給食から牛乳が消える?福岡市の決断を酪農家目線で考える
2025-12-17 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://youtu.be/r7XlTiaCvKs
12月18日の朝、外は冬らしい冷たい空気で、気温は13度。搾乳を終えて、繁殖検診の結果を確認し、今日は注射を打つ牛が何頭いるかを数えます。堆肥の注文も入っているので、重機を動かす段取りも考えなければなりません。昼には車のディーラーに行く予定があり、印鑑証明も取りに行く必要があります。
そんな慌ただしい朝に、一本のニュースが頭から離れませんでした。
「福岡市が学校給食の牛乳の毎日提供をやめる方針」
牛舎で作業をしながら、何度もその言葉を反芻していました。
https://www.agrinews.co.jp/society/index/351529
福岡市の決断という事実
まず、事実から整理します。
報道によると、福岡市は2026年度から学校給食で毎日提供してきた牛乳を、月1〜2回、別の飲料(お茶など)に置き換える方針を示しました。
背景には、学校給食の無償化に伴う財源制約や、献立全体の充実を図りたいという行政側の意図があるとされています。
福岡市では1日あたり約52,300本の給食牛乳が提供されていると報じられています。その約4割を担う乳業者は、検討について十分な説明がなかったとコメントしています。
ここまでは、あくまで報道されている事実です。
給食牛乳は「飲み物」以上の存在
酪農家の立場から見ると、給食牛乳は単なる飲み物ではありません。
学校給食向け牛乳は、年間契約で数量が見込める安定需要です。価格も比較的安定しています。これは地域の酪農と乳業を下支えする重要な柱の一つです。
牛乳は「今日余ったから来月売ろう」ができません。余れば脱脂粉乳やバターなどに加工され、在庫が積み上がります。在庫が積み上がれば価格は下がり、その影響は最終的に私たち酪農家の乳価に跳ね返ってきます。
実際、12月20日から生乳生産を抑えるようにというFAXが届きました。
私の牧場でも2頭を早めに淘汰する判断をしました。牛乳が余り、廃棄が出るよりは、できる範囲で生産調整をした方が業界全体の損失は小さいと考えたからです。
福岡市の給食牛乳が月1〜2回止まる。その数字だけを見ると小さく見えるかもしれません。しかし、積み重なれば確実に影響は出ます。
栄養設計という視点
牛乳の役割は供給契約だけではありません。
カルシウム、良質なたんぱく質、脂溶性ビタミン。
これらを調理せず、均質な品質で毎日提供できる食材は多くありません。
管理栄養士の方からすれば、牛乳なしで同等の栄養設計を組むのは簡単ではないはずです。
もちろん、「牛乳が絶対でなければならない」と言うつもりはありません。代替手段はあるでしょう。ただし、代替するには設計コストが発生します。その議論がどこまで共有されているのかは、少し気になります。
子どもたちの食環境という現実
酪農家としてではなく、一人の市民として気になることがあります。
近年、家庭環境の格差が広がっていると言われています。
学校給食が、子どもにとって1日の中で最も安定した食事になっているケースもあると聞きます。
長期休暇中に体重が減少する子どもがいるという報道もあります。
これはデータで断定できる話ではありません。ただ、給食が「防波堤」の役割を果たしている家庭があることは、現場の声として耳にします。
牛乳を減らす判断が、栄養や食環境にどのような影響を与えるのか。そこは冷静に検証されるべきだと思います。
問題は「善悪」ではない
今回のニュースで一番大切なのは、「牛乳を減らすことが善か悪か」ではないと私は感じています。
大切なのは、
・誰が決めたのか
・誰に説明されたのか
・どこに影響が出るのか
この構造がどこまで共有されているかです。
酪農家、乳業者、管理栄養士、行政、保護者、そして子どもたち。本来は同じテーブルで考えるテーマではないでしょうか。
世代を超えた食の設計
私は最近、農業高校やインターン生との関わりの中で「次世代の感覚」に触れる機会が増えました。AIネイティブ世代と呼ばれる若者たちは、生成AIを自然に使いこなします。社会の変化のスピードは確実に加速しています。
学校給食もまた、時代とともに変わる制度です。財政が厳しい自治体の事情も理解できます。無償化という政策の中で、どこに予算を振り分けるかは難しい判断でしょう。
ただ、変えるのであれば、全体設計が必要だと感じます。
牛乳を減らす。その代わりに何を守るのか。何を補うのか。その説明が丁寧に共有されていれば、議論はもう少し違う形になるのではないでしょうか。
酪農家としての葛藤
正直に言えば、このニュースを読んだとき、胸がぎゅっとなりました。
「またか」と思った自分もいました。
しかし、感情だけで語っても何も前に進みません。酪農家だから牛乳を守りたい、という単純な話ではないはずです。
私は、牛乳が持つ役割を知っています。同時に、社会全体のバランスも理解したいと思っています。
これは酪農だけの話ではない
学校給食の牛乳の話は、実は「日本の食と農をどう設計するか」という問いにつながっています。
・子どもの栄養をどう守るのか
・地域の一次産業をどう支えるのか
・財源制約の中で何を優先するのか
これは福岡市だけの問題ではありません。どの自治体でも起こり得るテーマです。
私は今こう考えています
牛乳を減らすかどうかよりも、「構造を共有すること」が重要だと思っています。
子どもたちの栄養を守る視点。地域産業を守る視点。財政の持続可能性。これらを一緒にテーブルに載せた上で議論することが必要ではないでしょうか。
酪農家として、私は今日も牛を搾ります。
堆肥を動かし、繁殖管理をし、生乳の生産調整もします。それが社会のどこにつながっているのかを、これからも考え続けたいと思います。
このニュースをきっかけに、「牛乳が好きか嫌いか」ではなく、日本の食と農をどう設計するのかを一緒に考えてもらえたらうれしいです。
私は今、そう考えています。
https://note.com/kawakamifarm/membership/join?preview=true
https://note.com/kawakamifarm/n/ndf5ea5a0bd27
https://note.com/kawakamifarm/n/n2c2f4763349b
🐄📚『川上牧場研修〜牛群検定の見方編〜』Kindleで絶賛発売中!📘
全ての酪農に興味がある方へ🐮数字で牛の声を聞こう!👇
https://www.amazon.co.jp/dp/B0FBQWGSK6
https://note.com/kawakamifarm/n/nbf0a8d7a7a3e
https://lit.link/kawakamifarm