なぜ酪農家は減り続けるのか?あなたの食卓とつながる話

2026-05-14 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

こんにちは。

川上牧場の川上です。

今日は、リスナーさんからいただいた質問にお答えしながら、少し大事な話をしてみたいと思います。

質問は、こういう内容でした。

「酪農家の数は年々減っているのを感じています。これ以上減ったら、国内の乳製品を賄えないという限界数はありますか?毎日乳製品を消費することしかできませんが、自分の食卓を守るために、私たちが日々できることも教えてください」

この質問、酪農家としてはかなり胸に刺さります。

牛乳が好きだから心配してくれている。

自分の食卓と、日本の酪農がつながっていることを感じてくれている。

その気持ちが伝わってきて、本当にありがたいです。

僕はコロナ禍の頃から音声配信を始めて、毎日のように

「牛乳を飲んでください」と話してきました。

そのたびに、リスナーさんの中には、本当に牛乳を飲む習慣をつけてくれた方がいます。

牛乳だけではなく、ヨーグルト、チーズ、バター、乳飲料など、日常の中で乳製品を選んでくれるようになった方もいます。

これは酪農家にとって、とても大きな支えです。

でも一方で、現実を見れば、酪農家の数は減り続けています。

「応援してくれる人がいるのに、なぜ酪農家は減るのか」

今日はここを、できるだけわかりやすくお話ししていきます。

酪農家は本当に減っています

まず、酪農家が減っているというのは、感覚ではありません。

数字として、はっきり減っています。

農林水産省の畜産統計では、令和7年2月1日時点の乳用牛の飼養戸数は全国で1万1300戸。前年より5.0%減少しています。

さらに、指定団体を通じて生乳を出荷している受託酪農家の戸数を見ると、2025年度には9251戸まで減ったという報道もあります。

9000戸割れが現実味を帯びている、という状況です。

僕が子どもの頃と比べても、地域にあった酪農家は本当に少なくなりました。

昔は近所に牛舎があることも珍しくなかった。

朝になると牛の声が聞こえる。

牧草の匂いがする。

集乳車が走っている。

そういう風景が、少しずつ消えています。

ただ、ここで多くの人が疑問に思うかもしれません。

「酪農家が減っているなら、牛乳はもう足りなくなっているのでは?」

「でもスーパーに行けば、普通に牛乳が並んでいるよね?」

そうなんです。

そこが少しわかりにくいところです。

酪農家の数は大きく減っていますが、生乳の生産量は、戸数ほど急激には減っていません。

なぜかというと、1戸あたりの規模が大きくなっているからです。

つまり、少ない酪農家が、より多くの牛を飼い、より多くの牛乳を生産して、全体を支えている状態です。

これは一見すると効率が良いように見えます。

でも、現場から見ると、かなり綱渡りです。

牛乳は工場製品ではありません

牛乳は、工場でスイッチを入れたら増産できるものではありません。

牛は生き物です。

子牛が生まれて、育って、妊娠して、分娩して、乳を出すようになるまで、およそ2年かかります。

「来月から牛乳が足りないので増やしてください」と言われても、すぐには増やせません。

逆に、いったん酪農家が離農すると、元に戻るのも非常に難しいです。

牛を手放す。

牛舎を空にする。

機械を処分する。

人が離れる。

地域の集乳ルートが変わる。

飼料屋さん、獣医さん、授精師さん、機械屋さんとの関係も薄れていく。

そこから「やっぱり牛乳が足りないから、もう一度始めてください」と言われても、簡単には戻れません。

酪農は、始めるのに時間がかかります。

お金もかかります。

技術も必要です。

毎日休みなく牛を見る覚悟も必要です。

牛乳は、棚に並んでいるときは1本の商品に見えます。

でもその裏側には、牛、牧場、飼料、繁殖、獣医、集乳、乳業工場、物流、小売まで、全部がつながった大きなインフラがあります。

そしてこのインフラは、一度壊れると、すぐには戻せません。

ここが、僕が一番怖いと思っているところです。

「北海道があるから大丈夫」ではない

日本の生乳生産は、北海道に大きく支えられています。

Jミルクの資料では、2023年度の国内生乳生産量は約732万トン。そのうち北海道が約417万トン、都府県が約315万トンです。

つまり、北海道の存在はものすごく大きい。

もちろん、北海道の酪農は日本の宝です。

広大な土地、草地、規模、技術。

日本の牛乳・乳製品を支える大黒柱です。

ただし、北海道に頼ればすべて解決、という話ではありません。

牛乳には「鮮度」と「輸送」の問題があります。

生乳は搾った瞬間から冷却し、品質を守りながら運ばなければいけません。

北海道で搾った生乳や、北海道でパック詰めされた牛乳は、船や鉄道、トラックを使って消費地へ運ばれています。

普段はそれで回っています。

でも、もし大きな災害が起きたら。

停電が起きたら。

物流が止まったら。

猛暑で牛の乳量が落ちたら。

燃料代が上がって輸送コストが跳ね上がったら。

その時、「北海道があるから大丈夫」と言い切れるでしょうか。

効率化は、平常時には強いです。

でも、異常時には弱さにもなります。

生産地が集中しすぎると、どこかにトラブルが起きたとき、影響が一気に広がります。

これは酪農に限らず、現代社会全体の課題だと思います。

酪農家が減る理由は、ひとつではない

では、なぜ酪農家は減り続けるのか。

理由はひとつではありません。

まず、飼料価格の高騰があります。

牛は毎日食べます。

搾乳牛は特に、たくさん食べて、たくさん乳を出します。

その餌代が上がると、経営は一気に苦しくなります。

輸入飼料は、為替や国際情勢の影響を受けます。

円安になれば、餌代は上がります。

世界で穀物価格が上がれば、日本の酪農にも響きます。

電気代も上がります。

燃料代も上がります。

機械も高くなります。

資材も高くなります。

でも、牛乳の価格は簡単には上げられません。

消費者の生活も苦しいです。

物価が上がっている中で、牛乳だけ高くなっても困るという気持ちは、僕もわかります。

ただ、安さだけを求め続けると、最後には国内で作る人がいなくなります。

これは、かなり厳しい現実です。

次に、労働の問題があります。

酪農は24時間365日の仕事です。

牛は土日だから休む、正月だから乳を止める、ということはありません。

朝も搾ります。

夕方も搾ります。

分娩もあります。

病気もあります。

暑い日も寒い日も、牛は待ってくれません。

もちろん、やりがいはあります。

牛はかわいいです。

搾った牛乳が誰かの食卓に届くことは、本当に誇らしいです。

でも、仕事としては簡単ではありません。

後継者がいない。

人手が足りない。

休みが取れない。

設備投資が重い。

老朽化した牛舎を直すお金がない。

こうした理由が重なって、「もうここで終わりにしよう」と判断する酪農家が増えています。

離農は、怠けた結果ではありません。

続けたくても、続けられない。

そういう現場がたくさんあります。

では、限界数はあるのか

質問にあった

「これ以上減ったら国内の乳製品を賄えない限界数はあるのか」

という点ですが、正直に言うと、明確な数字を一つ出すのは難しいです。

「何戸を下回ったら終わりです」と単純に言えるものではありません。

なぜなら、酪農家の戸数だけではなく、1戸あたりの規模、地域分布、牛の頭数、乳量、飼料事情、物流、乳業工場の処理能力、消費量、輸入乳製品の状況まで関係してくるからです。

ただし、危険信号はすでに出ています。

戸数が減る。

地域の酪農家が減る。

集乳ルートが維持しにくくなる。

近くの乳業工場に生乳が集まらなくなる。

地域の学校給食や地元牛乳の供給が不安定になる。

いざ増産したくても、牛も人も施設も戻らない。

これは、じわじわ進む問題です。

ある日突然、全国のスーパーから牛乳が消えるというより、まず地域から選択肢が減っていくのだと思います。

地元の牛乳がなくなる。

近くの牧場がなくなる。

学校給食の牛乳が遠くから運ばれる。

災害時に供給が弱くなる。

国産バターやチーズがさらに高くなる。

そうやって、気づいたときには「前の状態には戻せない」となる。

だからこそ、今のうちに考えないといけません。

消費者にできることは、ちゃんとあります

では、消費者にできることは何か。

まず一番は、日常の中で牛乳・乳製品を選び続けることです。

特別なことではありません。

朝、コップ一杯の牛乳を飲む。

料理に牛乳を使う。

ヨーグルトを食べる。

チーズを選ぶ。

バターを使う。

できる範囲で国産の乳製品を選ぶ。

これだけでも、積み重なれば大きな力になります。

たとえば、国民全員が毎日200mlの牛乳を今より多く飲むと、単純計算で年間900万トン規模の追加需要になります。

これは現在の国内生乳生産量を上回る規模です。

もちろん、全員が毎日飲むというのは現実的ではないかもしれません。

でも、それくらい「日々の一杯」には力があるということです。

もうひとつ大事なのは、価格だけで判断しすぎないことです。

もちろん、安いものを選ぶなという話ではありません。

家計は大事です。

僕も生活者なので、そこはよくわかります。

ただ、牛乳や乳製品を選ぶときに、少しだけ考えてもらえたら嬉しいです。

これはどこで作られたのか。

この価格で、生産者は続けられるのか。

自分が残したい食卓は、どんな食卓なのか。

毎回でなくていいです。

少しだけでいいです。

買い物は、投票に似ています。

どの商品を選ぶかは、どんな生産を未来に残すかにつながっています。

応援したい酪農家を見つけてほしい

そして、僕が最近特に大事だと思っているのは、消費者と生産者がもっと近くなることです。

牛乳は制度上、基本的には多くの生乳が集められ、乳業メーカーを通じて商品になります。

だから、スーパーで牛乳を買うことは、全国の酪農を支えることにつながります。

これはとても大事です。

ただ一方で、酪農家全体の中には、もう後継者がいない、あと数年で辞める予定だという方もいます。

つまり、皆さんが牛乳を飲んで応援してくれても、その応援が必ずしも

「これから先の酪農を担う人」に直接届くとは限らない構造もあります。

だからこそ、応援したい酪農家を見つけてほしいのです。

SNSで発信している若い酪農家。

地域で食育をしている牧場。

直売や加工品に挑戦している牧場。

メンバーシップやオンライン発信をしている牧場。

次世代に酪農を残そうとしている人たち。

そういう人を見つけて、商品を買う。

投稿を読む。

イベントに参加する。

コメントする。

応援する。

それも、これからの食料安全保障だと思っています。

食料安全保障というと、国の政策や大きな制度の話に聞こえるかもしれません。

でも本当は、もっと身近なところにもあります。

知っている牧場がある。

応援したい生産者がいる。

その人が作るものを選ぶ。

困った時に「この人たちを残したい」と思える。

そのつながりが、未来の食卓を守る力になります。

牛乳は、ただの商品ではない

牛乳は、毎日当たり前のように売られています。

でも、当たり前に見えるものほど、失ってから大切さに気づきます。

牛乳は、牛が毎日生きているから搾れます。

酪農家が毎日牛舎に立つから届きます。

集乳車が走るから工場に行きます。

乳業工場が処理するから商品になります。

物流が動くからスーパーに並びます。

そして、皆さんが買ってくれるから、次の日も搾ることができます。

「飲んでくれる人がいるから、搾れる」

これは本当にその通りです。

逆に言えば、飲む人がいなくなれば、搾り続けることはできません。

酪農家が減り続ける理由は、単純ではありません。

飼料価格、円安、労働力不足、後継者不足、設備投資、制度、物流、消費の変化。

いろんな問題が重なっています。

でも、だからといって、消費者にできることがないわけではありません。

毎日の一杯。

国産乳製品を選ぶこと。

酪農の現場を知ること。

応援したい牧場を見つけること。

安さだけではなく、続いてほしい未来で選ぶこと。

その積み重ねが、確実に現場の力になります。

僕たち酪農家も、ただ「飲んでください」と言うだけでは足りないと思っています。

なぜ牛乳が必要なのか。

なぜ酪農が地域に必要なのか。

なぜ食卓と牧場がつながっているのか。

それを伝え続ける責任があります。

だから僕は、こうして毎日発信しています。

牛乳を飲むことは、ただ栄養を取ることではありません。

それは、牛と、酪農家と、地域と、未来の食卓をつなぐ小さな行動です。

今日、コップ一杯の牛乳を飲むときに、少しだけ思い出してもらえたら嬉しいです。

その一杯の向こう側で、今日もどこかの牧場で牛が草を食べ、酪農家が搾乳をしています。

そして僕も、出雲の牛舎で牛たちと一緒に、今日も牛乳を搾っています。

未来の子どもたちが、これからも当たり前に牛乳を飲める社会にするために。

今日も牛乳を飲んでくださって、ありがとうございます。

情報|川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也

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