R7年研修生と配信 #37

2026-01-12 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

https://youtu.be/CZ0l2HJEX44

1月5日の朝。

まだ外は暗く、牛舎の中だけがいつものように動き始めています。冬の朝の空気は冷たくて、搾乳機の音がやけに響きます。

世の中ではこの日が「仕事始め」という方も多いようですが、牧場の仕事はそういう区切りとはあまり関係がありません。牛はカレンダーを見ませんから、365日同じようにお腹が空きますし、同じように乳も出ます。

そんな朝、研修生と一緒に作業をしながら、いつものように少し話をしました。

今回のテーマは、「従業員との関わり方」、もう少し正確に言うと、

「人をどう動かすかではなく、どういう仕組みを作るか」という経営の話です。

これは酪農だけの話ではないかもしれません。

むしろ、どの仕事にも共通するテーマなのではないかと、最近よく思います。

研修生からの質問

「なぜ細かく注意しないんですか?」

研修生から、こんな質問を受けました。

川上さんって、作業のやり方について細かく注意しないですよね。

どうしてなんですか?

確かに、私はあまり細かく指摘をしません。

もちろん全く何も言わないわけではないですが、基本的には本人が気づくのを待つことが多いです。

理由はシンプルで、

言っても直らないことが多いからです。

というより、もう少し正確に言うと、

本人が「やろう」と思わない限り、人は変わらない

という前提で考えているからです。

これは十数年、酪農をしながらいろんな人と働いてきた経験から感じていることです。

人が悪いのではなく、システムが悪い

酪農を始めてから、高校生、中学生、未経験の社会人など、さまざまな人を受け入れてきました。

その中でよく思うのは、

「この人が悪い」というより「仕組みが悪い」

ということです。

例えば、最近はスキマバイトアプリの

タイミー を使って働きに来てもらうこともあります。

その中には、

・すごくよく働く人

・あまり作業をしない人

両方います。

最初は「なぜやらないのだろう」と思ったこともあります。

でも、よく考えてみると、その人が悪いというより、牧場側の仕組みが未完成なのではないかと考えるようになりました。

例えば、

・作業内容の動画をYouTubeで見られるようにする

・作業手順を文章で説明する

・事前に質問が自動で送られるようにする

こういう仕組みを整えていくと、未経験の人でも働きやすくなります。

逆に、これが整っていないと、誰が来ても同じ問題が起きます。

だから私は、人を責めるよりも、仕組みを改善することに時間を使うようにしています。

昔の酪農は「できる人だけ残る業界」だった

もう一つ感じているのは、酪農業界の特徴です。

これまでの酪農は、どちらかというと

「できる人だけが残る世界」

でした。

体力がある人。

根性がある人。

長時間働ける人。

そういう人が続けてきた業界です。

しかし今は、人手不足が深刻です。

このままでは、業界自体が続かなくなる可能性もあります。

だからこそ、

誰でも働ける仕組みに変えていく必要がある

と強く思っています。

これは単なる理想ではなく、現場で働く人を増やすための現実的な方法だと思っています。

「こだわり」はある。でも押し付けない

研修生からもう一つ聞かれました。

作業のこだわりはあるんですか?

これは正直に言うと、

めちゃくちゃあります。

酪農家は基本的に、みんなこだわりがあります。

牛の扱い方

餌のやり方

掃除の仕方

搾乳の順番

細かく言えばきりがありません。

ただ、それをそのまま押し付けても、最初は理解できません。

なぜなら、意味が分からないからです。

自分も酪農を始めたときは、全く同じでした。

だから今は、

・作業を見てもらう

・SNSやnoteにまとめる

・動画にする

など、いろいろな方法で「気づくきっかけ」を作るようにしています。

その中で、自分で気づく人もいます。

そういう人は、自然と伸びていきます。

経験が増えると「許容範囲」が広がる

これは少し個人的な話ですが、

経営者としての考え方も、年齢とともに変わりました。

20代のころは、

「なぜやってくれないんだろう」

とよく思っていました。

でも今は、

「分からなくて当然だよな」

と思うことが増えました。

例えば搾乳でも、

・搾り残しても大丈夫な牛

・搾り残すと乳房炎になる牛

が分かります。

そうすると、

「ここは大丈夫」

という判断ができるようになります。

つまり、

経験が増えるほど、許容できる範囲が広がる

ということだと思います。

60%で働くという考え方

もう一つ、よく聞かれることがあります。

「川上さん、あまり疲れている感じがしないですね」

と言われることがあります。

もちろん疲れます。

イライラすることもあります。

ただ、意識していることがあります。

それは、

毎日60%の力で働く

ということです。

100%で働くと、長く続きません。

でも60%なら、

体調が悪いときは少し頑張れるし、

余裕があるときは少し休めます。

この働き方を、十数年続けています。

一度だけ、限界まで働いたことがある

ただし、最初からこの考え方だったわけではありません。

酪農を始めて1年目、

一度だけ「限界まで働く」ことを試したことがあります。

朝2時に起きて、

夜8時に帰る生活です。

それを1年続けました。

結果どうなったかというと、

体より先に、頭がおかしくなりそうになりました。

体は疲れているのに、

頭の中で牛のことがずっと回り続けて、眠れなくなりました。

この経験で、自分の限界が分かりました。

だから今の働き方があります。

人を雇うかどうかという問題

よく聞かれる質問に、

「従業員を雇わないんですか?」

というものがあります。

理由はいくつかありますが、一番大きいのは、

責任の問題です。

人を雇うということは、

・給料を払い続ける

・従業員の家族の生活を守る

という責任が生まれます。

例えば、

・年収500万円

・週休2日

これを実現するためには、牧場の規模が必要です。

今の川上牧場の規模では、

無理に雇うよりも、

・研修生

・スキマバイト

の方が、お互いにとって良いと判断しています。

地域で農業体験ができる仕組み

ここ数年、ずっと行政やJAにお願いしていたことがあります。

それは、

農業体験を気軽にできる仕組み

です。

農業に興味がある人は、実はたくさんいます。

でも、現場に入る仕組みがありません。

それを解決する制度が、

今年の8月から出雲市で始まる予定です。

十年以上言い続けて、ようやく形になりました。

最後に

今回の話は、

・従業員の教育

・経営の考え方

・働き方

いろいろな話が混ざっています。

ただ、一つ共通していることがあります。

それは、

人を変えるより、仕組みを変える

という考え方です。

酪農は、どうしても「根性の仕事」になりがちです。

でも、それでは人が続きません。

だから私は、

少しずつでも仕組みを変えていきたいと思っています。

それが、これからの酪農を続けるために必要なことだと、今は考えています。

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