酪農の災害対応マニュアルを現場目線で読み解く
2026-01-07 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://youtu.be/uktS3uSZfp0
おはようございます。
1月8日、木曜日。出雲は曇りのち雨で、最高気温は9度。寒さが戻ってきました。空気が冷たくて、牛舎の床もいつもより硬い感じがします。こういう日は、作業の合間に手をこすって温めたくなりますね。
今日は、醤油カスを醤油会社さんが「取りに来てほしい」と言われていたので、それを取りに行って、午後からはJAへ。溜まった事務仕事も片付けないといけなくて、現場とデスクを行ったり来たりの一日になりそうです。
そんな朝に、島根県東部で大きめの地震がありました。僕のいる出雲市でも震度4くらいで、ちゃんと揺れました。ちょうどTikTokのライブ配信をしていたタイミングで、「災害が起きたら酪農家はどうするんですか?」
「停電や断水になったら、牛は大丈夫なんですか?」という質問が来ました。
正直、この質問が来たとき、少しだけ胸が詰まりました。
酪農って、普段は“止まらない”ことが当たり前になりすぎていて、災害の話になると、どうしても現実が一段重く感じるんですよね。でも、重いからこそ、ちゃんと整理しておいた方がいい。今日はその話です。
「災害時の酪農」って、何が一番きついのか
地震、台風、大雪、豪雨。最近は「想定外」で片付けられない災害が続いています。酪農の現場にいると、災害って「一発の被害」よりも、その後の“じわじわ”が怖いです。
結論を急ぎたくはないですが、現場の感覚で言うと、災害時の酪農は**技術よりも「事前に決めていたかどうか」**で結果が変わります。
なぜか。
酪農は、水と電気が止まると、ほぼ全部が止まる産業だからです。
・搾乳ができない
・バルククーラー(牛乳を冷やすタンク)が動かない
・井戸ポンプが止まって飲水が出ない
・搾乳機器の洗浄ができない
・人間の生活も回らない
ここに、牛のストレスや乳房炎、繁殖の乱れが乗ってきます。
災害そのものより、その後の牛のトラブルで経営が傾くケースが多い。これは、現場にいると実感として分かります。
きっかけは「島根の地震」と、リスナーの質問
今回、僕が参考にしたのは北海道農政部が作成した「災害における酪農機器管理対策マニュアル」です。北海道は規模も環境も違うんですが、災害対応の整理がとても具体的で、考え方は全国に応用できます。
ここから先は「マニュアルの内容をただ要約」ではなく、僕の現場感覚で噛み直しながら書きます。
読者のみなさんが酪農家じゃなくても、「インフラの裏側に何があるのか」をイメージできるようにしたいです。
停電対策で一番大事なのは「全部を守ろうとしないこと」
停電が起きたとき、最初にやりがちなのが「全部動かしたい」です。でも実際は、全部を守ろうとすると、結局どれも守れないことが多い。
停電時に、どこまでを目標にするか。
これを平時に決めておくのが本当に大事です。
僕の中では3段階で考えています。
・最低限、搾乳だけできればいい
・搾乳+冷却(バルク)まで確保したい
・通常通りの作業を目指す
この「どこまで」を決めると、必要な発電機の容量も、動かす機器の優先順位も変わります。
ここで要注意なのが、バルククーラー。
起動時に、通常の約3倍の電力が必要になるケースがあります。発電機はあるのにバルクが動かない、という失敗例は多いと聞きます。これ、災害時に起きると精神的にも一気にきつくなります。
だから、発電機があるかないか以前に、
「停電時は、何を動かすか」
「動かせないときは、何を捨てるか」
ここを決めておく方が先だと感じます。
断水対策は「飲み水だけ」じゃ足りない
断水の話になると、まず「牛の飲み水」が浮かびます。でも実際は、水は飲ませるだけじゃなく、搾乳機器の洗浄、衛生管理、人間の生活にも必要です。
マニュアルの例だと、60頭規模で1日およそ6500リットル(飲水+洗浄水含む)という数字が出ています。
こういう“数字”があると、急に現実味が出ますよね。
重要なのは、
・どこから水を確保するか
・どう運ぶか
・どこに貯めるか
これを平時に決めておくことです。災害時に「じゃあどうする?」は、ほぼ詰みます。道路が塞がる、燃料がない、人手がいない、そもそも寒い。現場は、そういう条件が重なります。
ちなみにうちは目の前に大きい河川があるので、最悪は水中ポンプで汲み上げてタンクに貯める、という発想はあります。こういう「最悪の一手」を、家族やスタッフと共有しておくのが大事なんだと思います。
災害直後の優先順位は「牛より先に人」
ここ、きれい事じゃなくて、本当に大事です。
・自分と家族の安全
・牛舎・牛の状況確認
・連絡と情報収集
酪農って「牛が優先」になりやすいです。僕もそうなりそうになります。でも、倒壊や落下物、感電、二次災害の方が怖い。作業中に揺れたら、一旦止める勇気が必要です。
「とりあえず全部確認しに行く」はNG。
焦りほど事故を呼びます。これは、災害経験者の話を聞くほど納得感が増えます。
搾れないときに「いつも通り」をやらない判断
停電・断水の中で一番難しいのは、「牛をどう守るか」だと思います。
目安として、停電が16時間以内なら影響は比較的小さいと言われる一方、48時間を超えると乳房炎や乳量低下のリスクが上がる。だからこそ、搾れない状況が長引く前提も持っておく必要があります。
搾乳ができない場合の現実的な対応としては、
・濃厚飼料を減らす
・粗飼料の量も調整する
・泌乳前期の牛を優先する
・「全頭を守る」より「被害を最小化する」
こういう判断になります。
ここ、感情的にはきついです。
でも、災害時に“普段の正解”を貫くと、牛にも人にも負担が積み上がる。結果的に長期の被害になります。だから「いつも通りをやらない」ことが、牛を守るケースもあるんだと思います。
復旧後が危ない。二次災害と「うっかり」
通電復旧のタイミングも、油断しやすいです。
・漏電
・ショート
・洗浄不十分
・治療牛や非出荷牛の管理が雑になる
災害時って、どうしても普段の管理が崩れます。だからこそ「普段以上に確認する」。遠回りに見えて、結果的に一番の近道だと思います。
災害対策は「設備」より「想定」だと思っています
ここからは僕の考えです。
災害対策って聞くと、「発電機を買う」「タンクを買う」みたいな話になりがちです。もちろん設備は大事。でも、設備はお金がかかりますし、全員が同じ装備を持てるわけでもありません。
僕が一番大事だと思うのは、
・どこまで守るか決めているか
・誰が何をやるか話しているか
・地域とつながっているか
この3つです。
うちは、発電機を自前で準備していません。
その代わり、都市近郊酪農の利点もあって、レンタル会社や土木・電気関係の知り合いが近くにいます。いざという時に「お願いします」と言える関係性を、平時から作っています。これも一つの災害対策だと思っています。
あと、災害時の牛乳廃棄については、団体側で補填制度が用意されているケースがあります(条件は災害規模や認定などで変わります)。無理して搾って捨てるより、制度も保険も“使いながら耐える”という考え方も、現場としては現実的です。
牛乳は、災害時にも「当たり前にある」ように回っている
最後に、これは読者のみなさんに静かに共有したいことです。
災害が起きても、スーパーやコンビニに行けば牛乳がある。
それって、当たり前のようで、当たり前じゃないんです。
酪農家が休まず牛を守っているだけじゃなくて、乳業、物流、行政、団体、いろんな人が“需要と供給”を回しています。牛乳って、ある意味インフラなんですよね。
だから、災害の時こそ牛乳を飲んでほしい、というのは宣伝というより、現場側の率直な気持ちでもあります。
だから私は今、こう考えています
災害は「来ないように祈る」だけでは足りなくなってきました。
かといって、全部を完璧に備えるのも現実的じゃない。
だから僕は、まずは自分の牧場で、
・止まったら何が致命傷か
・どこまでなら守れるか
・最悪の一手をどうするか
この“想定”を言葉にして、家族や関係者と共有しておくことが一番の土台だと思っています。
読者のみなさんの中に、農家の方がいたら「うちはこうしてるよ」もぜひ教えてください。
農家じゃない方も、「災害時にインフラがどう守られているか」を想像するきっかけになれば嬉しいです。
今日も、牛乳で乾杯。
みんな、牛乳飲んでね。バイバーイ。
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