R7年研修生と配信 #33
2025-12-12 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://youtu.be/98kjHiapXSI
12月8日の朝、空気はひんやりとしていて、牛舎の中も冬らしい静けさがありました。搾乳や餌やりといったいつもの作業を一通り終え、今日は研修生と一緒に話しながら配信をしよう、そんな一日です。年末が近づくこの時期は、牛の調子が上がってくる一方で、経営や働き方について考えさせられる話題も自然と増えてきます。
この日の配信は、特別に「何かを教える」つもりで始めたわけではありません。研修生と雑談をしながら、最近自分の中で引っかかっていたことを、そのまま言葉にしていく時間でした。そのきっかけの一つが、SNSで見かけた、酪農の求人や給料をめぐる議論でした。
求人をめぐる違和感から始まった問い
最近、X(旧Twitter)のタイムラインで、酪農の求人広告が炎上しているのを目にしました。給料が安い、休日が少ない、今どきこんな条件で人を募集するのはおかしい。そうした意見が、かなり強い言葉で飛び交っていました。
正直に言うと、その投稿を見たとき、胸の奥が少しざわつきました。擁護したい気持ちもあれば、批判される側の苦しさも分かる。どちらか一方に簡単に立てる話ではない、そう感じたからです。
研修生にもその話を振ってみると、「そんな揉め事があるんですね」と少し驚いた様子でした。
現場にいない人から見ると、給料や休日の数字だけで判断されがちですが、酪農の現場は、それほど単純な構造ではありません。
では、この問題は酪農家にとって何を突きつけているのか。そして、これから酪農を目指す人にとって、どう受け止めるべきなのか。そんな問いが、自然と頭の中に浮かんできました。
年間休日と給料、その現実
酪農の働き方でよく話題になるのが、年間休日と給料のバランスです。
多くの牧場では、年間休日が80日前後になることも珍しくありません。
一方で、月給は21万円から25万円前後。この数字だけを見ると、他業種と比べて厳しいと感じる人も多いと思います。
ただ、ここで一度立ち止まって考えたいのは、「なぜそうなっているのか」という点です。酪農は規模産業です。
飼っている牛の頭数がある程度決まると、乳量、売上もおおよそ見えてきます。そこから逆算して、人件費としてどこまで出せるのかが決まってきます。際限なく給料を上げ続けられる仕事ではありません。
この現実を、現場の人間は日々突きつけられています。
だからこそ、求人を出した酪農家の
「地域を盛り上げたい」「若い人に来てほしい」
という気持ちも、痛いほど分かるのです。
一方で、働く側から見れば、年間休日や労働時間は人生に直結する大事な要素です。そのギャップが、SNS上での衝突として表に出てきているように感じました。
大規模牧場で見た、もう一つの現実
この話題を考える中で、以前北海道で視察した大規模牧場のことを思い出しました。
そこは日本でもトップクラスの規模で、週休2日が当たり前、残業もほとんどない。給料は手取りで20万円台後半、寮もあり、資格取得の支援も充実していました。
「こんな酪農もあるんだな」と、正直驚きました。
ただし、そこでは作業が細かく分業化されていて、搾乳は外国人従業員が担当する、という形もありました。牧場によって、働き方も、求められる役割も、まったく違います。
研修生が「全体をやりたいタイプ」だと言っていたのも印象的でしたが、それが叶うかどうかも、牧場次第です。
ここで大事なのは、「どれが正しいか」ではなく、
「どんな働き方を望んでいるのかを、事前にすり合わせること」だと感じています。
作業の一つ一つが、身体に残る仕事
話は少し逸れますが、配信の中で研修生が初めて知った作業として
「削蹄(さくてい)」の話題が出ました。牛の爪を切る仕事です。
牛はつま先立ちで歩いています。爪が伸びると、立ち上がりにくくなり、餌を食べなくなったり、生産性が一気に落ちたりします。そのため、定期的な削蹄が欠かせません。資格を持った削蹄師が全国を回り、1頭数分で作業を終わらせる光景は、初めて見る人にはかなり衝撃的かもしれません。
https://youtu.be/Hjntzt47k5M?si=uX-xqFe01FT-Ppch
この仕事は、技術があれば高収入を得ることもできます。ただし、体が資本です。酪農の仕事全般に言えることですが、しゃがむ、立つ、重いものを持つ。その積み重ねが、確実に体に残ります。
研修生が「犬の仕事より、牛は体を使う」と言っていたのを聞いて、なるほどと思いました。現場に入って初めて分かる感覚は、どうしてもあります。
牛乳は増えるが、飲まれなければ捨てられる
もう一つ、研修生との会話で印象的だったのが、牛乳の需給の話です。
牛を引き取って頭数が増えれば、乳量は一気に増えます。しかし、その分の牛乳が必ずしも市場で消費されるわけではありません。
特に年末年始は、学校給食が止まり、需要が一気に落ちます。一方で、牛は冬に向かって調子が上がり、乳量は増えていく。
その結果、需給のギャップが生まれ、最悪の場合は牛乳の廃棄につながります。
「牛乳を使ったイベントがもっとあればいいのに」という研修生の言葉に、思わずうなずいてしまいました。実際、冬には「ホットミルク」をテーマにしたキャンペーンもありますが、それでも追いつかないのが現実です。
事実と、そこから考えること
ここまで書いてきたのは、配信の中で実際に出てきた話と、私が日々感じている現場の事実です。
・酪農の給料や休日は、構造的に簡単には変えられないこと
・牧場によって働き方が大きく違うこと
・体を使う仕事であること
・牛乳は作れば売れるわけではないこと
これらは、良い悪いの話ではなく、今起きている現実です。
その上で、私はこう考えています。従業員の給料を上げたい、働きやすい環境を作りたいと思うなら、牛乳の価値がきちんと評価され、消費される社会にならなければ、根本的な解決にはならないのではないか、ということです。
だから私は、今こう考えています
酪農の働き方や給料をめぐる議論は、これからも続くと思います。
その中で、誰かを責めたり、単純な正解を求めたりしても、あまり前には進まない気がしています。
現場には現場の事情があり、働く側には働く側の人生があります。
その間にある溝を、どう埋めていくのか。私は、まずは現実を丁寧に共有し、考える材料を増やすことが大事だと思っています。
年末年始、もし牛乳を手に取る機会があれば、その一杯がどんな現場から来ているのか、少しだけ思い出してもらえたら嬉しいです。私自身も、まだ答えを出せているわけではありませんが、これからも現場で考え続けていこうと思います。
そんな思考の途中経過として、この日の研修生との配信の話を、ここに残しておきます。
https://note.com/kawakamifarm/membership/join?preview=true
https://note.com/kawakamifarm/n/ndf5ea5a0bd27
https://note.com/kawakamifarm/n/n2c2f4763349b
https://note.com/kawakamifarm/n/nbf0a8d7a7a3e
🐄📚『川上牧場研修〜牛群検定の見方編〜』Kindleで絶賛発売中!📘
全ての酪農に興味がある方へ🐮数字で牛の声を聞こう!👇
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FBQWGSK6
https://lit.link/kawakamifarm