代用乳と生乳、日本と海外の子牛哺乳の違い

2025-12-19 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

https://youtu.be/SW1vP242l0E

代用乳と生乳、日本と海外の子牛哺乳の違い

今朝は晴れでした。12月20日とは思えない20度予報で、牛舎の中は朝から少し蒸しています。搾乳を終えたあと、額ににじむ汗をぬぐいながら

「またこの寒暖差か」とひとりでつぶやきました。牛も人間も、急な温度変化には強くありません。今日は土曜日なので、種付けの確認と受精卵移植の段取りを考えつつ、育成牛の様子を見て、昨日生まれた子牛にワクチンを打つ予定です。そんな作業の合間に、TikTokに届いた海外からの質問について考えていました。

テーマは「代用乳と生乳、日本と海外の子牛哺乳の違い」です。

海外の方から、「なぜ日本では新鮮なバルクミルク(搾った生乳)ではなく、スキムミルク(粉ミルク)を子牛に与えるのですか?」という質問をいただきました。これは単なる“好き嫌い”の話ではありません。子牛の哺乳設計という、酪農経営の基礎に関わるテーマです。そして実は、日本と海外の違いを考えるときにも、とても重要な問いだと感じました。

日本の現場で何が主流なのか

まず事実から整理します。

現在、日本の酪農現場では、子牛の哺乳には**代用乳(粉ミルク)**が主流です。これは脱脂粉乳をベースに、脂肪やタンパク質、ミネラルなどを設計した製品です。海外でも同様に、代用乳を使う牧場が多数派です。ですから、「海外は生乳、日本は粉」という単純な対比ではありません。

ではなぜ、バルクミルク(搾乳した生乳)をそのまま与える方法が減ったのか。

理由は大きく三つあります。

1つ目は疾病リスクです。乳房炎菌やヨーネ菌、サルモネラなどの病原体が水平感染する可能性があります。もちろん適切に殺菌すればリスクは下げられますが、そのための設備と管理水準が必要です。

2つ目は成分の安定性です。バルクミルクは日々脂肪やタンパク質の割合が変動します。子牛の発育設計をする上で、栄養の再現性が低くなります。

3つ目は作業性と人手です。加温、保管、腐敗管理などを考えると、人手不足の現場では負担が大きい工程になります。

これらを総合すると、事故が起きにくく、再現性が高い代用乳が合理的な選択になります。

海外との「違い」の本質

では日本と海外で何が違うのか。

私は「使っているもの」よりも「設計思想」が違うのだと感じています。

日本では、下痢や肺炎を防ぎ、安定運用を重視する傾向が強いです。事故を起こさないことが最優先です。一方で、海外の一部地域では、初期増体を最大化し、将来の乳量につなげる高栄養プログラムを積極的に採用しているケースもあります。

つまり、代用乳か生乳かという二択ではなく、何を優先するかの違いです。

安全性か、増体スピードか。作業負担か、栄養設計の自由度か。

その背景には、乳価、労働環境、規模、疾病状況など、地域ごとの構造があります。

川上牧場ではどうしているか

川上牧場では代用乳を使っています。補乳ロボットを導入しているため、ホルスタイン、F1、黒毛和種といった品種ごとに濃度や日数を設計しています。ロボットで管理する以上、成分の安定性は重要です。

ここで一度だけ、少し感情の話をします。

海外からの質問を読んだとき、「日本は自然じゃないと思われているのかな」と少し引っかかりました。生乳をそのまま飲ませる方が自然に見えるのかもしれません。しかし現場で毎日子牛を見ていると、「自然」よりも「安定」を選ぶ気持ちになります。事故で1頭失うことの重さを知っているからです。

これは好き嫌いではありません。責任の取り方の問題だと感じています。

価格構造という見えにくい要素

もう一つ大きな要素があります。日本は海外に比べて乳価が高い国です。つまり、出荷できる牛乳の単価が高い。そのため、子牛に生乳を与えるよりも、代用乳の方がコスト的に合理的になるケースがあります。

逆に、代用乳価格が高騰し、生乳の方が安くなる地域では、殺菌設備を整えて生乳を使う牧場も存在します。

ここでもやはり、「どちらが正しいか」ではなく、

「どの条件下で合理的か」という話になります。

この問いが示しているもの

この質問の本質は、「どちらが好きか」ではなく、「なぜその方法を選んでいるのか」だと思います。

哺乳は、価値観、規模、人手、疾病状況、価格構造など、あらゆる要素の影響を受ける工程です。だからこそ、国によって違いが生まれます。

そしてこれは、酪農だけの話ではありません。医療でも教育でも、地域や制度によって最適解は変わります。表面だけを見ると「なぜそんな方法を?」と思えることも、背景を知ると合理的である場合が多いです。

海外からの視点が入ることで、日本の当たり前をもう一度考える機会になります。私はこの対話が好きです。

これからの哺乳設計

近年、日本でも高タンパク設計の代用乳や強化哺乳プログラムが広がっています。増体を意識する牧場も増えています。逆に、生乳に近い成分設計を選ぶ牧場もあります。

哺乳ロボットやデータ管理の普及により、設計の自由度は高まっています。将来的には、より精密な個体別管理が進むでしょう。

ただ、どんな技術が進んでも、最後に選択するのは人間です。設備投資、人手、リスク許容度。そのすべてを踏まえて決めます。

まとめとして

代用乳と生乳の違いは、「自然か人工か」という単純な対立ではありません。疾病リスク、成分の安定性、価格構造、労働環境、設計思想。その総合判断です。

私は今のところ、川上牧場では代用乳を選ぶことが合理的だと考えています。ただし、条件が変われば選択も変わる可能性があります。

酪農は正解が一つではありません。地域と状況に応じた最適解を探し続ける仕事だと思っています。

海外からの質問は、日本の現場を見直すきっかけになりました。もし皆さんの地域で違う方法を採っているなら、ぜひ教えてください。違いを知ることが、次の選択肢を広げるのだと思っています。

今日も牛舎に戻ります。子牛の飲みっぷりを見ながら、また少し考えてみます。

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