R7年研修生と配信 #23
2025-10-24 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
https://open.spotify.com/episode/1lODr1MR6BFC2OtdD9tWrG?si=z0pX_o-9TVyMAA5qMNVzng
10月21日。
この日の川上牧場には、令和7年度の研修生さんが来ていました。
川上牧場の研修は、ただ作業をするだけではなく、「考える時間」も大切にしていて、配信を兼ねた勉強を行いました。
テーマは、学校給食と牛乳。
一見すると当たり前すぎて、あまり深く考えたことのないテーマですが、実は今、日本中で静かに、しかし確実に議論が進んでいる問題でもあります。
学校給食無償化と「牛乳」の存在
研修生さんから最初に出た話題は、「学校給食の無償化」についてでした。
ニュースでもたびたび取り上げられていますし、すでに一部の自治体では実施されています。
そこでまず押さえておきたいのが、給食費の中で牛乳が占める割合です。
実は、給食費全体のおよそ3分の1が牛乳代だと言われています。
無償化されると、給食費は保護者負担ではなく、自治体の予算で賄われることになります。
一見すると良いことのように聞こえますが、問題はその「予算が固定される」点です。
これから先、野菜やお米、エネルギーコストなど、物価は上がっていく可能性が高い。
しかし、予算が増えなければ、どこかで帳尻を合わせなければなりません。
そのとき、一番手っ取り早く削られやすいのが牛乳です。
「牛乳をやめれば給食は出せる」という現実
人件費を減らす、効率化する。
そういったことにも限界があります。
そうなると、「牛乳をやめて、水やお茶にすればいい」という判断が出てきます。
実際、すでにそのような方向に進み始めている自治体もあります。
特に問題になるのが、物流コストです。
島根県を例にすると、隠岐之島など、乳業工場も乳牛も存在しない地域があります。
そうした場所に学校給食用の牛乳を届けるには、当然ながら輸送費がかかります。
「その送料は誰が負担するのか?」
という議論の中で、「それなら保存がきく飲料に切り替えた方がいい」という話が出てくるのも、ある意味では自然な流れです。
学校給食牛乳は「入札」で決まっている
島根県の学校給食で使われる牛乳は、原則として島根県産のものですが、供給は入札制です。
自治体が「この価格、この数量で提供できる会社を募集します」と提示し、
複数の乳業会社が価格を出し、一番安いところが選ばれます。
この仕組みの中で有利なのは、どうしても大手乳業メーカーです。
スケールメリットがあり、利益が出やすい地域だけをピンポイントで受けることができます。
一方で、人口が少なく採算が合わない地域はどうなるのか。
そこを、地元の中小乳業メーカーが赤字覚悟で支えているケースも少なくありません。
この構造は、外から見ると分かりにくいですが、現場では長年続いてきた現実です。
牛乳価格が上がっても、酪農家が守られている理由
「入札価格が下がったら、酪農家の手取りも下がるのですか?」
研修生さんから、そんな質問も出ました。
島根県の場合、学校給食向けの牛乳については、価格を極力据え置く仕組みが取られています。
最近、市販の牛乳価格は値上がりしましたが、その差分を農協や酪農団体が負担する形で、給食牛乳は継続されています。
つまり、「給食から牛乳をなくさないために、業界側が痛みを引き受けている」という構図です。
もちろん、最終的には誰かが負担しているわけで、決して楽な話ではありません。
アレルギーと「全部なくしてしまう」発想
給食牛乳をめぐって、必ず出てくるのがアレルギーの問題です。
実際、牛乳アレルギーは命に関わるケースもあります。
触れただけで危険な子どももおり、給食の場では非常に慎重な対応が求められます。
ただ、その議論が行き着きやすい先が、
「危ないものは、全部なくしてしまおう」という考え方です。
うずらの卵が給食から消えたように、
そばや特定の食材が姿を消したように、
牛乳も同じ道を辿ろうとしています。
しかし、教育とは本来、「リスクを知り、どう向き合うかを学ぶ場」でもあるはずです。
ゼロリスクを求めてすべてを排除することが、本当に子どもたちのためになるのか。
その問いは、簡単には答えが出ません。
牛乳は「日本人に合わない飲み物」なのか
「日本人は牛乳に合わない」という話も、よく聞きます。
確かに、人間は本来、牛乳を消化できる生き物ではありません。
欧米やインドなど、長い乳文化を持つ地域では、進化や適応の過程で消化しやすくなったと言われています。
アジア人は、その歴史が比較的短いため、消化しにくい人が多いのも事実です。
犬や猫に牛乳をあげてはいけない、という話も同じです。
喜んで飲みますが、実際には消化できず、体に負担をかけます。
だからこそ、牛乳は加工され、工夫され、形を変えながら食文化の中に組み込まれてきました。
戦後日本と学校給食牛乳の役割
学校給食が始まったのは、戦後の栄養不足の時代です。
脱脂粉乳を溶かして提供し、子どもたちのタンパク質やカルシウム不足を補ってきました。
牛乳がなければ、戦後の人口増加や健康維持は難しかったと言っても過言ではありません。
今は食が「娯楽」になり、牛乳を飲まなくても生きていける時代です。
しかし、一日一食を給食に頼っている子どもがいる現実も、同時に存在しています。
その給食の質を落とすことが、20年、30年後にどんな影響を与えるのか。
短期的な視点だけで判断してよい問題ではありません。
給食費を「払う意味」
給食費について、もう一つ大切な視点があります。
無償化されると、保護者は給食に対して「お金を払っていない」立場になります。
一方、少額でも負担していれば、
「お金を払っているから意見を言える」という立場が生まれます。
研修生さんからは、「株主みたいですね」という言葉が出ましたが、まさにその通りです。
給食費を払うことは、単なる負担ではなく、
給食の質に関与する権利でもあるのです。
地域差と、見えにくい構造
学校給食の質は、地域によって大きな差があります。
島根県内ですら、その差ははっきりしています。
背景には、入札の仕組み、長年続く業者との関係、
そして栄養士界隈と呼ばれる独特の力関係もあります。
特定の思想や方針が強く反映されると、
有機農産物に偏り、コストが上がり、供給が不安定になることもあります。
一方で、「子どもたちに良いものを食べさせたい」と、
利益度外視で給食を支えている生産者や業者も確実に存在します。
この世界は、掘れば掘るほど、簡単ではありません。
牛乳が給食から消えたら、酪農はどうなるのか
最後に出たのは、酪農への影響についての質問でした。
結論から言うと、牛乳は余ります。
廃棄はしないよう、脱脂粉乳やバターに加工されますが、
それらは利益が低く、結果的に酪農家の手取りを下げます。
「プール乳価」と呼ばれる仕組みの中で、
加工が増えるほど、全体の平均単価は下がっていくのです。
今は乳価自体は上がっていますが、消費は減少傾向。
この先、厳しくなる可能性は十分にあります。
研修の終わりに
今回の配信と勉強会では、
「学校給食の牛乳」という一見小さなテーマから、
食、教育、地域、産業、そして未来の話まで広がりました。
もし、
「うちの地域はこうです」
「私は給食の栄養士です」
という方がいれば、ぜひコメントを寄せてください。
現場の声が集まることで、初めて見えてくるものがあります。
研修生との対話を通じて、改めて、
「酪農は牛乳を作る仕事ではなく、社会とつながる仕事だ」
そう実感した一日でした。
ありがとうございました。
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