牛と豚、実習するならどっち?畜産を学ぶ学生の質問に答えます

2026-07-28 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

「農業大学校に進みます。

牛と豚だったら、 牛の実習がいいですよね?」

リスナーさんから質問をいただきました。

初めていただいた質問です。

ありがとうございます。

今日は7月28日の火曜日。

最高気温33度、 晴れ時々雨という予報です。

夜のうちに、 まとまった雨が降ってくれるといいのですが。

昨日は岡山への出張から戻ってきて、 今は溜まった仕事を片付けているところです。

明日はまた会議があって、 来週も出張がある。

バタバタな一週間になりそうです。

さて、質問への答えです。

最初に、はっきり言っておきます。

僕は「牛がいい」とは言い切りません。

酪農家がそう言ったら、 それはただのポジショントークです。笑

そして、正直に言うと、 養豚は僕の専門ではありません。

だから今日は、 分かる範囲で、公平に話します。

昨日の会議の話から

質問に入る前に、 ひとつだけ背景を共有させてください。

昨日、岡山で会議がありました。

中国地区の酪農家が集まる会議です。

主な議題は、夏場の牛乳需給問題でした。

牛乳が足りていない。 酪農家が減っている。

そして、人手が足りない。

この人手不足が、 本当に深刻だなと思いながら聞いていました。

だから、 「畜産を学びたい」という学生さんがいる。

それだけで、 僕はとてもうれしいんです。

だからこそ、 ちゃんと答えたいと思いました。

いちばん大きな違いは「時間」です

牛と豚で、 いちばん違うのは何か。

僕は、時間だと思っています。

乳牛は、生まれてから初産まで だいたい2年かかります。

2年です。

そして初産が来たあとも、 長く飼い続けます。

一頭の牛と、 何年も付き合うことになります。

一方、食肉の豚は、 数ヶ月で出荷される構造です。

この差は、とても大きい。

一頭との付き合い方が、 根本から違ってきます。

長く付き合うということは、 その牛の変化を見続けるということです。

去年よりお産が重かったとか、 このごろ足を気にしているとか。

そういう時間軸の観察になります。

豚の場合は、 その期間に最大限の成果を出す。

そういう設計です。

どちらが正しいという話ではなく、 産業としての構造が違うんです。

管理のしかたが、まったく違います

もう少し具体的に書きます。

酪農の場合

365日、朝と夕方の搾乳があります。

これは休めません。

そして、個体ごとの体調管理が最優先です。

毎日見るのは、こういうことです。

食欲。 排泄。 休息。 乳量。 乳質。 分娩の予定。

一頭ずつ見ていきます。

だから、 「あの牛、今日ちょっと変だな」

という違和感に気づけるかどうかが、 仕事の質になります。

養豚の場合

成長の段階ごとに、 管理方法が分かれています。

そして、 オールイン・オールアウトという方式があります。

一括で豚舎に入れて、 一括で出荷する。

出したあとに消毒して、 まっさらな状態にリセットする。

この繰り返しです。

だから、群管理が中心になります。

そして、 農場全体の衛生が最優先されます。

一頭を見るというより、 農場という単位で見る。

そういう感覚に近いと思います。

学べるものが、違います

ここが、 学生さんにとっていちばん大事なところだと思います。

牛で学べること

これは僕の個人的な見解ですが、 牛には表情があります。

耳の向き。 目。 歩き方。 食べる速度。

そういうところから、 その牛の個性を読み取っていく。

この「読み取る力」は、 牛と長く付き合うことで育ちます。

数字だけでは分からない部分を 体で覚えていく感じです。

豚で学べること

一方、養豚では、

衛生管理。 疾病予防。 作業効率。 生産管理。 データ管理。

こういうものを、 かなり高いレベルで学べます。

システムとして 畜産を設計する力ですね。

正直に言うと、 ここは酪農より進んでいる部分があると思います。

だから、 将来どちらに行くにしても、

養豚のやり方を知っていることは 大きな武器になります。

豚について、正直に思っていること

僕は養豚の専門ではないので、 これは印象の話として読んでください。

養豚の繁殖管理は、面白いです。

かなり緻密に組まれています。

ただ、 大変そうだなと思う部分もあります。

子豚のときに、 尻尾や耳を噛んでしまう咬癖という問題があります。

そして、 豚の群れの中の序列は、けっこう厳しい。

その点、牛は草食動物なので、 扱いやすい面はあると思います。

これはあくまで、 外から見た僕の感想です。

養豚をやっている方からすれば、 また違う見え方があるはずです。

それよりも大事なこと

ここからが、 今日いちばん伝えたいことです。

牛か豚か、という選択よりも、 大事なことがあります。

誰から学ぶか、です。

これは本当に、大きいです。

見るべきポイントを挙げます。

牛舎や豚舎が、清潔かどうか。

説明が、丁寧かどうか。

数字を見せてくれるかどうか。

そして、 失敗した経験を話してくれるかどうか。

特に最後のひとつが重要です。

うまくいった話しかしない人からは、 あまり学べません。

「あのとき、こう判断して失敗した」

という話をしてくれる人のところでは、 伸び方がまったく違います。

畜種の違いより、 指導者の質のほうが、

その2年間を大きく左右します。

実習先を決める前に、聞いてほしい5つのこと

具体的な話をします。

実習先の候補が決まったら、 見学のときにこれを聞いてみてください。

1. 一日の流れを教えてください

朝何時に始まって、 どこで区切りがついて、何時に終わるのか。

これを聞くと、 その農場の設計思想が見えます。

2. いま困っていることは何ですか

これに答えてくれる人は、信用できます。

「特にないですね」と返ってきたら、 少し注意したほうがいいかもしれません。

農場に困りごとがないことは、まずないので。

3. 直近で変えたことはありますか

去年と同じことをやっているのか、 何かを試しているのか。

改善が回っている農場かどうかが分かります。

4. 実習生には何をやってもらいますか

掃除だけ、という農場もあります。

それが悪いわけではありませんが、

数字を見せてもらえるか、 判断の場面に立ち会わせてもらえるかで、

2年間の中身はまったく変わります。

5. 過去の実習生はどうなりましたか

これは、 その農場の育て方がいちばん出るところです。

続いている人がいるのか。 就農した人がいるのか。

2年間で、何を持ち帰るか

農業大学校の2年間は、短いです。

本当にあっという間だと思います。

だから、 最初に決めておいてほしいことがあります。

「何を持ち帰るか」です。

技術は、あとからでも身につきます。

正直に言うと、 搾乳の手順も、餌の作り方も、

現場に入れば半年で覚えます。

でも、 現場に入ってからでは身につきにくいものがあります。

ひとつは、数字を読む習慣です。

牛群検定の成績表。 乳成分。 繁殖の成績。 餌のコスト。

これを「読むもの」として 体に入れておくかどうか。

就農してからだと、 目の前の作業に追われて、

数字を見る時間が取れなくなります。

もうひとつは、 違うやり方を見ておくことです。

自分の家が酪農をやっている人ほど、 これが大事です。

家のやり方しか知らないと、

それが唯一の方法だと 思い込んでしまいます。

学生のうちは、 いくつもの農場を見られます。

この特権は、 就農したらなくなります。

人手不足の話を、もう一度

冒頭で、 会議で人手不足の話が出たと書きました。

あれは、 学生さんにとっては悪い話ではありません。

むしろ逆です。

畜産をちゃんと学んだ人は、 これから確実に足りなくなります。

牛を見られる人。 豚を見られる人。 数字を読める人。 機械を扱える人。

どこも探しています。

だから、 「畜産を学んで食べていけるのか」

という心配は、 あまりしなくていいと思っています。

問題はむしろ、 学んだあとにどう働くかです。

自分で牧場を持つのか。 どこかの農場で働くのか。 関連産業に行くのか。

この選択肢は、 思っているより広いです。

飼料メーカー。 乳業。 獣医。 機械。 人工授精師。 コンサル。

牛や豚に関わる仕事は、 現場だけではありません。

だから2年間のうちに、 そういう仕事の人にも会っておくといいと思います。

できれば、両方やってみてください

最後に、僕からの提案です。

できるなら、 両方を経験してみてください。

牛も、豚も。

産業としての構造が違うので、 見える世界が変わります。

酪農しか知らない人と、 養豚も知っている人では、

問題の捉え方が違ってきます。

たとえば、 牛舎の衛生を考えるときに、

オールイン・オールアウトという発想を 知っているかどうか。

それだけで、 出てくるアイデアが変わります。

視野が広がるというのは、 そういうことだと思います。

そして、もし将来、 酪農をやりたいと思われたら。

うちに実習に来ていただいても、 もちろん構いません。

いつでも、どうぞ。

僕自身は、どちらも見ておけばよかったと思っています

最後に、自分の話をします。

僕は酪農しか経験していません。

若いころに養豚の現場を見ておけばよかったな、 と思うことがあります。

理由は、衛生管理です。

養豚の衛生の考え方は、 酪農よりかなり徹底しています。

病気が入ると群全体がやられるので、 そもそも「入れない」設計になっている。

酪農は、 どうしても人と牛の出入りが多くなります。

見学も受けますし、 ヘルパーさんも入ります。

だから完全に閉じることはできません。

でも、 「閉じる」という発想を知っているかどうかで、

日々の判断は変わると思うんです。

長靴を分けるとか。 通る順番を決めるとか。

そういう小さなことが、 病気の広がり方を変えます。

これは、 養豚を見た人なら当たり前にやっていることです。

だから学生さんには、 早いうちに両方を見てほしい。

歳を取ってからでは、 なかなか見に行けなくなります。

迷ったときの、僕なりの決め方

最後に、実用的な話をします。

もし本当に決められなかったら、

「10年後、自分がどこにいたいか」

を考えてみてください。

牧場の中にいたいのか。

それとも、 牧場を支える側にいたいのか。

牧場の中にいたいなら、

自分が好きだと思える動物を 選んだほうがいいと思います。

毎日会う相手なので、 好き嫌いは意外と効きます。

支える側にいたいなら、

むしろ苦手なほうを選ぶ、 という手もあります。

知らない世界を知っておくほうが、 後で効いてくるからです。

どちらを選んでも、 間違いにはなりません。

その2年間を どう使ったかのほうが、ずっと大きい。

今朝の牛舎から

今日も牛乳を飲んでから、 配信しています。

やっぱり、我が家の牛乳は美味しいです。

ただ、乳脂肪が3.9%まで下がってきました。

夏の影響ですね。

牛の状態自体は悪くありません。

夏用の飼料への切り替えをやっているところで、 このあと分娩ラッシュも来ます。

そこが、少し心配です。

こういう季節ごとの調整も、 実習で見てもらえたら面白いと思います。

教科書には 「夏は暑熱対策」としか書いていませんが、

実際には、 飼料の中身も、分娩の時期も、乳成分も、

全部つながって動いています。

今回のポイント

・酪農家だからといって「牛がいい」とは言い切らない。選択は「将来何をしたいか」で決める

・いちばん大きな違いは時間。乳牛は初産まで約2年、その後も長く飼う。食肉の豚は数ヶ月で出荷される

・酪農は365日朝夕の搾乳。個体ごとの体調管理が最優先で、食欲・排泄・休息・乳量・乳質・分娩予定を毎日見る

・養豚はオールイン・オールアウト。一括入舎・一括出荷後に消毒してリセット。群管理と農場全体の衛生が最優先

・牛では、耳の向き・目・歩き方・食べる速度から個性を読み取る力が育つ ・豚では、衛生管理・疾病予防・作業効率・生産管理・データ管理を高いレベルで学べる

・畜種より大事なのは「誰から学ぶか」。清潔さ、説明の丁寧さ、数字の開示、失敗談の共有を見る

・できれば両方を経験してほしい。産業構造の違いを知ると視野が広がる

最後に、あなたに質問です。

あなたが今の仕事や勉強を選んだとき、 決め手になったのは何でしたか。

そして今振り返って、 それは正しい決め手だったと思いますか。

コメントで教えてください。

川上牧場 酪農データバンク

原価はいくら? なぜバターだけ高い? 雄の子牛はどうなる? 出雲の酪農家が毎朝の配信で答えてきた828回を、読める形にまと

kawakamidairyfarm-png.github.io

【YouTubeで同じ配信を聞く】

牛と豚、実習するならどっち?畜産を学ぶ学生の質問に答えます

【牛乳のむ?牧場配信】記事で読む・要約・聞きどころ - pody

牛乳飲む?酪農の現場からお届けするポッドキャスト。牛乳の秘密、牧場の日常、そして未来の農業について、酪農家が本音で語ります

pody.jp

ChatGPT - FarmEcho AI (お試しVer)

酪農現場の状況整理から判断を支える実務相談GPT

chatgpt.com

【川上牧場のアンケートにご協力下さい】 https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdqMltOlehGJhHZKRe7LGtyt5Uo-FOe4KjvNOGptg1IJPhaPA/viewform

毎日飲んでいる牛乳。

でも、 その牛乳がどこで、 どう生まれているかを知る機会はほとんどありません。

川上牧場のメルマガでは、

・牛舎で起きていること ・酪農のリアル ・牛乳の値段の裏側 ・子牛が育つ現場 ・SNSでは書きにくい話

などをお届けしています。

読むと、 スーパーの牛乳コーナーの見え方が少し変わります。

【牛乳の見方が変わる川上牧場メルマガ】はこちらから

牛乳の見方が変わる川上牧場メルマガ

kawakamifarm.net

酪農未経験者のために: 川上牧場研修 〜遺伝改良と飼料設計編〜

amzn.asia

780円

(2026年05月11日 21:02時点

詳しくはこちら)

Amazon.co.jpで購入する

川上牧場 lit.link

島根県出雲市にある小さな酪農場、One link to tell your story.

lit.link