ジャージーとホルスタインは一緒に飼える?世界の酪農スタイルも解説
2026-05-05 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
こんにちは。川上牧場の川上です。
今日は、リスナーさんからいただいた素朴だけど、とてもいい質問に答えていきます。
「ジャージー種とホルスタイン種は、同じ牧場で一緒に飼うことはできますか?」
これ、牛を飼っている側からすると「できます」とすぐ答えられる質問なんですが、実はその後ろに、酪農のかなり大事な話が隠れています。
牛乳といえば、白黒模様のホルスタインを乳といえば思い浮かべる方が多いと思います。でも、スーパーや観光牧場、牧場のアイスクリーム屋さんなどで、茶色い牛を見たことがある方もいるんじゃないでしょうか。
あれがジャージー牛です。
ホルスタインとジャージー。
どちらも牛乳を出す乳牛ですが、実はけっこう性格も体格も、牛乳の特徴も違います。
今日はこの「一緒に飼えるのか?」という質問から、日本の酪農、世界の酪農、そしてこれからの牛乳のあり方まで、少し広げてお話ししていきます。
牛乳を飲みながら、気軽に読んでいただけたら嬉しいです。
結論、ジャージーとホルスタインは一緒に飼えます
まず結論から言うと、ジャージーとホルスタインは同じ牧場で飼えます。
実際、川上牧場でも昔は飼っていました。
うちのSNSアイコンにも使っている牛は、以前うちにいたジャージー牛です。名前は「マロンちゃん」。研修生さんがつけてくれた名前でした。
僕が就農してから、岡山県の蒜山地域でジャージーの子牛が市場に出ていたことがあり、その子を導入したのが始まりです。そこから毎年のようにジャージーを交配して、一番多い時で4頭ほどジャージーがいた時期もありました。
ほかにも、ブラウンスイス、赤白のホルスタイン、黒毛和牛などもいて、川上牧場には一時期、ホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイス、レッドホルスタイン、黒毛和牛という、なかなかにぎやかな牛たちがいました。
牧場というより、ちょっとした牛の品種博覧会です。
ただ、ここで大事なのは「一緒に飼える」と「同じように飼っていい」は違う、ということです。
ここを間違えると、牛に無理をさせてしまいます。
ホルスタインは“量”、ジャージーは“濃さ”
ホルスタインとジャージーの違いをざっくり言うと、
ホルスタインは「たくさん牛乳を出す牛」、
ジャージーは「濃い牛乳を出す牛」です。
ホルスタインは体が大きく、乳量が多い品種です。
日本で牛乳といえば、ほとんどがこのホルスタインです。白黒模様の牛ですね。牧場の写真や牛乳パックのイラストでよく見る、あの牛です。
一方、ジャージーは茶色くて、ホルスタインより小柄です。乳量はホルスタインより少ないですが、乳脂肪分や乳タンパクが高く、コクのある牛乳を出す傾向があります。
アイスクリーム、バター、ヨーグルト、チーズなど、加工品にすると個性が出やすい牛乳です。
どちらが優れている、という話ではありません。
役割が違うんです。
牛乳を大量に安定して届けたいのか。濃厚な乳製品や地域ブランドを作りたいのか。牧場が何を目指すかによって、合う牛も変わってきます。
一緒に飼う時に気をつけること
ジャージーとホルスタインを同じ牧場で飼うことはできます。
ただし、現場ではいくつか気をつけることがあります。
まず、体格差です。
ホルスタインは体が大きく、ジャージーは小柄です。同じ牛舎、同じ群れの中に入れると、エサ場や寝る場所、移動の時に体格差が出ます。
もちろん、ジャージーの中にも気が強い子はいます。
小さいのに、堂々とホルスタインの間に入っていく子もいます。牛にも性格がありますからね。人間と同じです。小柄でもやたら存在感のある人、いますよね。
でも、基本的には体が大きい牛の中に小さい牛を入れると、弱い立場になりやすいです。
エサを食べる量も違います。
ホルスタインと同じ設計のエサをジャージーにそのまま与えると、ジャージーには過剰になる場合があります。太りやすくなったり、繁殖や健康に影響が出たりすることもあります。
乳量も違うので、必要な栄養も違います。
たくさん牛乳を出す牛には、それだけエネルギーとタンパクが必要です。一方で、乳量が少ない牛に同じ濃いエサを与え続けると、今度は体に余ってしまうことがあります。
つまり、一緒に飼うことはできるけど、管理は分けた方がいい場合が多いです。
エサの量、牛の体格、乳量、性格、牛舎の形。
このあたりを見ながら、その牧場に合った管理を考える必要があります。
川上牧場ではなぜ今、ホルスタイン中心なのか
川上牧場でも、以前はいろいろな品種を飼っていました。
ジャージーもいましたし、ブラウンスイスもいました。見た目も違うし、
牛乳の個性も違う。飼っていて面白さはありました。
でも、今はホルスタインと黒毛和牛が中心です。
理由は、とても現実的です。
エサ代が上がり、資材代が上がり、コロナ禍のように牛乳の消費が不安定になる時期もありました。経営が厳しくなると、どうしても
「どの牛を残すか」を考えなければいけません。
酪農は夢だけでは続きません。
牛がかわいい。品種の違いが面白い。濃い牛乳を作りたい。
もちろん、その気持ちはあります。
でも、牧場を続けるには、毎日のエサ代、電気代、機械の修理代、人件費、借入の返済、すべてを考えないといけません。
その中で、川上牧場の規模や出荷の仕組みに合っているのは、今のところホルスタイン中心の経営です。
これは「ジャージーが悪い」という話ではありません。
牧場ごとに合う形が違う、ということです。
ジャージーを中心にして、濃厚な牛乳やアイスクリーム、チーズでブランドを作っている牧場もあります。観光牧場や六次産業化と相性がいい場合もあります。
一方で、毎日安定して生乳を出荷する仕組みの中では、ホルスタインの乳量の強さが大きな武器になります。
どの牛を飼うかは、牧場の哲学であり、同時に経営判断でもあるんです。
なぜ日本はホルスタインが多いのか
日本の酪農は、ホルスタイン中心で発展してきました。
理由のひとつは、戦後の食糧事情です。
戦後、日本では子どもたちの栄養をどう支えるかが大きな課題でした。
学校給食の中で脱脂粉乳が使われ、その後、牛乳が広がっていきました。
つまり、日本の牛乳文化は
「たくさんの人に、安定して、栄養のある牛乳を届ける」
という方向で育ってきた面があります。
その時に必要だったのは、個性的な牛乳よりも、量をしっかり出してくれる牛でした。
そこでホルスタインが中心になっていきます。
もちろん、今では牛乳をめぐる状況も変わっています。
昔は「とにかく栄養を届ける」ことが大事でした。今は、飲む人の選択肢が増えています。牛乳以外にも、豆乳、アーモンドミルク、オーツミルク、清涼飲料、エナジードリンク、サプリメント、いろいろあります。
「牛乳を飲まなくてもカルシウムは取れるんじゃない?」という声もあります。
だからこそ、これからの酪農は、ただ量を出すだけではなく、
「なぜこの牛乳を飲むのか」「どんな牧場の牛乳なのか」
「どんな価値があるのか」を伝えていく必要があると思っています。
世界の酪農は、もっと多様です
日本ではホルスタイン中心ですが、世界を見ると酪農のスタイルはもっと多様です。
ホルスタインだけでなく、ジャージー、ブラウンスイス、ガンジー、エアシャーなど、いろいろな乳牛が飼われています。
そして国や地域によって、牛の選び方が違います。
たとえば、チーズやバター、ヨーグルトなどの乳製品文化が強い地域では、乳量だけでなく、乳脂肪や乳タンパクの高さが重視されます。
牛乳をそのまま飲む文化なのか。
チーズに加工する文化なのか。
放牧中心なのか。
牛舎でしっかり管理するのか。
暑い地域なのか、寒い地域なのか。
草地が豊かなのか、穀物飼料が手に入りやすいのか。
それによって、求められる牛は変わります。
世界の酪農を見ると、「正解はひとつではない」と感じます。
日本のスーパーで見る牛乳だけが、牛乳のすべてではありません。
濃厚なジャージー牛乳もあれば、放牧牛乳もあります。チーズ向きの牛乳もあれば、地域の気候に合わせた交雑牛の牛乳もあります。
牛乳は、ただの白い飲み物ではなく、その土地の気候、文化、食生活、経済がにじみ出る農産物なんです。
交雑牛という選択肢
世界では、あえて品種を掛け合わせる「交雑」も行われています。
たとえば、ホルスタインの乳量と、ジャージーの乳成分や体の強さを組み合わせたい、という考え方です。
交雑牛には、両方の親の良いところが出る場合があります。
病気に強い、繁殖が安定しやすい、体が丈夫、乳成分が高い、暑さに強いなど、その地域に合った牛を作るために交雑が選ばれることもあります。
もちろん、交雑すれば必ず良くなるわけではありません。
次の世代で特徴がばらつくこともありますし、乳量や体型、管理方法も変わります。だから、なんとなく交雑するのではなく、目的を持って設計する必要があります。
でも、日本の気候を考えると、これから交雑という選択肢はもっと注目されてもいいと思っています。
日本は高温多湿です。
夏の暑さは、ホルスタインにとってかなり厳しいです。暑さでエサを食べる量が落ちると、乳量も落ちます。体調も崩しやすくなります。
大型化、高泌乳化してきたホルスタインを、日本の暑い夏の中でどう健康に飼うのか。
これは現場にとって大きなテーマです。
その中で、品種の多様性や交雑の可能性は、これからの酪農を考えるうえで大切になってくるかもしれません。
牛乳の味が違う理由
同じ「牛乳」でも、飲むと味が違うことがあります。
その理由のひとつが、牛の品種です。
ホルスタインの牛乳は、すっきり飲みやすいものが多いです。毎日飲む牛乳として、安定した味わいがあります。
ジャージーの牛乳は、コクがあり、濃厚に感じやすいです。乳脂肪分や乳タンパクが高い傾向があるので、口当たりに厚みが出ます。
ブラウンスイスの牛乳も、チーズに向くと言われることがあります。
もちろん、味は品種だけで決まりません。
エサ、季節、飼い方、搾乳後の処理、殺菌方法、流通、すべてが関係します。
春の青草を食べた牛の牛乳と、冬の乾草中心の牛乳では、風味が違うことがあります。暑い夏と寒い冬でも、乳成分は変わります。
だから牛乳は面白いんです。
ワインやコーヒーのように、産地や品種や作り手によって個性が出る飲み物なんです。
でも、日本では長い間「牛乳はどれも同じ」と思われがちでした。
これはもったいないなと思います。
スーパーに並んでいる牛乳も、よく見ると違いがあります。産地、殺菌温度、成分無調整かどうか、ジャージー牛乳かどうか。ちょっと見るだけで、牛乳の世界は広がります。
牧場見学にも準備が必要です
少し話はそれますが、牧場に興味を持ってもらえるのは、本当にありがたいです。
ただ、牧場は観光施設ではなく、家畜を飼っている生産現場でもあります。
牛は生き物ですし、病気を持ち込まないための防疫も必要です。海外渡航歴の確認、人数、目的、どこから来られるのかなど、事前に確認しなければいけないことがあります。
「ちょっと近くに来たから寄ってみよう」
その気持ちは嬉しいんです。
でも、当日いきなりの見学は難しい場合が多いです。
川上牧場に来てみたい方は、できれば事前にお問い合わせフォームやSNSのDMなどから連絡をいただけると助かります。
牛も人も、安全に楽しく会える形を作るために、そこはぜひご理解ください。
月に一度だけのオープンファーム
牛乳は毎日飲むけど、 牧場を見る機会はほとんどありません。 川上牧場では、 毎月1回だけ、 少人数限定で牧場を開放してい
kawakamifarm.net
牛を見ると、牛乳の見方が変わる
ジャージーとホルスタインは一緒に飼えるのか。
今日の質問に改めて答えると、答えは「飼えます」。
でも、同じように扱うのではなく、それぞれの体格、乳量、性格、必要な栄養に合わせた管理が必要です。
ホルスタインは乳量に強みがあります。
ジャージーは乳成分の濃さに強みがあります。
世界には、ほかにもたくさんの乳牛がいて、国や地域の文化に合わせた酪農があります。
そして、その違いは牛乳の味や乳製品の個性につながっています。
牛乳は、ただ白い飲み物ではありません。
その一杯の後ろには、牛の品種があり、牧場の管理があり、地域の気候があり、歴史があり、経営判断があります。
今日、スーパーで牛乳を見る時に、少しだけラベルを見てみてください。
「これはどんな牛から搾られた牛乳なんだろう」
「この牛乳はどんな牧場から来たんだろう」
そんなふうに見てもらえると、牛乳の世界は少し広がります。
そして、もしジャージー牛乳を見つけたら、ぜひ一度飲んでみてください。
いつもの牛乳と少し違う、濃さや香りを感じるかもしれません。
ホルスタインの牛乳も、ジャージーの牛乳も、どちらも牛が毎日生きて、食べて、休んで、搾らせてくれているから届くものです。
牛乳を飲むことは、その牧場の仕事を少し応援することでもあります。
子どもの日には柏餅と牛乳。
暑い日には冷たい牛乳。
疲れた日には、少し甘いものと牛乳。
そんなふうに、日々の暮らしの中に牛乳が残っていってくれたら、酪農家として本当に嬉しいです。
今日も牛乳を飲んでいただき、ありがとうございます。
情報|川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也
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