酪農家がオーツミルクを作る意味はある?牛乳と“競争しない代替乳”の可能性
2026-07-24 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
「北海道の酪農家が、 クラウドファンディングで オーツミルクを作るそうです」
「これ、どう思いますか?」
YouTubeのリスナーさんから、 こんな質問をいただきました。
暑い夏には、 牛乳が不足する地域も出てくる。
だから代替のミルクが 必要なのではないか。
そういう問題意識からの質問でした。
僕は島根県出雲市で、 酪農をしています。
正直に言うと、 この話題は酪農家のあいだでも 意見が割れます。
なので今日は、 できるだけ丁寧に話します。
先に結論を言います。
国産オーツミルクの生産基盤は、 あったほうがいいと思っています。
ただし、 牛乳をすべて置き換えるものではありません。
夏は、需要と供給が逆に動く
まず、背景の話から。
夏になると、 牛は餌を食べなくなります。
気温と湿度が上がると、 牛は体の中の熱を外に出しにくくなる。
だから食べる量が減って、 乳量が減ります。
繁殖成績も、健康も落ちます。
いま、まわりの農家さんと話すと、 みんな同じことを言います。
「牛が餌を食わん」
一方で、人間のほうはどうか。
暑いから、 牛乳もアイスも冷たい乳製品も、 需要が増えます。
つまり夏は、 供給が減って需要が増える。
逆方向に動くんです。
そして冬は、その反対。
牛の調子がよくて、 牛乳がいちばん美味しい季節なのに、
冷たい牛乳を飲みたい人が減ります。
このギャップは、 ずっと酪農の課題です。
今回のプロジェクトは、何が新しいのか
質問にあったのは、 合同会社ナーリッシュのプロジェクトです。
camp-fire.jp
ミルクの未来に挑む。北海道の酪農家と、国産オーツミルクを作る
_Nourish
フード・飲食店
支援する
・
¥
821,250
・
91 人
・
終了しました
達成率: 164%
北海道の酪農家がオーツ麦を栽培して、 それを企業が買い取って、
国産オーツミルクとして 加工・販売するという仕組みです。
ここで大事なのは、 「原料の生産から加工まで国内で完結させる」 という点です。
今、日本で売られているオーツミルクの多くは、
原料が海外産か、 製品そのものが海外製かのどちらかです。
これに頼り続けると、どうなるか。
円安。 輸送費の上昇。 海外の不作。 戦争。 輸出規制。
牛乳の飼料でさんざん経験してきたのと、 まったく同じ構造が繰り返されます。
だから僕は、 オーツ麦を日本で栽培する仕組みを作ること自体には、
意味があると思っています。
牛乳とオーツミルクは、別の食品です
ここは、はっきり言っておきたいところです。
牛乳とオーツミルクは、 見た目は似ています。
どちらも白くて、 コーヒーにもシリアルにも使えます。
でも、栄養はまったく別です。
オレンジジュースとコーラくらい違う、 と言ってもいいと思います。
牛乳は、 子牛を育てるために母牛が作るものです。
200mlあたり、 たんぱく質が約3g以上。
質のいいカルシウム、脂質、 ビタミン類も含まれています。
一方、オーツミルクは商品による差が大きいのですが、
多くの場合、 牛乳よりたんぱく質がかなり少ないです。
代わりに、 オーツ麦由来の炭水化物と食物繊維が入っています。
カルシウムやビタミンDは、 栄養強化してある商品もあれば、 していない商品もあります。
だから、牛乳をそのまま オーツミルクに置き換えると、
栄養が足りなくなるリスクがあります。
特に、成長期の子ども。 高齢の方。 そもそも食事量が少ない方。
このあたりは、 一度きちんと確認したほうがいいです。
商品を選ぶときは、 裏の表示を見てください。
たんぱく質。 カルシウム。 糖類。 脂質。 栄養強化の有無。
ここを見るだけで、 だいぶ違います。
「植物性だから安全」も、違います
もうひとつ、 誤解されやすいところです。
オーツミルクには、 βグルカンという水溶性食物繊維が 含まれる商品があります。
ただ、どれくらい残っているかは、 原料の使用量と加工方法によります。
砂糖や油が加えてある商品もあれば、 無糖でシンプルな商品もあります。
そして、これが大事なのですが、
植物性だから誰でも安全、 ということはありません。
オーツアレルギーは、あります。
小麦の工場で製造している場合は、 交差汚染のリスクもあります。
「植物性だから安全」 「牛乳のほうが栄養的に上」
どちらの二者択一も、 正確ではありません。
誰が。 何の目的で。 どの商品を。 どれくらい飲むのか。
そこを個別に判断するしかない、 というのが正直なところです。
環境負荷の数字にも、注意が要ります
国際的なライフサイクル評価では、
牛乳は植物性飲料より 温室効果ガスの排出が約3倍、 土地利用が約10倍、
と言われることがあります。
この数字は、 そのまま受け取らないほうがいいです。
牛乳の環境負荷は、 牧場の飼い方、飼料、糞尿処理、土地利用で 大きく変わります。
オーツミルクのほうも、
オーツ麦の産地、肥料の使用量、 加工した場所、輸送距離、容器の素材で、
数字は変わります。
「牛乳は悪い、オーツミルクは良い」
この二項対立は、 はっきり言って雑です。
地域の雇用も、景観も、土壌も、 資源の循環も含めて評価しないと、
本当のところは分かりません。
僕がいちばん期待しているのは、商品ではありません
ここが、今日いちばん話したかったところです。
僕が期待しているのは、 完成したオーツミルクという商品ではありません。
酪農家が、 新しい作物と収入源を経営に組み込めること。
そのモデルのほうです。
今の酪農は、 飼料も、肥料も、燃料も、機械も、 多くを海外に依存しています。
だから、どこか一つの価格が動くだけで、 経営全体が揺らぎます。
もし、牛の頭数を適正化しながら、
空いた土地や労働力を 別の作物に振り向けられたら。
乳価が厳しい年は、作物が支える。 作物が不作の年は、牛乳が支える。
この複合経営は、 変化の激しい時代に強いと思います。
ただし、簡単ではありません
正直な話もしておきます。
オーツ麦を栽培するだけでは終わりません。
加工設備。 食品衛生管理。 包装。 物流。 営業。
全部必要です。
そして、いちばん難しいのはここです。
クラウドファンディングで 商品を一度作ることより、
5年、10年と売れ続ける市場を 作れるかどうか。
こちらのほうが、はるかに難しい。
対立させないほうが、たぶん得をする
発信のしかたも、大事だと思っています。
「牛乳は体に悪いから オーツミルクに変えよう」
こういう発信は、 酪農家の反発を招きます。
逆に、
「植物性飲料なんて偽物だ、 必要ない」
こういう拒絶は、 市場と消費者の選択肢を失わせます。
必要なのは、 どちらが正しいかではなくて、 使い分けの提示だと思うんです。
たんぱく質やカルシウムを摂りたいなら、牛乳。 乳糖を避けたいなら、オーツミルク。 コーヒーや料理の用途で選ぶ。
選択肢が増えることは、 必ずしも牛乳の敵ではありません。
むしろ、 牛乳が安さや量だけではなく、
栄養、味、地域、文化、循環という価値を 説明するきっかけになると思っています。
将来、代替ミルクは必要になるのか
質問の最後は、これでした。
僕の答えは、 必然的に必要になる、です。
気候変動。 災害。 感染症。 戦争による輸出制限。 人口構造の変化。 食物アレルギー。 乳糖不耐症。
条件がこれだけ変わっていく時代に、
一つの食品だけで 全員を支えるのは難しいです。
牛乳だけに頼らない。 海外製の植物性飲料だけにも頼らない。
国内に牛乳の生産基盤を残しながら、 国内でオーツ麦や大豆の生産基盤も育てる。
これが、本当の食料安全保障だと思います。
今回のポイント
・夏は牛の採食量が落ちて生産が減る一方、人の需要は増える。需給が逆方向に動く ・国産オーツミルクの意義は「商品」ではなく「原料の生産から加工まで国内で完結させる仕組み」にある ・牛乳とオーツミルクは栄養が別物。牛乳は200mlでたんぱく質約3g以上、オーツミルクは少ない商品が多い ・植物性だから安全とは限らない。オーツアレルギーも、小麦工場での交差汚染リスクもある ・環境負荷の「約3倍」「約10倍」という数字は、飼い方や産地や輸送距離で大きく変わる ・いちばんの価値は複合経営。乳価が厳しい年は作物が、作物が不作の年は牛乳が支える ・難しいのは商品を作ることではなく、5年10年と売れる市場を作ること
酪農家は、 牛乳だけを作る人でなくてもいいと思っています。
牛と、植物と、微生物と、土地を組み合わせて、 地域の栄養を作る農家へ。
そういう変わり方も、 あっていいはずです。
最後に、あなたに質問です。
あなたの家の冷蔵庫には今、 何のミルクが入っていますか。
そして、それを選んだ理由は なんでしょうか。
コメントで教えてください。
【YouTubeで同じ配信を聞く】
【牛乳のむ?牧場配信】記事で読む・要約・聞きどころ - pody
牛乳飲む?酪農の現場からお届けするポッドキャスト。牛乳の秘密、牧場の日常、そして未来の農業について、酪農家が本音で語ります
pody.jp
ChatGPT - FarmEcho AI (お試しVer)
酪農現場の状況整理から判断を支える実務相談GPT
chatgpt.com
【川上牧場のアンケートにご協力下さい】 https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdqMltOlehGJhHZKRe7LGtyt5Uo-FOe4KjvNOGptg1IJPhaPA/viewform
毎日飲んでいる牛乳。
でも、 その牛乳がどこで、 どう生まれているかを知る機会はほとんどありません。
川上牧場のメルマガでは、
・牛舎で起きていること ・酪農のリアル ・牛乳の値段の裏側 ・子牛が育つ現場 ・SNSでは書きにくい話
などをお届けしています。
読むと、 スーパーの牛乳コーナーの見え方が少し変わります。
【牛乳の見方が変わる川上牧場メルマガ】はこちらから
牛乳の見方が変わる川上牧場メルマガ
kawakamifarm.net
🐄📚『酪農未経験者のために: 川上牧場研修 〜遺伝改良と飼料設計編〜 』Kindleで絶賛発売中!📘 全ての酪農に興味がある方へ🐮数字で牛の声を聞こう!👇
酪農未経験者のために: 川上牧場研修 〜遺伝改良と飼料設計編〜
amzn.asia
780円
(2026年05月11日 21:02時点
詳しくはこちら)
Amazon.co.jpで購入する
川上牧場 lit.link
島根県出雲市にある小さな酪農場、One link to tell your story.
lit.link