海外からの質問に答えます!2回搾乳と3回搾乳の違いは何ですか?

2026-01-16 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

https://youtu.be/LOwG-ooVqo8

朝の牛舎に入ると、冬の空気の冷たさよりも先に、牛の吐く息の温かさを感じます。1月17日、土曜日。島根県出雲市は晴れときどき曇りで、冬にしては少し拍子抜けするくらい暖かい朝でした。前日も、ヒートテックにフリースを重ねて作業していると汗ばむくらいで、「本当に1月か」と思うような天気でした。

この日の仕事は、毎週土曜日の育成舎の掃除と、翌日に入っている堆肥の注文に向けた段取り、それから午後は確定申告の準備です。子どもが家にいる日でもあるので、外仕事と事務仕事を行ったり来たりしながら一日が進んでいきます。酪農の仕事は、搾乳や給餌だけではなく、こういう細かな段取りや事務作業も含めて成り立っています。

そんな朝に届いていたのが、TikTok経由の海外の方からの質問でした。

「2回搾乳と3回搾乳の違いは何ですか?」

酪農を少し調べたことがある方なら、一度は耳にしたことがあるテーマかもしれません。けれど、この問いは単に「何回搾ればたくさん出るのか」という話では終わりません。乳量の話であり、牛の体の話であり、人の働き方の話であり、牧場の経営方針の話でもあります。

しかも今は、ロボット搾乳機や農業DX、生成AIのような新しい技術が入ってくる一方で、販売乳価や配合飼料価格のような昔から重たい問題も続いています。だからこそ、この質問には一度きちんと向き合っておきたいと思いました。

今日は、2回搾乳と3回搾乳の違いを、乳量、牛の体、人の働き方、経営という4つの視点から整理してみます。酪農を学び始めた方にも、海外から日本の酪農に興味を持ってくださっている方にも、できるだけ分かりやすく書いてみようと思います。

まず前提として、川上牧場は2回搾乳です

最初に、私の牧場のことを書いておきます。

川上牧場は、朝5時ごろと夕方4時ごろの2回搾乳です。いわゆる家族経営の形に近く、生活のリズムと仕事のリズムをある程度重ねながら続けてきました。

ここは大事なところですが、私は「2回搾乳が正しくて、3回搾乳が間違い」とは思っていません。逆に「3回搾乳のほうが先進的で、2回搾乳は古い」とも思っていません。

酪農は、ひとつの正解にみんなが寄っていく仕事ではなくて、牧場ごとの最適解を探していく仕事だと感じています。だから今回の話も、「どちらが上か」というより、「何を優先するとその選択になるのか」という整理として読んでもらえると嬉しいです。

結論を先に書くと、3回搾乳は乳量が増えやすく、2回搾乳は持続しやすいです

結論から先に書きます。

一般的には、

・3回搾乳は乳量が増えやすい

・2回搾乳は牛と人の負担を抑えやすく、続けやすい

という傾向があります。

ただし、これはかなり大ざっぱな整理です。実際には、牛群の能力、飼料設計、搾乳設備、従業員数、経営者の考え方によって結果が大きく変わります。

たとえば、同じ3回搾乳でも、

「人手が十分にいて、搾乳設備も効率的で、飼料もきちんと組める牧場」

と、

「人が足りず、牛の待機時間も長く、栄養管理も追いつかない牧場」

では、まったく意味が違ってきます。

だからこのテーマは、搾乳回数の話でありながら、実はその牧場の設計思想が表れるテーマでもあります。

乳量だけを見るなら、3回搾乳には確かに魅力があります

まずは、いちばん分かりやすい「乳量」の話からです。

2回搾乳を基準にすると、3回搾乳では5〜15%程度乳量が増えることが多いとされています。これは現場感覚としても、よく知られていることです。

理由はシンプルで、乳房に乳が溜まりすぎる時間が短くなるからです。ある程度こまめに搾ることで、乳腺の働きが維持されやすくなる。人間の筋肉と少し似ていて、使われる機能は維持されやすい、という考え方です。

ですので、数字だけを見ると「3回搾乳のほうがいいじゃないか」と思いやすいです。たくさん搾れれば売上も上がる。ここまでは、すごく素直な発想だと思います。

実際、大きな牧場や高能力牛を多く抱えている牧場では、3回搾乳のメリットがはっきり出ることがあります。特に、牛がもともとよく乳を出す群れであれば、搾乳回数を増やすことによって、その能力をさらに引き出せる場合があります。

ただ、ここから先が難しいところです。

乳量が増えることと、経営が良くなることは、同じではありません

酪農を続けていると、「乳量が増えた」という事実と、「経営が楽になった」という実感が、必ずしも一致しないことを何度も見ます。

搾乳回数を増やすと、乳量は上がるかもしれません。けれど、その分だけ餌も必要になります。牛がたくさん乳を出すということは、それだけエネルギーを使っているということです。エネルギーを使えば、その分の栄養を入れないといけない。つまり、配合飼料や粗飼料の設計がよりシビアになります。

今の酪農現場では、配合飼料価格の上昇がずっと重くのしかかっています。私の感覚でも、最近は「乳量を増やしたい」というより、「増やしても残るのか」を考えざるを得ません。

この日の配信でも少し触れましたが、12月分の販売明細が届く時期になると、乳価の変動が気になります。加工向けが多くなれば販売乳価は下がる。そこに1月からの配合飼料値上げが重なる。そうなると、単純に「たくさん搾ればいい」とは言いにくくなります。

乳量の1キロには意味があります。けれど、その1キロを取るために何を差し出しているのかまで見ないと、本当の意味では判断できません。

牛の体から見ると、3回搾乳はメリットもデメリットもあります

次に、牛の体の話です。ここは、現場ではかなり大事にされる視点です。

3回搾乳のメリットとしてよく言われるのは、乳房の内圧が下がりやすいことです。乳房に乳が溜まりすぎる時間が短くなるので、牛によっては乳房への負担が減り、乳房炎リスクの低下につながることもあります。特に高泌乳牛では、このメリットが生きる場面があります。

ただし、デメリットもあります。

それは、牛のエネルギー消費が増えることです。たくさん出すということは、牛の体にとっても仕事量が増えるということです。飼料設計が追いつかなければ、体重が落ちたり、繁殖成績が悪化したりすることがあります。

ここは誤解されやすいところですが、3回搾乳は「自動的に良い方法」ではありません。高い管理技術とセットで初めて成立する方法だと私は感じています。

搾乳回数だけ増やしても、牛の体がついてこなければ意味がありません。分娩後の牛、暑熱の影響を受けている牛、脚元に不安がある牛など、それぞれに事情があります。牛群全体の平均値だけでは見えないものが、現場にはたくさんあります。

実は人の働き方の差が、とても大きいです

このテーマで、個人的にいちばん大きいと思っているのが、人の働き方です。

2回搾乳は、朝と夕方を軸に生活リズムを作りやすいです。もちろん楽ではありませんが、家族経営や少人数経営と相性がいい。1日の流れが比較的組みやすいので、餌寄せ、治療、子牛管理、書類仕事といった他の仕事も調整しやすくなります。

一方で、3回搾乳は人の配置が前提条件になりやすいです。昼間や深夜の追加搾乳が必要になるため、シフト制や複数人の体制が必要になります。ロボット搾乳機がある場合はまた別ですが、従来型のパーラーで3回搾乳を回すとなると、かなり現実的な負荷がかかります。

しかも、搾乳そのものの時間だけではありません。たとえば1回の搾乳に2時間かかる牧場があるとします。牛は搾乳中だけでなく、待機時間も立って過ごすことになります。2回搾乳ならその待機時間は2回分ですが、3回搾乳にすれば当然その時間も増えます。

牛が横になって休む時間、反芻する時間が削られることもある。これは数字には見えにくいですが、牛にとっては無視できない負担です。

だから私は、「3回搾乳は人にも牛にも強い管理体制が必要」という言い方をしたほうが近い気がしています。

では、3回搾乳が向いているのはどんな牧場か

ここまで書くと、3回搾乳が悪いように見えるかもしれませんが、そういうつもりではありません。

たとえば、

・従業員が十分にいる

・シフト制が組める

・搾乳設備が効率的

・高能力牛群を持っている

・飼料設計に自信がある

・自家発電やソーラーパネルなどで動力コストを抑えられる

・設備投資を早く回収したい

こういった条件が揃っている牧場では、3回搾乳は合理的な選択になり得ます。

特に大規模牧場では、深夜も搾乳施設を止めずに回し続けることで、設備の稼働率を上げる考え方があります。人員も設備も整っているなら、3回搾乳が経営戦略として成立しやすいです。

つまり、3回搾乳は「攻める経営」と相性がいいことがあります。

逆に、2回搾乳が持つ価値も、もっと見直されていいと思っています

私は家族経営に近い規模で酪農をしていますし、正直に言うと、搾乳は好きな作業かと言われると、そこまで得意なほうではありません。だから3回搾乳をやろうという発想には、なかなかなりません。

ただ、それは単に好みの話だけではなくて、長く続けるために何を残したいかという話でもあります。

2回搾乳は、乳量という意味では3回に劣るかもしれません。けれど、

・人が続けやすい

・牛の休む時間を確保しやすい

・家族との時間を組み込みやすい

・他の管理作業に手が回りやすい

・経営の安定性を取りやすい

という価値があります。

酪農は、1年だけ勝てばいい仕事ではありません。10年、20年と続けていく中で、何を守りたいかを考える仕事です。乳量を1キロ増やすことより、10年続けられる形を選ぶ。その判断も、十分に合理的だと私は思います。

ロボット搾乳機は、この議論を少し変えました

ここで少しだけ、ロボット搾乳機の話もしておきます。

最近は、ロボット搾乳機を導入する牧場も増えてきました。ロボット搾乳では、牛が自分で搾乳機に入り、牛によっては1日に3回、4回、5回と搾乳されることがあります。

私は、牛の負担や人の負担を考えると、ロボット搾乳はかなり理にかなっている場面があると感じています。特に分娩直後で乳房が張りやすい牛にとっては、牛が搾りたいタイミングで自発的に入れるのは大きなメリットです。

もちろん、導入コストや管理の別の難しさはあります。何でもロボットが解決するわけではありません。ただ、「2回か3回か」という従来の議論に対して、ロボット搾乳は別の選択肢を持ち込んだのは確かです。

ここにも、農業DXや酪農の技術進化が表れていると思います。

この問いは、実は「どんな酪農を続けたいか」という問いです

海外の方から届いた「2回搾乳と3回搾乳の違いは何ですか?」という質問に、ここまで長く答えてきました。

けれど最終的には、搾乳回数の違いというより、どんな酪農を続けたいかという問いに近いのだと思います。

・乳量を最大化したいのか

・牛の負担を減らしたいのか

・人の生活を守りたいのか

・設備投資を活かしたいのか

・家族経営を続けたいのか

・大規模化を進めたいのか

この優先順位によって、答えは変わります。

酪農の面白さは、ここにある気がしています。同じ牛乳を生産していても、そこにたどり着く方法はひとつではありません。だからこそ、他の牧場を見たときに「自分とは違うけれど、あのやり方にはあのやり方の理由がある」と考える余地が残ります。

私は今、こう考えています

今の私の考えを最後に書いておきます。

2回搾乳と3回搾乳のどちらが良いかは、単純には決められません。けれど、持っている牛群、人員、設備、経営方針に対して無理がないことが、一番大事だと思っています。

たくさん搾ることも大事です。売上を作ることも大事です。けれど、牛にも人にも無理が積み重なって、続かなくなってしまえば意味がありません。

だから私は、搾乳回数を見るときに「どちらが儲かるか」だけではなく、「どんな酪農を続けたいのか」を一緒に考えたいと思っています。

海外からこういう専門的な質問が届いたことは、正直かなり嬉しかったです。日本の酪農の現場を、遠くからでも見てくれている人がいる。そのこと自体が励みになります。

もしこの記事が、酪農を学ぶ方や、これから現場に入る方、あるいは今まさに牧場で悩んでいる方のヒントになれば嬉しいです。搾乳回数の話は、一見すると技術論に見えますが、その奥には牧場の思想が見える。私はそんなふうに感じています。

今日も牛舎に戻って、いつもの2回搾乳をやります。

それが今の川上牧場にとって、いちばん無理のない形だからです。

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