R7年研修生と配信 #12

2025-09-05 配信|川上牧場 酪農データバンク

配信の全文

https://open.spotify.com/episode/3jxslZI4jvjx6ZlGTPC5bU?si=feGOSaBjSxiupMprKxl1Kg

収録日は9月2日。今日は川上牧場の研修生と共に、休憩中に少しだけ勉強しながらの配信をお届けします。

テーマは「乳牛の三大疾病と暑熱によるリスク」について。

現場でのやりとりをそのまま言葉にしながら、酪農のリアルな一面を綴ります。

立てない母牛と子牛 —— 分娩後の異変

まずお伝えしておきたいのは、昨日分娩があったのですが、母牛も子牛も立てない状況にありました。これは暑さの影響が大きいと見られています。

暑熱環境下では、牛の代謝や内臓機能に影響が出やすく、出産という大きなエネルギー消費を伴うイベントの後では、顕著に症状が現れます。

そこで今日は、乳牛が特に罹患しやすい"三大疾病"を中心に、研修生との対話形式でその内容を深掘っていきました。

乳牛の代表的な疾病一覧

1. 低カルシウム血症(通称:低カル)

分娩後にほぼすべての母牛が経験する病気。

牛乳を生産するために、大量のカルシウムが体内から使われ、筋肉や神経伝達に必要なカルシウムが不足することにより、立てなくなってしまうことがあります。

主な症状:

・起立不能

・反応が鈍くなる

・食欲低下

解説:

牛乳には大量のカルシウムが含まれています。そのため、分娩後は体内のカルシウムが乳に持っていかれ、筋肉を動かすのに必要な分が不足します。特に体内で最もカルシウムを蓄えている骨から動員されますが、スピードが追いつかない場合は発症します。

対策:

・肩などにカルシウム製剤を注射

・餌にカルシウム添加

・潜在性低カルにも注意し、予防接種やモニタリングを行う

2. ケトーシス

分娩後の初期段階で、体脂肪を過剰に燃焼してしまうことで発症する代謝異常。

主な症状:

・食欲不振

・無気力(ぼーっとしている)

・体重減少

解説:

産後、乳生産のために大量のエネルギーを必要とするため、脂肪を分解してそのエネルギーに変えようとします。

ところが肝臓の処理能力を超えてしまうと、エネルギー代謝が破綻し、ケトン体が蓄積。これが牛の体に負担をかけてしまいます。

対策:

・高エネルギーな飼料を調整して与える

・体脂肪過剰な牛の管理を強化

・ボディコンディションスコア(BCS)をこまめに記録

3. アシドーシス

配合飼料などの穀物を多く与えすぎた際に、第一胃のpHが急激に酸性に傾いて起こる症状。

主な症状:

・食欲不振

・下痢

・蹄病や乳房炎の併発

解説:

乳量を増やそうと穀物中心の配合飼料を急激に増やすと、胃内環境が酸性に傾きすぎ、乳酸菌が過剰に増殖します。これにより、第一胃内の正常な微生物バランスが崩れ、消化機能に障害を及ぼします。

対策:

・飼料の急激な変更を避ける

・粗飼料とのバランス調整

・第一胃のpHチェックを定期的に実施

4. 第四胃変位

第四胃が通常の位置からずれ、消化や通過に障害を起こす病気。

主な症状:

・食欲不振

・立ち上がらない

・ガスによる金属音の聴診

解説:

特に産後の消化活動が鈍っている時期、ガスの発生や胃袋の内容物減少により、第四胃が浮き上がり、異常な位置へ移動することがあります。左変位が多いが、右変位の場合は捻転を起こしやすく、命に関わります。

対策:

・外科的手術による位置修正

・給餌管理、産後の消化活動の活性化

・早期発見が重要

酷暑による複合リスクとその対処

2025年の夏は異常なまでの暑さが続いており、単一の疾病だけでなく、熱中症+疾病の複合リスクが高まっています。実際、分娩直後に立てなかった母牛は、熱中症の兆候も見せていました。

熱中症による二次的リスク

・寝たきり→ガスの滞留→胃の圧迫

・起立不能→血流障害→足の壊死

・食欲不振→アシドーシスやケトーシスに移行

具体的対処:

・強制的に寝返りをさせる(寝圧で足が麻痺しないように)

・点滴や鎮痛剤の投与(必要に応じて獣医師判断)

・吊り上げによる起立補助は最小限に(骨や腰の損傷リスクがある)

初乳と子牛の免疫の話

母乳には免疫グロブリンが多く含まれており、出生直後にいかに初乳を飲めるかが子牛の生存率を左右します。

今回のように立てない母牛から子牛に初乳を与えるには、強制投与を行う必要がある一方で、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクもあり、ギリギリの対応が求められます。

投与の工夫:

・体勢と呼吸状態を確認して行う

・抗生物質・抗炎症剤との併用

・免疫力を補完する補助食品の活用

研修生との対話の中で見えた視点

人間とは異なり、牛は出産してすぐに立ち、食べ、母乳を生産します。

それが“当たり前”とされている酪農の現場ですが、暑熱や体調不良が加わるとその“当たり前”が一瞬で崩れます。

研修生から出た

「立てないなら、しんどいし寝かせてあげたらいいのに……」

という素直な視点。その気持ちはもっともですが、寝かせ続けることで命を落とす危険がある現実がある。こうした視点の変化を含め、現場での気づきを大切にしたいと思います。

まとめ:予防と「日々の観察力」が命を守る

この配信を通して伝えたかったこと。それは、どの疾病も「予兆」があります。食欲、立ち上がり、呼吸の速さ、目の輝き。些細な違和感を見逃さず、「もしかして」の視点を持ち、早期対応につなげることこそ、牛たちの命を守る鍵です。

研修生にも伝えました。

「1頭でも多く、無事に健康な状態で過ごしてもらうために、私たちが日々できることを全力でやろう」と。

R7年の夏は記録的な暑さでしたが、現場で学ぶことの深さと尊さは変わりません。これからも、このリアルな酪農の現場から、学びと気づきを届けていきたいと思います。

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それではまた、次回の配信もお楽しみに。

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