「一番すごい酪農家は誰?」という質問に答えました

2025-09-25 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

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酪農をしていると、たびたび聞かれる問いがあります。

「川上さんは、全国で一番すごい酪農家は誰だと思いますか?」

今回のコラムは、あるリスナーさんから届いたこの質問に丁寧にお答えする形で進めていきます。

日々牛舎と向き合い、牛と暮らし、経営を続ける中で、私はこれまでに鳥取・島根合わせて約200軒の牧場で働かせていただく機会がありました。おそらく一般の酪農家よりもかなり多くの現場を見てきたほうだと思います。

そんな経験を踏まえて、「誰が一番すごい酪農家なのか?」という問いにどう向き合うのか。

この記事では、酪農の奥深さと多様性を、わかりやすく、そして一般向けにも読みやすい形で紹介していきます。

■ 「一番」を決めるのは本当に意味があるのか?

まず結論を言うと、私は酪農において「誰が一番か」を決めることにはあまり意味がないと感じています。

というのも、酪農は単一の指標で評価できるような単純な産業ではないからです。

たとえば、一般的に“すごい酪農家”と聞くと、こんなイメージがあるかもしれません。

・乳量がとにかく多い

・牛の能力(遺伝的価値)が高い

・経営が黒字で利益を出している

・設備投資が進んでいる

・先進技術を導入している

確かにこれらは優れた経営の証ですし、尊敬されるポイントです。しかし――

酪農には、これらとはまったく違う方向性で「すごい」と感じる人たちがたくさんいます。

■ 200軒以上の牧場を回って見つけた“共通点”

私は酪農ヘルパーとして、数え切れないほどの牧場で働かせてもらいました。

ボロボロの牛舎、狭い通路、足場が悪い場所、牛が汚れている場所……。

逆に、最新設備で整った牧場、牛が驚くほど清潔で静かな牧場もあります。

しかし、どんな牧場にも**必ず一つは「他より優れている部分」**があるんです。

これは本当に断言できます。

・ある牧場は、とにかく乳牛の繁殖管理がうまい

・別の牧場は、飼料設計が抜群で牛の体調が安定している

・また別の牧場は、家族のチームワークが最高で牛舎の空気が明るい

・牛舎は古いのに、牛の健康が素晴らしく保たれている農家さんもいる

・費用が少なくても、驚くほど効率よく経営している農家さんもいる

「ここは負けない」という一点を、どの農家さんも必ず持っています。

だからこそ、「一番すごい酪農家」とは簡単に決められないのです。

■ “時代によって変わる物差し”で競うことの虚しさ

酪農家が評価される基準は、時代とともに変わります。

ある時代は

「乳量が多い=すごい」

という価値観が一強でした。

しかし今は、以下のような新しい評価軸が加わりつつあります。

・飼料効率の良さ

・メタン排出量の少なさ(環境性)

・牛の長寿命

・酪農の持続可能性

・乳成分の質

・身体が小さく環境負荷が低い牛の評価

つまり、“すごさ”は時代によって変わる概念なのです。

時代にあわせて評価軸も変わる。

そんな中で「一番」を決めても、基準が変われば全く違う人が“一番”になる。

だから私は、

「自分が信じる酪農を貫くことが一番大切」

だと思っています。

■ 家族経営こそ“すごさ”の象徴だと思う瞬間

酪農には、“数字”では測れないすごさがあります。

その代表が、家族経営の魅力です。

たとえば、家族がこうやって話している風景を見るとします。

「この牛は父さんのときは嫌がるけど、母さんのときは大人しいよな」

「今日、生まれた子牛、めちゃかわいかったよね」

「明日の作業、どっちが担当しようか?」

こんな会話を、牛舎でする家族の姿。

それだけで、その牧場がとても“いい”経営をしていると伝わってくるんです。

牛の表情も柔らかい。

牛舎の空気もあたたかい。

そして何より、家族が幸せそう。

これこそ、数字だけでは語れない「すごい酪農家」の姿だと思います。

■ 多様性こそ酪農の最大の魅力

私はSNSも長く続けており、全国の酪農家の発信を常に追っています。

それぞれの家、それぞれのやり方があって、多様性があまりにも広い世界です。

・100%自給飼料で経営する農家さん

・100%購入飼料で高乳量を目指す農家さん

・年間数頭だけ丁寧に育てる農家さん

・何千頭と管理する大型農場

・牛を家族のように扱う農家さん

・技術の徹底で効率を極限まで高める農家さん

こうした“幅”があるからこそ、酪農は面白い。

そして消費者の皆さんに伝えたくなる。

だから私は、発信活動にも力を入れています。

■ 私自身は“変わり者の酪農家”かもしれない

一方で、私自身は“普通の酪農家”とは少し違う道を歩んできました。

牛乳を搾るだけではなく、

・SUZURIでグッズを作ったり

・Noteで記事を書いたり

・メンバーシップでオンライン牧場体験を提供したり

・「ミライの牛乳」NFTプロジェクトを運営したり

・酪農業界向けの FarmEcho を作ったり

普通の酪農家ではあまりやらない活動を、自分なりに広げています。

消費者の方に酪農をもっと近く感じてほしい。

子どもたちに牛乳を飲んでほしい。

酪農の魅力を知ってほしい。

そんな願いが根っこにあります。

だから「川上さんが一番だと思っています」と言われると、

もちろん、とても嬉しいです。

でも同時に、心の中ではこう思います。

「世の中には本当にすごい酪農家がたくさんいるんですよ」

■ “推し農家”を見つけてほしい理由

今はSNSを通じて、多くの酪農家が発信を始めています。

牛の性格、牧場の風景、家族の会話、技術のこだわり。

それぞれの“物語”がある。

ぜひ皆さんには、SNSの中から「推し農家」を見つけてほしいです。

酪農は、牛と向き合う毎日の連続で、一般社会との距離がどうしても生まれがちです。

でも、発信を通じてつながることで、その距離は縮まります。

そして、推し農家を応援することが、

酪農の未来を一緒に支えることにもつながります。

■ 最後に:一番すごい酪農家は誰ですか?

この質問に改めて答えるなら――

「一番の酪農家は“あなたが魅力を感じた酪農家”です。」

酪農の世界には、

技術のすごさ、家族の温かさ、規模の大きさ、牛の健康、効率性、環境性……

いろいろな“すごさ”が存在します。

そしてどれも比較できない、唯一の価値です。

だからこそ、自分が信じる酪農を貫くこと。

そして、他の農家さんの良いところを尊敬すること。

その姿勢が、酪農をもっと豊かで面白い世界にしていく。

私はそう信じています。

酪農に興味を持ってくださる皆さん、

この記事を読んでくださった皆さん、

いつも本当にありがとうございます。

そして、あなたの“推し農家”が、今日ひとつ見つかりますように。

それでは、今日も牛乳で乾杯。

また次の記事でお会いしましょう。

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