理想の分娩間隔は?

2025-03-06 配信|川上牧場 酪農データバンク

この回の要旨

「分娩間隔は短いほどいい」は今や神話かもしれない、というのがこの回の一貫したメッセージでした。餌代・牛の値段・子牛の価格が変わり続けるなかで、川上さんが見ているのは牛群平均の数字ではなく、自分の牧場の利益率と牛の負担です。

この回の要点

  • 1年に1回の分娩が理想、という前提は搾乳ロボットや牛の能力向上で変わってきている
  • 餌が高い・牛が高い・子牛が安い状況では、分娩を増やすことがそのまま利益に直結しない
  • 乳量を目安に種付けする方法や、2年に1回でいい「ペレニアルカウ」という飼い方もある
  • 川上牧場は餌をほぼ変えず、乳量のピークを後ろにずらしてなだらかにする飼い方を選んでいる
  • 「日本で当たり前」とされる数字より、自分の牧場で利益率が高くなる方法を優先すべき

配信の全文(podyの記事より)

そもそも「分娩間隔は短いほどいい」ってホント?

研修が始まって1週間。この日、研修生の学生さんが持ってきたのは、最近気になっている分娩間隔の話でした。

質問(研修生) 最近、分娩日数がどんどん400日を超えて長くなっているじゃないですか。それを400日切るために取り組んでいることや、考え方を教えてほしいです。

これに対して川上さんは、まず前提の考え方から整理します。

川上 分娩間隔って言って、牛さんね、1年に1回子牛を産ませると生産性が高いですよっていうのが、今までの一般的な考え方だったわけです。

分娩間隔 牛が子牛を産んでから、次に産むまでの日数のこと。乳牛は基本的に、子牛を産むことで乳が出ます。かつては1年に1回のペースが理想とされてきました。

ところが最近は、その前提そのものが変わってきているといいます。搾乳ロボットが登場したり、牛の生産能力が上がったりして、繁殖のあり方も世の中全体で変化しているのだそうです。

餌が高い、牛が高い、子牛が安い。天秤にかけると?

川上さんが分娩間隔を考えるときに見ているのは、「短くすること」そのものではなく、リスクと利益のバランスです。

川上 今って餌が高いじゃないですか。で、牛が高いじゃないですか。牛はなるべく分娩事故をなくした方がいいじゃないですか。で、生まれてくるF1とか和牛とかホルスタインの子牛が安いじゃないですか。

つまり、分娩を増やせば事故のリスクも増える一方で、生まれた子牛が安ければ利益にもなりにくい。この両方を天秤にかけて判断するという考え方です。

F1・交雑種 乳牛(ホルスタイン)に和牛の種を付けて生まれる子牛のこと。肉用として育てられ、うまくいけば高く売れます。子牛の価格は年によって大きく変動します。

実際、去年は子牛が高く売れず、北海道などでは子牛1頭が100円や1000円といった値で、買い取りがつかない状況もニュースになっていたと振り返ります。子牛が高く売れる状況なら分娩間隔は短い方がいいけれど、そうでないなら話は変わってくる、というわけです。

子牛の価格で変わる、分娩間隔の考え方

子牛が高く売れるとき

分娩間隔を短くして、たくさん産ませた方が利益になりやすい

VS

子牛が安いとき

無理に産ませても利益になりにくく、分娩事故のリスクだけが残る

乳量を目安に種付けする、という繁殖管理

話は、海外の搾乳ロボットを使う牧場の例に移ります。乳量を基準に種付けのタイミングを決めるやり方があるといいます。

川上 ロボット搾乳で常に個体乳量が平均40キロ以上になるような牧場だと、平均乳量が35キロ以下にならないと種付けを始めないっていう繁殖管理の方法があったりします。

日本でも、餌が追いついていない牛には種付けをしないといった飼い方があるそうです。分娩間隔という枠にとらわれず、乳量が維持できていればそれでいい、という発想です。

研修生 じゃあ乳量をちょっと重視というか、乳量を目安に。

川上 そう。

2年に1回でいい牛もいる「ペレニアルカウ」

さらに、2年に1回だけ分娩させればいいという考え方の飼い方もあると川上さんは紹介します。

川上 ペレニアルカウっていう、2年に1回分娩すればいいやっていう考えの飼い方もあって。ずっと平均乳量が下がらずに、持続性が高い牛が牛群の中に何頭かいたりするじゃないですか。

ペレニアルカウ 乳の出が長く続き、乾乳(次の出産に向けて搾乳を休ませること)に入りにくい牛のこと。乳がよく出続けるため、無理に次を産ませるよりも間隔を空けて飼う考え方があります。

乾乳させようと思っても30キロ、40キロと乳が出続けるような牛は、無理に乾乳させる方がかえってリスクが高くなるといいます。乳が張り続けて鳴き止まないといったことも起きるため、そういう牛は2年に1回しか分娩させない飼い方をするのだそうです。

一方で、個体乳量が高い牛ほど乾乳させるのが大変で、それが今のロボット牛舎の悩みにもなっているという話も出てきました。

「400日が一番いい」は神話?川上さんの本音

ここで川上さんは、この回の核心とも言える考えを口にします。

川上 みんな400日分娩間隔が一番いいみたいな、なんだろうな、神話。あれに縛られてるなっていうイメージがあるけど。

大事なのは数字そのものではなく、利益が出て、その牛が楽なのが一番いいという点だと川上さんは話します。

川上 分娩間隔が短くなって何事もなく安産で生まれて、牛も健康であるのが一番だけど、そこに縛られる必要ないとも思いますね。変わってきてるんでね。昔からね。

400日が一番いいみたいな神話に縛られてるなって思う。利益が出て、その牛が楽なのが一番いいじゃないですか。 ── 川上

間隔が短いと事故が増える?体の回復という問題

研修生は、事故のリスクと天秤にかけるという話を受けて、逆に「早いと事故が多くなるのか」と質問します。

研修生 早いと事故が高くなるみたいなのあるんですか?

これに対して川上さんは、子宮の回復が間に合わないケースを挙げます。体が回復しないまま次の分娩を迎えることになるためです。

川上 子宮が回復しないとか、体が回復しないままに次の分娩をしてしまうので、次の乳期のときに乳量が出ないみたいなこともあったりして。

体にエネルギーが溜まっていないと、体を使って搾ってしまい、おかしなことになる。具体的には、乳量のピークが出ない、泌乳曲線がなだらかにならないといった形で現れるといいます。

泌乳曲線 分娩後、乳量がどう増えて減っていくかを表したグラフのこと。通常は産後しばらくでピークを迎えて、その後ゆるやかに下がっていきます。

ピークを作らず、乳曲線をずっと同じにする飼い方

話は、川上さん自身の飼い方に移っていきます。改良された今の牛は、泌乳曲線がなだらかになるよう作られてきているのだといいます。

川上 上がり下がりすると餌を変えなきゃいけないじゃん。それよりずっと同じ乳量で生き続けてもらった方が、餌を組みやすいんじゃない。

だからこそ川上さんは、分娩前後しか餌を変えていないと話します。分娩間近とピークに向かうまでは調整し、あとは安い餌でとにかくやってみる、というスタイルです。

川上 普通、40日、60日ぐらいでピークが来るじゃないですか。それをなだらかにすると、100日ぐらいで上がってきたりとか。

ピークをなくすというより、後半にずらしていくイメージ。餌の給与変更をゆっくりにして、牛が食べる量そのもので乳量を出す飼い方だといいます。

結局は「牛群平均」より、自分の牧場の利益率

研修生が「牛への負担も少なくて楽そう」と言うと、川上さんの答えはあくまで冷静でした。牧場ごとに求めるものが違う、という前提を崩しません。

川上 でも、乳量が出ないから絞った方がいいって思ってる人は、やっぱり絞った方がいいんじゃないですかね。各牧場で求めるものが違うので。

たとえば人手が余っている牧場なら、ガンガン搾ってガンガン治療する方が利益になる場合もある。牛の負担は大きくても、経営として成り立つならそれもありだと話します。

川上さん自身は、なるべく牛に無理をさせない方向。ただし「健康第一」とも言い切らず、ギリギリの餌でやっていると付け加えます。

川上 1日食べれる量の80、90ぐらい。それ以上食べたいやつはオツ草を食べれるようにして、草をいっぱい食べるやつはその草のエネルギーで搾ってる感じですかね。

そのうえで、日本で「当たり前」とされる数字への向き合い方について、川上さんははっきり語ります。

川上 日本で当たり前って言われてる数字、牛群検定平均みたいなのがあるじゃないですか。あれは追い求めない方がいいです。全然。自分とこで利益が出る方法、利益率が高い方がいいと思うので。

日本で当たり前って言われてる数字は追い求めない方がいい。自分とこで利益率が高い方がいいと思う。 ── 川上

400日超えは損じゃない?一年一産をやめた理由

研修生は、川上牧場の分娩日数がおよそ470日という数字を挙げ、それでも損にはなっていないのかと確認します。

研修生 その400日超えっていうのは、飼い方でも別に損になってるわけじゃないっていうのはあるんですね。必ずしも長くなるから損ってわけじゃない。

川上さんは、日本は子牛が高いので、年間の生産頭数ぶんくらいは分娩頭数が合っていた方が経営は安定するかもしれない、とバランスも認めます。そのうえで、かつて短い間隔でやっていた時期の失敗を振り返りました。

川上 繁殖が短ければ1頭35万、30万とかでF1が売れてた時期があるんで。あの頃は分娩間隔375日とかだったみたいな。

一年一産に近いペースだと、みんなが一斉に分娩し、次の年はみんなが種付いていないという「分娩の谷」ができてしまう。結果として、1年を通して見ると経営が安定しなかったといいます。

川上 せっかく乳がこれから伸びるってやつに種付けしちゃうから、乳が落ちちゃったりとかするし。両方だからやってみたよ、僕もね。

今は分娩間隔がおよそ420〜430日ほど。分娩後30日で種付けできるよう、子宮の洗浄や薬を使った繁殖管理もやってきたそうです。ただし洗浄については、今は逆に「異物を入れるのがどうなのか」と考えて、毎回はやらなくなったと話していました。

まとめ

「分娩間隔は短いほどいい」は今や神話かもしれない、というのがこの回の一貫したメッセージでした。餌代・牛の値段・子牛の価格が変わり続けるなかで、川上さんが見ているのは牛群平均の数字ではなく、自分の牧場の利益率と牛の負担です。

  • 1年に1回の分娩が理想、という前提は搾乳ロボットや牛の能力向上で変わってきている
  • 餌が高い・牛が高い・子牛が安い状況では、分娩を増やすことがそのまま利益に直結しない
  • 乳量を目安に種付けする方法や、2年に1回でいい「ペレニアルカウ」という飼い方もある
  • 川上牧場は餌をほぼ変えず、乳量のピークを後ろにずらしてなだらかにする飼い方を選んでいる
  • 「日本で当たり前」とされる数字より、自分の牧場で利益率が高くなる方法を優先すべき