼料用稲(WCS)も年間を通じて給与していますが、これは自分で作っているわけではなく「作ってもらって購入している」形になります。

この点だけを見ると、「自給率が低い=よくない酪農」と思われるかもしれません。しかし、そこには都市近郊型酪農ならではの事情があります。

都市近郊型酪農が自給飼料を作りにくい理由

都市の近くにある酪農牧場は、全国に数多く存在します。そして、ほぼ共通して次のような制約を抱えています。

・そもそも農地が少ない

・土地の価格が高く、借りるのも難しい

・農地が点在しており、まとまった面積を確保できない

・工場、住宅、商業施設との競合がある

自給飼料を作るには、ある程度まとまった面積が必要です。牧草地やデントコーン畑は、狭く分散した土地では効率が極端に落ちてしまいます。

結果として、都市近郊型酪農では

「餌は買ったほうが合理的」

という判断になりやすいのです。

これは努力不足でも、技術不足でもありません。土地条件という、どうにもならない制約が大きく影響しています。

北海道酪農はなぜ自給のイメージが強いのか

一方、北海道。

「酪農=北海道=自給飼料」というイメージを持っている方も多いと思います。これは、かなり事実に近いです。

北海道には、次のような強みがあります。

・広大で連続した農地

・畑作と酪農が組み合わさった地域構造

・スケールメリットが活きる経営規模

・TMRセンター(牛の給食センターのような存在)の普及

牧草ロールやラップサイレージ、コーンサイレージなど、自給飼料を作るための基盤は全国トップクラスです。そのため、「自給しやすい環境」にあります。

ただし、ここで大切なポイントがあります。

北海道でも、完全自給の牧場はほとんどありません。

乳量をしっかり確保しようとすれば、どうしても濃厚飼料の購入は必要になります。飼料価格高騰の影響も、北海道だからといって無縁ではありません。

つまり、正確に言うなら

「北海道は自給しやすいが、完全自給ではない」

というのが現実です。

都市近郊型酪農の“弱み”と“強み”

では、都市近郊型酪農は不利なのか。

答えは、決してそうではありません。

確かに、自給飼料という点では制約があります。しかし、その代わりに都市近郊型酪農には大きな強みがあります。

① 消費地が近い

都市が近いということは、消費者がすぐそばにいるということです。

牛乳、ジェラート、スイーツなどの加工販売や直売との相性は抜群です。

② 体験・食育との親和性

都市部の人がアクセスしやすいため、牧場体験や食育活動につなげやすい。川上牧場が力を入れている部分でもあります。

③ 情報発信が刺さりやすい

都市の消費者は「農業のリアル」を求めています。SNSや音声配信との相性が良く、ファンづくりにつなげやすい環境です。

④ 収益の柱を分散できる

餌をすべて自給でまかなうのではなく、加工・体験・発信といった別の価値で経営を支えることができます。

自給率を高める新しい可能性

最近では、都市近郊でも少しずつ変化が出てきています。

・TMRセンターの活用

・地域内での粗飼料シェア

・堆肥と耕作放棄地のマッチング

・飼料用作物を作る担い手との連携

川上牧場でも、少しずつデントコーンを増やしています。

耕作放棄地が増えていく中で、「餌を作れるチャンス」は確実に生まれています。

餌代は、酪農経営の中で半分以上を占める最大コストです。

だからこそ、購入か自給かの二択ではなく、その地域に合ったバランスを探ることが重要だと感じています。

私自身の戸惑いと学び

私はもともと鳥取県で酪農を学び、酪農ヘルパーとしてさまざまな牧場を回ってきました。鳥取県は都府県の中では自給飼料が比較的盛んな地域で、自分の牧場で牧草やデントコーンを作るのが当たり前、という感覚を持っていました。

さらに研修先は北海道。

まさに「自給飼料の世界」です。

そんな私が島根県・出雲市の都市近郊型酪農に触れたとき、正直なところ

かなり戸惑いました。

「やり方が全然違う」「自分の知っている酪農と合わない」

そう感じたのも事実です。

しかし、続けていく中で気づいたことがあります。

その土地に合わない酪農は、長続きしないということです。

どれが正解で、どれが間違いという話ではありません。

土地、地域、消費者、環境に合わせた形こそが、その場所の“正解”なのだと思います。

まとめ:多様だからこそ、日本の酪農は面白い

今回の質問への答えを、あらためてまとめます。

・都市近郊型酪農は、土地制約が大きく自給飼料を作りにくい

・北海道は土地が広く、自給しやすい構造がある

・ただし北海道も完全自給ではない

・都市近郊型酪農には、直売・加工・体験・発信という強みがある

・地域によって、最適な酪農の形は違う

だからこそ、日本の酪農は多様で、そして面白い。

自分の土地で、自分なりのやり方で牛を飼い、牛乳を届ける。その一つひとつに価値があります。

いつか、自分たちで作った餌を、自分たちの牛に食べさせる。

そんな酪農を少しずつ形にしていけたらいいな、と思いながら、今日も牛舎に立っています。

寒い季節が続きます。

どうか皆さんも体調に気をつけて、ホットミルクでも飲みながら、ゆっくりお過ごしください。

それでは、お仕事の方も、学校の方も、いってらっしゃい。

みんな、牛乳飲んでね。

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