A1ミルク・A2ミルクって何?なぜ日本の牛乳パックには書いていないの?
2026-07-09 配信|川上牧場 酪農データバンク
配信の全文
牛乳パックを見ていると、「成分無調整」「低脂肪」「乳脂肪分○%」「殺菌温度」など、いろいろな表示があります。
でも、最近よく耳にする
A1ミルク
A2ミルク
という表示は、ほとんどの牛乳パックには書かれていません。
リスナーさんから、こんな質問をいただきました。
「A1ミルク、A2ミルクとあると思いますが、牛乳パックには表示されていないのはなぜでしょうか?いらない情報なのでしょうか?A1とA2を混ぜたりしているのでしょうか?乳糖不耐症の人にも、A2ミルクだと表示できるようにならないのでしょうか?」
これはかなり鋭い質問です。
牛乳をただ「白い飲み物」として見るのではなく、
その中にある成分、牛の遺伝子、生産の仕組み、表示制度まで見ようとしている質問だからです。
結論から言うと、
日本の一般的な牛乳パックにA1・A2と書かれていない一番大きな理由は、現在それが義務表示ではないからです。
そしてもう一つ。
多くの市販牛乳は、たくさんの牛、たくさんの牧場の生乳を集めて作られます。
そのため、一般的な牛乳ではA1型とA2型が自然に混ざっていることが多いです。
「あとからA1とA2を混ぜている」というより、
牛群全体から集めた結果として、自然に両方が入っている
と考えた方が近いです。
A1とA2は、脂肪でも乳糖でもない
まず大事なのは、A1・A2が何の違いなのかです。
A1ミルク、A2ミルクと聞くと、牛乳の脂肪分や甘さの違いを想像する人もいるかもしれません。
でも、違います。
A1・A2は、牛乳に含まれるタンパク質の一種である
βカゼイン
の型の違いです。
牛乳のタンパク質にはいくつか種類があります。その中にカゼインという大きなグループがあり、さらにその中にβカゼインがあります。
このβカゼインに、A1型やA2型という遺伝的な違いがあります。JミルクのA2ミルクに関するファクトブックでも、A2ミルクは牛乳中のβカゼインの遺伝的変異に由来するものとして整理されています。
つまり、A1かA2かは、牛乳をしぼったあとに決まるものではありません。
牛そのものが持っている遺伝子によって決まります。
たとえば、
A2A2の牛なら、A2型のβカゼインを含む乳を出します。
A1A1の牛なら、A1型のβカゼインを含む乳を出します。
A1A2の牛なら、両方を含む乳を出します。
だから、A2ミルクをきちんと作ろうと思うと、まず牛の遺伝子検査をする必要があります。
そして、A2A2の牛だけを選び、その牛たちの乳だけを分けて集め、工場でも混ざらないように管理しなければいけません。
これが、意外と大変です。
なぜ普通の牛乳にはA1・A2と書かれていないのか
日本の牛乳パックに書かれている表示は、事業者が自由に何でも書いているわけではありません。
牛乳や乳製品には、食品表示法、乳等命令、飲用乳の表示に関するルールなどが関係しています。
たとえば、飲用乳では「牛乳」「特別牛乳」「成分調整牛乳」「低脂肪牛乳」「無脂肪牛乳」などの種類別名称があり、これらは容器の一括表示欄や商品名の近くに表示されるものとして整理されています。
一方で、A1・A2は、現時点で一般的な牛乳に必ず表示しなければならない項目ではありません。
だから、書かれていないのです。
これは「いらない情報だから」というより、
現在の日本の表示制度では、牛乳を選ぶための基本情報として義務化されていない
ということです。
牛乳の売り場では、まず「牛乳なのか」「成分調整牛乳なのか」「低脂肪牛乳なのか」「加工乳なのか」といった分類が重要になります。
ここは消費者が商品を誤認しないために、かなり大切な表示です。
一方、A1・A2は遺伝子由来のタンパク質の型です。
ここまで表示するには、検査、分別、認証、表示のルールづくりが必要になります。
A2ミルクは日本でも作れるのか
できます。
実際、日本でもA2ミルクを販売している牧場やメーカーはあります。
方法としては、まず牛を検査して、A2A2の牛を把握します。
その牛の乳だけを分けて搾り、分けて集乳し、分けて製造し、分けて販売する。
言葉にすると簡単ですが、現場ではかなり手間がかかります。
搾乳のライン、タンク、集乳車、工場での受け入れ、製造ライン、検査体制、表示管理。
どこかで混ざれば、A2ミルクとしての価値は崩れてしまいます。
つまり、A2ミルクは「牛を選べば終わり」ではありません。
牛を選ぶことから、商品として届けるところまで、全部を分けて管理する必要がある牛乳
なのです。
農林水産省資料でも、A2ミルクは牛乳中のβカゼインの遺伝的変異に由来する呼称であり、日本A2ミルク協会による認証制度の動きが紹介されています。
これから日本でも、A2ミルクの表示や認証は少しずつ整っていく可能性があります。
ただ、全国の一般的な牛乳がすぐにA1・A2表示へ切り替わるかというと、現実的にはまだ時間がかかると思います。
A2ミルクなら、お腹がゴロゴロしないのか
ここが一番誤解されやすいところです。
A2ミルクについて調べると、
「お腹にやさしい」
「乳糖不耐症でも飲める」
「A1は体に悪い」
というような表現を見かけることがあります。
でも、酪農家としても、ここはかなり慎重に伝えたいです。
まず、乳糖不耐症とは何か。
乳糖不耐症は、牛乳に含まれる乳糖を分解するラクターゼという酵素が少ないことで、お腹の張り、ゴロゴロ感、下痢などが起こる状態です。
つまり原因は、基本的には
乳糖
です。
一方、A1・A2は
βカゼインというタンパク質の違い
です。
乳糖とタンパク質。
ここは別の話です。
A2ミルクにも、基本的には乳糖が含まれています。
ですから、
乳糖不耐症の人が、A2ミルクなら必ず飲める
とは言えません。
ただし、一部の研究では、A2型βカゼインのみを含む牛乳の方が、A1・A2を含む牛乳よりも、一部の人で消化器症状が少なかったという報告があります。2024年の研究でも、乳糖吸収不良の人を対象に、A2βカゼインのみの牛乳とA1/A2牛乳の摂取後の症状比較が行われています。
一方で、A1牛乳と病気との因果関係については、欧州食品安全機関EFSAが2009年に、βカソモルフィン類と非感染性疾患との因果関係を示す十分な根拠はないという趣旨の評価を出しています。
つまり現時点で言えるのは、
A2ミルクでお腹の不快感が少なくなる人がいる可能性はある。
ただし、A2ミルクが乳糖不耐症を治すわけではない。
A1が悪で、A2が万能という話ではない。
健康効果については、まだ研究が続いている。
このくらいの温度感が、いちばん正確だと思います。
「書いていない」は「隠している」ではない
消費者の方からすると、
「そんな違いがあるなら、書いてほしい」
と思うのは自然です。
僕も、それはよくわかります。
牛乳を選ぶ理由は、これからもっと多様になっていくと思います。
価格。
味。
産地。
脂肪分。
飼い方。
アニマルウェルフェア。
環境負荷。
遺伝子。
加工適性。
生産者の考え方。
今までは、牛乳はかなり「ひとまとめ」にされてきました。
でも本当は、牛乳の裏側にはものすごく多くの違いがあります。
牛の品種も違う。
餌も違う。
飼い方も違う。
季節も違う。
牧場の考え方も違う。
そして、遺伝子も違う。
A1・A2の話は、その違いの一つです。
だから、牛乳パックにA1・A2と書いていないことは、何かを隠しているというより、
まだ日本の牛乳の表示制度と流通の仕組みが、そこまで細かい違いを前提に作られていない
ということなのだと思います。
酪農現場から見るA2ミルクの面白さ
酪農家として見ると、A2ミルクの面白さは「お腹にやさしいかどうか」だけではありません。
むしろ、もっと大きな意味があります。
それは、
牛乳を遺伝子レベルで設計する時代が来ている
ということです。
今の酪農では、牛の能力をゲノム検査で見ることができます。
乳量。
乳脂肪。
乳タンパク。
繁殖性。
体型。
病気への強さ。
そして、βカゼインの型。
さらに、チーズや加工品にしたときの歩留まりに関わる遺伝的な特徴も注目されています。
牛乳は、ただたくさん搾ればいい時代から、
どんな牛乳を、何のために作るのか
を考える時代に入っています。
飲むための牛乳。
チーズに向く牛乳。
発酵に向く牛乳。
地域ブランドとして届ける牛乳。
体質に合わせて選ばれる牛乳。
A2ミルクは、その入り口にあるテーマだと思います。
牛乳を選ぶ時代に、何を表示するべきか
今回の質問は、A1・A2の話でありながら、実はもっと大きな問いにつながっています。
それは、
これからの牛乳は、何を消費者に伝えるべきなのか
という問いです。
今までは、牛乳は「安全で、安定して、手頃に買えること」が重視されてきました。
これはとても大切です。
毎日の食品として、安定して買えること。
誰でも手に取りやすい価格であること。
品質が一定であること。
この価値は、今後もなくなりません。
でも、それだけでは足りない時代になってきています。
消費者は、ただ牛乳を飲むだけではなく、
「これはどんな牛から来た牛乳なのか」
「どんな牧場で作られたのか」
「なぜこの価格なのか」
「自分の体質に合うのか」
「この牛乳を買うことで、どんな生産を応援しているのか」
を知りたくなっています。
A1・A2の表示は、その一つです。
表示が増えれば、選びやすくなる面があります。
一方で、表示が増えすぎると、今度は消費者が混乱します。
「A1は悪いの?」
「A2じゃない牛乳は飲まない方がいいの?」
「普通の牛乳は劣っているの?」
そういう誤解が生まれる可能性もあります。
だから必要なのは、ただ表示を増やすことではなく、
正しく理解できる情報の届け方
だと思います。
まとめ
A1ミルク、A2ミルクとは、牛乳に含まれるβカゼインというタンパク質の型の違いです。
脂肪分や乳糖の違いではありません。
A1かA2かは、牛の遺伝子によって決まります。
一般的な日本の牛乳は、多くの牛や牧場の生乳を集めて作られるため、A1型とA2型が自然に混ざっていることが多いです。
日本の牛乳パックにA1・A2と書かれていないのは、現在それが義務表示ではないからです。
A2ミルクでお腹の不快感が少なくなる人がいる可能性はありますが、乳糖不耐症が治るわけではありません。
A1が悪で、A2が万能という話でもありません。
でも、このテーマはとても面白いです。
なぜなら、牛乳を見る目が変わるからです。
牛乳はただの白い飲み物ではありません。
牛の遺伝子、餌、季節、牧場の管理、流通、表示制度、消費者の体質。
いろいろなものが重なって、1本の牛乳パックになります。
A1・A2の話をきっかけに、牛乳売り場で少しだけ立ち止まってもらえたら嬉しいです。
「この牛乳は、どんな牛から来たんだろう」
そう思ってもらえるだけで、牛乳の見え方は少し変わります。
そして、その小さな興味が、これからの酪農を変えていく力になるのだと思います。
情報|川上牧場🐮メンバーシップ|川上哲也
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