牛も風邪をひく?牛の風邪と鳥インフルエンザの違いを獣医学から解説
2026-07-30 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
「私は牛乳を飲んでいるので、 なかなか風邪をひかないのですが、
牛さんは風邪をひくことはありますか?」
「鳥インフルエンザのような 空気感染はありますか?」
リスナーさんから質問をいただきました。
いつもありがとうございます。
今日は7月30日の木曜日。
最高気温34度の予報です。
昨日はほとんど雨が降らなくて、 ずっと晴れが続いています。
今日の予定は、 ワクチンの接種。
来週の外出に向けた準備。
出荷する牛の餌の調整。
そして月末なので、 事務処理が溜まっています。
それと、うれしい報告がひとつあります。
自動給餌機が、復活しました。
モーターを交換して、 ようやく動き始めました。
この音、聞こえますかね。
牛舎配信の、喜びの声です。
先に結論
結論から言います。
牛も、風邪をひきます。
牛も生き物なので、 人と同じように体調を崩します。
ただし、ここが大事なところなのですが、
「牛風邪」という ひとつの病気があるわけではありません。
人の風邪と同じで、 原因はいくつもあります。
獣医学では、 こうした状態をまとめて
「牛呼吸器病症候群」
と呼んでいます。
原因は、ひとつではありません
牛呼吸器病症候群の主な原因になるウイルスを 挙げておきます。
牛ヘルペスウイルス1型(IBR)。
牛RSウイルス(BRSV)。
パラインフルエンザ3型ウイルス(PI3)。
牛コロナウイルス。
名前だけ見ると難しそうですが、 要するに、
いろいろなウイルスが 同じような症状を起こす、
ということです。
どんな症状が出るのか
牛が呼吸器病にかかると、 こんな症状が出ます。
発熱。 鼻水。 咳。 食欲の低下。 元気がなくなる。 呼吸が速くなる。
人の風邪と、かなり似ていますよね。
特に注意が必要なのは、子牛です。
子牛は、まだ免疫が未熟です。
そのぶん、かかりやすいし、 重くなりやすい。
重症化すると、 肺炎まで進むことがあります。
やっかいなのは、細菌との「重なり」です
牛の呼吸器病には、 やっかいな特徴があります。
ウイルスに感染したことがきっかけで、 細菌が増えてしまうんです。
ウイルスで弱ったところに、 細菌がつけ込む。
そこから肺炎へ進んでいくことが、 少なくありません。
つまり牛の呼吸器病は、
複数の病原体が重なって、 重くなっていくことが多い病気です。
だから、 「このウイルスさえ防げばいい」
という単純な話にはなりません。
「空気感染」という言葉について
質問にあった、 空気感染の話をします。
一般のニュースでは、 「空気感染」という言葉がよく使われます。
でも、医学や獣医学では、 もう少し細かく分けて考えます。
飛沫感染。 エアロゾル感染。 接触感染。
牛の呼吸器病のウイルスは、
咳やくしゃみによる飛沫、 近い距離でのエアロゾル、
そして牛同士の接触で広がる、
と考えられています。
だから牧場の実務としては、 牛舎の中で集団発生することがあります。
一頭が咳をし始めたら、 まわりにも広がっていく。
そのため、 換気と、過密にしないことが、
とても重要になります。
鳥インフルエンザとは、別の病気です
ここは、はっきり分けておきたいところです。
鳥インフルエンザは、 A型インフルエンザウイルスによる感染症です。
主に鳥類で流行します。
高病原性のものだと、 家禽に大きな被害をもたらします。
ニュースで、 養鶏場の鶏が大量に処分されている映像を 見たことがあると思います。
一方で、 牛で一般的に問題になる呼吸器病は、
さっき紹介したような、 別のウイルスや細菌が中心です。
ですので、
「牛が風邪をひく = 鳥インフルエンザ」
ではありません。
ニュースで「インフルエンザ」という言葉を聞くと、 どうしても同じものに見えてしまいます。
でも、原因も、広がり方も、対策も、 違う病気です。
「牛乳を飲むと風邪をひかない」について
質問の最初にあった、 この部分にも答えておきます。
「牛乳を飲んでいるので、 なかなか風邪をひかない」
これは、個人の実感としては あると思います。
実は僕も、 牛乳を飲んでいるので全然病気にならないんです。
でも、これも個人の実感です。
正直に言います。
今の医学では、 「牛乳を飲めば風邪を予防できる」
という確立した科学的根拠はありません。
酪農家なので 「効きます」と言いたいところですが、
そこは分けて考えたほうがいいと思っています。
ただ、牛乳に価値がない、 ということではまったくありません。
牛乳には、
たんぱく質。 カルシウム。 ビタミンB2。 ビタミンB12。
健康を維持するのに役立つ栄養素が 含まれています。
そして、栄養状態が良いことは、 免疫の働きを正常に保つうえで大切です。
つまり、
牛乳は栄養価の高い食品。
でも、牛乳そのものが 風邪を防ぐとまでは言えない。
ここを分けて考えることが、 大事だと思っています。
牧場では、どう防いでいるのか
牛の呼吸器病も、 人間と同じで一度流行すると大変です。
なので、予防が中心になります。
うちでやっていることを挙げます。
ワクチンの接種。
十分な初乳を飲ませること。
これは本当に重要です。
生まれたばかりの子牛は、 自分の免疫がまだ弱いので、
母牛の初乳から免疫をもらいます。
ここが足りないと、 あとで何をやっても追いつきません。
それから、
換気をよくする。 過密にしない。 温度の変化を少なくする。 ストレスを減らす。 子牛の衛生管理。
特別な薬よりも、 毎日の飼養管理のほうが、
病気を減らします。
ワクチンは、組み合わせのひとつ
ここで、よくある誤解にも触れておきます。
「ワクチンを打っていれば大丈夫なんでしょう?」
そう聞かれることがあります。
ワクチンは、とても大事です。 うちでも打っています。
でも、それだけでは防げません。
理由は、今日お話ししたとおりです。
牛の呼吸器病は、 原因がひとつではない。
いくつものウイルスがあって、 そこに細菌が重なってくる。
ひとつのワクチンで、 その全部をカバーすることはできません。
そして、どれだけワクチンを打っても、
換気が悪くて、 牛舎がぎゅうぎゅうで、 昼夜の温度差が大きくて、 子牛が初乳を十分に飲めていなかったら、
牛の体のほうが負けてしまいます。
だから、 ワクチンは「組み合わせのひとつ」なんです。
ワクチン。 初乳。 換気。 密度。 温度。 ストレス。 衛生。
全部を少しずつ積み上げて、 はじめて病気が減っていきます。
地味ですが、 結局それがいちばん効きます。
季節の変わり目が、いちばん危ない
予防のリストに 「温度の変化を少なくする」と書きました。
ここは、少し説明が要ると思います。
牛の呼吸器病が増えるのは、 真冬や真夏そのものより、
季節の変わり目です。
昼と夜の温度差が大きい時期。
暑い日のあとに、 急に冷え込む日。
そういうときに、 牛の体はついていけなくなります。
体がその調整にエネルギーを使うぶん、 免疫のほうに回せる余力が減る。
そこにウイルスが入ってくる。
だから、 温度そのものを下げるとか上げるとかより、
変化の幅を小さくすることが大事なんです。
子牛のハッチなら、 夜だけ風よけを下ろす。
牛舎なら、 換気扇の強さを時間帯で変える。
そういう細かい調整です。
これからの季節、 まさにそこが気になってきます。
初乳の話を、もう少しだけ
予防のところで、 「十分な初乳」と書きました。
酪農の現場では、 これがどれだけ大事か、何度でも言いたいところです。
生まれたばかりの子牛は、 自分の力で免疫を作れません。
だから、 母牛の初乳に含まれる免疫をもらって、 最初の時期を乗り切ります。
ここで大事なのは、 量と、タイミングです。
生まれてから時間が経つほど、 子牛の腸はその免疫を吸収しにくくなっていきます。
だから、できるだけ早く、 しっかり飲ませる。
これがうまくいかなかった子牛は、 あとでいくら手をかけても、
呼吸器病にかかりやすい傾向があります。
逆に言えば、 生まれた最初の数時間で、
その子牛の数ヶ月が かなり決まってしまうんです。
僕が分娩のときに いちばん気にしているのは、 実はお産そのものより、
そのあと初乳を ちゃんと飲めたかどうかかもしれません。
子牛の、どこを見ているか
うちでは、 子牛の呼吸器病には特に注意しています。
見ているのは、こういうところです。
少し元気がないな。 鼻水が出ているな。 呼吸が荒いな。
それから、実際に触ります。
耳を触って、冷たくないか。
目がギラッとしていないか。
鼻が湿っているか。
こういうことを、毎日見ています。
呼吸器病は、早く見つければ 回復する可能性が高くなります。
逆に、発見が遅れると 肺炎が進んでしまう。
そうなると、 その子牛の発育にも、
そして将来の乳量にも 影響することがあります。
子牛のときの肺のダメージは、 大人になってからも残るんです。
だから、毎日の観察が 何より重要です。
ニュースを見るときに、覚えておいてほしいこと
最後にもうひとつ、 消費者の方に向けて。
「インフルエンザ」 「感染拡大」 「殺処分」
こういう言葉がニュースで流れると、 どうしても不安になりますよね。
そして、 「牛も同じなんじゃないか」 「牛乳は大丈夫なのか」
と思われる方もいると思います。
そういうときは、 こう確かめてみてください。
何の動物の話なのか。 何という病気なのか。 どこで起きている話なのか。
今日お話ししたように、 牛の呼吸器病と鳥インフルエンザは、
原因も、広がり方も、対策も違います。
言葉が似ているだけで、 中身は別の話です。
そして、スーパーに並んでいる牛乳は、 出荷前に検査をして、 殺菌されてから届いています。
不安なときほど、 一度立ち止まって、
「これは何の話だろう」
と確かめてもらえたらうれしいです。
最近、菌が面白くて仕方ない
最後に、 少しだけ脱線させてください。
最近、腸内細菌とか環境細菌とか、 菌の話がもう楽しくて楽しくて。
菌は、沼ですね。
いま、うちで試し始めているのが 麹菌です。
もろみとか、 麹味噌とかの、あの麹です。
麹菌って、 最強の菌だと思っているんです。
これを、牛舎の中に たくさんいるような環境にすると、
ほかの悪い菌が 抑えられるんじゃないか。
具体的には、こう考えています。
牛が麹菌を食べる。
お腹の中で、麹菌が増える。
それがうんちとして出てくる。
そのうんちが牛舎の中に広がることで、 悪い菌が入り込む余地を減らしていく。
納豆菌にも興味があります。
病気を 「来てから治す」のではなく、
「来にくい環境を菌でつくる」
という発想です。
まだ試している途中ですが、 結果が出たらまたお話しします。
会長として、1年でやりたいこと
少しだけ、 配信の冒頭で話したことにも触れておきます。
いま僕は、 ある組織の会長をやっています。
先日、組織の再編について 会議がありました。
正直に言うと、 「変えるのは難しい」という返答でした。
でも、1年あれば 変えられることはあると思っています。
牛の病気と同じで、 いきなり全部は治りません。
ひとつずつ、 来にくい環境をつくっていく。
組織も、 たぶん同じだと思っています。
今回のポイント
・牛も風邪をひく。ただし「牛風邪」という単一の病気はない
・獣医学では、まとめて「牛呼吸器病症候群」と呼ぶ
・主な原因ウイルスは、牛ヘルペスウイルス1型(IBR)、牛RSウイルス(BRSV)、パラインフルエンザ3型(PI3)、牛コロナウイルス
・症状は、発熱・鼻水・咳・食欲低下・元気消失・呼吸が速い。子牛は免疫が未熟で重くなりやすい
・ウイルスがきっかけで細菌が増え、肺炎へ進むことが多い。複数の病原体が重なる病気
・広がり方は、飛沫・エアロゾル・接触。だから換気と過密回避が重要
・牛の呼吸器病と鳥インフルエンザは別の病気
・「牛乳を飲めば風邪をひかない」という確立した科学的根拠はない。ただし牛乳は栄養価が高く、栄養状態の良さは免疫に大切
・予防の中心は、ワクチン・十分な初乳・換気・過密回避・温度変化を減らす・ストレスを減らす・子牛の衛生管理 ・子牛のときの肺のダメージは、発育や将来の乳量にも影響する
最後に、あなたに質問です。
あなたが「風邪をひかないために」 続けていることは何ですか。
そして、それは 実感ですか、それとも根拠がありますか。
コメントで教えてください。
川上牧場 酪農データバンク
原価はいくら? なぜバターだけ高い? 雄の子牛はどうなる? 出雲の酪農家が毎朝の配信で答えてきた831回を、読める形にまと
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牛乳飲む?酪農の現場からお届けするポッドキャスト。牛乳の秘密、牧場の日常、そして未来の農業について、酪農家が本音で語ります
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