R7年研修生と配信 #16

2025-09-28 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

https://open.spotify.com/episode/1qmkINTM7CTNPlsclaIReh?si=sw2I9UZ3TemTc2lykQK-5Q

―黒毛和牛の受精卵と乳牛の繁殖を“現場のリアル”で学ぶ一日―**

研修生が来ている日の配信は、普段とはまったく違う空気が流れます。

私自身も初心に返った気持ちになり、学び直すような姿勢で話をしています。

令和7年度の研修生と迎えた9月22日。今日のテーマは「繁殖」。

酪農の根幹でありながら、一般の方にはほとんど見えない部分です。

この日は、黒毛和牛の“採卵”と“移植”という高度な技術を実践していたこともあり、

研修生の質問に答えながら、繁殖のメカニズムをじっくりと深掘りしていきました。

現場で働く人だけでなく、酪農に興味のある一般の方にもぜひ知っていただきたい内容です。

ここからは、研修生とのリアルな会話を軸に、

「牛の発情・排卵・繁殖コントロール」

「生産計画の立て方」

「夏の乳量低下と戦略」

「牛乳消費の変化」

など、酪農の“今”を丁寧に紐解いていきます。

■ 黒毛和牛の採卵と移植 ― 牛版「高度生殖医療」

川上牧場では現在、黒毛和牛の受精卵を採取し、ホルスタインに移植する「採卵」を行っています。

黒毛和牛は肉用牛として価値が高いため、優良な血統の受精卵をホルスタインに宿してもらうことで効率的に増やす技術です。

これはまさに**“牛の体を使った高度生殖医療”**。

しかし、技術以上に重要なのが 牛のホルモン周期を読む力です。

■ 「発情」と「排卵」は同じ?ホルモンの流れを理解する

研修生から最初に出た質問がこれでした。

「発情期と排卵期って別なんですか?」

答えは、ほぼ“同じ”です。

発情ホルモンが高まることで排卵が起こり、繁殖可能な状態になります。

ただし、教科書どおりにはいきません。

・暑熱

・栄養不足

・ストレス

・飼育環境

・授乳中のエネルギー不足

こうした条件が少し変わるだけで、

「21日周期」と言われる発情は 18日になったり、24日になったり します。

さらに厄介なのは、

・妊娠中なのに発情する

・途中で受胎が止まり、そこから再び発情が来る

といった“イレギュラー”。

これらを完璧に見抜くのは、獣医さんでも難しい領域です。

超音波診断装置の進化でかなり精度は上がりましたが、

100%の予測は不可能です。

だからこそ酪農家が磨くべき力が 「観察力」 なのです。

■ 発情は“ポイント制”で見極める

川上牧場で使っている方法のひとつが、

発情ポイント制。

例えば:

・鳴く → 10pt

・興奮して餌を食べない → 3pt

・他の牛に乗りかかる → 20pt

・動きが妙に軽くなる → 5pt

・尻尾が上がり気味 → 3pt

これらを合計し 10ポイント以上なら“発情”と判断 します。

繁殖は「科学」ではあるものの、最終的には「勘と経験」がものを言う世界。

この曖昧さこそ、酪農の奥深さでもあります。

■ 子宮内に入れている“あの器具”は何?

研修生が気にしていたのは、牛のお尻に入れている器具。

これは CIDR(シダー) と呼ばれるもので、

“妊娠ホルモン”を体内で安定的に出し続ける装置です。

・CIDRを入れる → 妊娠“した”ホルモンが上昇 → 発情が止まる

・CIDRを抜く → ホルモンが急低下 → 発情が一気に再開する

これを使えば、発情のタイミングを人間側でコントロールしやすくなります。

海外の放牧地では、

・全頭にCIDRを入れる

・同じ日に一斉に抜く

・同じ日に一斉に種付けする

という高度な管理を行い、季節繁殖を成立させています。

■ 川上牧場の「理想の生産計画」と“週1子牛”

理想の生産計画は 「週に1頭のペースで子牛が生まれること」。

月4頭 × 12ヶ月 → 年48頭。

これは繁殖牛が50頭規模の牧場では最も安定する数字です。

実際は暑さや体調で予定どおりにいきませんが、

目標数を決めることで経営の見通しがしっかり立ちます。

今年はホルスタインがすでに順調に受胎し、

残りは黒毛和牛の採卵で補う計画です。

■ “夏の搾乳休止”という新戦略

今年、川上牧場が挑戦した新しい繁殖戦略があります。

それが 「夏は乾乳期(搾らない時期)をまとめて作る」 方法。

理由は明確です。

● 夏は乳量が落ちる

・暑熱ストレス

・食欲低下

・乳脂肪率低下

・繁殖性が最悪になる

● 夏は“搾っても儲からない”

乳量が減り、飼料効率も落ち、経費が増えるため

収益が出にくいのです。

そこで——

いっそ夏はまとめて乾乳にしてしまおう

という発想に切り替えました。

結果は大成功。

秋からの乳量回復がスムーズで、繁殖成績も改善しました。

■ 牛乳が“飲まれなくなっている”という現実

ここからは研修生との会話の中で生まれた、

とても大事なテーマです。

● 牛乳が飲まれていない

現状、驚くほど牛乳消費が落ちています。

・低脂肪乳・コーヒー牛乳のほうが買われる

・誤って“加工乳”を牛乳と思い込む人が増加

・物価高で牛乳離れ

・ライフスタイルの変化

・牛乳を必要とする食生活が減った

特に

「牛乳=栄養の柱」という意識がない世代が増えている のが大きい。

研修生から

「どうやったらもっと飲んでもらえるんですか?」

と聞かれましたが、答えは簡単ではありません。

■ 牛乳は“飲料”として売るから高く見える

ここで私が伝えた大事な視点がこれです。

牛乳は飲料として売るから高く見える。

栄養食品として売れば、むしろ安すぎる。

例えば:

・栄養ドリンク → 1本200円

・牛乳1L → 270円

カルシウム量、タンパク質量で比較したら、

牛乳は圧倒的にコスパが良い。

ですが、飲み物売り場で

コーラ・お茶・スポドリの横に置かれると、

どうしても“高い飲料”に見えてしまう。

販売方法を変えれば、価値の見え方は変わります。

■ 牛乳は“お金に余裕がある国”で伸びる

歴史を見れば、食生活は経済に左右されます。

・貧しい → 鶏肉が増える

・少し豊か → 豚肉が増える

・さらに豊か → 牛肉・乳製品が増える

つまり、

日本がもう一度経済的に豊かになることが、牛乳消費の鍵

だと私は考えています。

もちろん、生産者側も努力を続けなければなりません。

価値観が変わるスピードに合わせ、

商品・売り場・情報発信をアップデートする必要があります。

■ おわりに ― 学び合う時間が酪農を強くする

研修生との対話は、私にとっても大きな学びです。

教えるつもりが、自分の思考の棚卸しになり、

酪農を支える基盤を見つめ直すきっかけにもなります。

繁殖の仕組みも、経営の試行錯誤も、

牛乳消費の変化も、

すべては“現場に立つ酪農家が向き合うリアル”。

この記事を読んで、

酪農という仕事がどんな判断で成り立ち、

どんな未来を目指しているのかを

少しでも感じてもらえたら嬉しいです。

研修生との配信はまだまだ続きます。

また次回、R7年研修生との学びを深めていく様子をお届けします。

今日も牛乳を飲んで、良い一日を過ごせますように。

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