研修生が見た川上牧場──学びと葛藤、そして“経済動物”としての牛との向き合い方

2025-09-24 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

はじめに

島根県出雲市にある川上牧場には、今年7月から新しい研修生がやってきました。

研修が始まってわずか3日目。まだ右も左もわからない中で、彼女が感じたこと、そして牧場主・川上が考える「経済動物としての牛の捉え方」について深い対話が生まれました。

この記事では、そのやりとりを整理しながら、酪農を学びたい人にとっての学びのヒントを抽出していきます。

研修生が川上牧場を選んだ理由

まず、なぜ彼女は川上牧場を選んだのか。

きっかけは「母の知人が川上さんの親戚だった」こと。

そこから牧場の存在を知り、公式サイトを調べていくうちに「多彩な取り組み」「研修制度の整備」に惹かれたそうです。

「熱心にやっておられるのが伝わってきたので、ぜひ学びたいと思いました」

地方の牧場に研修生として飛び込むには、勇気と情報収集が欠かせません。彼女のように「身近な人のつながりから知る」「公式サイトを読み込む」というアプローチは、これから研修先を探す人にも参考になるでしょう。

研修3日目で感じた難しさ

研修が始まって3日目。最初の感想は「難しい」でした。

理由は、作業の同時進行に慣れていないから。例えば搾乳作業。目の前の牛に集中しながらも、同時に牛全体の状態や他の並行作業を把握する必要があります。

「並行作業が多くて、全体を見渡す余裕がない。慣れないと難しい」

これは酪農に限らず、現場で働く人なら誰もが直面する壁です。だからこそ、過去の研修生には「SNSでの発信」を毎日課しています。

インプットとアウトプットを繰り返すことで、経験が蓄積され、吸収のスピードが上がる。これが川上牧場流の学び方です。

牛乳生産をめぐる“脆さ”

研修生が抱いた素朴な疑問に「牛乳の消費量は減っているけど、国はどう対策しているのか?」というものがありました。

川上は次のように答えます。

・日本の酪農は北海道に極端に集中しており、全国の6〜7割を担っている

・災害や気候変動、国際情勢の影響を受けやすく、非常に脆い構造

・例えば台風で北海道から関東へ牛乳を運ぶ船が2日止まっただけで、首都圏の牛乳供給が危機的状況に陥った

さらに、北海道の残暑や猛暑によって牛の食欲が落ち、秋の増産期に予定通り牛乳が増えない可能性がある。すると不足分を海外から輸入することになり、国内の農家の収益が圧迫される。

「日本の酪農は大産業でありながら、極めて脆弱なバランスの上に成り立っている」

この現実を知ることも、研修の大切な学びです。

海外経験と農業への関心

研修生にはオーストラリアへの留学経験がありました。

海外に出て感じたのは「世界の広さ」と「日本では見えない視点がある」ということ。

現地で見たのは、無添加やオーガニック志向の高まりと、それが高価である現実。

「手間がかかっているから価格が高い。でもそれを求める消費者がいる」

この経験は、今後の農業や酪農に携わる上での重要な視点になります。

経済動物としての牛との向き合い方

最も深いテーマとなったのが「牛をどう捉えるか」という問いです。

研修生は「自分が育てた牛を食べられるか」という問いにまだ答えられませんでした。愛玩動物としての感覚が強く、「現実としては受け止めきれない」と。

それに対し、川上はこう語ります。

・牛は経済動物であり、人間の役に立つことが存在意義

・競走馬なら速く走ること、牛なら牛乳や肉を生産することが役目

・経営者と従業員で「牛へのスタンス」が違えば摩擦が生じる

つまり、牛を「家族のように可愛がる」スタイルもあれば、「経済的価値を軸に見る」スタイルもある。どちらが正しいわけではなく、関係性に応じて擦り合わせが必要なのです。

川上が牛を好きな理由

では、川上自身はなぜ牛が好きなのか。

「牛という生き物の仕組みそのものが好きなんです」

牛はルーメン(第一胃)という発酵タンクを持ち、微生物の働きで草をタンパク質に変え、毎日40kgの牛乳を生産する。科学が進んでもルーメンの全容はまだ解明されていない。

さらに、生まれたばかりの子牛はまだ消化器官が未発達なのに、草を食べ始める。微生物はどこから来るのか。謎が多い。

「意味がわからないほど不思議で面白い。それが牛の魅力です」

この視点は、単なる「かわいい」や「癒される」とは違います。

科学と経済の狭間で牛を見つめる眼差し。それが酪農家としての川上の立ち位置です。

学びのまとめ

この記事から学べるポイントを整理しましょう。

・研修の学び方

メモ・SNS発信でインプットとアウトプットを循環させる。

・酪農の脆弱性

北海道依存や災害リスクによって、日本の牛乳供給は非常に不安定。

・スタンスの違い

牛を「経済動物」として見るか「愛玩動物」に近い存在として見るか。擦り合わせが重要。

・科学的な好奇心

牛の消化や生態は未解明な部分が多く、研究対象としても魅力的。

おわりに

酪農研修は、ただ作業を覚える場ではありません。

社会構造の脆さを知り、価値観の違いに触れ、科学的な探究心を育てる場でもあります。

研修生はまだ3日目。これから経験を積み重ねる中で、牛をどう捉え、自分の将来にどう活かしていくのか。

その過程そのものが、酪農を学ぶ意義だと言えるでしょう。

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