TMRと分離給与
2025-03-09 配信|川上牧場 酪農データバンク
この回の要旨
研修生の「どっちがいい?」という問いから始まった今回。川上さんの答えは「やれるならTMRが絶対いい」でありながら、実際には分離給与を選んでいる、という一見矛盾したものでした。その裏には、乳量・労力・手間を天秤にかけたリアルな現場判断があります。
この回の要点
- TMRは消化率・吸収率が高く、選び食いも減り、胃袋のpHも安定するため「やれるなら絶対いい」
- ただしTMRにもテクニックが必要で、作り方や飼料品質のぶれで理想と現実は乖離しうる
- 分離給与でも手間をかければ1頭50キロ程度までは追える。70キロ級が並ぶ牧場ではTMRが必須になる
- 川上牧場は2種類の配合飼料や中間飼料を組み合わせ、分離給与で栄養バランスを組み立てている
配信の全文(podyの記事より)
今日のお勉強は「分離給与とTMR」
今回は、中四国酪農大学校の研修生が川上牧場で学ぶ8日目の配信です。テーマは「分離給与とTMR」のメリット・デメリット。
口火を切ったのは研修生の質問でした。個人的にはTMR派だという研修生が、あえて分離給与でやっている川上さんの意見を聞きたい、というところから話が始まります。
質問(研修生) 結構僕はTMR側なんですよ。でも分離給与でやってるじゃないですか。そこにちょっと意見聞きたいです。
TMRと分離給与 TMRは配合飼料と粗飼料(草)などをすべて混ぜ合わせた「混ぜご飯」のような餌です。分離給与は草と配合飼料などを分けて与える方式で、川上牧場はこちらのタイプです。
「TMRの方が絶対いい」と言い切る理由
川上さんの答えは、意外なほどはっきりしていました。自分は分離給与なのに、TMRの方が絶対いいと言い切ります。
まあTMRの方が絶対いいよね。100いいと思います。やれるならね。 ── 川上
理由は、牛の胃袋にとってのメリットが大きいから。消化率も栄養の吸収率も高くなり、選び食いも減る、と説明します。
川上 牛にとってもいいしね。ルーメン(胃袋)の中に入って消化率も高くなるし、栄養の吸収率も高くなるし、選び食いもしなくなるし。
ルーメン 牛の第一胃のことで、微生物の力で草などを発酵・分解する巨大な発酵タンクのような器官です。ここの環境が整うと消化や栄養吸収がスムーズになります。
TMRでも「選り食い」は起きる?作り方の難しさ
ここで研修生が突っ込みます。TMRでも選り食いはするんじゃないか、と。
質問(研修生) でも選り食いはするんじゃないですか。
川上さんは、それはTMRの作り方や調整が下手な場合だと返します。軸が残ったり、カッターの刃が悪かったり、投入の仕方が悪いと、うまく混ざらないというわけです。
川上 選り食いするのはTMRの作り方、調整が下手くそだっていうとこだけどね。
つまりTMRにもテクニックが必要で、うまくできない餌なら早めに入れて先に試食させるなどの工夫がいる、と話します。
さらに、飼料設計どおりに100%完璧なTMRができるとは限らないとも指摘します。輸入牧草や自給飼料の品質が変われば、成分はどうしてもぶれてしまうからです。
川上 理想と現実が乖離してたりするTMRだと、分離でもそうだけど、飼料設計して成分調べてやるけど、次入ってくる輸入牧草とか自給飼料の品質が変わればぶれてくるので、ある程度のところしかできない。
嗜好性と食い込み、混ぜることで生まれる効果
話は嗜好性、つまり牛の食いつきの良さに移ります。研修生が「やっぱり嗜好性も良くなるんですかね」と聞くと、川上さんはTMRの方がいいと答えます。
理由はシンプルで、TMRは「それしかない」餌だから。単体の餌として出されれば、牛はそれを食べるしかありません。
川上 TMRって単体の餌じゃないですか。もうそれ食べなきゃ生きていけない。それしかないからね。
一方で分離給与だと、嗜好性の良くないものも与えなければならず、牛は好き嫌いをします。ここでいいものと混ぜてあげることで、その好き嫌いがなくなっていく、というのがTMRの強みです。
川上 好き嫌いしまくりますから、この子たちね。
食べられる量が増えるという点でも、TMRの方が絶対いいという結論は変わりません。
胃袋のpHから見た、TMRが安定している理由
さらに川上さんは、牛のお腹の中の環境という視点から違いを説明します。分離給与だと、配合飼料と粗飼料を別々に食べるため、胃袋のpHが揺れ動くのだそうです。
川上 配合飼料と粗飼料ってやったりすると、ルーメンの中のpHが配合飼料食べた時にめっちゃ下がるんですよ。酸性に傾いて、粗飼料食べて反すうして元に戻って、っていうのを繰り返す。
これに対してTMRは、混ざった状態でずっと一定に保たれます。だからお腹の中の微生物にとって、ずっと一定になってるのはすごい環境がいいというわけです。
pHと反すう pHは酸性・アルカリ性の度合いを示す値です。牛は一度飲み込んだ餌を口に戻してかみ直す「反すう」で唾液を出し、胃の中の酸性度をととのえます。急な変化が少ないほど、胃の中の微生物が安定して働けます。
なぜ分離給与を選ぶのか、現場の総合判断
ではなぜ、そんなにTMRがいいのに分離給与でやっているのか。研修生の疑問はそこに戻ります。
質問(研修生) 今分離でやってるとこってのは、TMRが作れない環境とか、そういうところってことだよね。
川上さんは、労力・時間・手間、そして求める乳量を総合的に考える必要があると答えます。分離給与でも手間ひまをかければ、1頭あたり50キロぐらいまでは十分に追いかけられるそうです。
問題になるのは、それ以上の乳量を出すケース。ピークで70キロ出すような牛がボンボンいる牧場では、選択肢としてTMRしかない、と言います。
川上 50キロ以上出すようなところ、1頭個体入量が70キロピークに出るやつとかがいるところは、やっぱTMRしないと飼えないんだよね。もう選択肢として。
その理由を、川上さんは食卓にたとえます。キャベツだけを山盛り食べ続けるのは難しいけれど、ご飯や豆腐、味噌汁があればたくさん食べられる、という話です。
キャベツだけを食べ続けることはなかなか難しいけど、キャベツとご飯と豆腐とお味噌汁と、いっぱいあったら食べることができるじゃないですか。 ── 川上
分離給与を支える「中間飼料」という工夫
最後に、川上牧場の分離給与の中身が具体的に語られます。栄養要求を満たすために、いくつもの品目を組み合わせているのが特徴です。
配合飼料はタンパクの高いものと低いものの2種類を給餌機に入れ、ビタミン剤なども混ぜて与えているそうです。
さらに餌の形にも種類があり、そのなかでも川上牧場は「中間飼料」が多く入っているのが特色だと話します。
中間飼料 ビートやヘイキューブなど、配合飼料と粗飼料(草)の中間に位置づけられる飼料です。配合飼料とも粗飼料とも言える性質を持ち、分離給与で栄養バランスを組み立てる際の調整役になります。
川上牧場の分離給与で使う飼料
用語
タンパクの高い配合/低い配合
目的に合わせて2種類を給餌機で使い分ける
用語
ペレットタイプ
よく見る粒状の配合飼料
用語
フレークタイプ
コーンなどを加工した平たいタイプ
用語
中間飼料
ビート・ヘイキューブなど、配合と粗飼料の中間。川上牧場に多い
まとめ
研修生の「どっちがいい?」という問いから始まった今回。川上さんの答えは「やれるならTMRが絶対いい」でありながら、実際には分離給与を選んでいる、という一見矛盾したものでした。その裏には、乳量・労力・手間を天秤にかけたリアルな現場判断があります。
- TMRは消化率・吸収率が高く、選び食いも減り、胃袋のpHも安定するため「やれるなら絶対いい」
- ただしTMRにもテクニックが必要で、作り方や飼料品質のぶれで理想と現実は乖離しうる
- 分離給与でも手間をかければ1頭50キロ程度までは追える。70キロ級が並ぶ牧場ではTMRが必須になる
- 川上牧場は2種類の配合飼料や中間飼料を組み合わせ、分離給与で栄養バランスを組み立てている