R7年高校生インターンシップ受入中 #1
2025-10-15 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
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9月の澄んだ朝、牧場に少し緊張した顔の高校生が二人やって来ました。
地元の農業高校からのインターンシップ――毎年恒例の受け入れですが、
今回は珍しく男子二人。近年畜産志望は女子が多い傾向があり、男子だけの組は約5年ぶりです。
彼らは揃って「和牛専攻」。
乳牛はあまり触ったことがないものの、1年生の実習で多少の経験があるとのこと。
ホルスタインに黒毛和牛の受精卵を移植している川上牧場は、
彼らにとって“知らないけれど、本当に学びの多い現場”でもあります。
この日私は、彼らの素朴な質問に答えながら、
これからの酪農・畜産が直面する現実、可能性、未来への課題を
正面から伝えていくことを決めていました。
■ 牛と生きるために、今学んでおくべきこと
最初の質問はこうでした。
「学生のうちに勉強しておいたほうがいいことはありますか?」
私はためらわずに答えました。
「普通の勉強、五教科をしっかりやってください」
酪農というと“体力の仕事”というイメージが強いかもしれません。
しかし、実際には科学・数学・生物学・化学・統計学……
多くの知識が組み合わさった総合産業です。
牛は生き物です。
食べた飼料が、どのように第一胃で分解され、微生物によって発酵し、
最終的にどれだけのエネルギーとして利用されるのか――
これは完全に「理科」の領域です。
さらに、それを数値化し、飼料計算に落とし込むには「数学」が欠かせません。
私は学生時代、正直勉強をあまりしていませんでした。
しかし経営者となり、牛を預かり、利益と向き合い始めたとき、
知識があることの大切さを痛感しました。
だからこそ、こう話しました。
「今の学びは、未来のあなたが必ず使う武器になります」
■ なぜ酪農をするのか――その“面白さ”の本質
次の質問は、
「酪農の魅力ややりがいを教えてください」
二人は「牛の外見が好きです」と笑顔で答えてくれました。
かわいい、優しい目をしている――それは酪農の入り口として十分です。
しかし私は、もう一歩深い魅力を伝えました。
「草しか食べられない生き物のはずなのに、
食べた草が牛乳や肉になる。
牛は“地球が作った最強の変換装置”なんです」
通常、人間は草を消化できません。
しかし牛は、体内の微生物のおかげで、
人が食べられない草を、人の栄養へと変換することができます。
人が食べない酒かす、食品残渣、粗飼料もすべて牛の糧になる。
そして、それが牛乳や肉という価値に変わっていく。
“人が捨てるものを価値に変える生き物”
それが牛であり、酪農の本質的な魅力なのです。
■ 成功と失敗――現場でしか語れないリアル
高校生からの質問はさらに続きます。
「仕事での成功体験と失敗体験を教えてください」
成功体験として私は、
島根県の種雄牛「暁之藤」の血統を取り入れ、
その曾孫がもうすぐ生まれることを挙げました。
さらに、広島三次の市場でトップセールを獲得したこと。
育てた牛が評価され、価値として返ってくる喜び。
これは酪農を続ける大きなモチベーションです。
しかし失敗体験は、少し話すのが辛いものです。
海外から30万円で購入した受精卵。
受胎し、ようやく生まれるという時に、逆子で命を落とした子牛。
「あの時の悔しさは今でも忘れません。
もっと知識があれば、もっと技術があれば助けられたかもしれない……」
成功も失敗も、現場に立つ者しか知らない“重さ”があります。
一つの命を預かるということの責任を、彼らに伝えたいと思いました。
■ これからの酪農はどうなる?
―代替肉・人口減少・インフレの時代を生きる若者へ
彼らからの質問の中で、最も深く、重いものがありました。
「酪農の課題と対策を教えてください」
私はゆっくりと、しかし正直に話しました。
● 課題①:人口減少
良いものを作っても、食べる人がいなければ需要は伸びません。
● 課題②:代替肉・バイオミートの台頭
5〜10年後、バイオミートは今より安く、美味しくなる可能性があります。
「そのとき自分ならどちらを選ぶ?」
私は彼らに問いかけました。
一人は「それでも牛を選びます」と即答。
もう一人は少し迷ってから「安くて美味しいなら……」と言いました。
正直、後者のほうが“普通の消費者感覚”です。
しかし、その現実こそ、これから畜産を担う若者が向き合う課題です。
● 課題③:インフレ
これから日本は本格的なインフレ時代へ突入します。
資材・燃料・飼料すべてが高騰し、
しかし農産物の販売価格は大きく上がらない。
これまでの30年間、日本はデフレでした。
つまり、今の大人は誰も“インフレ時代の農業”を経験していません。
「これからの酪農経営は、まったく新しい世界になります」
それを高校生のうちに知っておくことは、大きな財産になるはずです。
■ では、どうすれば生き残れるのか?
酪農家が未来を切りひらくために必要なのは、
“応援してくれる人を増やすこと”
良い牛乳を作るだけではもう足りません。
「あなたの牛乳だから買いたい」
「あなたの牧場を応援したい」
と思ってもらえる関係づくりが必須になります。
そのために私は発信を続けています。
・SNS
・Podcast
・YouTube
・Note
・オンライン牧場体験
・NFT「ミライの牛乳」プロジェクト
すべては、酪農の価値を次の世代へ渡すための活動です。
■ 若い世代が働きやすい畜産へ
最後の質問は、
「仕事をする上で気をつけていることは?」
私は即答しました。
「若い人が働きやすい畜産業を作ることです」
そのために導入したのが“スキマバイト”。
畜産と他産業をつなぐ新しい働き方です。
休みの日に少しだけ手伝ってくれる人、
他業種から畜産へ興味を持つ人、
そこから研修へ進み、別の牧場へ就職した人もいます。
畜産を「地域みんなで支える産業」にできれば、
若者が挑戦しやすい未来が作れる。
それが私の願いです。
■ 終わりに――高校生へ、そしてこの記事を読んでくださっているあなたへ
学生たちとの対話を通じて強く感じたのは、
未来の酪農は、若者の価値観によって形作られる ということです。
人口減少、代替肉、インフレ。
これまでとはまったく違う世界を彼らは生きていく。
だからこそ、“本当の課題”を隠さず伝えたいと思いました。
そしてもうひとつ。
この記事を読んでいる一般の方へお伝えしたいことがあります。
あなたが今日飲む一杯の牛乳、
あなたが選ぶ国産の肉や乳製品。
それが、未来の酪農を支えています。
酪農は、命と向き合いながら、
人が食べられない草を価値あるものへ変える産業です。
その価値がこれからも続くように、
川上牧場はこれからも学びの場を開き続けます。
明日も高校生と一緒に学びます。
また新しい質問に出会えることが楽しみです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の #2 もお楽しみに。
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