R7年研修生と配信 #18

2025-10-07 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

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10月1日。朝の牛舎には、ゆるやかな秋の空気が漂っていました。

この日は研修生が来ている日で、いつもの業務に加えて「学ぶ日」でもあります。

せっかくなので、この学びの時間をそのまま皆さんにも共有したいと思い、

今回は研修生とのやり取りをベースに、

牛の個体識別番号(耳標)とトレーサビリティについて、

一般の方にもわかりやすいようにまとめてみました。

酪農の現場では当たり前ですが、

実は一般の方が“知らないまま口にしている仕組み”がたくさんあります。

今日の記事では、

「なぜ牛に耳標(黄色いタグ)がついているのか?」

「どんな管理が行われているのか?」

「不正が起きるとどうなるのか?」

「最新のスマート畜産ではどんな技術が使われているのか?」

こうした疑問を、研修生と一緒に丁寧に紐解いていきます。

■ 個体識別番号とは何か?

牛を見たことがある方なら、耳に黄色い四角いタグがついているのを見たことがあるのではないでしょうか。

あれこそが 個体識別番号(耳標) と呼ばれるものです。

個体識別番号とは、

「牛1頭に一つだけ与えられる番号」 のこと。

人間でいうマイナンバーのようなもので、

牛が生まれた瞬間から、亡くなるまで一生使い続ける番号です。

■ なぜ牛に番号が必要なのか?

理由は主に3つあります。

① 生まれた牧場(出生)を証明するため

どこで生まれ、どの牧場で育ち、どこへ出荷されたのか。

すべてが追跡できます。

② 親(血統)を証明するため

「本当に黒毛和牛100%なのか?」

「父はどの種雄牛か?」

これを証明することで、肉質や価値が決まります。

③ 肉になるまでの記録を残すため

病気、薬剤使用歴、移動履歴…

食の安全のために、すべて記録されています。

この仕組みを トレーサビリティ と呼び、

牛肉は世界でも有数レベルで厳しい管理がされています。

■ “269件の違反”が起きた理由とは?

2023年9月26日の岩手朝日テレビで、

「牛トレーサビリティ法違反が269件」

というニュースが報じられました。

研修生も驚いていましたが、酪農家の感覚としては私も「これは尋常じゃない」と感じました。

しかし、なぜこうした問題が起こるのでしょうか?

■ 考えられる理由①:規模拡大と人手不足

大規模牧場では、家族経営の延長で規模だけが大きくなり、

人の管理・マニュアル作成が追いつかない ケースがあります。

牧場長が急に辞めると、

どの牛がどの番号なのか分からなくなることさえあります。

■ 考えられる理由②:管理方法が属人的

首輪の番号だけで管理していたり、

紙のメモだけで引き継いでいたり。

昔ながらの仕組みが残っていると、

番号と実際の牛が一致しなくなるリスクがあります。

■ 考えられる理由③:悪意 or 現場崩壊

269件という数は、

“ミス”というレベルを超えています。

悪意ある偽装の可能性、

あるいは人が足りず現場が崩壊していた可能性も考えられます。

いずれにせよ、

業界全体の信用を揺るがす重大な問題であり、

一度不信が生まれれば、牧場は経営継続すら難しくなります。

■ 番号がぐちゃぐちゃになるとどうなるのか?

もし個体識別番号が不正確なまま市場に出ると……

① 黒毛和牛なのに「その他の牛」として扱われる

本来50万円・100万円になる子牛が、

数万円で買い叩かれることになります。

② 血統登録ができず価値が激減する

「父母が黒毛和牛か分からない」というだけで、市場価値は大幅に下がります。

③ 牧場のブランドが崩壊する

「この牧場の牛は信用できない」と判断され、市場から敬遠されます。

④ 経営継続が困難になる

和牛市場に出せず、自社ブランドでも売れず、廃業の危機に陥ります。

■ 出生届けと移動届け——すべては記録されている

牛が生まれると、生産者はすぐに

出生届 を提出します。

そして牛が別の牧場へ移動すると、

移動届 を提出します。

これらは農林水産省の管轄である 農政局 が管理しています。

✔ 出す側:出生/出荷の届け出

✔ 受ける側:受け取りの届け出

この両方が成立して、初めて情報が紐づきます。

この仕組みは電子化されており、

スーパーのステーキ肉でも表示されていることがあります。

「今日食べた牛はどんな一生を送ったか?」

調べようと思えば、私たちは誰でも確認できます。

■ 耳標の歴史——模様で判断していた時代

研修生が驚いていたのは、

昔は耳標そのものがなかった ということ。

BSE(いわゆる“狂牛病”)が発生する以前は、

牛の模様を紙に描いて識別していた時代がありました。

白黒の模様をハンドドローイングで記録。

まるでパスポート写真のように模様で個体を判断していました。

この話をすると、

「かわいいですね」と言われますが、

現場としてはかわいさより“限界”を感じていたと思います。

今のように耳標やデジタル化が進んだのは、

食の安全を守るための必然でした。

■ 牛群検定番号・牧場タグ・首輪の電子タグ

酪農には「牛群検定」という制度があり、

牛一頭ごとの乳量・乳成分・繁殖成績などをデータ化して管理します。

✔ 牛群検定番号(牧場側の管理番号)

✔ 個体識別番号(国が管理する番号)

✔ 首輪タグ(哺乳ロボットやセンシング用)

牧場にはこの3つの番号が混在しています。

首輪タグをつけると、

牛の歩数・体温・食べた量などがリアルタイムでわかる牧場もあります。

いわば“牛のスマートウォッチ”です。

■ GPS埋め込みの話

ペットでは一般的になりつつあるGPS埋め込みですが、

牛では普及していません。

理由は簡単で、

屠畜の際に異物混入扱いになるため です。

日本の基準は非常に厳しく、

埋め込み式よりも外付けタグのほうが現実的です。

■ 消費者が知るべき「牛を見分ける方法」

研修生が最近「牛肉の種類が分かるようになった」と言っていましたが、

これはとても良いことです。

店頭には「豪州産」「国産」「黒毛和牛」「交雑種」など、

実はしっかり表示されています。

牛乳も同じで、

裏ラベルを読めば生産地や殺菌方法がすべて書いてあります。

選ぶ力は、消費者にこそ必要です。

■ まとめ:耳標の一枚は、牛の一生の“履歴書”

個体識別番号は、ただのタグではありません。

その牛の人生そのものです。

生まれた場所

育った環境

親

病歴

移動

そして、最期まで。

すべてが番号とともに記録されます。

今回のニュースで問題が露呈しましたが、

反対に言えば“記録しているからこそ不正が表に出た”とも言えます。

透明性を高める仕組みがある限り、

日本の畜産は必ず信頼を取り戻せます。

■ 最後に(軽いPR)

川上牧場では、研修生が日々学びながら成長しています。

酪農や牛、食の安全に興味を持たれた方は、

ぜひ私のNoteや音声配信、YouTube、SNSもチェックしてみてください。

未来の酪農に興味がある方、

食育に関心のある方、

もっと知りたい方は、メンバーシップの記事もぜひご覧ください。

あなたの日常の中に「牛の知識」がひとつ増えるだけで、

きっと世界の見え方が変わります。

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