酪農の現場では、細菌ってどう管理してるの?基準値はある?
2026-01-06 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://youtu.be/khMnnr0SZmo
1月7日の朝、牛舎の戸を開けると、冬の冷たい空気が一気に入り込んできました。
前日の地震で「大丈夫ですか」とたくさんの連絡をいただきましたが、
島根県出雲市の川上牧場は震度4ほどで、大きな被害はありませんでした。搾乳設備も無事で、いつも通り牛たちの呼吸音と反芻のリズムが聞こえています。
こんなふうに何事もなく搾乳できる朝は、本当にありがたいものです。
その朝の搾乳後、バルクタンクの温度を確認しながら、前日に届いていた一通の質問を思い出しました。
「酪農の現場では、細菌の計測や基準値って決められているんですか?」
とても良い質問です。
牛乳は白くてきれいな飲み物ですから、「細菌」という言葉を聞くだけで不安になる方もいるかもしれません。でも実際の酪農現場では、牛乳は“感覚”ではなく“数字”で管理されています。
今日は、酪農家の視点から「細菌管理」と「基準値」について、できるだけ具体的にお話しします。
牛乳の細菌管理は、大きく2つに分かれる
酪農の現場でよく出てくる指標は、主に次の2つです。
・一般細菌数
・体細胞数
この2つは、似ているようでまったく意味が違います。
一般細菌数とは何か
一般細菌数は、「搾った後の牛乳にどれくらい細菌が含まれているか」を示す指標です。
ポイントはここです。
これは牛の体内の問題ではなく、搾乳後の衛生管理の問題が大きいということです。
たとえば、
・乳頭の洗浄が不十分だった
・搾乳機の洗浄が甘かった
・バルクタンク(冷却タンク)の管理が適切でなかった
こうした人や設備の管理状況が数字に反映されます。
日本では、生乳の取引基準として
一般細菌数 1mlあたり20万以下
という目安があります。
ただしこれは「上限ライン」です。
実際の牧場では、1万以下、できれば数千レベルを目標に管理しているところが多いです。川上牧場もおおよそ1万以下で推移しています。
私はこの数字を「合格・不合格の判定」ではなく、「作業の精度を映す鏡」だと思っています。
体細胞数とは何か
体細胞数は、まったく別の意味を持ちます。
体細胞とは、牛の免疫細胞のことです。
体細胞数が増えるということは、乳房内で炎症が起きている可能性を示しています。代表的なのは乳房炎です。
重要なのは、体細胞は細菌そのものではないということです。
「牛が細菌と戦った結果として増える細胞」なのです。
基準としては、
1mlあたり30万以下
が一般的な目安です。
しかしこちらも実際には、20万以下、できれば10万台を目標に管理する牧場が多いです。
体細胞数が上がると、
・乳量が落ちる
・乳質が落ちる
・バターやチーズの歩留まりが悪くなる
といった影響が出ます。つまり、牛の健康問題であると同時に、経営にも直結します。
どうやって測っているのか
細菌数や体細胞数は、感覚で判断しているわけではありません。
・バルク乳の定期検査(乳業メーカー・組合)
・牛群検定
・搾乳ロボットのセンサー
・AI解析による個体ごとのモニタリング
最近では農業DXの一環として、牛一頭単位、さらに四つの乳頭ごとのデータまで取得できる牧場もあります。
数字は、毎日、毎回、淡々と返ってきます。
その数字が少しでも動くと、私は必ず考えます。
「どこに無理があったのだろうか」
「牛はストレスを感じていないか」
「設備の負荷が増えていないか」
数字は、犯人探しのためではない
私はこの仕事をしていて、数字に救われた経験が何度もあります。
細菌数が少し上がった日、搾乳手順を見直したことがあります。
体細胞が上がったとき、牛舎の環境や敷料の管理を改善したこともあります。
数字は「怒られるためのもの」ではありません。
改善のヒントをくれる存在です。
感覚だけでやっていたら、気づけなかった変化に気づかせてくれます。
牛乳パックには書かれていない理由
牛乳パックの裏面には、乳脂肪分や無脂乳固形分は書かれていますが、細菌数や体細胞数は書かれていません。
これは、最終的に市販される牛乳は殺菌工程を経ているからです。
殺菌後の牛乳は、ほぼ無菌状態でパック詰めされます。
そして、実は家庭でフタを開けた瞬間に、空気中の細菌は入り込みます。
だからこそ私はいつも、
・開封後はなるべく早く飲む
・冷蔵庫の奥で保存する
とお伝えしています。
品質は価格に直結している
細菌数や体細胞数は、生乳の引き取り価格に影響します。
乳質が良いほど、酪農家の収入は安定します。
つまり、私たちが必死に衛生管理をしているのは、「きれいだから」だけではありません。
経営を守るためでもあります。
そしてもう一つ。
日本の衛生基準は、世界的に見ても非常に高い水準です。
この基準を守ることは、日本の牛乳の価値を守ることでもあります。
基準を緩めるべきか?
近年、夏の暑さや飼料価格の高騰で、体細胞数の基準を緩めようという議論も一部ではあります。
気持ちはわかります。
正直、夏場に基準を守るのは簡単ではありません。
それでも私は、品質を落とす方向には進みたくないと思っています。
もし海外から、より安価で品質の高い乳製品が大量に入ってきたら、日本の酪農は本当に厳しくなります。
品質を守ることは、遠回りのようでいて、実は一番の防波堤なのではないかと私は感じています。
これは酪農だけの話ではない
細菌管理の話は、単なる技術論ではありません。
・数字で管理するとはどういうことか
・基準を守るとはどういうことか
・品質を維持する責任とは何か
これは、食品産業全体、そして社会の信頼の話でもあります。
生成AIや農業DXが進む時代ですが、最後に価値を支えるのは「現場の積み重ね」です。
私は今、こう考えています
細菌数や体細胞数は、ただの数字ではありません。
牛の健康、人の作業、設備の状態、経営の安定。
すべてがそこに映ります。
牛乳は白くてきれいに見えますが、その裏には細かい管理と数字との対話があります。
私はこれからも、基準を守るために数字を見続けます。
そしてその先にある「安心して飲める一杯」を守りたいと思っています。
もし次に牛乳を飲むとき、
「この一杯は、どんな管理の上に成り立っているのだろう」と少しだけ想像してもらえたら、それだけで十分です。
今日も牛乳を飲んでくださって、ありがとうございます。
https://note.com/kawakamifarm/membership/join?preview=true
https://note.com/kawakamifarm/n/ndf5ea5a0bd27
https://note.com/kawakamifarm/n/n2c2f4763349b
https://note.com/kawakamifarm/n/nbf0a8d7a7a3e
https://lit.link/kawakamifarm