牛の角は必ず切るの?除角の理由と「角のある牛」が減った本当の理由

2026-06-05 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

おはようございます。

川上牧場の川上です。

出張から出雲に帰ってきました。

飛行機を降りた瞬間に、「あ、湿度が高い」と思ったら、出雲市は梅雨入りしたそうです。

これから雨も増えますし、湿度も上がりますし、牛にとっても人間にとっても少ししんどい季節に入っていきます。

でも、6月は牛乳月間です。

じめじめしていても、牛乳はうまい。

帰ってきて自分の牧場の牛乳を飲んだら、やっぱりうまい。

これはもう、手前味噌ならぬ手前牛乳です。

さて、今日はリスナーさんからいただいた質問に答えていきます。

質問はこちらです。

「牛の角は必ず切るんですか?」

これ、牧場見学でも本当によく聞かれる質問です。

牛の絵を描いてもらうと、だいたい角が描かれています。

子どもたちに「牛のポーズして」と言うと、両手の指を頭の上に立てて、角のポーズをしてくれます。

でも、実際に酪農の牧場に来ると、

「あれ?牛に角がない」

と思う方が多いんですよね。

牛といえば角。

昔話の牛にも、絵本の牛にも、牧場のイラストにも、だいたい角があります。

では、なぜ現代の酪農場では角のない牛が多いのでしょうか。

今日は、除角の理由と、これから角のある牛がさらに減っていくかもしれない理由について、できるだけわかりやすくお話しします。

牛の角は、本来は生えてくるもの

まず大前提として、牛は本来、角が生える動物です。

ホルスタインでも、ジャージーでも、和牛でも、多くの牛はそのまま育てれば角が伸びてきます。

つまり、角のある牛は「不自然な牛」ではありません。

むしろ、角がある姿の方が、動物としての本来の姿に近いとも言えます。

ただし、現代の酪農では、多くの牧場で子牛のうちに角を生えなくする処置を行っています。

これを「除角」と言います。

ここで大事なのは、

牛の角は法律で必ず切らなければいけないものではない

ということです。

除角するかどうかは、牧場の飼い方、牛舎の構造、牛群の管理方法、作業者の安全、アニマルウェルフェアの考え方などを踏まえた、現場ごとの判断です。

では、なぜ多くの牧場で除角が行われているのでしょうか。

理由その1:牛同士のケガを防ぐため

一番大きな理由は、牛同士のケガを防ぐためです。

牛は群れで生活する動物です。

群れの中には順位があります。

餌場に行くとき。

水を飲むとき。

寝床を取り合うとき。

通路ですれ違うとき。

牛同士で押し合ったり、頭をぶつけ合ったりすることがあります。

このとき、立派な角があるとどうなるか。

相手の顔、目、脇腹、乳房などを傷つけることがあります。

軽い傷で済めばまだいいですが、場所によっては大きな事故になります。

特に乳牛の場合、乳房を傷つけられるのは大問題です。

乳房の外傷は、乳房炎や搾乳トラブルにつながることもあります。

牛の角は、牛にとって武器にもなります。

その武器が狭い牛舎や餌場の中で動くと、どうしても事故のリスクが上がります。

つまり、除角は「人間の都合だけ」で行われているわけではありません。

牛同士の不要なケガを防ぐ意味もあります。

理由その2:人の安全を守るため

もう一つ大きいのが、人の安全です。

酪農家は、毎日牛のすぐ横で仕事をします。

搾乳する。

餌をやる。

治療する。

移動させる。

分娩を見る。

削蹄する。

体調の悪い牛を起こす。

牛は基本的にはおとなしい動物です。

でも、体重は600kg、700kgあります。

大きい牛なら800kgを超えることもあります。

その牛が少し頭を振っただけでも、人間にとってはかなりの衝撃です。

そこに角があると、危険性は一気に高くなります。

牛が攻撃するつもりでなくても、びっくりして頭を振ることがあります。

虫を払おうとすることもあります。

隣の牛を押そうとして、人が巻き込まれることもあります。

毎日一緒に仕事をするからこそ、作業者の安全はとても大事です。

牧場は、かわいい動物とふれあう場所である一方で、大きな動物と向き合う現場でもあります。

安全対策を甘く見ると、人も牛も不幸になります。

除角はいつ行うのか

除角は、多くの場合、子牛のうちに行います。

生まれてすぐの子牛には、まだ大きな角はありません。

頭を触ると、角が生えてくる場所に小さなふくらみがあります。

これを「角芽」と言います。

いわば、角の赤ちゃんです。

この角芽の段階で処置をすると、その後に大きな角が伸びにくくなります。

逆に、角がしっかり伸びてから切るとなると、牛への負担も出血も痛みも大きくなります。

だから、現代の考え方では、もし除角をするなら、できるだけ若い時期に、牛への負担を少なくする方法を選ぶことが大事だとされています。

さらに最近では、アニマルウェルフェアの観点から、麻酔や鎮痛を組み合わせることがより重視されています。

ここはとても大事です。

「昔からこうしているから」

「早く終わるから」

「みんなやっているから」

ではなく、牛が感じる痛みやストレスをできるだけ小さくするにはどうしたらいいか。

そこまで考えるのが、これからの畜産だと思います。

角を切ることは、かわいそうなのか

ここは、読者の方も気になるところだと思います。

「牛の角を切るなんて、かわいそう」

そう感じるのは自然なことです。

僕も、牛に痛みがある作業を軽く考えていいとは思っていません。

ただ、現場ではいつも、ひとつの正解だけで判断できるわけではありません。

角を残せば、牛本来の姿には近い。

でも、牛同士のケガが増えるかもしれない。

人の事故が増えるかもしれない。

乳房を傷つけるかもしれない。

狭い牛舎では管理が難しくなるかもしれない。

一方で、除角をすれば、その処置自体に痛みやストレスが伴います。

だからこそ、なるべく早い時期に、なるべく負担の少ない方法で、必要に応じて麻酔や鎮痛を使いながら行う方向に進んでいます。

つまり、除角の問題は、

「かわいそうか、かわいそうじゃないか」

だけでは語れません。

本当の問いは、

牛が一生を通して、できるだけ安全に、できるだけ穏やかに暮らせる管理は何か

だと思います。

ここを抜きにして、除角だけを切り取ると、現場の判断は見えにくくなります。

角がある牛が減った本当の理由

では、なぜ角のある牛が減ったのでしょうか。

理由は単純で、現代の酪農が「群れで管理する酪農」になってきたからです。

昔のように少頭数で、一頭一頭を細かくつないで管理する形であれば、角があってもある程度対応できたかもしれません。

でも、今の酪農は規模が大きくなり、牛が群れで動く場面が増えています。

フリーストール牛舎。

放し飼い。

大きな餌場。

群れ単位での移動。

TMRやPMRによる一括管理。

こうなると、牛同士の接触はどうしても増えます。

その中で角があると、ケガのリスクも増えます。

つまり、角が減った背景には、牛そのものの変化だけでなく、酪農の飼い方の変化があります。

これはけっこう大事なポイントです。

「昔の牛には角があったのに、今の牛には角がない」

という見た目の違いの裏には、酪農経営、牛舎構造、作業効率、安全管理、アニマルウェルフェアの変化があるんです。

これからは「角が生えない牛」が増えるかもしれない

そして、これからさらに重要になるのが、角がもともと生えない牛です。

牛には「無角」と呼ばれる性質があります。

英語では「ポールド」と言います。

これは、遺伝的に角が生えにくい牛のことです。

近年はゲノム検査や遺伝改良が進み、ホルスタインの中でも無角の遺伝子を持つ種雄牛が使われるようになってきています。

この流れが進むと、将来的には、除角という作業そのものを減らせる可能性があります。

牛は痛い思いをしなくていい。

人も安全に作業しやすい。

牛同士のケガも減らせる。

これは、とても理想的な方向です。

ただし、ここにも注意点があります。

無角だけを追いかけて、乳量、体型、繁殖性、健康性、近交の問題を無視してしまうと、別の課題が出てきます。

遺伝改良は、ひとつの形質だけを見ればいいものではありません。

乳量も大事。

乳成分も大事。

肢蹄も大事。

乳房も大事。

繁殖も大事。

疾病への強さも大事。

そしてアニマルウェルフェアも大事。

無角の牛は、除角を減らす未来の大きな選択肢です。

でも、それは「角がない牛なら何でもいい」という話ではありません。

ここは、酪農家として冷静に見ていく必要があります。

角があること自体は悪ではない

ここまで除角の話をしてきましたが、誤解してほしくないのは、角があること自体が悪いわけではないということです。

和牛の共進会や一部の放牧牛、海外の在来種では、角がその牛らしさや品種の魅力になっていることもあります。

角の形、大きさ、向きが、その牛の美しさや力強さとして見られる文化もあります。

また、角には生き物としての機能もあります。

牛同士の距離感を作る。

順位づけに関わる。

体の存在感を示す。

品種によっては暑熱への適応と関係していると考えられるものもあります。

だから、角はただの「邪魔なもの」ではありません。

ただ、酪農という環境、特に人と牛が近い距離で毎日作業し、牛同士が同じ餌場や牛舎で生活する環境では、角がリスクになることが多い。

だから現場では、除角や無角遺伝子の利用が選ばれてきた。

この整理が大事だと思います。

牛のイラストに角がある理由

それにしても、牛のイラストには角が描かれがちです。

これは、牛の記号として角がわかりやすいからだと思います。

丸い体。

白黒模様。

大きな鼻。

そして頭の角。

この組み合わせがあると、子どもでも「あ、牛だ」とわかります。

でも、実際の酪農場にいる牛は、角がないことが多い。

このギャップこそ、酪農を知る入り口として面白いところです。

「牛には角があると思っていた」

「でも牧場の牛には角がない」

「なぜだろう」

ここから、牛の飼い方、安全管理、アニマルウェルフェア、遺伝改良の話までつながっていきます。

何気ない疑問ですが、実はかなり深いんです。

まとめ:除角は“牛を管理しやすくするため”だけではない

最後にまとめます。

牛の角は、本来は生えてくるものです。

でも、現在の日本の酪農では、多くの牧場で子牛のうちに除角が行われています。

理由は、牛同士のケガを防ぐため。

人の安全を守るため。

そして、現代の牛舎や群れ管理の中で、牛が安全に暮らせる環境を作るためです。

ただし、除角には痛みやストレスが伴います。

だからこそ、牛への負担をできるだけ減らす方法、麻酔や鎮痛、そして将来的には無角遺伝子の活用が大事になってきます。

角は悪者ではありません。

角のある牛も、牛本来の姿です。

でも、酪農の現場では、牛と人が安全に暮らすために、角をなくす選択がされてきました。

これからは、

「切るか、切らないか」

だけではなく、

「そもそも切らなくてもいい牛をどう増やすか」

という時代に向かっていくと思います。

牛の角ひとつにも、酪農の歴史、現場の安全、動物福祉、遺伝改良、そして未来の技術が詰まっています。

次に牧場で牛を見るとき、ぜひ頭の上を見てみてください。

角があるのか。

ないのか。

なぜそうなっているのか。

そこに気づくだけで、いつもの牛乳の見え方が少し変わると思います。

今日も牛乳を飲んでくれて、ありがとうございます。

情報|川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也

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